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42. 深海大冒険
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無事、シャボンディ諸島を出港することが出来た、麦わら一味。
彼らを乗せたサウザンド・サニー号は、ゆっくりと海底へ向かって潜航していた。
「海面がもう、あんなに遠くに……」
静かに感動しているロビンの横で、フランキーもサングラスを上げる。
「こりゃ絶景だ。潜水艦でも、こんなにワイドな窓はつけられねェからなァ」
一方、チョッパーはあたふたしながら景色を見渡す。
「沈んでくぞ~どんどん! 本当に水入ってこねぇのか!? 心配だァ俺~っ」
ナミやウソップも、海上では味わえない感覚に
「人の住む世界が遠のく感じ……ドキドキする……」
「ちゃ、ちゃちゃ、ちゃんと地上に戻れんのかァ俺たちっ……こ、恐いわけじゃねんだけど……」
そんな不安そうなクルーたちを
「はははっ! 海はキレーだな~!」
「ヨホッ! ちょっとルフィさん、ルフィさん、横見て下さいよ~!」
「ん? うおおっ!?」
ブルックに誘われ、ルフィは船の欄干に駆け寄った。
目の前には、ヤルキマンマングローブの巨大な根が佇んでいる。
サンジ、ゾロ、ティオも、釣られて欄干に寄った。
「そうか……考えてみりゃ、シャボンディ諸島は元々、でっけェマングローブなんだよな」
「俺は一度見た」
「乗り間違えた船でな! 黙ってろ! 人がせっかく感動してんのに!」
「ぁ"あ"?」
2年ぶりでも変わらず喧嘩をするサンジとゾロ。
その間に挟まったティオは、じっと海中の景色を眺めた。
記憶の中には、海中航海をした政府や海軍の人間たちが見た景色がある。
……そして、表の歴史からは名を消された者たちの、何百年も前の記憶も。
その全てが、目の前に広がる光景と重なるけれど、やはり、自分の目で見る景色は、記憶の映像より何倍も色鮮やかだった。
「……」
ティオの青い瞳が、海の青色を取り込んで深みを増す。
時折、マングローブの根の隙間から届く陽の光で、きらきらと宝石のように色が変わった。
何事も無ければ、このまま1時間でも2時間でも感動に浸れそうだが、この騒がしい船で、何も起きないワケがない。
早速、ビビリトリオのウソップとチョッパーが、ビビリ全開で騒ぎ出していた。
「お、おおおい! 樹の根っこの後ろになんかいるぞ!」
「デケェェ!? 魚か!? 襲ってこねぇのか俺たちのこと!」
ティオが半目で、その巨大な魚を見上げる。
「おそう、どころか、このふね、にも、きづいて、ない」
「そうなのか! デカすぎて逆に助かったってことだな……」
「そうか、良かった……」
安堵する2人の横で、船長は真逆の意味で はしゃいでいた。
「ワクワクすんな~! 海中の大冒険! 夢みてぇだ! ……ん? お! 魚ァ! 手ェ伸ばしたら掴めそうだぞコンニャロ!」
言い切る前に体が動き、ルフィは船を包むシャボン玉に飛びついて、魚を取ろうと藻掻き始める。
一方、少し離れたところでは、ゾロが刀を抜こうとしていた。
「こっちにもウマそうな魚がいるな」
そんな2人に気付いたウソップとチョッパーは、光の速さで拳を振り上げる。
"ドカッ、ボコッ"
痛い音がして、ルフィとゾロの頭に大きなたんこぶが出来た。
「やめんかテメェらァ!」
「シャボン玉割れたらどうすんだよ! しばくぞコンニャロっ、二度とすんな!?」
ウソップとチョッパーに言われても、よく分かっていないような顔で、ルフィとゾロはたんこぶをさする。
それを見て、サンジがため息と共にタバコの煙を吐いた。
「ったく……。ナミさん、コイツらが馬鹿やらねぇうちに、コーティング船の注意事項なんかを……」
「そうね。レイリーさんにメモ貰ってるから、じゃあみんな! 説明を「動いた! 生身の美女!」
ナミが振り返った瞬間、サンジは再び鼻血を吹き出し、勢いよく甲板から飛び上がる。
当然、シャボン玉の壁にぶつかり、グニッと一点を尖らせた。
「ぎゃああああっ割れる割れる割れる!」
「どんだけ飛ぶんだ鼻血で!」
「シャボン玉割れたらどうなるんだ俺たち!?」
「ティオ~~! 何どがじでぐで~~!」
「……だから、ひっぱら、ないでって、2ねんまえも……」
2年経っても、困ったときの頼みの綱にされているティオは、ウソップとチョッパーに左右から引っ張られた。
しかし、その表情には一片の焦りもない。
「あれなら、しゃぼんだま、われない。だいじょぶ」
「「へ……?」」
"キュポンッ!"
