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第六巻
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冬のある日。
シロ、柿助、ルリオの不喜処トリオは、松の木に大量にくくりつけられた亡者たちを、じっと見上げていた。
「……クリスマス?」
三匹の元に、大きなゴミ袋を担いだ鬼灯と椿が通りかかる。
「クリスマスツリーではありませんよ」
シロが真っ先に瞳を輝かせ、駆け寄った。
「あ、鬼灯様! 椿様!」
白いモフモフの頭をひと撫でして、鬼灯は松の木を見上げる。
「毎年の大掃除の間だけ、こうして亡者を
その隣で、椿も
「つーか、そもそも毎年掃除してたことに驚きだけどな」
「はい? 阿鼻地獄も大掃除していますよね?」
「さぁな。副主任が仕切ってやってたかもしんねぇけど、あたしは知らねぇ」
「働け主任」
「別にいいだろ、どうせ年中 亡者のミンチで汚れてんだからよ」
「そういう問題ではありません。……おっと、雑談してる場合ではありませんでしたね。今日中に終わらせなければ」
「そーだな。今日のために裁判も一時止まってるわけだし、亡者が溜まる」
「シロさんたちも、しっかり不喜処のお掃除して下さいね?」
「「「はーい!」」」
不喜処トリオと別れて、鬼灯と椿は、ゴミの集積所へ向かった。
さて。
そうして大掃除をしているのは、何も地獄ばかりではなく、天国も同様である。
「桃太郎さ~ん! すみませんが、たなの上はんぶんが届かないので、つぼやビンをおろしていただけますか?」
「あ、は~い! っていうか、高い所は全部俺がやりますから、薺さんは手の届くところだけでいいっすよ?」
「あ、いえ、でも、ですね……」
辺りの床を戸惑い気味に見渡す薺。
その背後に、白澤が忍び寄った。
「薺ちゃんの手の届く範囲は、毎日丁寧に掃除してくれてるから、あまりやることがないんだよね? ……よっ、と」
「ひわわっ!?」
突然、薺は白澤に肩車をされる。
「ほら、これで上まで届くでしょ?」
「は、はいっ! あ、いえっ、ダメです! 重たいですよ白澤さま!」
「え~? 薺ちゃんは羽のように軽いよ~?」
「うそをおっしゃらないでくださいっ」
何となくズレたやり取りをしている二人を、桃太郎は半目で見つめた。
「あのー、白澤様と俺で高いところ掃除して、薺さんに低い所を任せればいいんじゃ……」
「え~っ? 僕は薺ちゃんを肩車してた~い」
「いや、掃除中なんすけど……」
白澤は満面の笑みを崩さず、薺の膝をすりすりと撫でている。
「いいじゃない、兎ちゃんたちも居るから手は足りてるし、毎日ちゃんと掃除してるから綺麗だし、のんびりやろうよ~」
「は、はぁ……」
「ふ、ふふふっ、白澤さまっ、ひざはやめてくださいっ、くすぐったいですぅ!」
「ん~? そっかそっか~、こちょこちょ~」
「ふひっ、ふやぁぁ! おやめください~!」
くすぐったがりながらも、少し楽しそうな薺と、全力で楽しそうな白澤。
じゃれつく二人に、桃太郎はため息をついて、棚の上のはたき掛けを始めた。
一方、地獄では、大掃除も終盤。
閻魔庁の大釜の間に新卒たちが集められ、鬼灯が書類を手に説明をしていた。
「それでは、新卒の皆さんには最後に、ここにある大釜を洗って頂きます。普通に鉄の釜と思って洗って頂ければいいのですが、一つだけ、
「「「はい!」」」
新卒たちは手分けして大釜を磨きにかかる。
唐瓜と茄子も、一緒に古い釜に歩み寄った。
「お~! 結構古いな~コレ」
「ホントだな。
「この中で何人の亡者が煮えたんだろうな~」
「なんか、歴史っつーか、ロマン感じちゃうよな~」
『いやあ、それほどでもありますよ』
「……」
「……」
聞き慣れない声に、唐瓜と茄子は一瞬固まり、いつの間にか大釜に現れていた顔を見て、サッと青ざめた。
