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第四巻
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「お前、夏期休暇どうする?」
「地元に帰るつもりだ。おふくろがちょっと具合悪くてさぁ。お前は?」
「俺は人生初の海外旅行行くんだ! EU地獄に観光!」
「マジか、いいなぁ~」
8月半ば。
閻魔庁では、そこかしこで夏期休暇の予定の話が飛び交っていた。
もうすぐ盂蘭盆祭の時期であり、その期間、地獄は一斉にストップし、夏期休暇に入るのだ。
「椿さんは、いつもどうしていたんです?」
「んー? 何が?」
「夏期休暇中です」
今は裁判の休憩時間で、閻魔は席を外している。
鬼灯と椿は二人で、書類や巻物を整理していた。
「別に、変わったことはしてねぇよ。いつもの休みと同じで、食って寝て食って寝てを繰り返してただけだ。つーか、阿鼻は亡者少なくて暇だからな。ほぼ毎日休みみてぇなモンだよ」
「予想を裏切らないですね」
「第一、どこ行くにも遠いんだよあそこは。この閻魔庁へ報告に来るのすら面倒だった」
「面倒って、あなた主任時代、一度も報告に来たことありませんよね。いつも主任補佐の方が来られていた記憶しかないです」
「んー? あぁ、そういやそうだな、ははっ」
「……というか、あなたが先日選んだ新しい主任も、全く報告に来ないんですけど」
「そりゃそうだろ。アイツてきとーだし」
「そんな奴を主任に選ぶな」
「だぁいじょうぶだって。主任補佐の~、名前なんてったかな、アイツが何とかしてくれっから」
「……そのうち発狂しますよ? 彼」
「だぁいじょうぶだって。そう言うお前は? 盂蘭盆の時期は何してんだよ」
「大抵は祭に行きますよ。最終日は亡者狩りもありますからね」
「そっか、お前責任者だもんな」
「椿さんも、祭に行ってみては? 場所も閻魔庁から近いですよ」
「んー……。いや、いいよ。最終日の亡者狩りだけ行く」
「?」
椿の声が、僅かに沈んだ。
鬼灯は手を止め、チラリと見やる。
……そして、思い出した。
まだ、椿が地獄に就職しておらず、鬼灯も、まだ補佐官ではなく、獄卒の一人として働いていた頃。
ある夏の晩、地獄の一角で開かれた祭で、噂の化け物みたいな鬼が暴れたという話が、後日流れた。
最近では鬼たちもめっきり大人しくなっているというのに、まだそんな豪傑がいるのか。
と、鬼灯は感心したものだ。
その話に出てきた"噂の化け物"が、後々、椿であったと分かった。
「昔のことを、気にしているのですか?」
「……」
よどみなく動いていた椿の手が、止まる。
「あなたのことですから、意味も無く祭で暴れたわけではないのでしょう?」
「……知ってたのかよ、その話」
確認用のチェックリストに印をつけながら、椿は苦笑した。
「毎年、面つけて正体隠して、こっそり祭を楽しんでたんだがな。……無視すりゃ良かったものを、あん時だけは、我慢ならなかったんだ」
祭の晩。
椿は面をつけて、食べ歩きをしながら、今年はどんなものかと見て歩いていた。
……しばらくすると、初老の男の鬼二人とすれ違った。
そのとき、小声の会話が聞こえてきたのだ。
「……フン、調子に乗りやがって」
「……これで奴らの店も終わりですねぇ」
「……あぁ。店どころか、奴らの作る物は全て終わりだ」
そう言う鬼の手には、泥団子のような塊。
おそらく、ただの泥団子ではないだろう。
そして、鬼の視線の先には、若い鬼の夫婦とその子供、親子三人でやっている店が。
その店は、毎年この祭で、食べ物を販売している。
普段は接点がないからよく知らないが、祭の時の態度や集客状況だけを見ても、とても真面目で頑張り屋な一家であることがよく分かる。
逆に、今すれ違った鬼二人は、ボッタクリの噂が時折立つ店の鬼たちだ。
きっと、あの親子の店を逆恨みしているのだろう。
繁盛しているのが気にくわないのか、何なのか。
食品店は信頼が第一。
あの泥団子のようなものが何かは分からないが、店の信用を落とそうとしているのは間違いない。
……椿はいつの間にか、拳を握って踏み込んでいた。
"バキッ!"
