夢主の名前を決めて下さい。
1. アラバスタ戦線
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
店の外に出たティオは、ぎらつく太陽に目を細めてから、フードをかぶり直した。
そして、街の中心を見据える。
金色のワニが乗った屋根が特徴の、大きな建物。
カジノ・レインディナーズ。
「うおおおっ! 水だぁぁ! 水、水ーっ!」
どこからか聞こえてきた大声。
ティオが振り向けば、周囲の人々も、「水」と叫びまくる声の主を見つめていた。
「……」
ティオはわずかに目を見開いて、その人物を凝視する。
噂をすれば何とやらだ。
まさかここに現れるとは。
フードの下から覗く麦わら帽子と少年の顔は、間違いなく、賞金3000万ベリーのモンキー・D・ルフィ。
その隣に長い鼻の男・ウソップもいるのだが、手配書がないため、ティオにはルフィしか分からない。
"ギィッ"
ルフィとウソップは、先ほどティオがいた、未だにスモーカーとタシギがいる店に入っていった。
「……」
何を考えたのか、ティオはすぐさま物陰に隠れて、鳥に変わる。
そして店の窓淵にとまり、店内を覗き見た。
スモーカーとタシギがまだ話している。
「スモーカー大佐、麦わら一味がアラバスタにいるのは分かりましたが、何故このレインベースに現れると思うんですか?」
「さぁな、勘だ」
「そ、そうですか…」
「うおおお! 水が飲めるぞウソップーっ!」
「うおお~! 水~!」
ルフィとウソップが「水」と連呼しながらカウンターに向かう。
しかし、スモーカーとタシギは気づいていないらしい。
「……麦わらを追ってたつもりが、思わぬデカい獲物に出くわしたかもしれねぇな」
「え?」
「ティオが調査に入った案件が黒じゃなかった試しはねぇそうだ。この国の背後に闇が渦巻き、そこにクロコダイルも絡んでいるってんなら……」
悠長にそんなことを語るスモーカーのすぐ隣りに、ルフィとウソップが座った。
「水水水水ーっ!」
「水くれ!樽でくれ!5個くれ5個5個5個!」
テーブルをバシバシ叩いて注文する2人。
それだけ騒がしくても気づかないらしい。
タシギが深刻そうな表情をした。
「ではやはり、バロックワークスの頂点はクロコダイルで、その組織と麦わらに関係があると……」
「言い切るのは早計だが、最悪の想定はしておいても損にはならねぇ。とりあえず分かってんのは、あの麦わらがクロコダイルを狙っているという……」
そこでようやく、スモーカーの視線が隣に向いた。
水を樽から直接ガブ飲みする男が2人、目に
「うめ~ぞこの水ぅ~」
「早くアイツらにも持ってってやろ~ぜ~」
なんだか見覚えのある顔……
その視線に気づいたのか、頬袋を水でいっぱいにした2人も、スモーカーとタシギの方を向いた。
「……」
「……」
あれ、どこかで―――
「……」
「……」
「「ブフーーーーッ!!」」
ルフィとウソップは水を吹き出した。
もちろんスモーカーとタシギは、その水を頭から被る。
「逃げるぞ!」
「おう!」
「樽を持ったか!」
「おう!」
ルフィとウソップは、樽を3つ抱えて、一目散に店から走り出ていった。
「くそっ……追うぞタシギ!海兵も集めろ!」
「あ、はい!」
スモーカーとタシギも、慌ただしく店を出ていく。
「……」
"バサッ"
ティオも、追ってみることにした。
麦わら一味、バロックワークス、サー・クロコダイル。
この3つに何らかの関係があると分かった以上、情報源は何一つ見逃せない。
「なんで海軍がまたいるんだぁ!」
「知るかよ! とにかく逃げろ!」
「「うおおおおおおっ!」」
後ろから迫る海兵たち。
ルフィとウソップは必死に逃げ回った。
……そんな様子を、ティオは上空から見つめていた。
しばらくすると、ルフィとウソップが逃げる先に、人間5人とラクダが1頭見えてくる。
2人に倣って逃げ始めたところを見ると、どうやら彼らが、麦わらの一味のようだ。
「?」
ティオは首をかしげた。
麦わら一味の中に、なんだか見たことのある顔の女性が混じっている。
色白な肌に水色の髪。
(びび、おうじょ?)
依頼書類に載っていた写真にそっくりだ。
この数年間行方不明とされていた人物だが……
(どうして、むぎわら、と?)
