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第三巻
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「あ~~終わらないよ~!」
平日、昼間、閻魔庁。
デスクに大量に積み上げられた仕事を前に、閻魔は項垂れていた。
傍で亡者の記録を整理していた鬼灯は、淡々と正論を言う。
「ご自分が招いたことですよ。サボるから溜まるんです。先日、TV出演で私と椿さんが居なかったからって」
「だ~ってさ~ぁ……」
「今日の午後も二時間ほど外しますからね」
「え、そうなの?」
「烏天狗警察に所用があるもので」
「椿ちゃんも連れてくの?」
「えぇ。地獄の官吏は、何かと烏天狗警察と縁があることが多いので。顔合わせをしておいた方が良いかと思いまして」
「それもそうだねぇ。行ってらっしゃい」
「言わなくても分かると思いますが、もしサボろうものなら……」
「わっ、分かってるよ!」
それから約三時間後。
鬼灯は椿を連れて、閻魔庁を出た。
「へぇ~、奉行所が今はケイサツって名前なのか」
「えぇ。刑法なども、以前よりかなり細かく制定され直されていますよ」
「ほ~。……ん? あれ、シロ公じゃね?」
「?」
椿が指さす方へ、鬼灯も目を向けると、確かに見覚えのある白いモフモフが。
「おりゃっ、あれ? このっ、このっ」
……何故か、クルクル回っている。
「シロさん?」
鬼灯が声を掛けると、シロは止まった。
「ん? あっ! 鬼灯様! 椿様!」
「よぉ、シロ公」
「非番ですか?」
「うん! 散歩中! 俺、散歩大好き! 俺の中で今一番熱い! 散歩!」
「お前、犬だもんな」
「でもね? たまに白いフワフワがあって、追いかけるんだけど、全然捕まらないの。何あれ、超怖い」
「それはあなたの尻尾ですよ」
「ふーん。二人はお出掛け? デート?」
「違いますよ。これから、烏天狗警察へ伺うんです」
「ケイサツ? 何かしたの? 免停?」
「いいえ。地獄に自動車免許はありませんので。車に自我がありますからね」
「ん? ジドウシャってやつは、自分で動いてねぇのか? "自動"のくせに?」
「あれは人が運転しているのです。それには資格を取得する必要がありまして、事故などを起こすと、警察から罰則が与えられるのです」
「ふーん、面倒なもんだな。朧車なら勝手に動いてくれんのに」
「ですが、朧車のように、乗り場が決まっていたり、呼ばなくてはならないといったことは無いので、自由度は高いですよ」
「ほ~」
二人の後をついて歩き始めたシロは、ふと、首を傾げた。
「ん? あれ? 鬼灯様と椿様って、悪いことした亡者を裁いて責めるんだよね?」
「はい。その補佐ですが」
「じゃあ、警察って何してるの?」
「ああ……。我々獄卒が、亡者を取り締まる役目なら、警察は、我々も含む、あの世の住人を取り締まる役目です。他にも、亡者が逃亡した場合は、捜索に協力してもらうこともあります」
「そっか、機動力が違うよね。飛べるんだもん」
「飛べない人も居るんですがね……。今日はその人に会いに行くんです。場所は……あ」
警察署前の橋に差し掛かったとき、鬼灯は突然立ち止まった。
"ファ~~~~~……"
橋の欄干に、とんでもなく長い何かを吹いている青年が居る。
青年はこちらに気づくと、まばたきを繰り返した。
「
「わ! イケメンだ!」
「「「?」」」
突然叫んだシロに、視線が集まる。
「いや、髪型が桃太郎に似てたから」
「シロさん、色々と何重にも失礼ですよ」
「でも、何でそんな笛吹いてるの?」
「腹筋を鍛えるのにいいかと思いまして……」
「何で腹筋? 雰囲気的に横笛の方が合ってない?」
「あー……すみません。横笛はもう、飽きてしまって」
「800年も吹いていれば、飽きることもあるでしょう」
「800年!? この人何者!?」
「源義経公ですけど?」
「ええっ!?」
「源義経……なんか昔に聞いた名だな。平安だか鎌倉だか……」
「平安末期の武将ですよ。『弁慶と牛若丸』の伝説、地獄でも一時期有名になったでしょう?」
「あぁ、あの牛若丸か。なるほどな」
義経は戸惑い気味に、鬼灯と椿を交互に見やった。
……というのも、椿があまりに露出度の高い格好をしているからだ。
獄卒の間では既に浸透しているが、やはり初対面ではそうそう受け入れられない。
「あの、えっと、こちらの方は……」
「彼女は、元阿鼻地獄の主任獄卒で、最近、閻魔大王第二補佐官に異動になった、椿さんです。要するに、私の同僚です。一度、烏天狗警察にご挨拶した方が良いかと、連れてきました」
「そうでしたか。初めまして。源義経です」
「おう、よろしくな」
シロが、鬼灯の着物の裾をひっかいた。
「ねぇねぇ、何で牛若丸さんが、烏天狗警察にいるの? 義経公って烏だっけ?」
「違いますよ」
「あ、それは、僧正坊が昔のよしみで……」
『あんなに美少年だった牛若が、兄貴の反感買って自害!? かわいそうにっ! 烏天狗警察へ入れてあげなさい!』
