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第四巻
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桃源郷にて、レディ・リリスが白澤とお茶している頃、地獄では……
「はぁ……サタン様、自分の話始めると長いんだよなぁ……」
サタンが講演会をしている間、することのないベルゼブブは、休憩スペースで缶コーヒーを買っていた。
(平和条約の締結後、こうして日本と交流することも増えたな……。東端の辺境とはいえ、この島国の信頼を得ておいても損はない。サタン様は本来、東洋も治めるべきお方だ。何とかこの国を、その踏み台にできれば、俺ももっと躍進し、リリスにももっと贅沢させてやれる。そうすれば、リリスも俺一筋になるかもしれない! ……しかし、この国には食えない補佐官がいるからなぁ。……それも二人)
そこに、先程レディ・リリスを桃源郷に送ってきた、"食えない補佐官"が通りかかる。
「おや、貴方は……」
「ふぉお!?」
ベルゼブブは飛び上がり、缶コーヒーを取り落とした。
鬼灯はベルゼブブをじっと見て、何度かまばたきを繰り返し、挙句に首を傾げる。
「……どなたでしたっけ?」
「んなっ、ベルゼブブだ! 外交の席で何度か会ってるぞ!」
鬼灯はポンと手を打った。
「あぁ、サタン王の側近の。ということは、先ほどいらした、レディ・リリス様の旦那さまですね?」
「お、おう、そうだ! お前、俺の嫁に何か変なことしなかっただろうな!?」
「とんでもない。私は指一本触れていませんよ。奥方がやけに腕を絡ませてきたんです。……まぁ、別に嫌でもなかったので、好きにさせておきましたけど」
「そこは嘘でも拒否したって言えよ! この正直ムッツリ野郎!」
「私は人妻と不貞行為を働く気は一切ありませんので、別の男を紹介させて頂きました」
「旦那 目の前にして、なに堂々と間男仲介したこと報告してんの!」
「あくまで、レディ・リリスの本分を尊重したまでです。……それでは、私は仕事がありますので、ここで」
言って、風でも通り過ぎるようにすれ違っていく鬼灯。
ベルゼブブは歯を食いしばった。
(くそっ、コイツと話してると、自分が下の身分に思えてくる……これが嫌なんだ!)
何か一つでも、勝ったと思える結果を得られないものか…
(そういえば、補佐官といえば事務方のトップだよな。スポーツならもしかして……)
「な、なぁ」
「はい?」
「サタン様の話はまだまだ続く。正直、暇なんだ」
「おや。でしたら、図書館か食堂でもご案内しましょうか」
「いや、体を動かしたいんだが……」
「あぁ、拷問します?」
「スポーツだよ! 分かれよ!」
というわけで、鬼灯はベルゼブブを連れて、閻魔庁内のジムへとやって来た。
「ほ~、庁内にこんな場所まで設けているのか」
「えぇ。記録課など、座りっぱなしの者もいますので」
「おっ、あれはテニスコートか。お前、アレ出来るか?」
「一応、やったことは……」
反応からして、鬼灯は得意ではなさそうだ。
ベルゼブブは心の中でガッツポーズ。
(よっしゃ、アレなら勝てる!)
……と思い、ネットを挟んで向かい合ってみたのだが。
"ヒュッ、パァンッ!"
