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42. 深海大冒険
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大量の弁当箱が空になる頃。
お腹が満たされた麦わら一味は、それぞれ、船のあちこちへと散り始めた。
ルフィ、ウソップ、チョッパーは、甲板で走り回っては珍妙な生き物を指差し、何やかやと騒いでいる。
その喧騒に、メインマスト付近で静養中のサンジが、やかましい、と時折 怒鳴った。
ナミとロビンは食後のお茶を飲みながら、のんびりと深海の景色を眺めていて、フランキーとブルックは、バイオリンとギターを持ち寄って合奏しながら話している。
そして、ゾロとティオはというと……
「……」
「……」
慣れ親しんだ昼寝スポット、マスト頂上のトレーニングルームにいた。
2年前と寸分違わぬ位置に転がった筋トレグッズ。
キラキラと窓から差し込む、海を隔てた太陽の光。
ゾロは吸い寄せられるように定位置へ向かい、ベンチにドカッと腰を下ろして窓の外を見た。
ティオはというと、入り口に立ったまま、ジッとゾロの横顔を見ている。
いつもなら横に座って膝に寝転んでくるのに、いつまでも寄ってこないので、ゾロは不思議に思ってチラリと様子を窺った。
視線が合った瞬間に、ティオはようやく歩き出す。
一歩、一歩、ゾロの目の前まで近づいてくると、隣に座るのではなく、向かい合わせで両脚の間に膝をつくようにして、ベンチに膝立ちした。
そして、両手でゾロの頬を挟み、少し上を向かせて、覗き込むように見下ろす。
「……」
「……」
ゾロはされるがままにティオの顔を見上げていたが、ティオが何も言わないので、眉間にしわを寄せた。
「何だよ」
「……」
ティオは無言のまま、右の親指で、閉じられたゾロの左目を撫でる。
そして、何かを問うように首を傾げた。
ゾロは気まずそうに、口を引き結んで目を逸らす。
ティオは何も言わず、ただ呆れ顔でため息をつくと、そっとゾロの首に両腕を回して抱きついた。
一方。
海中の景色に一通り騒いだルフィ、ウソップ、チョッパーは、甲板の真ん中で寝転がった。
「すげ~なァ深海」
「もうどれくらい沈んだんだ?」
「魚人島まで半分過ぎたかな」
そこに、ブルックとフランキーが歩いてくる。
「ヨホホッ、随分と光も届かなくなってきましたねぇ」
「受光層を抜けて、薄明層も終わりってトコだな。1000mは越えたろう」
「んぇっ!? まだ1000mなのか!?」
「これからまだ9000mも潜るのかよ! 深海フケ~!」
……などと盛り上がっていると、マスト頂上のスピーカーがONになった。
『きんきゅう、れんらく。6じの、ほうがく、ふね、くる。てきい、まるだし。きをつけて』
「……」
「……」
「……」
「「「はぁ!?」」」
鈴の鳴るような声で淡々と言われたため、理解できるまで数秒を要した。
ルフィが眉間にしわを寄せて海中を見つめる。
「ん~~~? 船なんて見えねぇぞ? ヤベェ感じもしねぇし」
まだルフィの覇気には引っかかっていないようだ。
ウソップが望遠鏡を取り出し、目盛りを最大にして注意深く覗き込むと、ようやく砂粒のような船が見えた。
「船……船……。……あ! いたぞ! ドクロの旗、海賊船だ! すんげぇ遠いが、牛みてぇな魚の後ろにくっついてる! ……いや、ありゃ魚が船引っ張ってんぞ!」
途端、ルフィの瞳が輝く。
「なにーっ!? 魚が船引いてんのか!? 俺たちもやろうぜそれ!」
「緊急事態だっつってんだよこのお気楽船長! ……ナミ! すぐに船の速度を上げてくれ! 奴ら ものすげぇ速さだ! 数分で追いつかれる!」
緊急連絡と聞いて、上階のテラスから降りてきたナミは、焦りに表情を歪めた。
「無理よ! 海中航行は海流を帆に受けて進んでる! これ以上の速度なんて出ない!」
青ざめたチョッパーがウソップの足元で走り回る。
「ああああ~~~っどうすんだァ! いつもみたいに戦ったらシャボン玉割れちまうよォ!」
そこに、ゾロとティオがのんびりと降りてきた。
「騒ぐことでもねぇだろ。シャボンの外に出て斬ってくりゃいいだけだ」
すかさず、ゾロの太腿にティオが軽く指銃を打ち込む。
"ドスッ"
「ぃぎ!?」
「ばか。いま、このふね、そくど11のっと、じそくにして、やく20きろ。そとでて、どうやって、もどってくる、の」
人間の泳ぐ速度などたかが知れている。
一味の中で泳ぎが得意なサンジでさえ、最速8km出るかどうかだ。
その当人は、今は意地で立ち上がっているものの、極度の貧血でまともに動くことも出来ない。
「うみの、なかじゃ、てぃお、むかえ、いけない。ぎょじんとう、つくまで、おとなしく、して、ろ、まいごまりも」
「……テメェ、2年で無駄な口ばっか回るようになりやがって」
「……」
"ゲシッ!"
