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第四巻
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ある日、閻魔庁の食堂で。
「お? 木霊じゃねぇか、久しぶりだなァ」
「あれ、椿様? 何で閻魔庁に?」
旧知の二人は、数千年ぶりに再会した。
『OL100人に聞きました! アナタの職場の怖~い先輩! 続いての再現VTRは―――』
食堂のテレビから流れてくる、バラエティ番組の音。
味噌汁を啜っていた鬼灯は、ふと、そのテレビ画面を見やった。
「見た目がイジメの種になるというのは、残念なことによくありますが、女性は特にその傾向が強い。そんな印象がありますね」
半ば ひとり言のように呟かれたその言葉に、向かいに座っていたお香が微笑んだ。
「そうねぇ……。でも、それは簡単には分析できない問題だわ、鬼灯様。女の
「そういうものですか」
「ふふっ、鬼灯様でも、分からないことってあるわ。女のことは特にね」
と、そこに……
「本当に難しいです、女性というのは……」
ため息混じりに現れた、子供のようないで立ちの精霊。
鬼灯は何度か瞬きをした。
「木霊さんじゃないですか」
お香は知らないようで、首をかしげる。
「コダマ?」
そこに、特大サイズの定食を持った椿がやってきた。
「会ったことなかったか? 現世に棲んでる木の精で、ちょくちょく閻魔庁に来てるって聞いてたが」
ドスン、と定食がテーブルに置かれる。
木霊のお子様ランチがミニチュアに見えるほど、サイズ差があった。
鬼灯が引き気味に椿の定食を見つめる。
「ついにあなた専用の食器セットが作られましたか……」
椿はニッコリ笑った。
「おう! 毎回どんぶり二十杯もメシよそうの面倒くせぇんだと。あたしも運ぶの面倒だったからなぁ」
木霊が懐かしそうに微笑む。
「お会いするのは数千年ぶりですが、底のない食欲は相変わらずのようですね」
「おう、まぁな!」
椿はさっそく、巨大な丼を抱え、白飯をかき込み始めた。
それを安堵したように見つめた木霊は、そういえば、と零す。
「椿様は、阿鼻地獄の主任獄卒ではなかったですか?」
鬼灯が、あぁ、と思い出したように答えた。
「そういえばお伝えしていませんでしたね。閻魔庁の補佐官業務が、私一人では手に負えなくなりまして。椿さんに第二補佐官として来てもらったんです」
「へぇ……あれ? 補佐官は元々五人いらっしゃったのでは?」
「えぇまぁ。……しかし、昨今は難しい裁判も増えていまして、私以外の四人には少々荷が重く……。結果、私と同様の仕事が出来る者をと、椿さんを抜擢したのです」
「そうだったのですか」
「ところで、木霊さんこそどうして
木霊はそっと目を逸らし、スプーンを皿に置いた。
「いやぁ……今は山も棲みにくくて……」
言いつつ、どこからかハンカチを取り出す。
「まず私、花粉症なんですよね……」
ずぴぴ、と木霊が鼻をすするのを、鬼灯は冷めた目で見た。
「それ、マムシが自分の毒に当たるようなものですよね?」
「あはは……先日、あまりの花粉量に思わず千里眼を使ってみたのですが、アメリカのそのテのCMみたいな様子が見えてしまい……神としてそんなものを見てしまったやるせなさでいっぱいに……」
「花粉の本文は受粉ですから、見てしまった貴方が悪いですよ」
「まぁ、そうなんですけど……。それだけでなく、最近はゴミも凄いですし、何だか居づらくて、最近は何やかや理由をつけて、あの世へ来ています」
「そうですか」
「……。……いえ、本当は他に、居づらい理由があるんです」
木霊はスプーンで、山型に盛られたケチャップライスを指した。
「山には神が多くおります。私のような木の精はもちろん、山の大将である
名前を挙げていくうちに、空気がシンとしていくのを感じた木霊は、ですよね、と言いたげな顔をする。
「えっと……全てまとめて山神ファミリーでいいです」
「あ、分かりやすくなった」
「その山神ファミリーの中でも、ツートップの姫がいるんですが……短くイワ姫とサクヤ姫としましょう。この二人、姉妹なんですけどね……」
木霊はどこからか、山神姉妹の写真を取り出した。
それを見て、お香は青ざめ、鬼灯も察したように頷く。
ただ、椿だけはきょとんとして、巨大魚の煮つけを頭から丸かじりしていた。
「ん、
鬼灯が目を細める。
「この姉妹がどんなことになるかは、大体想像がつきますね」
「ゴクン……どーいう意味だよ」
何も察することの出来ない椿は置いておき、木霊が消沈した様子で説明する。
「経緯は長いので省きますが、その昔、このお二人は揃ってニニギという神のもとに嫁がれたのです。しかし、姉のイワ姫だけが、醜いという理由で返されてしまい、それからイワ姫は美人がお嫌いで、美人が山へ入ると、私の分身である木々をメキメキ倒すのです」
バタン、と木霊はテーブルに突っ伏した。
お香がそっと背中をさする。
「酷いお話ねぇ……」
木霊は顔だけ上げた。
「今夜は富士山で山神のパーティがあるのですが、あの姉妹の空気を考えると……」
それを聞いて、鬼灯は顎に手を当てる。
「ちょっと行ってみたいですね」
途端、木霊は飛び起きた。
「本当ですか!?」
「えぇまぁ。現世の神を見ることのできる、いい機会ですし」
お香は何となく嫌な予感がする。
「ちょっとお待ちになって、鬼灯さ「是非! 是非いらしてください鬼灯様! イワ姫様もきっと喜びます!」
特大の味噌汁を飲み干した椿は、思い出したように木霊に訊いた。
「それってよォ、何年かに一度、富士山の麓でやってるあの宴か?」
「? えぇ、そうですよ」
「んじゃあたしも連れてけ。ウマイもん沢山出んだろ?」
そう言ってニッコリ満面の笑みを見せると、木霊は言葉に詰まった。
「いや、それは……」
木霊が言えなかったことを、鬼灯が代わりにピシャリと言う。
「駄目ですよ。あなた美人なんですから」
「あ"?」
「さっきまでの話、聞いてました? イワ姫を怒らせるような容姿の者は、連れていけないんですよ」
「何だそりゃ……」
椿は一気に機嫌を悪くし、頬杖をついた。
「……んじゃお前が今度ウマイ店連れてけ」
鬼灯はため息混じりに頷く。
「分かりました。食べ放題で宜しければ」
途端、椿はご機嫌になった。
「よし! 忘れんなよ?」
「はいはい」