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第三巻
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初めまして。
俺は"蠅の王"と書いてベルゼブブ。
西洋地獄の王、サタン様の側近だ。
ちなみに元は
それが今では悪魔のエリート。
言わばキャリア! 高級官僚だ!
なのに……
"ピンポーン、ピンポーン"
なぜ税関で3回も止められにゃならんのだ。
「あ、またダメですね。他に危険物を所持していませんか?」
……この野郎、涼しい顔で探知機向けてきやがって。
「あ、昼に何か銭とか食べました?」
「俺はカネゴンか!」
くそっ、俺はこういうところで注目されるのが嫌なんだよ!
「おかしいですね。鎌や呪いの指輪はスーツケースでしょう? …あ、最近
「水物? ……あぁ、そういや俺の胃液が毒だわ」
「そうでしたか。それは失礼致しました。どうぞお通り下さい」
「っ、あのさぁ! クレームとか言いたくないけどっ、俺が誰だか知ってんだろ!」
「はい。大変申し訳ありませんでした、ベルゼブブ様」
「西洋地獄のNo.2だぞ!? 俺!」
「はい」
「大体お前、何なの!?」
「申し遅れました。私、閻魔大王第一補佐官をしております、鬼灯と申します。御来賓をお迎えするために参った次第です」
「えっ!?」
うわぁぁマジかよ!
んじゃコイツも実質No.2じゃん!
俺の同業じゃん!
つーか相変わらず日本
「お、いたいた。おーい鬼灯~」
……ん? 何だ? 女が来たぞ。
だいぶ露出度の高い格好だな……
「どうしました? 椿さん」
「叫喚地獄での改修工事中に、ちょっとした事故だってよ。獄卒が5人、怪我で数日出られねぇらしい。増員して改修終わらせる方をとるか、亡者の拷問の維持をとるか、どうする?」
「他の部署から応援回せるか、確認とってもらえます?」
「ん、言うと思って、聞いといた。各部署、一人か二人なら出してもいいってさ」
「流石ですね。……では、各部署の業務状況を踏まえた上で、3~5人ほど、応援に回してください。人選は任せます」
「了解だ」
……コイツら、客を前に平然と話しやがって。
「失礼致しました、ベルゼブブ様。さっそくご案内を……」
……くくくっ、ちょっとイジメてやるか。
「そっちは部下か?」
「? まぁ、そうですね。閻魔大王第二補佐官の、椿という者です」
「どうも、蠅の大将」
第二補佐官ってことは、No.3か。
俺より格下のくせにタメ口とは、いい度胸じゃないか。
「全く、日本の教育はどうなっているんだ。目上の者には敬語を"ズガゴッ"
……え?
何か、床にハンマーがめり込んだんだけど……
「いや~すいませんねぇ、長らく拷問ばかりしていたもんで、敬語なんて使う機会なかったんですよ~」
ええええっ!?
長らく拷問て、まさかこの女っ、一からの叩き上げぇぇ!?
「ダメですよ椿さん、御来賓の方に威嚇しては。……大変失礼致しました、ベルゼブブ様」
こっちのNo.2は大人しいようだな。
ここで
「ん~、ど、どーしようかなぁ、帰っちゃおうかな~?」
「え、お帰りですか? お帰りだそうです! 荷物持ってきてさし上げて!」
「オイイイイイっ! アホかお前! 引き留めろよ!」
「は? あぁ、もしや西洋ジョークでしたか? これは失敬。日本は基本、急な来客が苦手な国民性でして。つい、『よっしゃ帰れ!』と思ってしまい、申し訳ございません」
「ヒキコモリの国めええっ!」
「実際 客とかめんどいんすよ、蠅の大将」
「うるさいわ! おいっ、そっちのお前!」
「鬼灯です」
「何でもいいよ! 俺サタン様の右腕だよ!? 気ィ遣えよ! 同じキャリアじゃん!」
「いえ、私は別にキャリアでは……」
「おや? 鬼灯様じゃないですか!」
「? あぁ、どうも。お久しぶりです」
何だ?
また別の奴が来たぞ。
「いや~、補佐官になられてもう何千年ですかな? 我々鬼の誇りですよ!」
「いえいえ、私などまだまだ。巻物整理や石運び、懐かしいです」
「ハハハ、御謙遜を。ではまた」
「はい、またいずれ。……と、私はキャリアではないのですが」
「んなっ」
何だとおおおっ!?