「ぐぉっ!?」
「がぁっ!?」
吹き飛んだ鬼二人。
「ってぇ……何しやがる!」
椿は二人を見下ろした。
「言わなきゃ分かんねぇか?」
周囲が立ち止まり、ざわつき始める。
「……何だ何だ?」
「……喧嘩か?」
椿に殴られた鬼は、周囲を見渡し、咄嗟に被害者を装った。
「だっ、誰か助けてくれぇ! 何だか分からんがっ、コイツが急に殴りかかってきて!」
「なっ、テメェがあの店を潰そうとしてたんだろ!?」
「何をワケの分からんことを! あの店は俺の弟の店だぞ! そんなことするわけがないだろう!」
言いながら、鬼は持っていた泥団子のようなものを、背後で砕いて地面と同化させる。
……証拠を隠滅されたか。
椿が舌打ちをしたその時。
「面なんかつけやがって、正体を現せ!」
「!」
いつの間にか背後に回っていたもう一人の鬼に、面を取られた。
顔が露わになった途端、周囲がさらにざわめく。
「……あれはまさかっ」
「……隣の山の化け物鬼なんじゃっ」
「に、逃げろ!」
「殺されるぞ!」
その声に弾かれて、祭の客たちは一目散に走り始めた。
……助けようとしていた店の親子からも、恐怖の籠った瞳で見られる。
「フン、化け物が一丁前に祭に出て来るんじゃねぇよ」
そう言ってニヤリと笑む、目の前の鬼。
椿はカッと目を見開き、拳を振り下ろした……
「そのあとはあんまし覚えてねぇんだけど、あれから祭には行ってねぇ。ロクなことになんねぇからな」
椿は、項目すべてに印をつけたチェックリストを、苦笑しながら鬼灯に渡した。
鬼灯はそれを受け取り、目を通す。
「では、今回の盂蘭盆祭、一緒に行きましょう」
「は?」
「聞こえませんでしたか?」
「いや、そうじゃねぇけど……お前、話聞いてたか?」
「えぇ、勿論」
「だったら「それとこれとは別問題です」
「別なワケねぇだろ! あたしは自分で自分が止められねぇんだぞ!」
「私があなたを獄卒として雇う時、約束しましたよね。あなたが暴走したら、私が叩き潰してでも止めると」
「そりゃそうだけどっ、こういう普通の日ならまだしも、祭は特別な日だぞ! 大勢の奴らが一年間、精一杯準備してきた集大成だ。いくらお前が止めてくれても、騒ぎになっちまったらそれまでなんだよ! ……台無しにしたくねぇんだっ」
「ならば、騒ぎになる前、あなたが殴りかかる前に止めればいいだけの話」
「……それはそれで、祭のあとに後悔が残るだろ。悪事を見過ごすことになんだから……。そういうまどろっこしいモン抱え込むのもイヤなんだよ。……だったら、最初っから知らねぇ方がいい。行かねぇ方がいいんだ」
「でしたら、私も一緒にそいつを殴り飛ばせばいいわけですね?」
「んなっ、馬鹿か!」
「一人で殴り飛ばすから、大衆を味方につけられた時、自分の行動の正当性を証明できなくて、負けるんです。二人で殴れば、そんなこともありませんよ」
「それは……」
「まだ、他に問題がありますか?」
「……」
椿は口をつぐみ、視線を伏せた。
「……何で、そこまでして、あたしを祭に連れ出したいんだよ。あたしのお
「そんなことはありませんよ。一人で行こうが椿さんと行こうが、大体やることは同じです。それに……」
鬼灯は傍の巻物を数本、椿に渡した。
「断固行かないと言う奴には行かせたくなるし、行くと言って聞かない奴には行かせたくない。私はそういう性格です」
椿は顔を上げ、何度かまばたきを繰り返す。
そして、呆れたように笑いながら、受け取った巻物をワゴンに仕舞った。
「お前って、ホント変な奴」
「あなたには言われたくないですよ」