ティオの言う通り、シャボン玉は割れることなく、サンジは海へと突き抜けた。
「うわあああっサンジが飛び出たァァ!」
ティオは小さくため息をつき、ルフィの背中にポンと手を添える。
「るふぃ、て、のばして、つかまえて」
本来のサンジであれば、泳いで戻って来るだろうが、今の状態では無理だろう。
他のメンバーに泳いで迎えに行ってもらってもいいが、ルフィが手を伸ばすのが一番早い。
「捕まえりゃいいんだな? よォし、サンジ~~!」
ルフィは右手をシャボン玉の外まで伸ばし、サンジの腕を掴んで引っ張った。
「うぁ……海だから、力が抜けて……」
ウソップとチョッパーが、ルフィの体を支える。
「サンジを離さなきゃ それでいい! どうせ海の力でお前の腕は勝手に縮む!」
「頑張れルフィ!」
海に力を奪われ、勝手に縮んだルフィの腕は、掴んでいたサンジをシャボン玉の中へ引っ張り込んだ。
"ドシャァッ!"
鼻血の吹き過ぎで青白くなったサンジは、甲板に寝かされた。
チョッパーが、ありったけの輸血パックを取りに急ぐ。
サンジの腕に繋がれた、大量の輸血管を見下ろして、ゾロさえも軽く引く。
「……2年でアホさが増してねぇか?」
隣に来たティオも、半目で輸血パックの行列を見上げた。
「まだ、たたかって、も、ないのに」
チョッパーが仲間に輸血を施すのは、大抵、大きな戦いの後だ。
まだ何も起きていないのに、過去最多の輸血パックを繋いでいるのが、滑稽に思えて仕方ない。
ふと、ティオは、何か訊きたそうな感情を感じて、その気配を見上げた。
片眉を上げたゾロと、視線が合う。
「なに?」
「お前……」
ポン、ポン、と、ゾロは何かを確かめるように、ティオの頭に何度か手を置いた。
そして……
「背ェ縮んだか?」
「……」
"ドカッ"
「んぎっ!?」
ティオは思いきり、ゾロの足を踏みつけた。
「しつれい、な。のびてない、だけ」
ムスっと頬を膨らめて、そっぽを向く。
ゾロは、しゃがみ込みそうになるのを何とか堪え、こめかみに血管を浮かべて身を震わせた。
一方、大量に輸血されながら、未だに美女効果で震えているサンジの傍には、ブルックがしゃがむ。
「不憫な……2年の間に女性大好きサンジさんの身に一体何が……この分では、念願の人魚さんたちなどに会ってしまったら……」
一通りの治療を終えたチョッパーが、腕で額を拭う。
「まさか、こんな一度に輸血することになるなんて……ストックが全部なくなっちまった……魚人島で献血を募らなきゃな。魚人や人魚は、人間と血液同じかな……」
ティオが深く頷いた。
「(コクン)…おなじ、だよ。でも……」
「そうか! 良かった! サンジの血は珍しいから、魚人や人魚の血が人間と違ったら、どうしようかと思った」
「めずらしい、の?」
「あぁ、S型Rh-だからな」
「……」
ティオの表情が暗くなった。
サンジのためにストックされていた輸血パックは、今繋がれている分で最後……
……魚人島の歴史を知っている者として、嫌な予感が背筋を寒くさせた。
一方、他のクルーたちは、シャボン玉の特性に興味津々だ。
「つまり、この船を包むシャボンコーティングは、シャボンディ諸島のシャボン玉と同じ特性を持っているのね?」
ロビンが訊くと、ナミが頷く。
「そ。基本的には同じなの。ある程度まで伸びて、それ以上は突き抜ける。極端な話、船に襲いかかる海獣に向けて、銃や大砲を撃ち込んでも、シャボンは割れないんだって!」
ウソップが瞬きを繰り返した。
「じゃあ、逆に何があると割れるんだ?」
「一度に多数の穴が開いたりすると、さすがにダメみたい。たとえば、海獣や海王類の牙で噛まれたら、ほぼアウト」
「って言ってる側から6時の方向に海獣だァァ!」
「ぎゃああああっ!! 大砲準備ィィ!」
ウソップとチョッパーが再び騒ぎ出すが、ティオが2人の頭を叩いて鎮める。
