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第三巻
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ある日。
椿が補佐をする裁判にて……
「嘘を言え! この鏡を見よ! ここに証拠を映し、恥さらしにしてやってもよいのだぞ!」
「はっ、白状します! 確かに私めは、スーパーでベルマークだけを切り取って盗みましたぁぁ!」
「判決! 黒縄地獄! 次の審査へ回せ!」
「「はっ!」」
「あひいいいいいっ」
……亡者が連れていかれると、椿がため息をつく。
「はぁ~ビビった。大王、あたしが補佐んときは浄玻璃鏡は禁止だっつっただろ」
「え~? そんなこと言われても……」
「つーか、扱いが難し過ぎんだよコレ。リモコンすぐ壊れるし」
「それはあなたが思いっきりボタン押すからです」
「ん、おー、鬼灯」
執務室から、閻魔の捺印が必要な書類を抱えた鬼灯が、出てきた。
傍に不喜処トリオもいる。
シロが浄玻璃鏡にタシタシと前足を掛けた。
「ねぇねぇ、前から気になってたんだけど、この鏡ってなぁに?」
ルリオが呆れる。
「お前、最近格段に馴れ馴れしくなったな」
鬼灯も椿も、そんなことは特に気にしておらず、答えてやる。
「その鏡は浄玻璃鏡といって、あらゆる亡者の、現世での行いを映す鏡です。……まぁ、いわば超高性能監視カメラですね。……映してみましょうか?」
鬼灯は鏡の後ろから、電気コードを引っ張り出す。
「そんな家電みたいに!?」
椿が亡者の記録を整理しながら答えた。
「昔は妖力で動いてたんだけどな。最近じゃ電気の方が便利なんだと。あたしも最初はビビったぜ」
"ピッ"と鬼灯がリモコンの電源を押すと、どこぞの山の景色が映し出された。
「わあぁっ」
「お~っ、コレがあれば裁判超スムーズですね!」
「…と思うでしょう? これがまた、映したい場面を自動で映してくれるわけではないんですよ」
数日前、鬼灯が補佐をした裁判では……
「見よ! 証拠はここに!」
"ピッ、キュルキュルキュル、ピッ"
「ん~あと3年」
"キュルキュルキュル、ピッ"
「あ~~っ1ヵ月過ぎた!」
"キュルキュルキュル、ピッ"
「え~とたぶん、そのちょっと前!」
"キュルキュルキュル、ピッ"
「あ~行き過ぎ行き過ぎ! もどかしいなぁもう~!」
「情報量が膨大すぎて、少しの早送りや巻き戻しでとんでもないところに飛んでしまうので、案外と不便です」
「現世は『パッと録画、パッと再生』のはずなのに!?」
「そして、椿さんがそのもどかしさに耐え切れず、よくリモコンを割るので、椿さんが補佐の時は、浄玻璃鏡の使用を振らないよう、大王に配慮してもらっています」
「……なんか、すっごい想像つく……」
椿は眉間にしわを寄せる。
「二千年前に使い始めた当初は、もっと使いやすかったはずなんだがな」
「情報量の差でしょうね。……結局、書記がきちんと記録して、それを私や椿さんの頭で覚えておくのが、一番早いですね」
「あー、なるほど……。テキスト持ち込み可のテストで、余裕ぶっこいてテキストだけ大量に持ち込んでも、答え書いてあるとこ探すだけで時間過ぎちゃうのと同じか……」
「そういうことです。私や椿さんがいつも巻物を見ながら裁判に臨んでいるのは、その記録の確認をしているからなんですよ」
「へぇ~そうなんだ~」
「ですがヒトというのは、自らの口で言ったことに従う生き物ですから。本当は自白が一番いいんですけどね。人から指摘されたことは、図星なほどカチンときてしまうものですから」
「あー……そうかも……」
シロは浄玻璃鏡を前足でもふもふ触る。
「アレかな、今どきの足軽は、火縄銃じゃなくてトカレフ使ってたりするのかな?」
「まず足軽が居ませんよ……。どこか、見てみたい所はありますか? せっかく点けたので」
「んーとねぇ……都会! 都会が見たい!」
「分かりました」
鬼灯はリモコン片手に鏡の前にしゃがむ。
"ピッ、ピッピッ……"
柿助は唖然とした。
(アレ、ザッピングできるんだ……)
何局かチャンネルを移動すると、東京のどこかが映し出された。
ひっきりなしに自動車が行き交っている。
シロが目を輝かせた。
「わぁっ、凄い! 鉄のイノシシって本当に居るんだね!」
「あぁ……あの世の車は、基本的に妖怪ですからね」
鏡の前にしゃがんでいる鬼灯の両肩に、椿が後ろから両手を置いて、鏡を覗き込んだ。
「一回乗ってみてぇなぁ、コレ」
「今度一緒に行きます? 現世視察」
