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第四巻
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ある日の夜9時すぎ。
『うさぎ漢方 極楽満月』にて。
「ふぁ~……」
店の掃除をしながら、薺はあくびを繰り返していた。
いつも9時に寝ているため、眠いのだ。
今日は遅くまで来客が絶えず、閉店時間がずれ込んでしまった。
あくびの絶えない薺を心配して、桃太郎が声を掛ける。
「あの、掃除だけなら俺でも出来ますから、先に休んでください」
「ふぁ、いえいえ、桃太郎さんだけにお任せするわけには」
そうは言っても、顔がとろんとしていて、半分正気じゃないのが分かる。
「ほ、本当に大丈夫ですか?」
「だいじょうぶですよ~」
と、そこへ……
"ガラララ"
「ただいま~!」
白澤が帰ってきた。
紅潮した頬と、ご機嫌に緩みきった表情。
それもそのはず、白澤の隣には、同じように緩んだ顔の鬼女がいる。
「お邪魔しま~す」
二人とも、酒の匂いを漂わせていた。
いつも通り、白澤が衆合地獄の花街で、酒と女を引っ掛けて来たらしい。
薺は笑顔で迎える。
「おかえりなさいですよ~、それと、いらっしゃいませです~」
「ん~ただいま~薺ちゃ~ん、ご苦労様~」
ぺこりと、丁寧に頭を下げる薺に、白澤はひらひらと手を振りながら、鬼女を連れて自分の部屋へ歩いていった。
パタン、と扉が閉まると、桃太郎は呆れ顔で薺に訊く。
「薺さんはこうして夜遅くまで働いているというのに、店主がずば抜けて自堕落というのは、実際、いかがなもんですかね」
薺はふんわりと微笑むだけ。
「いいのですよ。白澤さまが女性をつれてこられることも、わたしがこうしてお仕事をすることも、どちらも自分の意思でおこなっていることですから。そのうえで、だれも困っていないのであれば、問題はないのです」
桃太郎は、何度かまばたきを繰り返した。
「あの、薺さん、詐欺の電話とか、引っ掛からないように注意してくださいね?」
「詐欺、ですか?」
「何というか、ものすっごく引っ掛かりやすそうなんで……」
「そうですか? 気をつけますね」
薺の純真な笑顔は、桃太郎をさらに不安にさせるだけだった。
「それにしても、白澤様って昔からあんな感じなんですか?」
薺は
「そうですねぇ、わたしがここに来たときには、すでに」
「そうなんですか……。あの、薺さんって、ここに来る前はどこに居たんですか? 元は人間だとか、前に言ってましたけど……」
「わたしは、もとはインド洋の小さな島でくらしていたのです」
薺は、簡単に自分の過去を語った。
「……というように、地獄で白澤さまにすくわれ、今日までこうして、つぐないをさせていただいているのです」
パッと、笑顔を向ける薺。
しかし、桃太郎は真っ直ぐ薺の目を見られなかった。
「? どうかしましたか?」
「あ、いえ……すみません。予想外のお話だったもので、その……」
「あっ、すみません! くらいおはなしでしたね! しかし、わたしはいま、こうして働かせていただけて、本当にしあわせですから! あまり気にしないでください」
「あ、はい……」
桃太郎は、何とか話を逸らそうと思考を巡らせる。
「あ、そうです! 薺さんは、誰か殿方とお付き合いしたりは?」
「おつきあい、ですか?」
「薺さん、博識で真面目ですから、さぞモテるんでしょう」
「い、いえいえ、そんなことは!」
薺は、あちこち視線を彷徨わせ、両の人差し指をチョイチョイと合わせた。
「その、恋心、というんでしょうか、そういったものが、わたしにはわからなくて……」
この800年、それこそ星の数ほどのカップルや夫婦を見てきたし、読み物として、恋物語を読んだりもした。
すぐ傍に、万年発情期と言っても差し支えのない男すら居る。
それでも、胸を焦がすような熱い想いというものが何なのか、今でもよく分からない。
「薺さんが言うと、仏っぽくてしっくりきますね」
「ほっ、仏様とくらべさせていただくだなんておそれ多い!」
「そうっスか? 誰がどう見ても神様仏様っスよ?」
「そんなことはっ……桃太郎さんはどうなのですか?」
「どう、というと?」
「生前や天国にいらっしゃってから、好いている女性はいらっしゃらないのですか?」
「えっ、俺ですか……いや、まぁ……生前は何人かいましたけども……」
「そうなのですか。そのときは、焦がれるような熱い想い、というものを抱いていたのですか?」
「え!? いや、それは、どうでしょう……」
あまりにも純真無垢に、恋心について問うてくる薺。
桃太郎は何となく恥ずかしくて、視線を彷徨わせた。
桃太郎が困っていると察した薺は、ハっとして、掃除の続きを再開する。
「すみませんっ、ずけずけと! はやく掃除を終わらせてしまいましょう!」
「あ、いえ……」
気を紛らわすように箒を操る薺。
その後ろ姿を、桃太郎はボーっと見つめた。
(他人の心の機微を察するのは得意なんだから、恋心も分かりそうなものだけど……)
不思議なものだな、と思いつつ、気持ちを切り替えて、掃除に集中した。
その後。
日付を跨ぐかどうかの時間になって、薺と桃太郎は、ようやく寝床につくことが出来た。
本当はもう少し早く終わらせられたが、明日が休業日のため、いつもはやらないところまで、掃除の範囲を広げたのだ。
自室で、布団に潜った薺は、じっと天井を見つめていた。
よく聞こえる兎耳には、白澤の楽しそうな声や、鬼女の妖艶な嬌声が聞こえる。
「……」
何が楽しいのかは、よく分からない。
ただ、白澤は女遊びが好きな性分なのだと、割り切って考えてきた。
「……愛……恋…」
薺は、布団を頭まで被って、丸くなった。