7. アッパーヤード

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「―――おっ、こりゃ―――ぇや!」

「まったく―――よく―――わね~」


誰かの声。

じわじわと覚醒する意識。

「……」

ティオが朧気に目を開くと、目の前に焚き火が見えた。

「目ぇ覚めたか」

「……?」

降ってきた声を見上げれば、ゾロが自分を見下ろしていた。

なるほど、この絶妙な高さでの心地よい寝起き。

ゾロの膝を借りて寝ていたと気づくのに、そう時間はかからなかった。

「……」

ティオがゆっくり身を起こして見渡せば、空は真っ暗。

いつの間にかルフィ、ウソップ、サンジもいて、麦わら一味勢揃いで、火を囲んでいる。

その火で焼いたらしい空サメを、ルフィが丸ごと頬張っていた。

さらに、白海で出会った空の騎士とピエールもいる。

……何故か療養中のようだが。

「どういう、じょうきょう?」

ナミとロビンが振り返った。

「あ、やっと起きたのね。もう夜よ」

「あなたが寝ている間に、いろいろとあったの。とりあえず、今夜はここでキャンプを張ることになったわ」


"コンコンコンッ"


木と木がぶつかる軽い音が響いて、全員の視線がそちらへ向く。

「は~い静粛に。みんなの発表の最中だ!」

ウソップが手作りの黒板を背に、木の棒を持っている。

どうやら、麦わら一味がそれぞれ体験した物事を、まとめる役をしているらしい。

ティオはそのままゾロの両足の間に座り、話を聞くことにした。

まずはサンジが夕食の準備をしながら話す。

「俺たちは、迷いの森のサトリとかいう、びっくり玉を使う神官と会ったんだ。何が出てくるか分からないびっくり玉にも苦戦したが、マントラとかって技で動きを読まれちまうのが、一番まいったぜ」

コニスとパガヤに誘導されて、試練とやらを受けた3人。

実はその誘導は、ゴッド・エネルが空の住人に強制した法律のようなものだった。

青海から罪人がやって来たとき、そいつらをアッパーヤードへと誘導しなければ、今度は空の住民である彼らが神の裁きを受けてしまうそうなのだ。

なるほど、これでコニスがナミたちを騙した理由も納得がいった。

苦渋の決断だったことだろう。

その誘導の先で、3人は玉の試練を選び、サトリという神官を倒してきたらしい。


……さて、次の報告は、メリー号にひとり残ったチョッパー。

「突然現れたシュラって神官は、なんでも燃やす槍を使うんだ! あと、そいつも動きが読めるみたいで、何度も攻撃をしたんだけど、かわされちゃって……。乗ってる鳥が炎を吐いて、メインマストを燃やしちゃって、空の騎士もやられて……」

チョッパーはメリー号の危機に、ホイッスルを吹いたらしい。

そしてやってきた空の騎士は、チョッパーを守るためにシュラと死闘を繰り広げ、現在は大怪我により、療養中なのだ。

ティオの頭の中で、先ほど見てきた大樹の記憶から、空の騎士の正体が渦巻く。

「みんな大変だったわね……。あたしたちは、この島がジャヤの片割れであることを発見したわ。黄金郷は海へ沈んだのではなく、空へ舞い上がっていたのよ」

その情報は、ティオが大樹から読み取ったものと同じだった。

話によればナミたちは、ティオが寝ている間にモンブラン・クリケットの家の半分を見つけたらしい。

ティオ、樹の記憶はどうだったの?」

ロビンの声で、一味の視線がティオに集中する。

「このしまの、むかしのこと、いまのこと、なにもかも、ぜんぶ、わかった」

「ホントかよ!?」

ティオはできるだけ簡単に、アッパーヤードの経歴を話し始めた。



―――今から400年前。まだこの島が地上にあった頃。

この島にはシャンディアという先住民族がいた。

1000年以上も前から存在したという古い民族だ。

それがあるとき、そう、ちょうど400年前。シャンディアでは不治の病が流行していた。

治療法は分からず、生贄を捧げて神に祈ることだけが、当時唯一できたことだ。

今日もまた1人捧げられる…と、誰もがうつむいたその時、外海からひとりの男がやってきた。

その名は―――



「もんぶらん・のーらんど」

「なっ」

「それって……」

「(コクン)」



―――学者として、その新発見の島を調べようとしたノーランドだったが、シャンディアには古い規律があった。

それは、外海の者を島へ入れてはならないという決まり。

それに従い、当時シャンディアの長だったカルガラは、ノーランドを排除しようとした。

しかし、ノーランドは不治の病の流行を聞くと、その病からシャンディアを救ってやると言い出したのだ。

最初は全く信じていなかったシャンディアの民だが、なんとノーランドはやり遂げた。

島に蔓延っていた病はきれいさっぱり消え、もう生贄を捧げる必要もなくなった。

それにより、生贄候補だったカルガラの娘も死なずに済み、彼は思い直し、ノーランドと無二の親友となったのだ―――



「それから、しばらくして。のーらんど、くに、かえること、なった」



―――400年前当時は、今ほど航海術が発達していない。

一度来た島に、もう一度来られるという保証はなかった。

だから、数年後にまたやってくると言うノーランドが迷わないよう、カルガラは古くから伝わる巨大な黄金の鐘を毎日鳴らすことで、島までの道標にしようとしたのだ―――



「でも、ひげき、おきた」

「……なるほど。ノーランドがジャヤを出てから数年後に、超巨大なノックアップストリームが島を直撃……」

「島の半分が空へと吹き飛ばされたのね?」

「(コクン)」



―――島と一緒に空へ吹き飛ばされた、カルガラを始めとするシャンディアの全住民。

いったい何が起こったのか。ここはどこなのか。

そんなことを考える暇はなく、当時は攻撃的だった空の住人たちが、島へ足を踏み入れてきた。

そして、空には存在しない大地ヴァースを手に入れるためにと、武器を取った空の住人たちに、シャンディアの民は負けたのだ―――



「かるがら、さいごまで、のーらんどの、ため、かね、ならすと、がんばった。……りっぱな、しにざま、だった、って」

「くっ……それで島が空に来てるとも知らねぇノーランドは、数年後に訪れたジャヤで、黄金郷を見つけられずに嘘つき呼ばわりされ、涙のうちに死んじまったってのか……」

「うおぉ~~っ」

ティオの話にウソップとチョッパーは号泣していた。

「それから、そらのじゅうにん、しゃんでぃあのしそん、なか、わるい。はくかいで、あった、げりら、しゃんでぃあの、しそん」

「あぁ、あいつなら今日また会ったぞ? ……なるほどな。それでゴッド・エネルに復讐心を燃やしてたわけか」

「そして、そこの……」

ティオはゆっくりと手を持ち上げ、空の騎士ことガン・フォールを指さした。




「そらのきし、もと、かみさま」




「「「………え?」」」




その場の全員が固まる。




「「ええええええっ!?」」




ティオは半目で耳を塞いだ。

 
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