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5. 従者お試し期間
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日も傾きかけた、ラクスド砦の屋上。
オビは、砦の前で白雪の到着を待つゼンを見下ろし、傍に居る木々に訊いた。
「ねぇ木々嬢、ミツヒデさんって、まさかゼン王子に意見しないとか? 木々嬢は要所で冷静に物を言うようだけれど、相棒はちと甘くないかい?」
「…さぁ、どうだかね」
「えー…」
「来たよ」
「?」
木々の視線に釣られるように、オビが街への道を見下ろすと、馬が一頭駆けてくるのが見えた。
連れてこられた白雪は、さっそく砦内へ入って、見習いの少年を治療しながら、状況を聞いていく。
「…では、薬は治療士が?」
「はい。初めのうちは…。ですが、この時期の薬草では追いつかないとかで、この人数ですし、必要な種類がなくなってしまって…」
「そうか…そうですよね」
傍に居たゼンが訊く。
「追いつかないって?」
「寒い地域の薬草は、薬効が低い分、量が必要になってくるの」
「そうなのか」
「慣れた人にとっては、副作用の調節であえて使う貴重品なんだけど……薬室長がそうみたい」
「ああ、それで白雪がおつかいに…」
「他に、何か気づいたことはありますか?」
「あ、いえ……自分は外で見張りをしていることが多くて……すみません」
「えっ、あ、いえいえっ、大丈夫です! お辛いのにありがとうございました!」
「俺、シュカって言います! 何か出来ることがあれば、言って下さい!」
「ありがとうございます。…でも今は、休んでください」
「……はい」
少年・シュカを休ませて、白雪とゼンは部屋を出た。
「だいぶ弱ってるな、アイツ…」
「ゼンはもう外に出ないと」
「え…」
「倒れちゃマズイよ」
「……もう少し残る」
「だからそれはマズイって!」
「お前を呼んでおいて俺だけ出られるか!」
何やら言い合いを始めた2人を、オビは呆れ顔で見つめた。
すると、そこにミツヒデが出ていく。
「ゼン」
呼ばれた途端、ゼンはぎくっとした。
「それは日没までだって言っただろ。今は自分の立場を考えないとダメだ」
「!」
ゼンはハっとして、悔しそうな顔をした。
そして、白雪に頭を下げる。
「我が儘を言った。取り消す。…何かあったら呼んでくれ」
「え、あ、うん…」
ゼンは足早に、砦の外へと歩いていった。
オビはその様子に目をぱちくり。
「…意外だ。主が言うこと聞いてる」
木々が言った。
「本当のところ、ゼンが耳を貸すのは、ミツヒデの言葉くらいだよ」
オビはニヤリと口角を上げた。
「なるほど? それがあるから、普段は何も言わないわけか。甘やかす気はないんだね」
「過保護だと思うけどね」
それから一時間後、日没。
「ん? あれは…」
砦の屋上で、木々と一緒に見張りをしていたオビは、街へと続く道に、走ってくる人影を見つけた。
フード付きのローブを着て、濃紺のマフラーのようなもので、鼻先まで覆っている。
いかにも怪しい見た目だが…
「ミシャだ…」
マフラーのように見えるのは、いつも白金髪に巻かれている、濃紺のターバン。
身長からしても、間違いない。
「よっと」
オビは躊躇なく屋上から飛び降りていった。
それを黙って見送り、木々は小さくため息をつく。
(だいぶ気に入られたみたいだね、ミシャ)
「ゼ~ン!」
ミシャは砦の近くまで来ると、名前を呼びつつ、ゼンとミツヒデと思しき人影に手を振った。
もちろん、目では見えないため、匂いで判断している。
「お、ミシャか」
「早かったな」
2人のところまで来ると、鼻先まで覆っていたターバンを首元まで下げ、荒い呼吸を落ち着けるべく、思いっきり息を吸い込んだ。
「はぁっ、はぁっ、んにゃ~、疲れた…」
"ヒュッ―――ボスッ!"
オビが屋上から降ってくる。
「よっ、ミシャ。お疲れ~」
「はぁっ……はぁ……ホントに疲れたにゃ。雪ちゃんは診察中?」
ゼンが砦を振り返って答えた。
「あぁ。…俺たちは中に居過ぎたから、今は白雪に任せてる。木々は屋上だ」
「にゃるほど。んじゃ、雪ちゃんとキキ
「あぁ」
ミシャはピョンピョンと、砦の中へ入っていった。
外壁をくぐり、要塞の扉を開ける。
すると…
「ん…?」
何か、妙な匂いを感じた。
(
微かだが、木の皮に、熟しすぎた果実を擦り付けたような、甘い匂いが漂っている。
白雪が薬湯でも煎じているのだろうか。
そんなことを思いながら、ミシャは、兵士たちが寝かされている大広間に行く。
"ガチャッ、キィィ…"
扉を開けると、薄暗い部屋に暖炉の明かりがぼんやりと浮かんでおり、寝かされている兵士たちが見えた。
…が、それよりも。
「うっ…」
ミシャは鼻を塞いだ。
どろっとしたイメージの湧く、めまいがするほどの甘い匂い。
妙な匂いはこの部屋から出ているらしい。
「ミシャ?」
暖炉の傍の椅子に腰掛け、記録をつけていた白雪が、顔を上げる。
ミシャはローブの端で鼻を押さえながら、白雪の元に駆け寄った。
「雪ちゃんっ、この匂い
「え、匂い?」
「
「甘い匂い? …まぁ確かに、初めて入ったときは、ちょっと甘い匂いがするなぁとは思ったけど…」
「ミーにとっては ちょっとじゃにゃーよ!
「腐ったような、甘い……植物……まさかっ」
白雪はバっと暖炉の方を向いた。
「ミシャ! その匂い、この暖炉からしてるんじゃないっ?」
「え? ……スンスン、うん、そう!」
「だとすると…原因はこの薪だったんだ!」