遥か上空で、ティオは首をかしげた。
そのまましばらく観察していると、ビビが走りながら前方を指さす。
指の先にはレインディナーズ。
どうやら、クロコダイルの居場所に乗り込む気らしい。
しかしその前に、海兵隊を振り切りたいらしく、麦わらの一味は三方向に散っていった。
海兵隊も、三方向に分かれる。
ティオはビビが気になるため、彼女の頭上を飛んでいった。
ビビは刀を三本提げた男と走っていく。
(かいぞくがりの、ぞろ……)
イーストブルーで海賊狩りを生業としていた男が、麦わらのルフィの仲間になったという噂にも似た情報は、もちろんティオの耳にも入っていた。
特徴的な三本の刀。間違いないだろう。
「おっと」
「Mr.ブシドー、こっちも……」
2人は突然足を止めた。
前方と後方から挟み撃ちにされている。
しかし、挟み撃ちにしている集団は海兵隊ではない。
手に写真らしきものを数枚持っていて、ビビとゾロが標的であることを確認している。
「バロックワークスのミリオンズよ」
その言葉を聞いて、ティオはわずかに目を細めた。
ビビとゾロが、バロックワークスの"ミリオンズ"なる集団に、標的にされている。
それはつまり、麦わら一味とビビは、バロックワークスと敵対関係にあるということ。
「フン、前門の虎、後門の狼ってやつか……先に行ってろ」
そう言って凶悪な笑みを浮かべたゾロは、ビビを道の先へ押しやる。
「え、でもっ」
「早くしろ!」
「あ、はい!」
少し躊躇したビビだったが、言われた通り先へと走り出した。
どうやら、ミリオンズはゾロが片付けるらしい。
「……」
これはティオにとってはチャンス。
ビビが1人になった。
彼女はバロックワークスをよく知っているらしい。
情報を聞けるかもしれないし、何より麦わら一味と一緒にいる理由が気になる。
ティオはビビの頭上を飛んでいった。
そして彼女が角をひとつ曲がったところで……
"ボンッ"
人型に戻り、彼女の目の前に降り立つ。
「きゃっ! 何!?」
予想通り、驚かれた。
けれど、警戒されている暇はない。
先ほどの様子から察するに、ゾロはすぐにミリオンズを倒して追ってくる。
あの血の気の多さ。
ビビがティオを警戒している姿を見れば、問答無用でティオに斬りかかるだろう。
そうなっては、話を聞き出すチャンスがなくなる。
ティオは、単刀直入に、必要最低限の言葉を口にした。
「くろこだいる、ちょうさ、きた。じょうほう、ほしい」
「クロコダイルを、調査……?」
ビビは困惑した表情で呟きながら、マントの隙間から見える海軍の制服に目を見開いた。
「まさかあなた、海軍の……っ」
血相を変えて逃げ出そうとする。
麦わらの一味と一緒にいるビビからすれば、海軍は敵。
しかし、ティオは回り込んでビビの胸ぐらを両手で掴み、引っ張って
「っ……な、に?」
不思議な行動に、ビビは戸惑うしかない。
「わかる?」
ティオが触れた部分からは、不思議な感覚が流れ込んだ。
ビビはしばらく唖然とする。
「……」
言葉ではない。
ただ、敵意は無いのだという、感情。
それが、ビビの中に流れ込んでいた。
……実はこの力、見聞色の覇気なのである。
ティオは見聞色の覇気に関してだけ、卓越した素質を持っている。
一般に言われる、相手の位置を知ったり、感情を悟ったり、行動を先読みしたりといったことはもちろん、触れてしまえば、相手の思考・記憶まで読めてしまう上に、自分の思考・記憶も伝えて共有できる。
それも生物・器物を問わず万物に対してだ。
「……あらばすた、まもるため、おうじょ、くろこだいる、たおしたい。むぎわらいちみ、きょうりょく、してくれてる」
「なっ、どうして!?」
並べられた言葉は、ビビ本人と麦わらの一味しか知らない事実。
「くろこだいる、しちぶかい、きてい、こえるなら、つかまえる。そのため、じょうほう、あつめてる。しょうこ、みつかったら、かいぐん、うごく」
「それじゃ間に合わないのよ! もうすぐ反乱軍が首都アルバーナを襲撃するわ! 王国軍と反乱軍が争ってしまえば、漁夫の利を得るのはクロコダイルなのよ!」
「ん。ぜんぶ、みた」
「え?」
ティオは、ビビの両頬を挟み込んでいた両手を離す。
