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第一巻
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あの世には天国と地獄がある。
地獄は八大地獄と八寒地獄の2つに分かれ、
さらに272の細かい部署に別れている。
戦後の人口爆発。
悪霊の凶暴化。
あの世は前代未聞の混乱を極めていた。
この世でもあの世でも統治に欲しいのは
冷静な後始末係である。
……が、
そういう陰の傑物は、
ただのカリスマなんかよりずっと少ない。
地獄、第伍裁判所・閻魔庁。
「閻魔大王! 阿鼻で川が氾濫しています!」
「黒縄地獄は財政破綻しそうです!」
「大王! また亡者がドッと…「うわぁ! 今いっぱいだよ!」
「閻魔大王!〈果樹園を焼いた者はサトウキビでめっちゃ叩く〉って現代に合いませんっ、改訂しましょう!」
閻魔大王のデスクには、朝から、鬼やら亡者やらが殺到していた。
……そこにやってきた、新人獄卒、唐瓜。
「うわ、すげぇ……」
新卒として、先輩たちを掻き分けて要件を伝えに行くのは、気が引ける。
しかし、そんなことで仕事を遅らせるわけにはいかない。
「よ、よしっ」
人知れず小さな決心をした唐瓜は、ぐっと拳を握り締めて、足を踏み出した。
可能な限り先輩たちを掻き分け、閻魔に向けて声を張る。
「あ、あのっ、天国から要請書が!」
少し声が裏返った。
しかし内容は届いたようだ。
「えーっとねぇ……まず、阿鼻は政令指定地獄でしょ? そっちで何とかして? そんで次が……天国? そんなの知らないよ、鬼灯君にでも相談して?」
困ったような、しかし温かみのある優しい声でそう言われ、唐瓜は心中ホッとしながらも辺りを見渡した。
「あれ、そういえば鬼灯様は……」
「あぁ、視察に行ってるよ。この忙しさでさァ、彼もあちこち引っ張りだこなんだ」
「そうなんですか……」
……ってことは、鬼灯様のところへ直接行かないと。
唐瓜は小走りで閻魔庁を出ていった。
等活地獄、不喜処前。
「―――針山は特に問題なし……。不喜処地獄はどうですか?」
「従業員不足ですねぇ」
あちこち引っ張りだこの鬼灯は、等活所属の獄卒を一人連れ、隅々まで見て回っていた。
そこに、唐瓜が天国からの要請書を持って走ってくる。
「鬼灯様~! 天国の桃源郷から人材貸し出しの要請が……」
鬼灯は要請書を受け取って、一読した。
「……桃農家への人材貸し出しですか……天国の世話までしてられませんよ。大体、桃の木はこれ以上いりません。仙桃を大量に作って妙薬を確保しようとする天国の政策には、反対なんです。万能薬は少ないからこそ価値があり、多いと堕落を招きます」
「ですが、桃源郷は天国でも最大の観光スポットですし、重要文化財としての景観の維持が……」
「あぁ、まぁ手入れは必要ですが……」
「とにかく芝刈りだけでも手伝って欲しいとのことで……」
「おい、今こっちの相談してんだぞ。割り込むなよ」
「す、すみませんっ」
唐瓜は、等活の鬼にペコペコ頭を下げた。
それを気にする様子もなく、鬼灯は無表情で淡々と言う。
「どうせ
「え、あれ、今 閻魔様のこと、さらっとアホって言った……?」
「桃源郷ですか……まぁよくも、罪人もいないのにヌケヌケと……。……ゆったりたっぷりのんびりしてるくせに……旅ゆけば楽しい、ホテル三日月―――」
うっすら消えていった歌の歌詞が、かの有名なCMソングであることは内緒である。
鬼灯は深い溜息をついた。
「何でもかんでも私に回してくる」
等活の鬼が思い出したように言う。