「なんども、いわせ、ないで。こんな、ちっちゃな、ふね、みえてない」
よく見れば、船の後ろに迫っていた巨大な魚類は、もう一匹の魚類と喧嘩していただけだった。
「ホッ……なんだ喧嘩か~」
ナミがニコっと口角を上げる。
「気をつけるのは、今みたいな海の生物と、障害物ね。岩や海溝にぶつかって、中の船そのものが壊れるのも、マストや船体の割れ口でシャボンが割れちゃうから。外にだけ気をつけていれば、中からは余計なことしなきゃ大丈夫みたい」
「そうか、意外と強ェんだな!」
「岩や海溝なら動かねぇから避けるの簡単だし、海獣はティオが気付いてくれるから大丈夫だな!」
「でも……」
「「?」」
「魚人島を目指す船は、到達前に7割沈没するので注意……ですって」
「ひぇぇええっ!?」
「何が起きるんだよォォ!」
ナミの説明で、余計に恐怖を煽られた2人。
一方、鋼の心臓を持つルフィとゾロは、何一つとして話を聞いていなかった。
「お! また魚の群れだ! 俺の
「へぇ? じゃあ、どっちが多く漁れるか勝負しようじゃねぇか」
"ゴチンッ!"
2人の頭に、再度たんこぶが出来上がった。
「テメェらナミの話聞いてなかったのか! 多数の穴はダメだっつっただろ!」
「しばき倒すぞお前ら二度とすんな!?」
「ちくしょォ~……魚人島にはハチの奴が案内してくれるって言ってたから、もっと安全に行けるつもりでいたよォ~!」
メソメソするネガティブキングと対を成して、ポジティブキングのルフィは、女ヶ島から背負ってきたリュックの存在を思い出した。
「そうだ! 俺、弁当いっぱい貰ってきたんだ! サンジもああだし、みんな! メシにしようぜ~!」
途端、チョッパーとブルックが瞳と
「わあ~! 俺 お腹ペコペコだよ!」
「ヨホホ! 私もホネペコ~!」
「よ~し いっぱい食え~!」
ルフィはリュックの口を開け、餌でも撒くようにぶちまけた。
詰められていた大量の弁当が、ゴロゴロと転がり出る。
けれど、さすがルフィのことを2年も見ていた九蛇海賊団だけあって、雑過ぎるルフィの扱いに耐えられるように準備してくれていた。
弁当は1つずつしっかりと風呂敷に包まれ、蓋が外れて大惨事にならないよう工夫されている。
中身は多少、混ざり合ってしまったかもしれないが……
弁当の周りにクルーたちが集まってくると、フランキーは少し考えて、ナミに声を掛けた。
「ナミ、船はもう少し安定してんのか?」
「ん? えぇ、今はまだ大きな海流に乗ってるだけだから、しばらくは何もしなくていいわよ」
「なら、全員に、俺から話しておかなきゃならねぇことがある。弁当食いながらでいいから、聞いてくれ」
ルフィの顔が、キュっと真面目になった。
「フランキー、話ってのは、もしかして……ロボの秘密か~!?」
真面目な顔から一転、目から光を放ち始めたルフィに並び、ウソップとチョッパーも、一緒になって瞳を輝かせる。
「うおおおおっ! どんな秘密が出てくるんだァ!?」
「武器か!? 合体か!?」
「いや残念だが……ザンネンダガチガウロボ」
「「「ロボ語ォ!? スゲェェ!!」」」
一見、ふざけているように見えるが、フランキーが至って真面目な話をしようとしているのを、ティオは感情から察していた。
何の話をするのだろうかと、幾つか候補を想像しながら、当然のように、既に座っていたゾロの膝の間に滑り込む。
「……」
「……」
ゾロは、先ほど足を踏まれた手前、若干嫌そうな顔をした。
もちろんティオにも、その感情は伝わっている。
けれど、
ティオは後ろを振り返ってゾロを見上げると、ジト目でフンと鼻を鳴らし、前を向いて居座り続けた。
無言ながらも言葉を交わしているような2人を見つめ、ロビンはにこりと微笑む。
その間にも、仲間たちはそれぞれ好きな弁当を開けていった。
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