夢主の名前を決めて下さい。
4. 堕ちてゆく眼
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ミシャがオビの監視役になってから、数日。
ミシャは相変わらず、オビに付き纏われるような日々を送っていた。
「なぁミシャ~、今日はどっか行くの?」
「行かにゃーよ」
「そっか」
「お前はいっつも楽しそうにゃね」
「そりゃあ、ミシャが面白いからね」
「
突然、ミシャは耳を動かした。
「どうかした?」
「知らにゃー足音がたくさん、門から一斉に入ってきたから、いったい
「知らない足音が一斉に…。あぁ、確か今日、宮廷薬剤師見習いの試験日じゃなかったっけ。開門時間が決まってるから、みんな一斉に入ってきたんでしょ」
「あぁ、雪ちゃんも受けるって言ってたあれかぁ。……あ、雪ちゃんの足音も混じってる」
目を閉じ、耳を澄ませているミシャ。
「……」
それを、オビは横目にじっと見つめた。
動物の耳のような、ミシャの横髪が微かに動いている。
オビは無意識に手を伸ばした。
「!」
ミシャは、突然耳に触れた感触に、肩を揺らして目を開いた。
バっと横を向けば、同じように驚いたオビと視線が合う。
「
ミシャは、触られた耳を手で覆った。
オビはハっと我に返り、無意識に伸ばしていた手を引っ込める。
「あ、あぁ、えーと、ごめん…」
何か言い訳でもしようとするが、言葉が浮かんでこない。
ミシャは横髪を元に戻した。
一瞬見えた色白の耳は、隠れてしまう。
「お前、時々ワケ分からん…」
「あ、ははは…」
「……あ、宮廷薬剤師で思い出した」
「?」
ミシャは思い至って、オビを連れ、薬室へとやって来た。
「ガラク~」
ノックなしで、引き戸を開ける。
机で仕事をしていたガラクは、顔を上げた。
「うん? おや、ミシャ。一カ月ぶりだね」
「あ、そっか。前に薬貰ってから会ってにゃーもんね」
「ん? そっちの彼は誰だい?」
「オビ。今、ミーの監視下にあるんにゃ」
「どうも~」
「へぇ、そうなの。どんな悪いことをしたお兄さんなのかな?」
ガラクは手放しでそう言って、席を立ち、薬歴書を保管している棚に近づいた。
「あれ、リュウはいにゃーの?」
「採集に行ってるよ。そのうち戻るでしょ」
「やっちゃんは?」
「八房には、試験の細かいことを任せてあるからね」
「ふ~ん。ガラクはいいんか? ここにいて」
「挨拶はしたし、あとは八房がうまくやるでしょう」
「……面倒くさがりな上司持つと、部下は大変にゃね…」
大量の薬歴書の中から、ガラクはミシャの薬歴を見つける。
「あったあった。こっちへ来なさい? ミシャ。診察するから」
「は~い」
ミシャはガラクの元へ走り寄った。
オビは戸口に背を預けて腕を組み、2人のやりとりを見つめる。
「どれどれ…」
ガラクはルーペを手に、ミシャの瞳を覗き込む。
「んー……またホシが増えてるね」
「いつものことにゃよ」
「視力検査もしようか」
ガラクは本棚から本を一冊引き抜き、机の上に立てる。
そして、床に巻き尺を伸ばした。
「いつも通り、どこまで近づけばタイトルが見えるか教えて?」
ミシャは、立てられた本に1歩ずつ近づいていった。
「ん~、ここが限界」
「……前回より2cm近づいてるね……。まぁ、このくらいなら誤差の範囲だけど」
ガラクは薬歴書に結果を書き込んだ。
「この一カ月、薬が効きにくかった日はあった?」
「んーにゃ」
「そう、それは何より…。また一カ月分、薬を処方しておくからね。もし、効きにくい日が3日続いたら来なさい?」
「りょーかい」
「それじゃ、薬を調合するから、少し外で待っててくれる?」
「は~い」
ミシャはオビを連れて、薬室を出た。
待合室のようなところで、ソファに腰掛け、薬が出来るのを待つ。
「ふむ、前より見えんくにゃってたかぁ…」
ミシャは自分の手をかざし、遠ざけたり近づけたりしながら、ピントの合う位置を探す。
オビはそれを横目に見た。
「病気?」
ミシャは軽い口振りで答える。
「そ。だんだん目が見えんくにゃってく病気。いつか完全に見えんくにゃるってさ」
「へぇ……。それで、耳や鼻が利くの?」
「たぶんね。この目の病気は生まれつきで、気づいたら耳も鼻もこんにゃ感じにゃったから、生きてくために、体が必死で覚えたんにゃと思うよ」
「…そっか」
「4年くらい前かにゃ。住んでたラタニカの山ン
「今よりも?」
「うん。視界は真っ暗にゃったよ。それを言ったらガラクが、薬を飲めばまた見えるようんにゃるし、病気の進行も遅らせられるって言った。だから、ここに来たんにゃよ」
「へぇ…」
ミシャはソファから立ち上がり、窓に歩み寄った。
ガラス越しに青空を見上げる。
「にゃぁ、オビ」
「ん?」
「今日の雲、どんにゃ形してる?」
オビは座ったまま、窓の外を見やった。
「形か……ん~、なんか、キノコみたいだな」
「そっか」
ミシャは、ぼやけた青空を見つめ、ポツリとこぼす。
「人も物も、動物も植物も、近づけばちゃんと見えるけど、空だけは近づけにゃーから」
「……」
「もう一回、雲が見たいにゃ。……星も」
そのとき、オビは、数日前にミシャと話したことを思い出した。
『ミシャって、目が綺麗だな。目の中に星空が入ってるみたいだ』
『…星空、にゃあ……』
あのとき分からなかったミシャの表情の意味が、今、ようやく分かった。
星のように見えた、ミシャの瞳の中の白い粒子は、病気の進行によって現れたものだったのだ。
「…ごめん」
「ん?」
「…無神経に、目を褒めたから…」
ミシャは振り返り、パチパチとまばたきを繰り返した。
少し俯いているオビを見て、笑う。
「にゃははっ、お前、やっぱ変にゃヤツ」
ミシャはオビに歩み寄り、オビの顔が見えるくらい至近距離まで、自分の顔を近づけた。
「褒めてくれたことは、嬉しかったにゃ」
言って、ふわりと笑顔を浮かべる。
その表情に、オビは目を見開いて、言葉を失った。
"ガララッ"
「お~いミシャ~。薬出来たよ~」
薬室の扉が開いて、ガラクが呼んだ。
「おっ、相変わらず早いにゃあ」
ミシャはピョンピョンと走り寄っていく。
「はい、一カ月分ね。またなくなる頃においで?」
「ありがと」
ミシャはオビの元へ戻った。
「帰るよ~オビ」
薬の袋の中を覗きながら声を掛け、建物の外へと歩き出す。
オビはフっと苦笑して、その後を追った。