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第四巻
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とある日曜日の昼間。
「おまたせしました! こちら、ご注文のお薬になります!」
「は~い、次の方どうぞ~」
桃源郷の極楽満月は、珍しく繁盛していた。
白澤と薺が、二人体制で接客している。
どうやら、定期的に薬を買いに来る客の周期が、奇跡的に重なってしまい、日曜日なこともあって、客数が倍以上に膨れ上がっているようだ。
接客をしながら、薺は心の片隅に不安を抱えていた。
というのも、数日後に予約が入っている薬の材料を、今日採りに行こうと考えていたのだが、この調子では行けそうにない。
明日に延ばす手もあるが、明日は明日で、別の用事がある。
生薬を乾燥させる時間を考慮すると、今日か明日のうちに採集しておきたい。
「かしこまりました! すぐにおつくりしますので、10分ほどお待ちいただけますか?」
「はい、お願いしますね」
女性客から注文を受けると、すり鉢に生薬を幾つか入れて、すりつぶしながら、そっと白澤の傍へ寄る。
「白澤さま」
呼びながら白衣の裾を引っ張ると、白澤はキリのいいところで接客を中断し、薺の方へ体を傾けた。
「どうしたの?」
「あの、今日予定していた、受苦無有数量処への採集なのですが……」
「あぁ、そういえばそうだったね」
「どうしましょう、これだけお客様がいらっしゃっていると……」
「桃タロー君に行ってもらうとか?」
まだ見習いの桃太郎は今、調剤に使った器を洗ったりと、主に雑用を担当している。
「しかし、桃太郎さんにはまだ、地獄産の生薬についてはおしえていませんから、みわけるのがむずかしいのではと……」
「それもそっか……んー…………あ、受苦無有数量処っていえば、近くに如飛虫堕処があったよね。芥子ちゃんが居るんじゃない?」
「ほぁっ、そうでした! 芥子さんがいらっしゃいました! すぐにきいてきます!」
薺は薬をすりつぶしながら、ぴょんぴょんと電話の方へ駆けていった。
その後ろ姿に、白澤は、滑って転んで生薬をぶちまけないでね、と心の中で忠告しつつ、中断していた接客に戻った。
数分後。
「桃太郎さ~ん!」
薺は、別室の流し台で洗い物をしていた桃太郎の元へ、走った。
「うおっ!? びっくりした……。どうしたんですか? そんなに急いで」
「きょう中に採集しておきたい生薬があるのです! ……ですが、ご覧のとおりの繁盛。うれしいことですが、採集にもいかなければなりませんので……」
「それを、俺に?」
「はい! とってきていただきたいのは、このような、亡者に生える木です」
薺は、先ほどさらっと描いた絵を持ち出す。
白澤の絵とは違い、写実的で、とても分かりやすかった。
「如飛虫堕処の芥子さんに、おはなしをとおしてありますから! くわしい見分けかたも、芥子さんが知っています! ……お願いしてもよろしいですか?」
うるうると、申し訳なさそうな琥珀の瞳に見つめられては、断ることなどできない。
「勿論です。すぐに向かいますね」
薺はパァっと笑顔を浮かべて頷いた。
「ありがとうございます! お願いします!」
その頃。
ところ変わって、閻魔庁。
「この辺りの小説はお勧めです。昨今ありがちな、泥沼化した家庭というものを、よく表現しています」
「ほ~」
久々に、揃って休みの取れた、鬼灯と椿。
二人は図書室に来ていた。
椿の現代勉強のため、鬼灯が資料や読み物を選んでいるのだ。
と、そこに……
「
テコテコと、白い毛玉が走ってきた。
「おや、シロさん」
「どうした? 本なんかくわえて」
鬼灯がしゃがんで、シロのくわえていた本を受け取る。
表紙を見れば、『一寸法師』と題打ちされていた。
「桃太郎ではないんですか?」
「ここにある『桃太郎』の絵本、犬がアフガン・ハウンドだったよ! 納得いかない!」
「それはオシャレですね」
「ねぇねぇ、コレはなんて字?」
シロのモコモコ前足が、てしてしと文字列を叩く。
「それは『お椀』ですね」