「……ということがありまして」
「わお、究極の判官贔屓」
「僧正坊にとっては、孫みたいな存在だったのでしょう。……しかし、彼の軍才は確かですから。今や指揮官の一人なんですよ」
「へぇ~! 顔も頭もいいなんてすごいね!」
「いえ、そんなことは……。あ、とりあえず中へどうぞ」
二人と一匹は、警察署内の応接室に案内された。
鬼灯は出されたお茶を飲みながら、言う。
「そういえば、この間の民谷伊右衛門のタクシー乗っ取り騒動、逆落しを仕掛けるご予定だったと伺いました。流石ですね」
「いえ……結局、鬼灯様に解決して頂きましたし」
「私が手を下さずとも、事件は無事に解決していたと思いますよ」
「……私は見ての通り、非力です。痩せているし背も低い。だからこそ作戦を練るんです」
「しかし、その線の細さゆえに、CMやポスターへの起用も多い。私がここへ来たのも、今年のお盆のポスターに、是非あなたをと、会議で決まったからでして」
「……私が悩んでいるのは、そこなんです。私はもっとこう、アーノルド・シュワルツェネッガーとか、ああいう人に憧れるのです」
「え~っ、何で~っ? 贅沢だよぉ、桃太郎に失礼だよ」
「失礼なのはあなたですよ」
「でもさ、それなら何で、笛とかミヤビ~な感じを極めちゃったの?」
「それは、私が幼少のみぎり、将来は力士になりたいと口にしたら、その日を境に笛や舞の稽古が一気に増えて……」
「そりゃ皆さん焦ったでしょう。ジャニーズの素質満点の息子に、急に『リアクション芸人になる』と言われた母親くらいに」
「何故!?」
「じゃ、じゃにぃず? 何だそりゃ」
「はいはい。それはまたの機会に」
義経はグっと拳を握る。
「私は! もっと男らしくありたいのです!」
シロがふにゃ~んと目尻を下げた。
「え~いいじゃん、昨今は草食系のカワユイ男の子の方が人気だよ? 寧ろ長所だよ」
「えぇ。一時は自分にそう言い聞かせましたよ? しかし、私の根本は武将。もっとガッチリした体型になりたいのです! 鬼灯様は見たところ、着やせしてはいますが、結構ガッチリしていらっしゃいますよね!?」
「んぇ? そーなの?」
シロが、器用に鬼灯の着物の袖を捲る。
「お~っ、ホントだ! それで力持ちなんだ! ……あれ? でも、椿様も力持ちだよね? 全然ガッチリしてないけど」
「ん、そうか?」
椿は手を握ったり開いたりした。
「どうしたらお二人のように、力持ちになれますか!?」
「どうしたらと言われましても」
「あたしの[#RUBY#=力_コレ#]は生まれつきだしなァ」
「あ、石臼で亡者をミンチにしたり、大きな石板を亡者に落としたりなどどうです?」
「体より先に精神に来そう……」
「あとは、そうですね……大きな人を振り回すと、上腕二頭筋に効きますよ」
「大きな人って!?」
「身長2~3mくらいあって、できるだけ重い奴だ」
「え、いや、そもそもそんな人なんて……」
「では、食べ物から変えるというのは?」
鬼灯は懐から、ゆで卵を取り出した。
「血の池で煮た、脳吸い鳥の卵です。人間の脳ばかり吸っている鳥なので、卵の栄養価は他の鳥の比じゃありません」
「な、何か鉄臭い……」
「鬼は皆、好物ですよ」
鬼灯は卵を一つ、義経に渡した。
椿にも一つ渡し、自分も一つ、殻を剥く。
「モゴモゴ…ん、相変わらずウマイな。卵って言やぁ、木転処の魚の卵も美味いよな」
「そうですね。あれも滋養強壮に良いです」
「あ、あの、地獄珍味の類はいいです。何か他にありませんか?」
「他に……。……では」
鬼灯は、傍に置いていた金棒を、義経に手渡した。
「こういったものを持ってみては?」
「うぐっ!?」
"ガコンッ"
鬼灯であれば片手で楽々持ち上がる金棒も、義経では全く持ち上がらない。
「なっ、なるほどっ……これを毎日持ち歩けばっ、確かにっ、んぐぐっ」
「ぜんぜん持ち上がってないね……」
「では、椿さんのハンマーならどうです? 私の金棒よりは軽いですよ」
「ん、あぁ、そういやそうだな。ほらよ」
椿は、義経の手から金棒を受け取り、代わりに自分のハンマーを手渡した。
「あぁ、ありがとうございま…重っ!?」
"ゴトンッ"
またしても、義経には持つことが出来なかった。
「ん~? そんなに重いか?」
椿は、片手で鬼灯の金棒を弄んだ。
「うん、やっぱコレより軽いぞ、あたしのハンマー」
青ざめたシロが、義経の足元をもふもふと叩く。
「牛若丸さん、もう少し低い目標探そう? この二人じゃケタが違いすぎるよ」
「……そ、そうですね」
「でもさ、何でそこまでして鍛えたいの?」
義経は、パァっと笑顔になって振り向いた。
「はい! やはり生前からの夢だった、力士に転職したいと思いまして!」
「ドスコイ!」
"ドゴッ、ドスンッ"
鬼灯の張り手一発で、義経は畳に沈んだ。
「なっ、何がどうして急に……」
「いえ、さすがにそこは『牛若丸』の自覚を持って頂かないと。あなたの場合、もはやイメージではなく、伝説ですから」
「は、はぁ……」
……結局、義経はお盆のポスターに起用されたそうだ。
→ 巻末. 右腕のブルース