「のァ!?」
ゾロは、先ほど踏まれた足を、再び踏みつけられた。
2人を見て微笑むロビンの横で、ウソップが
「喧嘩してる場合か
ティオは半目でウソップを見上げた。
「あと、10びょうで、できる?」
「10秒……はぁあ!? もうすぐそこまで来とるぅぅ!?」
「ぎゃあああっ!!」
対策を検討している間に、敵船はサニー号の背後まで迫っていた。
白に緑の斑模様が入った、牛のような海獣に引っ張られ、サニー号より大きな帆船が隣に並ぶ。
「いいなァ~あれ! やっぱりやろうぜ俺たちも!」
目を輝かせて海獣を指差すルフィを、ウソップが
「ちったァ焦れよ! 2年でのんき度増し増しかァ!」
ウソップがつい反射でツッコんでいる間に、敵船が体当たりしてきた。
"ゴゴォッ!"
互いのシャボン玉コーティングがぶつかり、メリメリと音を立て始める。
ブルックがカキョンと大口を開けた。
「いや~~~っどうしましょ! 船を押し付けて来ましたよ!」
よろけながらも踏ん張ったナミは、敵船をキッと睨みつける。
「まさか、シャボン越しに乗り込んでくる気じゃっ……。……ん? あれ……あの海獣って、モーム?」
緊急事態にもかかわらず……いや、緊急事態だからこそ、現状を打開すべく拡がったナミの視野が、何かの可能性を模索し始めた。
その足元を、船の揺れに逆らえず、チョッパーが泣きながら転げ回る。
「やめでぐれ~! シャボン玉割れちまうよ! 俺まだ死にだぐねぇ~~~!」
一方、敵船の甲板には、武器を手に準備万端の海賊たちが並んでいた。
その先頭で、船長と思しき黒髪の男が、ダラリと舌を垂らす。
「ケヒヒヒッ! 乗り込むぞ! 野郎共さんたちよ~ォ!」
「「「はえっ、はえ~~~っ!!」」」
謎の掛け声と共に、海賊たちはシャボン玉の接着面へと押し寄せた。
それを横目に見つつ、ナミは船首へ走り、海獣に声を掛ける。
「ねぇちょっと! あんた! アーロン一味のモームでしょ!?」
「……ンモ?」
海獣、というか海牛は、聞き覚えのある声に振り返った。
「あたし! ナミよ! アーロン一味にいた!」
「……。……ンモォォ!?」
声だけでなく、特徴的なオレンジ色の髪を見て、海牛は青ざめる。
そして、他にも見覚えのある男たちがいることに気づき、真っ白になった。
女性陣の動向を気にしていたサンジが、ナミが海牛に話しかけているのに気づき、その海牛を見上げて、ルフィに声を掛ける。
「なァ、ルフィ。アイツ見たことあるよな」
「んぇ? ……ん~~~、そうだっけ?」
……その頃。
サニー号の甲板には、ついに海賊船の船長が乗り込んできた。
「野郎共ォ! 俺に続いちゃえ~!」
「「「はえ~~~っ!!」」」
チョッパーがこの世の終わりのように叫ぶ。
「あ~~~っ入ってきたァァ! 誰だコイツゥゥ!!」
あぁ、と、何かを思い出すように呟いてから、ティオが答えた。
「ぬれがみ、の、かりぶー。けんしょうきん、2おく1000まんべりー。ことしの、るーきーの、ひとり」
まだ会ったことがなかったため、覇気の"声"では誰か分からなかったが、顔を見れば一発で正体が分かった。
……当然のことながら、この2年間、ティオは情報のアップデートを欠かしていない。
目の前で意気揚々としている男の情報も、もちろん完璧に記憶している。
「ケヒヒヒッ! コイツらが呆気に取られてる内にィ~、船内皆殺しにしちゃいやがれ~ェ!」
「ンモォォ!!」
"ゴゴゴゴッ!"