「うわ、付喪神だ……」
茄子が面白半分で、両手を伸ばす。
"ぷすっ"
『ギャオス! 君っ、初対面の付喪神に目潰しをかますとは! 何してくれるんだね!』
「あっ、バカ茄子やめろ! 物でも自我があるんだぞ! いきなり目潰しなんかすんじゃねぇよ!」
「んや、ゴメン、なんか絶妙に気持ち悪くて」
『オォゥ……とんだデンジャラスボーヤだ、物は大切にしてくれ給えよ?』
「あ、はい、なんかスイマセン」
『吾輩は年季の入った釜なのだからね。そもそも吾輩の生まれは―――』
……ペラペラと、自分語りを始める大釜。
唐瓜と茄子は、洗剤とタワシを持ったまま、立ち尽くした。
「……なんかちょっと面倒な奴だね」
「そうだな……いや、もうこの際 無視だ、さっさと洗おうぜ!」
唐瓜は意を決し、大釜の中に洗剤をピューっと垂らす。
『おや、シャンプーですかな? ……ん? 何だねコレは! 安い磨き粉じゃないか! ちゃんと"泡で落とす"優しい
「はぁぁ!? 磨き粉とタワシで充分だろっ、基本的に鍋の仲間なんだから!」
『ゴシゴシこするなんて乱暴だ! すすいだ瞬間キュキュっと落とし給え!』
「泡じゃ落とせねぇんだよサビはよォ!」
『サビは鉄の
「漢字
そうしてギャアギャア口喧嘩していると……
『フッ、まったくこれだから古すぎる奴は困るぜ。大釜全体の品位も損なわれるだろう?』
『なっ、お前はっ、流行りにチャラチャラ流されて、テフロン加工を施した大釜!』
『そうさ! 今の俺は昔の俺ではない! くっつかない、さっと洗える! そんな新世代に生まれ変わったのさ!』
『クソォっ、一度ハゲたら使い物にならんくせにぃっ!』
「……いや、アンタら使って炒め物とかしねぇし、亡者煮るだけだし、テフロンでも鉄でもどっちでもいいんだけど……」
すると……
「チッ……っせぇなぁ!」
"ドパァッ"
『ぐぉぅ!?』
『ごぼぼっ!?』
鉄とテフロン、両者の釜の口に、洗剤が丸ごと一本注がれた。
そして、スコンと大きなタワシが突っ込まれる。
『『むぐぐっ……』』
大釜はどちらも喋れなくなり、青ざめた。
そこに、ハンマーを肩に担いだ椿が、こめかみに血管を浮かせて現れる。
「テメェら、付喪神と話すんじゃねぇよ。コイツら放っといたら十日でも二週間でも話し続けんだぞ、うるせぇったらねぇわ」
「ひっ、椿様……すいません!」
椿はイライラが収まらないようで、ハンマーをくるりと回した。
「いいか、しつこく話しかけてくる釜は、こうやって黙らすんだよ!」
"ヒュッ、カコォンッ!"
大釜の間 全体に、いい音が響き渡った。
椿のハンマーで吹き飛ばされた鉄の釜が、テフロンの釜に直撃したのだ。
ようやく少しスッキリしたらしい椿は、フンっと鼻を鳴らして去っていく。
「今のうちに きっちり洗っとけよー」
「は、はいっ!」
唐瓜と茄子は、ゴロンゴロンと転がり続ける釜たちを、急いで回収に行った。
そこに、椿と入れ違いで鬼灯が来る。
「随分といい音がしましたが、何事ですか?」
唐瓜が青ざめたまま答えた。
「あ、いえっ、そのっ、付喪神とうっかり話しちゃいまして、椿様がキレて洗剤とタワシを釜の口に……最後はハンマーで殴りつけてたので、音が……」
「なるほど、そういうことですか。椿さんは特に大釜の付喪神が嫌いですからね」
「そ、そうなんですか……?」
「彼らは延々と無駄話をしてくるでしょう? 短気な椿さんとは相性が悪いんです」
「あー……なんか分かる気がします……」
「おかげで、阿鼻の大釜の付喪神たちは、ほとんどが椿さんにハンマーで殴られ、顔が凹んで喋れなくなっています」
「え、それはちょっと不憫かも……」
「まぁ、何度うるさいと言われても黙らなかった、付喪神たちの自業自得ですがね……。洗う際に、側面が凹んでいないかだけチェックして下さい。凹みから劣化して穴が開くこともあるので」
「わ、分かりました……」
その後。
大釜たちは速やかに洗われ、柚湯が沸かされた。