「ここ数百年で一気に忙しくなりましたね。鬼灯様がこうして来て下さるとこっちとしては助かりますが、その間、閻魔庁の方は大変ですよね……」
「えぇ。忍術が使えたらと、いったい何度思ったことか」
「そ、それは分身の術目当てですか……?」
「かの少年のように、2千人ほどに影分身できれば、全て上手く回ると思うんですがねぇ」
「……いえ、十中八九、関係各所からしょっぴかれます……」
冗談はこのくらいにして、と、鬼灯は静かに言った。
「まぁ一応、使えそうな奴を一人、閻魔庁に入れる予定です」
「え、そうなんですか?」
「はい。もうすぐ来るはずなんですがね」
鬼灯は、懐から時計を出して一瞥する。
「何よりも食欲と睡眠欲を優先させる奴ですから、良く言えば素直、悪く言えば我儘な奴でして。時間通りに来た試しがないんですよ」
「……何でそれで獄卒やってんですか」
「器量と技量だけは確かなんです。二千年以上の長きに渡って、阿鼻地獄の主任を務めているくらいですからね」
「へぇ、阿鼻の主任って、そんなに在位長いんですね……」
最下層である阿鼻地獄は、等活などの上層の地獄とはあまり縁がない。
阿鼻地獄の主任獄卒と言われても、等活の鬼には名前も何も分からなかった。
唐瓜と等活の鬼は、その獄卒を想像してみた。
阿鼻で二千年以上も主任を続けている古株。
きっと、指一本で岩も砕けるような巨漢なんだろうなぁと、同じことを思った。
……と、そこに。
「鬼灯様~!」
また新たな獄卒がやってきた。
唐瓜と同期で幼馴染みの、茄子だ。
「どうしました? 茄子さん」
「す、すみません! ちょっとトラブルというか……」
茄子は息を切らせつつ報告する。
「桃太郎というのが来て……」
「桃が来た? いりません」
「あ、いや、別に御中元とかじゃないんですけど……とにかく来てください!」
少々強引に、鬼灯を引っ張っていく。
「あ、ちょっと今こっちの相談を……」
「おい! それよりこっちが先だぞ!」
結局、唐瓜と等活の鬼も、連れて行かれる鬼灯についていった。
……途中、鬼灯は見慣れぬ拷問器具に目を留める。
「あのアイアンメイデン、いつの間に導入したんですか? 予算はどこから……」
「いや、あのっ……あとで説明しますんで、今はとにかくあっちを見てください!」
そこに、また新たな獄卒が走ってくる。
「あ、鬼灯様! 申し訳ございません、お忙しいところを……」
すると、その背後から……
「おっ、その気の遣い方、そいつ上官だな? いざ尋常に、俺と勝負しろ!」
"日本一"と書かれた旗を背負い、犬・猿・雉を連れた男が、刀を向けてきた。
「……」
「……」
「……」
一瞬、その場の空気が冷める。
「えーと……」
鬼灯は二回ほど瞬きしてから、小声で傍の獄卒に尋ねた。
「あの困ったさんはどこのコですか?」
「"桃太郎"って奴です」
「ヒ、ヒソヒソするな!」
獄卒が心底面倒くさそうな顔をする。
「アイツ、急にやってきたと思ったら道場破りみたいなことし始めて……一応天国の住人なので捕まえられませんし」
「何でしょう、思ったより……いえ、大変古風で見目麗しい……」
調子を崩された桃太郎は、小型犬のように吠えた。
「なっ、何が言いたい!」
鬼灯はまっすぐ桃太郎に向き直る。
「生前に悪い鬼の退治でご活躍なさったのを誇るのはいいですが、大義を見失っちゃいませんか?」
桃太郎はフンと鼻を鳴らした。
「いーや、見失ってないね。俺は鬼と戦ってこそ桃太郎なんだ。な? 相棒」
訊かれて、犬・猿・雉がサラっと答えた。
「俺はキビダンゴのためです」
「でも現代はキビダンゴより美味いものが多過ぎる」