エリートかと思ったらコイツも叩き上げかよおおおっ!
ヤベェよ、超怖ぇよ。
この世で叩き上げほど手強いものはないからな。
つーかNo.2とNo.3が揃って叩き上げって、日本どんだけ!?
メンタルHPの平均値高くね!?
「ベルゼブブ様はキャリアなのですね。ご立派ご立派」
「へぇ、偉いんだな、大将」
やっ、やめてくれぇ!
俺のメンタルは繊細なんだ!
「いいんじゃないですか? 威張れる立場なんですし」
ギャアアアアアっ!!
「あっ、あのさぁ! キャリアにはキャリアの苦労があんだよ! 胡蝶蘭の悩みなんて、雑草には分かんないかもしれないけど!」
「えぇ、確かにホオズキは雑草ですよ。……ですが、温室で育った胡蝶蘭は、雑草がはびこったら枯れ果てるのですよ」
「のぁっ」
「まぁ、あなたは胡蝶蘭というか、ラフレシアですけどね」
ズガアアアアアアアアンッ!
悪魔歴102014年、俺のメンタルは死んだ。
数カ月後。
今日は日本から外交官が来る。
……全く、前回の訪日ではえらい目に遭った。
あの鬼ども、いつか……
"ガチャ"
「あ、どうも」
「ギャアアアッ出たアアッ」
何で外交官が
「何ですか、人をオバケみたいに」
「オバケだろ! ドS男爵という名の!」
「心外ですね。私がいつSに興じたと?」
"ガンッ"
「現在進行形だろうが! ていうかお前の目つきっ、ハシビロコウより怖ぇんだよ!」
……コイツとはなるべく関わらない方が身のためだな。
「まぁいい。今日はただの調印だし、さっさとココにサインしちゃって?」
「はい」
「……。……はいどうも。……ハァー、こういう儀礼的なことは郵送で済ませたいよ」
「機密文書ですから、そうもいかないでしょう」
「分かってるけどさ」
「では、私はこれで」
「あぁ、帰るの? 一応食事とかも用意させてるけど」
「申し訳ございません。これから中国地獄へも……」
「あぁそう。まぁ、止めないけど」
「……あ。ところで、一つだけお尋ねしても宜しいですか」
「何?」
「このお嬢さん方のベッタベタなお召し物は何ですか」
「上から下までがっつりサタン様の趣味だが何か?」
「……あのおっさん、こんな趣味が」
「いや、まぁ……立場上ちょっと言いづらいし……正直、俺も嫌いではないから……」
「なるほど、一番ツッコミにくいところというわけですね」
「そうだ。……というか、それを言ったら、この間の第二補佐官の服装、あれはいったい何なんだ。官職として許されるのか?」
「今の彼女には、恐らく"女"が無いのです」
「は?」
「遠い昔に捨ててしまったのか、未だに目覚めていないのか……」
「そんな女が存在するのか……」
「彼女も、このお嬢さん方のように、節度ある服装になってくれればいいんですが。ミニスカじゃない辺り、いいと思います」
ん、コイツ……
「……アンタ、意外といい奴だな」
「意外、とは?」
「いや、すげー朴念仁なのかと思ってたからさ」
「節度があることと朴念仁は違います。鬼だろうが人間だろうが虫だろうがオシベだろうが、
「草食が流行ってるジャパニーズとは思えん強気な発言っ」
「誰彼構わず女性をはべらせたいとは思いませんが」
「あぁ、まぁそこは、紳士たるべきところだよな。……だが、『上は大水、下は大火事』、
「据え膳食う前における、脳と本能」
ピキーン……
「今、何か大いなる繋がりを感じた。……いやすまない、はしたなかったな」
「いえ、こちらこそ」
「まぁ、何だ……キミとこんなに話が盛り上がるとは思わなかったよ」
「私もです」
「俺はあのメイド服は見慣れてるけど、衣装ってのは「おっ」と思うモンだよな」
「確かに。……あぁ、すみません、時間が」
「あぁ、そうだったな。では、また」
"キィィ……バタン"
……今度、接待くらいはしてやってもいいかもしれないな。
→ 第四巻:21. 地獄三十六景