「じゃあ、ココとココと、ここらへんは?」
「
「わぁ、ありがとう!」
シロは再び、本をくわえる。
「
そう叫びながら、どこかへ走っていった。
立ち上がった鬼灯は、椿と目を見合わせる。
椿は肩をすくめてみせた。
いつもの不喜処トリオで読んでいたのだろうか、と思ったが、ルリオが居るのだから、先ほど訊かれた程度の字は読めるはずだ。
二人は気になって、シロの後を追いかけた。
すると……
「シロにぃたん おそ~い!」
「はやくつづきよんで~!」
「よめ! シロにぃ!」
キャンキャンと、甲高い声が聞こえてきた。
「はいはいごめんね? 今読むから」
シロは、くわえていた本を、三匹の子犬の前で開く。
それを見た鬼灯は、なるほど、と頷いた。
「そういうことですか」
その横で、椿は目を細める。
「何だ? あのちっこいの。シロのガキか?」
「シロさんじゃなくて、夜叉一さんとクッキーさんの子犬たちですよ」
「夜叉一……あ~、不喜処の。そういや子犬生まれたっつってたな」
「盂蘭盆祭で会ったじゃないですか」
まだ生まれたばかりと思しき、三匹の小さな子犬たちを前に、シロは懸命に本の続きを読んだ。
「い、一寸法師は……はし、の、かい……とおわん、の、ふね……で、かわ……を……」
後ろに忍び寄った鬼灯が、ためになるのか怪しい知識を授ける。
「ちなみに、その川は今の道頓堀だと言われています」
「マジで!? 阪神ファンやカーネル・サンダースがしょっちゅう飛び込んでるっていう、あの!?」
「いや、カーネル・サンダースはしょっちゅう飛び込んじゃいませんけど……」
椿が眉を顰めた。
「な、なんだ? かーねるさんだーす?」
「はいはい、今度一緒に、KFCに行きましょうね」
「けーふしー?」
椿には謎の言葉のオンパレード。
「シロにぃたん!」
「はやくよんでってばぁ!」
子犬たちが、ぺちぺちとシロの前足を叩く。
シロは本に視線を戻して、眉間にしわを寄せた。
「えーと……い、いっすん……」
読むのに時間が掛かりそうなので、鬼灯が後ろから本を覗きこんで、アシストする。
「一寸法師は」
「き、きょう…の……と、で?」
「京の
「り、りはん、な……おやし、しぶ……」
「立派なお屋敷を」
「みつまし、た?」
「見つけました。……私が読みましょうか?」
「え、いいの!?」
「勿論」
そう言って、どこからか一寸法師の紙芝居を持ってくると、紙芝居用の台にセットした。
その台は、子犬たちが乗っているテーブルからは遠く、紙芝居が見えない。
椿は子犬たちに手を伸ばした。
「乗りな、チビ共。連れてってやる」
「わぁ~い!」
「おにさん! おにさん!」
「シロにぃたんより たか~い!」
「ほら、シロも来いよ」
「うん!」
椿は、右腕に子犬たち、左腕にシロを抱え、紙芝居の前までやってくると、ドカっと腰を下ろした。
その膝間にシロが座ると、頭に子犬三匹が乗る。
それを確認して、鬼灯は紙芝居の表紙を引き抜いた。
「むか~しむかし、あるところに……」
シロが飛び飛びで読んでいた本では、内容はあまり理解できなかっただろうからと、最初から読み進めていく。
「―――ある日、姫は宮参りの途中、悪い鬼と出くわしました。姫、危うし。一寸法師はえいやと鬼の口へ飛び込みました。持っていた針の剣で、鬼の胃袋をつつきます。痛い、痛い、痛いよう。鬼は泣いて叫びました。その大きく開いた口から、一寸法師が飛び出すと、鬼は泣きながら去っていきます。途中、打出の小槌を落としていきました。法師はその小槌で大きくなり、姫と幸せに暮らしましたとさ。おしまい」
「すごぉい!」
「おれたちも、わるいおにさん、やっつけるんだ!」
「え~、たべられちゃうよ?」
「おなかのなかでかみつけばいいんだよ!」
無邪気で威勢のいい子犬たちを、椿が笑顔で見下ろす。
「おう、そうだ。強くなれよチビ共」
言って、指先で頭を撫で回した。
一方、シロは紙芝居の最後のページをじっと見て、気になったことを口にする。
「ねぇ鬼灯様、一寸法師って、今はどこにいるの? 桃太郎みたいに、あの世にはいるんでしょ?」
「えぇ、居ますよ。会いに行ってみます?」
「いいの!?」
「はい」