「雇用形態が室町時代から変わらんから、正直、転職を考えている」
三匹は互いの本心を知って、ヒソヒソし始めた。
「あっ、お前も?」
「俺たち霊力ある神獣なのにさァ」
「アイツ一人、いつも熱いしなぁ……」
「英雄の部下の何が不満なんだよ!」
鬼灯がさも当然と言いたげに答える。
「要するに、社内で体育会系が一人だけ変に
「俺を冷静に分析すんなぁ! 鬼ィっ!」
「鬼です」
「鬼灯様、コイツ何とかなりませんか? 微妙にしぶといんです、微妙に」
「微妙微妙言うな!」
……完全に弄ばれている。
悔しさを募らせた桃太郎は一旦呼吸を整え、鬼灯に刀を向けた。
「お前、俺と勝負しろ。……クククッ、それとも怖いか?」
すると、周囲の獄卒たちがこぞってムっとする。
「お前っ、失礼だぞ!」
「鬼灯様は偉いお方なんだからな!」
「ふ~ん、どのくらい?」
「閻魔大王の第一補佐官! そして鬼の中でもトップの鬼神なんだぞ!」
「そんな大したものではありませんよ。官房長官みたいなもんです。地味地味」
「ッキャーッ腹立つ!」
さっさと終わらせたい……といった心地で、鬼灯はため息をついた。
「我々は鬼ヶ島のゴロツキとは違って、身を粉にして働いています。倒される筋合いはありませんね。それに比べ、あなたは定職にも就かずフラフラと……」
「お母さんか
地団駄を踏み始める桃太郎に、三匹が呆れる。
「怒り方が古いよ……」
「室町時代の人間だからな……」
「殴る蹴るのタイマン張ったろかぁ!?」
「あ、殴る蹴るでいいならすぐに解決するので、ありがたいです」
鬼灯は、金棒をポンポンと手の平に打ちつけた。
鉄製でかなり重いはずのそれを、容易く扱う様子に、桃太郎は冷や汗をかき始める。
「あ、いや……暴力は良くないよね……」
「地獄なので暴力で解決しましょうよ」
……このままでは勝てない。
そう思った桃太郎はとりあえず、部下の三匹と作戦会議を始めた。
「ま、まずはお前たち、先に行ってくれっ」
「え~、ヤダよ」
「なんで!」
「アンタ行けよ」
「ずるい~」
言い合いから口喧嘩へ、最終的に大モメにモメて、一番手として犬が出てきた。
「う~……自信ないなぁ」
「シロ! とりあえず何か挑発しとけ!」
「え~…ん~と…か、亀みたいなつり目!」
懸命に絞り出した罵倒を、鬼灯は軽く跳ね返す。
「ソフトバ●クのお父さん!」
「ぐはっ……それだけは言われたくなかった……でも上戸彩なら娘に欲しい……」
「それどころか、もうお嫁に行かれましたけど?」
「ぬぁっ!?」
―――シロ、撃沈。
「うわああっ、シロぉぉぉ!」
「くっ、今のはひどい!」
「おのれっ、負け犬シロの仇、我らが!」
「……負け犬言うな」
というわけで、次に出てきたのは猿。
「ウキーッ! チームのブレーン、柿助!」
「柿助……? あぁ、あなた、確か600年前にカニの御一家から傷害罪で訴えられてますよね? 謝りましたか?」
「ひぅ……っ」
「お、おいどうした? 柿助?」
「か、過去の過ちは許してくれ……」
「何ィっ!? 柿助まで!?」
「くっ、こうなったら、ロケットランチャー雉のルリオ!」
「あなたは……そうですね、思ったよりデカイ鳥だなぁと思った以外、特にありません」
「ぐあっ……雉って……」
三匹は揃って、その場に倒れた。
桃太郎が青ざめて駆け寄る。
「うわああぁぁぁ同志いいぃぃっ!」
「……桃太郎よぉ、やっぱり鬼は強ぇよ」
「ムダな喧嘩は売るもんじゃないね……」
完全に心を折られた三匹とは裏腹に、桃太郎は刀を握る。
「おのれ鬼めっ、所詮は血も涙もない奴よ! いざっ、桃太郎の剣術、受けてみよ!」
どうやら本気でヤル気らしいので、鬼灯も金棒を構えた。