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第二巻
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地獄はほぼ常に曇っている。
とはいえ、毎日同じ曇りなわけではない。
日によって違いがあり、晴れることはなくとも、スッキリと軽い曇り空の日があるのだ。
「では、よろしくお願いします」
書類を確かめながら、鬼灯は目の前の牛頭と馬頭にそう言った。
「「心得たわ!」」
牛頭と馬頭は、鏡合わせのように向こうへ走っていく。
鬼灯の隣では、椿が周囲をキョロキョロ見回していた。
「すっげぇな、百年前からこんなんやり始めてたとは」
「椿さんは初めてでしたね」
「あぁ。阿鼻からここまで上がってくるのも面倒で、いつも寝てたからなぁ。ははははっ」
「鬼神ですから参加は出来ませんけど、観戦だけでも楽しめるといいですね」
「おう!」
「あとは、あの木の準備と飾りを……」
呟いて歩き出す鬼灯の後を、椿も楽し気についていった。
その頃。
獄卒が集められた場所では……
「人として軸がブレてる!」
茄子が思いっきり、ベテラン獄卒を背後から指さしていた。
おそらくカツラがズレているのを見てそう叫んだのだろうが……
「やめろ茄子! ……つーかお前、よく緊張しないなぁ……」
唐瓜はどよんとした顔で背中を丸め、今にも吐きそうな顔をしている。
「え~? だって今日運動会だよ?」
「馬鹿、遊びじゃないんだぞ。……新卒として気を遣ったり、今後のことを色々と考えたりすると……」
「あ、お香姐さんだ!」
「!」
「あら、おはよう」
「おはようございまーす!」
「おはようございますっ!」
お香は衆合地獄の鬼女たちと共に、応援席の方へ歩いていった。
その後ろ姿を見つめ、さっきまでのブルームードはどこへやら、唐瓜がうっとりとした顔で零す。
「いいよなぁ、お香姐さん……」
「そーだね、乳デカいし~」
「よしっ! 頑張ろうぜ!」
「おう!」
同じ頃、獄卒たちに囲まれて、救護班も到着していた。
「うわ~、すごい数の鬼ですねぇ……」
桃太郎が物珍しそうに辺りを見回す。
白澤が女の子を目で追いながら答えた。
「まぁ、地獄の運動会だからね~。あ、薺ちゃん、兎ちゃんたちみんな来てる? 迷ってる子いない?」
「はい! 大丈夫ですよ~!」
薺と一緒に、周囲の兎たちもみんな白澤の方へ向いた。
桃太郎が首をかしげる。
「みなさんは毎年参加してるんですか?」
「はい、まいとし救護担当なのです」
「薬使えば閻魔庁がその分支払ってくれるから、協力してやってんだ~。あ、お香ちゃ~ん!」
白澤がどこかへ行ってしまった……
「……いつもながら、なんて自由な店長だ……」
「あ、ははは……」
「よぉ、桃太郎」
「ん? おぉ、ルリオ!」
バサッと羽音がして、桃太郎の肩にルリオがとまった。
シロと柿助もやってくる。
「やっほ~桃太郎!」
「桃太郎も大会出るの?」
ルリオがため息をついて答えた。
「白澤さんと薺さんの手伝いに決まってるだろう……」
「お前たちは何か出るのか?」
「ルリオは先輩たちと歌ってぇ、柿助は組体操でぇ、んで俺はねぇ! ……何だっけ?」
「おいおい大丈夫か……?」
"パンッ、パンパンッ"
運動会特有の花火が鳴り響いた。
薺が救護テントを指さして言う。
「そろそろ時間です。いきましょう!」
「あ、はい! それじゃまたな、お前ら」
「うん! 怪我したときはヨロシクね!」
「おう、いつでも来い!」
「ふふ、まずは怪我しないでくださいね?」
桃太郎と薺は不喜処トリオに手を振って、兎たちを連れテントに向かった。
救護テントは本部テントの隣にある。
ということは……
「椿さま!」
「ん、お~、薺~」
薺はいつものように、椿を見かけると真っ先に飛びついていった。
「ことしは来てくださったのですね!」
「あぁ。けど、こんな面白そうなモンなら、もっと早く来りゃ良かったと思ってる」
「ふふっ、ことしから楽しんでいけばいいですよ!」
仲良くじゃれる椿と薺の隣で、鬼灯は司会進行用の書類に軽く目を通し、スピーカーを持った。
『それでは、只今より、今年度の獄卒大運動会を始めたいと思います。まず、閻魔大王より挨拶を』
『おっほん……諸君! 今年もこの獄卒大運動会がやって参りました! 新卒も先輩も、一丸となって楽しんでください! 思えばこの運動会も、何回目だったかなぁ~、え~っと……』
「ハイハイ、スピーチは短く端的に」
『ぇえ? あぁ、そうだねぇ。……おっほん、ではっ、獄卒大運動会始めぇぇぇっ!』
閻魔の挨拶に合わせ、何発か花火が打ち上げられた。
"パンッ、パンパンッ"
「「「うおおおおっ!」」」
上がる歓声、ヤル気に満ちた鬼たち。
「さぁて。あとはゆっくり観戦しよ~っと」
鬼灯と椿がいる本部テントに、挨拶を終えた閻魔が戻ってくる。
薺は救護テントに戻ったようだ。
いつの間にか白澤も戻ってきている。
「今年の大会実行委員長は鬼灯君だっけ?」
「はい。……まぁこの運動会も、今年で100回目ですから、ベテランのことも考えると、一工夫加えるのに苦労しましたよ」
「本当? どんなのだろ、楽しみだなぁ」
「毎年変えてんのか?」
「でないとマンネリ化するでしょう? 今年の指針としては、"スポーツは筋肉"という思想そのものから見直してみることにしました」
そんなわけで、と鬼灯はスピーカーを手に取る。
『第一種目、借り物競争』
かけっこの要領で全員一斉にスタートし、途中に散布されている紙に書いてあるものを、観客席の中から持ってくるという競技だ。
第一走者がスタートラインに並ぶ。
その中には唐瓜と茄子も……
「借り物……あ、そういや茄子お前、二千円返せよ」
「へ?」
「一カ月前に貸しただろ? 何か急にカニ食べたいとか言い出して」
「ん~? ……あっ、そーだ!ゴメンゴメン」
「いちについて、ヨーイ……
"ズガァン!"
