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第一巻
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ある日。
「ん? ……おい鬼灯、この記録書の束、いつから閻魔庁を通すようになったんだ? 確か管轄は秦広庁だろ?」
「あぁ。200年ほど前に改訂されました。こちらで一括処理した方が早いので」
「……なぁ、そうやって全部引き受けるから忙しくなるんじゃね?」
「えぇ。……分かってはいますが、やらざるを得ないんですよ」
「難儀なもんだな」
補佐官二人は書類仕事を片付けていた。
椿が来たことで、鬼灯の負担はかなり軽減されているらしい。
そこへ、決算書を持った桃太郎と、薺がやってきた。
「こんにちは」
「こんにちはです!」
「あぁ、どうも」
「お、桃太郎だけじゃなくて薺も来たのか。珍しいな」
「はい、さいきん働きづめだから、息ぬきにどうかと、白澤さまにすすめられまして」
「……女連れ込むために厄介払いされただけじゃねぇのか、それ」
薺は苦笑いする。
「あはは……かもしれませんねぇ」
「かもって、そんな頻繁に女連れ込んでんのか、アイツ……」
「お好きですからねぇ……」
椿と薺が話す傍ら、鬼灯は桃太郎から受け取った決算書を一瞥し、判子を押した。
「ハイどうぞ。白澤さんにお渡し下さい」
「あ、はい……」
「どうかしました?」
桃太郎がじっと見てくるので、鬼灯は首をかしげた。
「鬼灯さんってやっぱり白澤様に似てますよね。目が切れ長で……」
「はわわわっ、桃太郎さん! それは言ってはいけまs"ドゴォッ!"
薺の忠告もむなしく、鬼灯の裏拳でそばの柱が粉砕された。
パラパラとコンクリートの欠片が落ちる。
「……申し訳ございません。気にしないで下さい」
鬼灯は手の甲をさすった。
(あ、一応痛かったんだ……)
意外だなと思いながらも、人知を超えた怪力に桃太郎が青ざめていると……
「説明しよう!」
さっそうと閻魔が現れた。
途端、桃太郎は姿勢を正す。
「え、閻魔様!? こ、こんにちはっ!」
「ハイこんにちは。そうかしこまらなくていいよ。薺ちゃんも久しぶりだねぇ」
「はい、お久しぶりです!」
「あ、あの、説明って……」
「あぁそうそう。あのね? 鬼灯君は白澤君に似てるって言われると怒るのだ」
「え、あ……ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
椿が、柱にできた凹みを撫でてため息をつく。
「ホント、少しは加減を覚えろよな。修理費かさんで予算減る一方だぜ」
「
軽く口喧嘩を始める二人を横目に、桃太郎は閻魔に訊いた。
「あの、何か仲が悪くなるキッカケでも?」
「うーんとねぇ、あれはもう千年くらい前だったっけか……。昔、和漢親善競技大会……まぁ、オリンピックみたいな大会があってね?」
「いつも白澤さまからおはなしをきいてますが、見てみたかったです」
「そうか、そういえば薺ちゃんが来る前だったねぇ。……その大会で、鬼灯君と白澤君は審判だったんだ」
「えっ、代表選手とかでなく?」
「うん。ホントはそうキメたいとこなんだけど、二人とも選手の域を超えててさ。鬼神である鬼灯君は言うまでもないけど、白澤君も中国じゃ妖怪の長とまで言われる存在だからね」
「あれが長では世も末です」
「うおっ、鬼灯さん……聞いてたんですか」
「日本の現世じゃ、ぬらりひょんが長とされてるけど、こっちもどうかと……あ、でね? つまり不公平がないようにお互いの国から審判を出したわけ。競技は武道系と知恵比べ、妖術による術対決なんかだったかなぁ……」
「うわぁ、楽しそう!」
椿が大きく頷いた。
「そりゃ楽しかったぞ? あんなデカい大会はもう開けねぇだろうな」
「椿さんも参加してたんですか?」
「いーや、見てただけだ」
「椿ちゃんだって鬼神だよ? 出たら圧勝だって」
「ぇえっ、椿さんも鬼神だったんですか!? ……でも、確かに……」
鬼灯を相手に引けを取らないわけだから、鬼神と言われても何ら不思議ではない。
「あたしは特に、諸葛孔明VS聖徳太子が好きだったな~」
「何それ超見たい!」
閻魔も楽しそうに、当時を思い出す。
「途中、VIP席にいた策士・太公望が混ざっちゃってさ。さらに邪馬台国の卑弥呼まで降りちゃって、最後はどんちゃん騒ぎだったよ」
「ものすっごく写メ撮りたいそれぇ!」
テンションの上がる桃太郎に、薺が微笑んだ。
「でしたら、つぎのお休みにでもご案内しますよ! いちど白澤さまにつれていってもらったので、場所はしっています!」
「行きます行きます! カメラ用意しとかないとなぁ……」
「あ、だったら楊貴妃と小野小町にも会ってくるといいよ! 彼女たちも大会で観戦してたんだけどさぁ」
「うわスッゲっ、やっぱ美人でしたか!?」
「うーん……昔の婦人の習慣で、扇で顔を頑なに隠しててねぇ……」
「試合見えてたんですかそれ!」
「でも、後ろ姿が美しくてねぇ。さりげなく小野小町が鬼灯君へ和歌を詠んでたり……」
「あの時代の人は何でもすぐ詠むなぁ……ところで、肝心の鬼灯さんと白澤様の間には、一体何が?」
「ん、あぁ、そうだったね」
当時を思い出したのか、椿が吹き出した。
「ぶふっ、聞いたら笑うぜ絶対。あんなくだらねぇことでここまで喧嘩長引いてる奴ら、世界中探したってコイツらだけだ、はははっ」