「あ、そうか！それでサウスバードたちが"神様、神様"って言ってたんだ！」

神官のシュラに襲われたとき、湖に落ちたチョッパーとガン・フォールとピエールを、サウスバードたちが助けてくれたらしい。

そのときサウスバードたちは、しきりに"神様"と騒いでいたのだ。

「がん・ふぉーる、かみさまだったころ、そらじま、いまより、へいわだった」

「だった？」

「(コクン)…６ねんまえ、ごっど・えねる、あらわれるまでは」

「ゴッド・エネル、つまり、今の神ね？」

「(コクン)…がん・ふぉーる、ひきずりおろして、かみさまのざ、うばった。そらのじゅうにん、きびしいきりつ、おしつけられ、くるしいまいにち。しゃんでぃあ、がまんのげんかい。すうじつまえ、いっせいほうきした」

「なるほど、あのゲリラたちの大群はそういうことか」

「(コクン)…いじょう、き、の、きおく」

「ふふっ、とても興味深い話を聞けたわ。ありがとう、ティオ」

「(コクン)」

さて、全員分の話を聞けたところで、ウソップが話をまとめる。

「よ～し、みんな！ 報告ご苦労！ それぞれの情報で、いろ～んなことが分かってきたんだね～！ だが、今回の目玉情報は、何といってもこれだ！」

"カンッ"とウソップが指し示す黒板には、ジャヤについての情報が書かれていた。

「この島はなんと、猿山連合軍が探し求めていた黄金郷だったわけだ！ しかも熱き男の友情が詰まった島！」

ルフィが目を見開く。

「マジでぇぇぇぇぇ！？」

「さっきあたしとティオが話したでしょ！」

ルフィは空サメを食べるのに夢中で、話を聞いていなかったらしい。

ゾロがサンジに目を向ける。

「んで？ そのマントラってのは何なんだ？」

「知らねぇよ。勘みてぇなもんなんじゃねぇのか？」

「勘、ねぇ……」

ゾロは横目にティオを見下ろした。

その視線が問いたいことに気づいて、ティオもゾロを見上げる。

「あってみないと、わからない。けど、てぃおのと、おなじちから、かもしれない」

「ふ～ん」

つまり、神であるゴッド・エネルとその神官たちは、見聞色の覇気使いかもしれないということだ。

「チョッパー、もっと細かい方がいいか？」

サンジはガン・フォールを診ているチョッパーに、すり潰していた食べ物を見せた。

「うん、飲めるくらいがいいよ。消化管が少しやられてるんだ」

サンジは再び食べ物をすり潰し始めた。

「にっしっし！ 黄金郷か～、こんな冒険待ってたんだーっ！」

「そうこなくっちゃ、話が早いわルフィ！」

「こらこら、お前らゲリラの忠告忘れたのかよ……」

「神が怒るぞ？ 怖いんだぞ？」

「ふふふっ、面白そうね」

「まぁ、海賊がお宝目前で黙ってるわけにゃいかねえよな」

「敵も充分。こりゃサバイバルってことになるなぁ。楽しみだ」

「み、みんな……ちょっとは神を恐れてもいいんじゃねぇか？ バチ当たんぞホントに！」

ルフィが両の拳を伸ばした。

「にっしっしっ！ よーしっ、やるかぁ！ 黄金探しぃぃぃっ！！」

ウソップとチョッパーを除き、一味は全員、嬉々とした表情をする。

場の雰囲気がさらなる盛り上がりを見せた。

「……」

ティオは黙ってみんなの様子を見ていた。

こんな敵陣の真ん中にいて、"ワクワクする"だの、"楽しみ"だの。

むずむずするような感情がたくさん伝わってくる。

それは、ティオにはまったく理解の及ばない領域。



―――の、はずだった。昨日までは。



麦わらの一味と行動を共にしてから、わずか２日。

たったそれだけの間に、ティオにもその領域が少しずつ分かるようになっていた。

諜報員という役柄、敵は避けるものという前提があった。

情報が手に入ればそれでいい。交戦しないこと、見つからないことが第一条件。

クザンにもそう教え込まれた。


……それなのに。


未知へと踏み込むことが、こんなに楽しいと思えることだったのか。

命を落としかねないスリルが、こんなにも胸を焦がすものだったのか。

世界政府より与えられた、とある役職の影響で、世界中のあらゆる知識を持ち、情報と効率を最優先させて仕事をしてきたティオ。

そんなティオの今までは、今日このたった１日の経験にすら及ばない、無味乾燥なものだったのだと思い知る。

「……」

胸の奥がざわざわした。

ジャヤを出航するときに感じた、"ワクワクする"という感覚が、今一度呼び起こされる。

「よし、そろそろメシにするか」

「おう！ メシぃぃ～～！」

「そうね、もうお腹ペコペコだわ」

「今日は色々あったもんなぁ～」

誰のものとも知れず、空腹を告げる腹の音が鳴り響いた。

さっそくサンジが食事の支度を始め、他もそれぞれに行動を開始する。