「「「はえ~~~っ!?」」」
突然、海牛・モームが、猛スピードで泳ぎ始めた。
どうやら、過去に散々痛めつけられたルフィたちを見て、恐怖が頂点に達したらしい。
サニー号に乗り込もうとしていたカリブー海賊団は、船長だけを敵船に残し、モームに引かれるままサニー号から離れていく。
「なんてこった!」
「カリブー船長だけあの船に!」
「兄助ェェ!」
「どうした海牛!」
「何故だ海牛!」
慌てふためくクルーたち。
……しかし、船長のカリブーは、まだ自分が取り残されていることに気づいていなかった。
「さァ野郎共さんたち~、挨拶代わりにィ、ガトリング
いつも、自分の命令には合いの手を入れてくれる部下たちの声が、聞こえない。
「……」
「……」
「……」
目の前の麦わら一味は、全員 真顔で自分を見ていて、妙に冷めた空気が流れている。
カリブーは、ひょいっと自分の背後を振り返った。
「……。……んなァァアア!?」
そこには、誰もいなかった。
いないどころか、船もない。
フランキーが無言でカリブーを担ぎ上げ、船の外へ放り投げようと欄干へ歩み寄った。
「ひぇッ!? お、およしィィ! 海に放り出しちゃうのだけァおよしったらばよォ~~ウ! それだけァお前さん~! それだけァやっちゃいけねぇ! 人の命をそう粗末にしちゃうモンじゃねぇ! 神が、そう! 神が見ちゃってるぜ~~~!?」
必死の命乞いに、フランキーは馬鹿々々しくなってきて、カリブーを甲板に投げ捨てる。
「はん、調子のいいこと言ってんじゃねぇよ。皆殺しだのガトリング
「あ、あああれは言葉の綾ってモンでぇ!」
「綾になってねぇよ」
一応警戒して、一定の距離で囲んでいる男たちの間を、ナミが割って進み出た。
「ねぇちょっと、さっき船を引いてた海牛、どうしたの?」
「ァアン? ……おっとォ、こりゃあン~、カ~ワイ~コさ~ん、アンタァ、泥棒猫だなァ~?」
ペロリと、カリブーが長い舌をチラつかせた瞬間、その頭にサンジの蹴りが叩き込まれる。
「何ちゅう
「オブゥ!?」
「ンナミさん、これで大丈……ブフーッ!?」
ナミが視界に入った瞬間、サンジは再び鼻血を吹いた。
ウソップとチョッパーが呆れ顔をする。
「もう面倒くせェなお前それ!」
「はぁ……もっと刺激の少ない写真でリハビリを始めないとかな……」
一方カリブーは、顔が凹んだまま声を絞り出した。
「……あの海牛は、ただその辺でとっ捕まえた奴だ……ああいうのに船を引かせるのが、上級者の海中航行なのよォ……」
それにピンと反応するのが、我らが船長。
「何ィ!? そうなのかァ!? よォしオメェら! デッケェ海獣を探せェ!」
「お前はホントそればっかだなオイ……」