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4. 堕ちてゆく眼
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朝、城の業務が始まり、薬室の薬剤師たちも動き始める頃。
"ガチャ、ガララ…"
第三薬草園の鍵は、ようやく開いた。
視察でやって来たガラクと八房は、きょとんと瞬きを繰り返す。
ガラクに気づいた白雪は、元気よく挨拶をした。
「あ、薬室長! おはようございます!」
「あぁ、おはよう…。なぜ殿下がここにおられるんです? しかもミシャまで…」
「…あとで話す」
「んにゃ~疲れた~…」
ガラクは、土にまみれた3人を見て、薬草園全体を見渡した。
「しかし、この状況は…?」
「えっと、ユラシグレの花が咲くよういじりました」
「キミは、あれをユラシグレだと?」
「はい」
「…そうか。他のも植え替えてあるね。これを一晩で……って、殿下に手伝わせて!?」
白雪はすました顔で言った。
「いつか王子を助けるかもしれない、大事な薬草たちですので」
ゼンは思わず吹き出す。
ガラクはまばたきを繰り返した。
そして、小さくため息をつく。
「…とりあえず、事情は分かったわ。夜中、受験者の1人が、兵に不審者と間違われたんだけど、鍵はそいつの仕業かしらね」
「確かか!?」
「席争いから1人でも弾き出そうとしたのでしょう。…ゼン殿下、この件の処分は、私に任せて頂けませんか? 閉じ込めた相手が王子だと知れば、卒倒するでしょうから」
「…腰まである髪を、後ろで束ねてる奴だった。あと、裾の長い服だ」
「ありがとうございます。…それと、白雪くん、だっけ? キミも、殿下との親交は、時と場所を弁えるように」
「はい。申し訳ありません」
「待て、俺が勝手に来たんだ」
「その勝手に文句を言わせない御身分に、貴方様は在るということです。殿下の一言があれば、このご友人を、無条件で宮廷薬剤師として迎えることも出来たのですよ?」
すると、ゼンはフッと笑った。
「そんなことしてみろ。この娘は二度と、城へは現れないぞ? 俺は進んで怒りを買いたくはない」
白雪も笑う。
「それは光栄です」
ガラクは目を見開き、笑った。
「ぷっ、あっはっはっはっはっ!」
何が面白いのか、爆笑するガラクに、ゼンが半目で言う。
「とにかくだ、判断はそちらがすることだ、薬室長」
「はははっ、はぁ~~……承知致しました、ゼン殿下。……で、どう思う? 八房」
「文句なしに、合格です」
「だね。…というわけで、白雪くん」
「あ、はい!」
「キミを、宮廷付き薬剤師見習いとして、正式に迎えるわ」
「え……」
唖然とする白雪に、ミシャが眠そうな顔で笑って言う。
「合格ってことにゃよ」
「えっ、あっ、ありがとうございます!」
白雪は勢い良く頭を下げた。
その素直な仕草に、ガラクは笑みを浮かべ、植え替えられたユラシグレを見る。
「今回の試験はね、ただの薬草園管理じゃない。間違い探しだったのよ。ユラとアケギのね。気付いて記録書に書いてくれればそれで良かったんだけど、まさか園内全部を植え替えるとはね、ふふふっ、リュウが聞いたら驚くでしょうね」
「リュウ?」
「うちの最年少宮廷薬剤師よ」
「あ、もしかして黒髪の?」
「おや、もう会ってるの? …ふむ。それなら、キミの上司はリュウにしましょう」
「あ、はい!」
白雪も無事合格ということで、ミシャは自分の部屋に帰って、二度寝することにした。
途中、ゼンが声を掛けてくる。
「1人で戻れるか? そろそろ薬が切れる頃だろ?」
「まだ見えるから大丈夫にゃよ」
「そうか?」
話を聞いていた白雪が寄って来た。
「薬って?」
「ん、あぁ…」
ゼンは、話していいのか? とミシャに視線を向ける。
ミシャは笑って答えた。
「ミーはね、目が見えにゃーの」
「え……」
「薬室に記録あるから、あとで見てみて? 今はガラクの薬を毎朝飲んでるから、ぼやけても見えてはいるんにゃ。その薬効は大体1日。んで、そろそろ切れる時間にゃから、ゼンは心配してくれたわけ」
「大丈夫なの…?」
「部屋戻るまでにゃら心配いらにゃーよ。そんじゃ、またね!」
ミシャは笑顔で手を振って、シュっと去っていった。
白雪は心配そうな顔で、ミシャが消えていった方向を見つめる。
「大丈夫かな…」
ゼンがその隣に並んだ。
「大丈夫だ。目が見えなくても、ミシャなら耳と鼻だけで城内を歩ける。万が一どこかで動けなくなったとしても、城の中なら誰かが見つけるからな」
「…そうだね」