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第二巻
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タクシー。
それは、現代において欠かせない交通手段。
料金は高いが、自由に出発地と目的地を選べる便利なシステム。
だがその一方で、密室を利用した犯罪等も増えている。
ある日。
時刻は夜の九時半過ぎ。
とあるバス停にて。
椿は眠そうな目で、バスの時刻表を見ていた。
「ふぁ~……。……ありゃ。鬼灯、今さっきバス行っちまったみてぇだぞ?」
「そうですか。……仕方ない、タクシーで帰りますかね」
鬼灯は時計を確認する。
次のバスを待つ時間は無いようだ。
二人は近くのタクシー乗り場……もとい、朧車乗り場へ向かった。
ちょうど二台の朧車が停まっており、何やら雑談している。
「なぁ」
「ん?」
「最近、現世じゃタクシー強盗ってのが深刻らしいよ」
「え~何それ、超怖ぇじゃん……」
「なんか、一対一で個室の状況が狙われやすいんだとさ」
「うわ~絶対嫌だよそんなの」
「まぁその点、俺らは顔が前に付いてるから安心だけどな」
「あぁ、まぁな。……現世って怖ぇ」
「あっ、でも腹の中から突かれたら嫌だな」
「あー確かに、それは痛い」
「その車部分ってやはり"体内"なんですね」
「「?」」
朧車たちは揃って、声のする方を見た。
「あ、鬼灯様に椿様」
「今からお帰りですか? 大変ですね」
「まぁ、そういう仕事ですし」
「ていうか椿様、この間みたいに走行中に飛び降りるのは勘弁して下さいよ。何かあったらこっちの責任になることもあるんですから」
「アタシを誰だと思ってんだ。あれぐらいじゃかすり傷一つつかねぇよ」
「それに、コイツは訴訟なんて面倒なことしませんし、私が訴えさせませんから安心して下さい」
「……ならいいっすけど」
「ところで、こんな一介のタクシー利用でいいんですか? もっといいお車(龍とか)お使いになればいいのに」
「いえ、公費の無駄ですから」
「龍とか乗ろうとするとコイツ怒るんだよ」
「当たり前です。タダでさえ貴女の設備破壊で予算が削られてるんですから、これ以上削らせてなるものですか」
「そりゃこっちのセリフだっつの」
「まぁまぁお二人とも……」
「高級がダメなら、専用車を買ってしまわれてはいかがですか?」
「現世では安全のためにそんなのもあるようですね。……しかし、地獄では己の身は己で守るのが鉄則です」
「……あぁ、まぁ、襲撃したところで普通に敵わないよな、どっちにも」
鬼灯と椿は個々でも強い上に、二人揃えば敵なしだ。
「でもさ、俺らだって乗り物界のアイドルじゃん?」
「はい?」
「いきなり何だ?」
「え、だって俺ら、よく考えるとネコバスの仲間ですよ」
鬼灯の眉間にクワっとしわが寄る。
椿は首をかしげた。
「ネコバス……? って何だ?」
池袋駅も知らないのだから、ジブリなんて知るわけがない。
鬼灯はため息をつく。
「今度見せてあげますよ」
「おう、そうか」
「高級じゃないけど憧れの乗り物だよな、ネコバスも俺らも」
「だよな~」
「いえ、サツキがあなたたちに乗って迎えに来たらメイは大号泣です。別の意味で。……まぁ確かに構造は似ていますが、どちらかというと一反木綿に近いのでは?」
「えー、アイツ屋根ないじゃないですか」
「……って、雑談ばっかしてないで仕事しなきゃだな。どこまで参りましょうか。あの山の病院?」
「いえ、別に穫れたてのトウモコロシは届けません。閻魔殿までお願いします」
「こんな遅くまで、出張お疲れ様です」
鬼灯と椿は、片方の朧車に乗った。
「それじゃ、最速で飛びますからね!」
有名人を二人も乗せて上機嫌な朧車は、颯爽と空へ舞い上がる。
残された朧車は、嬉しそうな友人の背中を見送った。
「……アイツ、鬼灯様と椿様乗せたってしばらく自慢すんだろうな……」
一人寂しく呟いていると、人影が近づいてきた。
男性一人のようだ。
「ご利用ですか? どちらまで参りましょう」
「……高天原まで」
男はボソっとそれだけ言って、ソロリと朧車に乗り込んだ。
その頃。
鬼灯と椿を乗せた朧車は、順調に閻魔殿へ向かっていた。
鬼灯と朧車の間で、雑談に花が咲く。
「しかし、タクシーも大変ですよね。変な客も多いでしょう」
「えぇまぁ。困ったお客様はどこにでもいますよねぇ」
「酔っぱらって吐いたりする方もいるのでしょう?」
「はははっ、そんなのしょっちゅうですよ。鬼の方々は酒好きが多いですし」
話しながら、鬼灯はみたらし団子の包みを開ける。
一本を自分の口へ運びながら、もう一本を椿の方へ差し向けた。
椿はそれを口で受け取り、眠そうな顔でもくもく頬張る。
「あっ、そうそう、怖い話があるんですよ」
「怪談ですか?」
「はい、友人の体験談なんですけどね?」
―――朧車は語り始めた。
それは湿度の高い、とある晩のこと。
友人がひと気のない通りを、一人流していたんです。
すると女が一人、手を挙げているじゃないですか。
嫌だなぁ……怖いなぁ……って思っても、仕事だから乗せないわけにはいかない。
いざ勇気を出して乗せてみると、女は静かに言ったんです。
『あの……地獄の門まで……』
女が座ったのを確認して、友人は出発しました。
女は口数が少なくて、やけに青白く、亡者にしては妙に存在感がある。
それを不思議に思いながらも、友人は地獄門に着きました。
"キイイィィ……バタン!"
女が通り抜けた後で、閉じた門の扉。
すると……
"ドンドンドンドンッ、ドンドンッ!"
『開けて! お願いよ! 間違いなのっ、私、間違えてきちゃっただけなのよ!』
「―――えぇ、その女、生きてたんですよ! 臨死体験してやがったんです! ……ね? 怖いでしょ?」
鬼灯は無表情で二回ほど瞬きした。
「そういうのが、朧車タクシー界での怪談なんですね」
その横で、椿はこっくりこっくり……
「ぁ、やべぇ……鬼灯、膝、借りる」
「はい?」
突然何を言い出すんだと、鬼灯が首を傾げれば、椿が糸の切れた人形のように、膝に倒れ込んできた。
「……椿さん?」
「………すー…すー…」
膝に乗った寝顔から、問答無用で聞こえてくる寝息。
「……」
急にどうしたというのか。
鬼灯は、椿の頭を何度か撫でた。