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5. 従者お試し期間
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ある日。
ミシャはゼンの執務室にやって来た。
"ガチャッ"
「ゼ~ン」
机で書類仕事をしていたゼンは、ジト目でため息をついた。
「…お前はまた、ノックもなく…」
「問題にゃーろう? 客人もいにゃーし」
ミツヒデがミシャの頭に手を置く。
「ダメだ。そういうところはちゃんとしろ」
ミシャはぷくっと頬を膨らませた。
木々が微笑を浮かべて言う。
「でも、ちゃんと扉から入ってくるようになっただけ、進歩なんじゃない?」
ミツヒデは苦笑する。
「そういえば、前は窓から入ってたな…」
ゼンが訊いた。
「んで、何の用だ?」
「オビのことにゃけど」
「あぁ、あの不審者か」
「そ」
ミシャはゆっくり腕を持ち上げ、執務室の窓を指さした。
ゼンもミツヒデも木々も、そちらを見やる。
「どーも!」
「「「!?」」」
そこには、窓際に座ったオビが。
「おまっ、いつから…」
「ついさっきからでーす」
「ミシャ! ちゃんと監視しておけと言っただろう!」
「そう、その監視にゃんにゃけど」
「?」
「大臣から定期調査の仕事渡されちゃって、しばらく出来にゃーのよ」
「…その仕事、誰か他の奴に代わってもらえないのか? 大臣にはそうするよう、俺から言っておいたはずだが…」
「それが今回ばかりは出来にゃーって。ミーの耳が必要みたい」
「…そうか」
「てにゃわけで、そろそろオビをどーするか決めたらどうかにゃ~って」
ゼンが目を向けると、オビは満面の笑みを浮かべて言う。
「俺は、主のために働きたいな~」
「誰が主だ。……ミシャ」
「うん?」
「お前はどう思う」
「
「ここしばらく、オビを監視して」
「ん~……まぁ、大丈夫じゃにゃーの? 一度も逃げ出す素振りはにゃーったし、実際、腕も立つ。しばらく試してみれば?」
「試す、か…」
「どっちにしろ、ミーは仕事に出るから、あとは任せるにゃ」
「分かった。気をつけてな」
「うーい」
ミシャはヒラヒラと手を振って、執務室を出ていった。
ゼンはオビの方に向き直る。
「というわけだ。お前を正式に従者にするかは、試用期間を経てから決める。いいな?」
オビは相変わらず笑顔のまま。
「はい、勿論。取り成してくれたミシャのためにも、頑張りますよ?」
「何だ? 随分と気に入ってるんだな、ミシャのことを」
「面白いですからね~」
…こうして。
オビは試用的に、ゼンの従者となった。
そしてミシャは、しばらく城を空けることになった。
数日後。
「ゼン王子~!」
「ん? ……なんだ、オビか」
書類を読んでいたゼンの元に、窓からオビが入ってきた。
「なんだとは冷たいですね~、主」
「主じゃない」
「やだな~。俺の手綱はアンタに預けたじゃないですか」
「まだ正式に預かってない。試用期間だ」
傍に居たミツヒデが半目で言う。
「木を移動手段に使うなよ? 兵に捕獲されるぞ。昔のミシャみたいに」
「へぇ? ミシャって捕まったことあるんですね。……っとそうだ、今、下で耳にしたんですがね、主の管轄領のラクスド砦に出した使者、帰ってきてないそうですよ?」
「! ……じゃあ、連絡は取れないままか」
ミツヒデの表情に影が落ちる。
「砦内で何かあったのかもしれないな…」
そこに…
「失礼致します!」
城内の伝令役がやって来た。
「ゼン殿下! 先日ラクスドへの「あぁ、聞いてる」
「えっ?」
ゼンは本を閉じてその場に置き、上着を羽織りながら歩き出した。
「まっ、まさかラクスドへ!? お待ちください! まだ殿下が自ら向かわれる程のことかどうかは…」
「それを知るための者が帰らんのだから、行く方が早い」
オビはまばたきを繰り返した。
「…おいおい、あの砦は場所的に考えても、そんな要じゃないでしょうに…」
その呟きが聞こえたのか、ゼンは口角を上げて振り返る。
「砦には、あの地域を守ってる兵士たちがいるんだ。心配だろ?」
「は、はぁ…」
ミツヒデも木々も、身支度を始める。
「ちょっとミツヒデさん、アンタ仮にも王子の側近でしょうが」
「あぁ。ゼンのな」
「あぁ、って……」
オビは、今度は木々に訊いた。
「木々嬢も行くの~?」
木々は無言で、横目にオビを睨みつける。
オビはキョトンとして、ミツヒデに視線を向けた。
「俺、嫌われてる?」
「呼び方がまずいんじゃないか?」
出発前に、白雪に知らせていくとのことで、ゼンたち4人は薬室に寄った。
すると…
「ん~ラクスドの東、か…。誰におつかいを頼もうかねぇ」
ガラクが薬草の買い出しを誰に頼むか、思案している声が聞こえた。
「俺が行こうか? 外出先から近い」
「なっ!? …ゴホン、いえ、いくら何でも殿下におつかいは頼めません。…殿下はどちらにお出掛けで?」
「俺は砦まで… "ガララッ"
突然、薬室の戸が開いた。
鮮やかな赤が揺れる。
「あれ? ゼン!」
「よう、白雪」
薬草採集に行っていた白雪とリュウが、戻ってきたようだ。
そのとき、ガラクは1つ思いついた。
「丁度よかった、白雪くん」
「? はい、何でしょう」
「ちょっと薬草の調達に行ってきてくれるかな。ラクスドまで」
「ラクスド、ですか?」
「ゼン殿下、白雪くんも、途中まで同行して宜しいですか?」
ゼンは、心の中で感謝しながら、笑顔を浮かべた。
「もちろんだ」
そこで、リュウがあることを思い出す。
「…あの、ミシャがどこにいるか、知りませんか?」
ゼンはきょとんとした。
「今は仕事で城外に出ているぞ? どうかしたのか?」
「…ミシャの武器に仕込む毒、そろそろ、薬効が切れる頃なので…」
白雪は目を見開いてリュウを見下ろす。
「毒?」
「…麻痺毒とか、いろいろ。ミシャ、危険なとこに行くこと、多いから」
ゼンが付け加えた。
「女手じゃ、男手に敵わないことも多いからな」
「…俺が毒の研究もしてるの知って、よく頼んでくるようになって…。……薬効の期限、たまに忘れてるんだよね…」
と、そのとき。
「何なら、俺が届けようか?」
オビが窓から姿を現した。
ゼンが半目で振り返る。
「お前はまたそんなとこから…。って、ミシャの居場所知ってるのか?」
「はい。ちょっと小耳に挟んだんで」
「それを盗み聞きって言うんだぞ」
「まぁまぁ。細かいことはいいじゃないですか、主」
「はぁ…」
「ミシャの出掛け先の1つに、ちょうどラクスドの街があるんですよ。しかも、街に入る予定は、今日から3日後です」
「そうなのか? 妙な偶然だな」
それを聞いたリュウは、あらかじめ用意していた包みを持って、オビの前に進み出る。
「…よろしくお願いします。…渡してもらえれば、あとは分かるはずなので」
オビは笑みを浮かべて受け取った。
「りょーかい」