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3. 監視
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食事を済ませた2人は、店を出て、店主の姪が居るという広場へ向かった。
そこには既に人が集まっており、ショーが始まるのを今か今かと待っている。
「こんちは~」
ミシャは慣れた様子で、衝立の向こうへ顔を出す。
「あら、チェル~! 来てくれたんだ! 嬉し~い!」
「ぅおっぷ」
ミシャは、店主の姪っ子である踊り子の、豊満な胸に抱きしめられた。
伴奏達も周りに集まってくる。
「チェルが街にいるなんざ、今日は運がいいな!」
「お? 今日は連れがいるのか。そいつも何か出来るのか?」
「んーや、コイツは見学や」
「そうなのか。楽しんでいってくれよ!」
「よしっ、さっそく音を合わせよう!」
「あ、ちょォ待って? 急やったし、笛は宿に置いてきてるんよ。何かある?」
もちろん、宿に置いてきたなんて嘘だ。
銀の横笛は、旅芸人が持つには不自然なほど高価なものなので、城に置いてある。
いつも笛吹きとして街に入るときは、安い木製の笛を持ってくるのだが、今日は持ってきていないのだ。
「あー、一応あるが…」
「もう何年も誰も吹いてないやつだぞ。大丈夫か?」
「見してみィ」
伴奏達は、山のように積み上げられた鞄の中の1つから、木製の横笛を出してきた。
それを受け取ったミシャは、軽く全体を見渡してから、試し吹きしてみる。
淀みなく動くミシャの指。
だが、音は淀みまくっていた。
「あちゃ~……やっぱ何年も使ってなかったし、扱いも雑だったから、湿気やなんかで歪んじまったんだな」
「どうするよ……横笛ってこれしかねぇぜ?」
ミシャは伴奏達の声に耳を貸さず、試し吹きを繰り返した。
そして…
「なァ、ナイフ、貸してくれへん?」
「……へ?」
「あ、あぁ…」
伴奏達から、果物ナイフを借りた。
それで、笛の穴を少しずつ削っていく。
削っては音を出し、また削っては音を出す。
それを繰り返すうち、笛の音はしっかりとした音階を奏で始めた。
「すっげぇ…」
「さっすがチェル!」
一部始終を見ていたオビは、率直に驚き、感心していた。
「よし、んじゃ行くか!」
「頼むぜ、チェル!」
「はいよ~」
伴奏達は衝立の向こうへ出始めた。
ミシャはオビに歩み寄って囁く。
「退屈にゃろうけど、逃げんにゃよ?」
「退屈? まさか。ミシャの笛、楽しみにしてる」
「! ……あ、あっそ」
ミシャはどんな顔をすればいいか分からず、俯いて、衝立の向こうへ出ていった。
ミシャを見送り、オビは客たちのいる正面へと回る。
客たちは、出てきた踊り子や伴奏達に、声援や拍手を送っていた。
オビは、ミシャがよく見えるところに立ち、客たちに混ざって、じっと見つめる。
「いや~、今日もたくさん集まってくれてありがとう!」
「1曲目は、なんと! 昨日完成したばかりの新曲だ!」
「みんな~! 手拍子よろしくね~!」
最初に二言三言あいさつをすると、伴奏たちは早速、曲を奏で始めた。
それに合わせて、踊り子が衣装を翻しながら踊り始める。
それがワンフレーズ過ぎたところで、ミシャは曲を理解したのか、笛を吹き始めた。
「!」
オビは思わず目を見開いた。
(おいおい、これ新曲なんだろ…?)
当然、ミシャは聴いたことがないはず。
それなのに、まるで、最初から伴奏の一部として組み込まれていたかのように。
ミシャの奏でる音色は、伴奏と1つになって流れてくる。
(天才かよ…)
オビは鳥肌の立つ腕を押さえて、演奏を聞いていた。
約1時間半後、ショーは終わった。
盛大な拍手を受けながら、踊り子や伴奏たちは、衝立の後ろへ下がっていく。
「ありがとうチェル~!」
「うぶっ」
ミシャは再び、踊り子の豊満な胸に抱きしめられた。
「いや~、相変わらずすげぇなぁ!」
「今日やった曲は全部、一回も合わせたことねぇのに!」
ミシャはわざと自慢げな顔をする。
「とーぜん! ウチを誰やと思てんの?」
「俺たちこのあと打ち上げやるんだが、チェルもどうだ?」
「あぁ! 是非来てくれ! 何か礼をしなきゃ気が済まねぇよ!」
すると、ミシャは笑顔のまま首を横に振る。
「すまんなァ、先約がいてるんよ。お礼は、また次に
「え~っ、チェルもう行っちゃうの~?」
「ははっ、また一緒に
ミシャはこれ以上引き止められないよう、手を振って、早々に衝立から出た。
(…あれ、オビいにゃーの?)
広場を見渡すが、まばらになった人々の合間に、見知った姿は見つからない。
まさか逃げたのか?
「スンスン…」
耳を澄ませながら鼻を動かすと、かすかに残った匂いが鼻を掠める。
ミシャはその匂いを辿って、走り出した。
…しばらく走ったミシャは、広場から一本入った大通りの、脇道で止まる。
「見つけた」
ぼやける視界の中に、見覚えのある人影が映り込む。
「へぇ、すごいね。本当に匂いだけで追っかけてきたんだ」
オビは建物に背を預け、まるで待ち合わせでもしているように立っていた。
「逃げんにゃって言ったにゃろ」
「逃げてないよ? 人が多かったから、ここで待ってただけ」
「うそつけ。ミーの嗅覚 試したかったんにゃろ?」
「あ、分かっちゃった?」
「帰るよ」
ミシャは城に向かって、通りを歩き始めた。
「え、もう? まだ日は高いよ?」
「ダーメ。もうすぐ雨が降るから」
「雨降るとダメなの?」
「そ。ダメにゃの」
「?」
オビは首を傾げながらも、ミシャの後をついて歩き出す。
「あ、そうだ。笛、凄かったよ、ミシャ」
「そりゃどーも」
「また吹いてよ」
「気が向いたらにゃ」
「フフ、やったね。楽しみにしてる」
ミシャは、歩きながらチラリとオビを見た。
監視されているというのに、自分から楽しそうについてくる。
(変にゃヤツ…)
何を考えているのかよく分からない。
でも―――
ミシャは微かに口元に笑みを浮かべて、城への道を歩いていった。
→ 4. 堕ちてゆく眼