「ぉぶ!?」
豪速で飛んできたボールは、見事、ベルゼブブの顔面に直撃した。
鬼灯は無表情のまま、首を傾げる。
「……おや?」
「……ぅぐ……てめぇ…っ」
「すみません。別のにしましょう」
「お、おう……」
次に選んだのは、フリースローの本数対決。
しかし、鬼灯の投げたボールは、全てベルゼブブの上に落ちてきた。
ならばと、ゴルフを選べば、球が顔面にめり込み、サッカーのPK勝負も、卓球勝負も、何を選んでも、球が顔面に直撃した。
ついにキレたベルゼブブは、鬼灯の肩を鷲掴みにする。
「いい加減にしろよテメェ」
しかし、鬼灯の表情は変わらない。
「正直、球技って苦手なんですよね。本能的に、ボール=人にぶつけるもの、という認識があるので」
(
「野球はデッドボールしないよう、最大の気を遣わないといけませんし、ボウリングは、ピンが亡者でないと、生ぬるく感じてしまうのです。どうしたら良いですかね?」
「知るか! 仕事から離れろ!」
「馬鹿な! それなくして何が面白いと言うのですか!」
「日本人! 働きすぎなんじゃねーの!?」
ベルゼブブは盛大にため息をついた。
「鬼神ってのは皆こうなのか? 悪魔の方がよほど健全だぞ」
「失敬な。悪魔は人を堕落へ導き、その誘惑に負けたものをさらに苦しめるのが仕事でしょうが、我々日本の鬼は、罪人を裁き、反省させるのが仕事なのです」
「……まぁ、それは分かるが……」
そこで、壁に掛かった時計が、ボーンボーンと時間を知らせた。
「そろそろ、サタン様の講演会が終わる頃ですね。戻られた方がよろしいのでは?」
「んなっ」
結局、何一つ勝ったと思える結果が得られなかった。
「~~~っ、あ、そうだ! お前、腹筋って何回出来る!?」
「すみません、私もそろそろ仕事に戻らないといけませんので」
(だ~~~くそっ、逆に惨めな思いしただけじゃねぇか! こんなことなら初めっから関わるんじゃなかった!)
と、そのとき、ベルゼブブの脳内に、閃光が奔った。
(ハッ、待てよ? そういえば一つだけあるじゃないか! コイツは独身! そして俺は美人の嫁さん持ち!)
「勝ったァ!」
鬼灯はワケが分からず、眉を顰める。
「何がです?」
ベルゼブブは高らかに笑った。
「何を意地になることがある!? 俺はリリスに愛されている! ハーッハッハッハッ!」
「情緒不安定ですかね。漢方薬局、紹介しましょうか?」
実はその漢方薬局に、妻の不倫相手がいようとは、思いもよらないだろう。
……と、そこへ、椿が走ってきた。
「あ! 鬼灯テメェ! やっと見つけた!」
鬼灯は、きょとんとまばたきを繰り返す。
「おや、椿さん。どうしました?」
「どうしたじゃねぇだろ! レディ・リリス送ってくるっつって、桃源郷行ったっきり全然戻って来ねーし、さっき極楽満月に電話したら、ずっと前に帰ったとか言われるし。こんなとこで何してたんだよ」
「ちょっと、ベルゼブブさんに捕まりましてね。……それより、私に用とは?」
「阿鼻からの改築工事の申請だ。予算に関する項目が、あたしじゃよく分かんねぇから訊きに来た」
「なるほど。そういえば縄文時代の亡者が、まとめて落下を終える頃ですね。改築の必要性も納得です」
鬼灯は書類を受け取り、読み始めた。
……が。
すぐに、眉間にしわを寄せる。
「落書き……ですか?」
「は? 普通に文章だろうが」
椿は不思議そうに横から覗き込んだ。
「……書いたのは誰ですか」
「阿鼻の主任だ。ほら、この間、新人研修で阿鼻に行ったとき、会っただろ?」
あぁ、あの適当そうな奴か、と鬼灯は記憶を引っ張り出した。
「いつも阿鼻から来る綺麗な書体の書類は、主任補佐の彼が書いたものですね?」
「おお、よく分かったな。あたしが主任だった頃から、書類は全部アイツに任せてたからな」
「……あなたは一度、彼に土下座して謝罪と感謝を述べるべきです」
鬼灯は、何度も読み返しながら、崩れすぎた書体の文章を、何とか読み進める。
しかし、ところどころ全く読めない。
「3行目のここ、7行目のここ、11行目から14行目までが、要領を得ません」
「何でだよ」
椿は、書類を持った鬼灯の手を、グイっと自分の目の前まで寄せて、書類を音読した。
……そんな様子を、ポツンと突っ立ったベルゼブブが、驚愕の顔で見つめる。
(同僚……なんだよな? あの二人……なんていうか、距離が近くないか? あれで普通なのか? それともまさかっ)
ベルゼブブの中で、鬼灯に勝ったと思えた唯一の結果に、ヒビが入り始めた。
その後、ベルゼブブは数日間、胃痛に悩まされたそうである。
→ 26. 一寸法師