「いいのか!?」
「えぇ。寧ろ一回行って、現代を勉強しましょう。仕事は閻魔大王にお任せして」
「ぇええっ!? ちょっと二人とも!」
「ねぇねぇ鬼灯様! この御殿の最上階にラスボスとかいる!?」
何の話かと目を向ければ、鏡には国会議事堂が映っていた。
「あぁ、まぁ、居ますが、ちょくちょく変わるんですよ。そこを眺めている時だけは、閻魔大王が立派に思えます」
「その時だけかい……」
ルリオが訊く。
「映るのは日本だけですか?」
「外国も映りますよ。海外に居る日本人も、映す必要がありますから」
シロが目を輝かせた。
「わ~っ、見たい見たい!」
鬼灯は再びザッピングした。
"ピッ、ピッ"
途中、秋葉原が映る。
「「「魔法の国!?」」」
「まさか。ここも日本ですよ」
「スゲェェ……
「何ここ超楽しそう! 行ってみたい!」
「給料飛びますよ」
"ピッ"
チャンネルが移り、オーストラリアが映し出された。
「あっ、ここ知ってる! 鬼灯様、ここに旅行に行ってきたんだよね? お土産おいしかったよ!」
「それは何よりです」
嬉々として鏡を覗く三匹とは逆に、椿は仏頂面。
「ったく、こっちはいきなり有休とられてさんざんだったっつーの。まだ閻魔庁の仕事覚えてなかった頃だし、閻魔に聞いても分かんねぇの一点張りだし」
「その割には、私が帰ってきたとき、仕事 溜まっていませんでしたよ? ……というより、閻魔大王が業務を知らなかったという事実の方が問題ですね」
「ギクッ」
「確かオーストラリアで撮った写真がここに……あぁ、ありました」
鬼灯は懐から、写真を一枚取り出した。
いつもの着物姿に帽子をかぶり、タスマニアデビルを抱いている。
柿助が青ざめた。
「ふ、普通オーストラリアでのこの手の写真って、コアラじゃないんですかっ」
「えぇ、まぁ、コアラとも撮りましたが、この写真も貴重かと」
シロも写真を覗き込む。
「あれ? ねぇねぇ、角と耳はどうしたの?」
「あぁ、普通に帽子です。案外バレませんから。……それに、都合が悪くなったら、日本人だけが使える魔法の言葉があるんですよ」
「へぇ!? どんな!?」
「I'm NINJA. It's SHUGYO. ……です。このように和服を着ていれば、さらに信憑性も高まりますしね。もし相手がジャパニメーションファンであれば、十中八九イケます」
「な、なるほど……」
椿は首を傾げる。
「うん? 何で忍者だと大丈夫なんだ? つーか、"じゃぱにめーしょん"って何だ?」
「はいはい。今度一緒に勉強しましょう」
シロが浄玻璃鏡をペタペタ触りながら訊いてきた。
「ねぇ、この鏡って、閻魔様だけが持ってるの?」
「うん? あぁ、そうだよ? 死後の裁判をする十王の中で、ワシだけが持っているんだ」
「へぇ~」
ルリオがふと思ったことを訊いてみる。
「あの、これ、未来とか見えたりは……」
「あぁ、いえ、さすがにそれは無理です。過去でしたら幾らでも見られますが……」
"ピッ"
鬼灯はリモコンを手に、適当にザッピングした。
すると……
"パカッ"
「おぎゃあ!」
室町時代のワンシーンが映った……
「「「今のは!?」」」
「おっとっと……」
「ちょっ、今のもう一回見せて!」
柿助が我を忘れて、鬼灯からリモコンを奪い取る。
"ピッ、ピッ"
「あ、あれっ? これどうやるんだ?」
「ダメですよ、素人がいじくっちゃ」
"パッ"
再び、画面はオーストラリアに戻った。
鬼灯がコアラを見ている映像が、映し出される。
「あ、鬼灯様だ!」
「わ~いっ、見よ見よ!」
「コラコラ、よしなさい」
三匹は興味津々のようで、止められない。
映像の中では、女性飼育員が、鬼灯を見つけて近寄ってくるところだった。
『あら、さっきタスマニアデビル手懐けてたニンジャお兄さん!』
『あぁ、先ほどはどうも』
『よかったら、コアラも抱っこする?』
『いいんですか? 是非』
……というわけで、飼育員がコアラを連れてくる。
『ありがとうございます』
鬼灯はコアラを受け取り、抱く。
そして頭を撫でてやると……
『……おや、寝てしまいましたか』
"パシャッ"
『?』
『ふふふっ、今の顔良かったよ~お兄さん。写真、撮っといたからね~?』
『なっ……』
"ピッ"
「「「 あ。」」」
鬼灯の手によって、浄玻璃鏡の電源が落とされた。
三匹の背後に忍び寄る、黒いオーラ。
「貴方たちも、モフモフして差し上げましょうか?」
「「「ひぃっ……」」」
開けてはならないパンドラの箱を開けてしまった、三匹であった。
→ 19. えげつなき戦い