突如、空気を震わせ、とんでもない爆音が響き渡った。
鬼灯が意気揚々と司会を続ける。
『さぁ始まりました第一種目!』
隣で閻魔が唖然とする。
「どうでもいいけど、何あのスタート合図」
「くぁ~っ、耳痛てぇ……」
「生温いライカンピストルはやめてバズーカにしました。迫力あるでしょう?」
「うん……いや、あのバズーカ撃った子が凄いよね……」
「テメェ鬼灯、ああいうのやるなら最初に言っとけよ……」
「椿さんて、そんなに聴力敏感でしたっけ」
「ンだよ、そのあたしの全てを鈍感と決めつけてるような目は」
爆音に耳と心臓をやられたのか、獄卒のうち何人かがスタートラインに膝をつく。
『おやおや、何名かは音に驚いて早々に脱落ですか。獄卒がそんなことでどうするんですか』
「えっ、厳しいなこの大会! 君に任せて大丈夫なの鬼灯君!」
「ここは地獄なんですよ? この機会にヌルい奴は叩き直します」
そうこう言っているうちに、生き残った獄卒たちが紙のある場所へたどり着いた。
一番乗りの唐瓜が適当に拾ってみる。
「え~と、お題は……」
【好きな
「公開処刑だぁぁっ!」
その他にも……
【苦手な先輩】
【私服がダサい上司】
などなど……
『今年の運動会は全体を通して精神的負担を伴います。さぁ、張り切ってどうぞ』
「はりきれませんっ!」
と叫んだ唐瓜の耳に……
「頑張って~、新卒ちゃ~ん」
甘~い応援の声が響く。
「お、お香さん……っ」
「ほら早く~、行っちゃうわよ~?」
「い、いっちゃうっ……ゴクリッ」
閻魔は半目でその様子を見守った。
「分かりやすいね、あの子」
『言っちゃいなさいよ唐瓜さん。そして玉砕すればいい』
「ヒイィィッ! 鬼の中の鬼!」
『若いうちのこういう刺激が、脳の活性化に繋がるのです』
「脳は活性化されても! 心は崩壊寸前です!」
椿はつまらなそうに頬杖をついて、鬼灯に訊いた。
「なぁ、これのどこが精神的負担なんだ?」
「分からなくていいですよ、貴女は」
世間体も体裁も気にしない椿には、何の苦痛も感じられない競技だ。
「まぁ、獄卒の苦悶に満ちた顔はなかなか面白いけどな、ははっ」
「楽しんで頂けて何より」
(なんか隣に闇鬼神が二人いるんだけど……)
閻魔は胃が痛い気がした。
「ゴォ~ル!」
『おっと、そうこうしている間に、茄子さんが一着でゴールしました。お題のクリアは出来たのでしょうか』
「ハ~イ!」
茄子は、お題の書かれた紙と借りてきたものを、これ見よがしに持ち上げる。
お題は……
【誰かのヅラ】
茄子の手には、ちゃんとお題に沿ったカツラが握られていた。
『素晴らしい、合格です』
「やった~! あははははっ!」
カツラをもぎ取られた鬼は、膝をついて消沈している。
「……くそっ、バレてないと思ってたのに……」
「何の躊躇もなくもぎ取っていったぞ、アイツっ」
結局、合格者は茄子を含めてわずか数人だった。
もちろん唐瓜は合格ならず。
「ハァ~イ! リタイアした方々はこちらで~す!」
「「「?」」」
脱落者たちが声に振り向くと、牛頭と馬頭が大きな袋を構えていた……