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12. 晴れ渡る空
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ところ変わって、黄金の大鐘楼が引き上げられた海岸。
そこには空の者たちが集まり、引き上げた鐘楼を前に立ち尽くしていた。
「これが黄金の鐘……」
「なんと美しい……」
「見るからに誇らしい……」
「だが、横の柱が一本折れてしまったなぁ」
「あぁ、仕方がない」
「おい、そこを見ろ!」
1人が指さしたのは、文字が刻まれた黒い石。
「あれが、ポーネグリフか……」
「我らの先祖が命をかけて守り抜いた石……」
「一体 何が書かれているんです? 酋長」
シャンディアの酋長は目を細めた。
「……知らずとも良いことだ。我々はただ……」
「『真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐもの。大鐘楼の響きと共に』」
「!?」
空の者たちの間を抜けて、ロビンが進み出てきた。
酋長は驚愕の目を向ける。
「おぬし、なぜその言葉を……っ」
「シャンディアの遺跡に、そう刻んであったわ。あなたたちが、代々これを守る番人だったのね」
「まさか読めるのか!? その文字が」
ロビンは、しばしの沈黙の後に口を開いた。
「神の名を持つ、古代兵器ポセイドン。その
そう言われても、空の者たちには分からない。
古代兵器とは何だと、ざわめき立った。
するとその間を、また1人歩いてくる。
「なにをしりたい」
「!」
ロビンは突然、殺気を感じた。
しかしそれは、聞こえた声の主からは想像できないもの。
恐る恐る振り向けば、見たことはおろか、想像もしたことのない冷たい表情のティオが、そこにいた。
「もういちど、きく。なにをしりたい」
まるで別人だ。
思わず息を飲むロビン。
間違った答えを選んでしまったら、すぐにでも殺されるような気がした。
「……歴史よ。私はこの世界の真の歴史を知るために、リオ・ポーネグリフを探してるの。……でも今回はハズレのようね」
「……」
……覇気で探る限り、ロビンの言葉に嘘はない。
それどころか、とても強い感情が伝わってくる。
歴史を知るためなら、死をも恐れないと言いたげに……
ティオは視線をポーネグリフに移した。
(……あいかわらず、おおきい、こえ)
アラバスタでも感じたが、やはりポーネグリフは込められたエネルギーの桁が違う。
「……はずれじゃ、ない」
「え?」
「おいアンタ、その横に掘ってあるの、同じ文字じゃないか?」
シャンディアの1人にそう言われ、振り向いたロビンは、黒い石の部分とは別に、黄金に刻まれた文字を見つけた。
「ゴール・D・ロジャー……何ですって!?」
「『我ここに至。この文を最果てへと導く。海賊、ゴール・D・ロジャー』……やっぱり、きてた。かいぞくおう」
「あなた、どうしてこの文字を……」
ロビンが驚きを隠せないでいると、ティオはおもむろに、その顔を見上げた。
……本当は、この先を話してはいけない。
けれど、ロビンになら、麦わら一味になら、伝えてもいいような気がした。
だって、麦わら一味には……
「……それが、てぃおの、やくわりだから」
口が、勝手に動き出していた。
「ポーネグリフを解読しようとすれば死罪になるはずよ? 世界政府直下の海兵に、それができる者がいるなんて……」
「かくされた、れきし、それでも、だれか、かたりつぐ。とだえさせては、いけない」
「それって……」
「あらゆる、じょうほう、のみこみ、せかいせいふの、つぎの、でんしょうしゃに、かたりつぐ」
青い瞳が不気味に光った。
「そのため、だけに、てぃおは、そんざい、してる」
「……っ」
背筋の凍る思いがした。
……何か得体の知れない巨大なものが、目の前にいる感覚。
この小さい少女の中には、一体どれほどの情報が……
興味はあれど、同じくらい恐怖も感じた。
「ロジャーと、書いてあるのか?」
「!」
ガン・フォールの声で、ロビンは現実へ引き戻される。
「……知ってるの?」
「20年以上前になるが、この空にやって来た青海の海賊だ。その名が刻んであるのか」
「えぇ。どうやってこの鐘にたどり着いたのかは分からないけど、消えない証拠が確かにここに……」
ロビンは再び、ロジャーの残した文に視線を戻した。
珍しく目を見開き、謎を解かんと、文を凝視している。
ティオは、その表情を横目に見上げた。
「……」
ロビンの強い想いが伝わってきて、心が揺さぶられる。
ティオの口は、止まらなかった。
「りお・ぽーねぐりふ、とは、つなぎ、みちびきだして、はじめて、あらわれる、もの」
言ってしまってから、少し後悔に駆られる。
ロビンは驚いて、ティオを見下ろした。
「繋ぎ、導き出す……」
呟いてから、ハッとする。
「世界各地に存在するポーネグリフ。それらをつなぎ合わせて完成するテキスト。それが、リオ・ポーネグリフなのね?」
「……」
ティオは頷かなかった。
小さな拳が、きゅっと握られる。
それを見て、秘密を教えてしまったことへの葛藤を感じ取ったロビンは、薄く微笑んで、後ろを振り返った。
「酋長、この文は役目を果たしているわ。だからもう……」
「ならば、我々の役目も果たされたということか。我々はもう……戦わなくていいのか」
酋長は涙を流し始める。
「そうか、先祖の願いは果たされたんだな」
「……えぇ」
ロビンはティオの方へ振り返り、その小さな手を取った。
「戻りましょうか」
ティオは、少し驚いた目で、ロビンを見上げた。
「……」
伝わってくる、暖かい感情。
後悔が少し、
ロビンに手を引かれるまま、歩き出す。
2人の背に、ガン・フォールが声をかけた。
「女と童よ。あの麦わらの小僧だが、かつてのロジャーと似た空気を感じてならん。吾輩の気のせいか?」
「ふふっ、彼の名はモンキー・D・ルフィ。私も興味が尽きないわ」
「D? なるほど、名が一文字似ておるな。ハッハッハッハッ!」
「……そう。きっとそれが、歴史に関わる大問題なの」
ロビンはティオを見下ろす。
きっとこの子は知っているのだろうと、思いながら。
"D"が持つ意味も、空白の100年のことも……
「ときに娘たち。あんたたち、黄金を欲しがっていたな。青海ではヴァースより価値があるのだと」
酋長が民たちの間を抜けて、進み出てくる。
「えぇ」
「ならば、その折れた柱はどうだ? 鐘の方はやれんが」
すると、空の者たちがパァッと表情を明るくした。
「それはいい考えだ! 元々あんたたちには、何とかして礼をしなけりゃならんのだ!」
「そうだな! 遠慮せず持っていくといい!」
「いいの? きっとみんな喜ぶわ」
早速、空の者たちは黄金の柱に布を巻き、ロビンとティオの後ろをついて運んでいった。