「あらばすた、いま、かいぐんしょうたい、ひとつ、いる。しょうこ、あれば、すぐ、うごかせる。すこしは、やく、たつでしょ? じょうほう、ありがと」
言って、軽く頭を下げた。
ビビはひたすらに困惑し、両手を胸の前で握る。
「あなたは一体……」
呟く声と共に見下ろす瞳は、未知なるものへの恐怖に染まっていた。
ティオは無表情な瞳で見つめ返す。
「てぃお、かいへい。くろこだいる、しらべるため、ここきた。そしたらぐうぜん、もんきー・でぃー・るふぃ、みつけた。おいかけたら、おうじょ、いた。おうじょ、かいぞくといるりゆう、おうじょがもってる、ばろっくわーくすのじょうほう、そのふたつ、しるため、あいにきた。そして、おうじょの、きおくとしこう、みた」
「私の、記憶と思考……?」
「(コクン)」
「悪魔の実の能力者、ってこと?」
「はんぶん、せいかい」
「そうなの? ……でも、そういうことだったのね。バロックワークスのスパイとかだったらどうしようかと思ったわ」
ビビは少しホッとした顔を見せた。
しかし、それは束の間、すぐに真剣な表情に戻る。
「理由は分かったわ。協力してくれるのなら嬉しい。……でも、1つだけお願いがあるの」
「?」
「こんなこと、海兵さんに言っちゃいけないんだろうけど……」
少し迷った挙句、ビビは拳を握って言った。
「お願い、ルフィさんに、麦わらの一味に手を出さないで!」
「……」
「無理なお願いだってことは分かってるわ! クロコダイルを倒す協力をお願いしておきながら、海賊を庇うような真似をするなんて……でも、あの人たちは私とこの国を助けるために来てくれただけなの。何も悪いことはしていないわ。……だから」
ビビは瞳に必死な色を浮かべながら、ティオを見つめた。
……ひしひしと伝わってくる、ビビの気持ち。
ティオは、両手を伸ばした。
「!」
ふわりと、ビビに抱きつく。
「どりょく、する。こんかいだけ、むぎわらのいちみ、みのがして、もらえる、ように」
……実際、麦わら一味には、これまでに一般人に害を及ぼした報告がない。
寧ろ、アーロン一味に長く支配されていたココヤシ村からは、麦わら一味を称えるような言葉と、海賊と癒着していた海軍を非難する言葉が届いているとの報告だ。
海賊の中には、こういった、時に海軍の利益となるような一団もいる。
だからといって全面的に信用するわけではないが、海軍にとって利があるなら、今少し世に放っておくことも考慮する。
海軍も世界政府も、口では海賊は絶対悪だと言うものの、完全な白黒ばかりで運営しているわけではないのだ。
だからこそ、王下七武海の制度や、四皇との暗黙の了解が存在する……
先ほど頬を挟み込まれたときと同様に、ビビの中には、不思議な感覚がティオから流れ込んでいた。
暖かくて、安心できるような、とても不思議な感覚。
(この子、いったいどんな能力を持ってるのかしら……)
「おうじょ、きずだらけ」
「え?」
「いやなこと、たくさん。いたくて、つらかった、でしょ?」
ティオは抱きついたまま、ビビの顔を見上げた。
無表情の青い瞳に映るビビは、目を見開いている。
「でも、もうすぐ、おわる」
「……あ、ありがとう?」
励ましてくれているのかと思い、ビビは反射的にお礼を言った。
……実際には、励ましでも何でもなく、良い方向にせよ悪い方向にせよ、どちらかに転べば、今の状況は「終わる」と明言しただけだが。
ティオは抱きついていた腕を緩め、離れていく。
そのままくるりとビビに背を向けた。
「じょうほう、たすかった。ありがと」
"ボンッ"
煙と共に鳥に変わる。
「えっ、そっちはレインディナーズよ!?」
ティオはビビを振り返り、羽ばたきながら答えた。
「しょうこ、つかんでくる」
「そんな、単独で乗り込むなんて危険すぎるわ!」
「これ、てぃおの、しごと」
「せめて私たちと一緒にっ」
ティオは首を横に振った。
そして有無を言わせず背を向けて、レインディナーズへと飛んでいく。
「あ、ちょっと!」
声をかけても、ティオは減速も振り返ることもしなかった。
「……不思議な子」
仕方なくビビは、ティオを見えなくなるまで見つめていた。