39. 約束

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レイリーとルフィは、まず、見聞色の覇気から修行を開始した。

初歩の初歩として、目に頼らず気配を感じられるようになるため、レイリーはルフィに目隠しをさせる。

「今から君を攻撃する。気配で感じ取ってかわしてみなさい」

「分かった!」

レイリーは足元の木の棒を拾い、右斜め上から軽く振り下ろした。


"ヒュッ、パコンッ!"


「痛ってェェ!?」

軽い打撃だが、ルフィは数メートル吹き飛んだ。

「おいレイリー! 今 覇気 使って殴っただろ!」

「当然だ。痛みを感じて危機感を覚えなければ、短期間で覇気の習得など出来ん。さぁ、もう一度だ」

「…………は~い……」

ルフィは、じいちゃんみたいなことするなぁと思いながら、渋々、レイリーの前に戻ってきた。



……それから。

10回に1回ほどのペースで攻撃を避けるも、それ以外は何度も木の棒を叩き込まれた。

"ガンッ!"

「痛でェェっ!」

「こらこら、手を振り回して攻撃の位置を探ろうとするな。気配で感じられなければ意味がない」

「分かってるけどよ~~っ」

「そら、もう一度」

「~~~っ」

ルフィは大人しく座禅を組み、背後のレイリーの気配に全神経を集中する。

レイリーもまた、ルフィの気配に集中して、どんな動きをするか感じながら棒を振り上げた。

しかし……


「……?」


無意識に広げている見聞色の覇気に、ルフィ以外の人間の気配が引っ掛かる。

その方角へと顔を上げれば、青空の中に、黒い点が見えた。

それは、次第にこちらへ近づいてくる。

一度感じたことのあるその気配に、レイリーは頬を緩めた。

一方、いつまで経っても攻撃が来ないルフィは、眉をひそめて首を傾げる。

「レイリー? どうかしたのか?」

「ルフィ、修行は一旦中止だ」

「んぇ?」

「君にお客さんだぞ」

お客って何だ?

ハンコックたちがメシ持って来てくれたのか?

……などと考えながら、ルフィは目隠しを外す。

そして、レイリーと同じ方角を見上げ、目を大きく見開いた。


"バサッ……"


聞き覚えのある羽音。

見覚えのある小さな濃紺の姿。


"ボンッ"


見知った変身能力。

拡がる煙の中から現れたその姿は、恋焦がれた仲間たちのうちの1人。


「るふぃ!」


飛びつくように降ってきた少女の体を、ルフィは戸惑いながら抱き留めた。

「……はは、はっ……ティオ!」

目の前で長い金髪が揺れているのが、信じられない。

夢ではないか、幻ではないか。

そう思うけれど、腕に、体に、し掛かる重みは間違いなく、現実だ。

「うははっ! ティオ~! 久し振りだなァ!」

ルフィは ぎゅっと、細くて小さいティオを抱き締めた。

「るふぃ……よかった……ぶじで、げんきでっ」

ティオは、涙で青い瞳を濡らしながら、すりすりとルフィの頭に自分の頭をすりつける。

「お前も無事でよかったよ! 1人か? みんなは一緒じゃねぇのか?」

身を離したティオは、じっとルフィの顔を見つめ、ふるふると首を横に振った。

てぃお、ひとり。みんな、ばらばら、とばされて、まだ、あってない」

「そっか」

「でも、ぜったい、ぶじ。だいじょぶ」

「ははっ、そだな! けどティオ、よく俺のいるとこが分かったな」

ルフィは腕を緩め、ティオを降ろす。

ティオはウエストポーチを探り、女ヶ島のエターナルポースを取り出した。

「これ、つかった」

深海のような瞳が、一旦、レイリーに向けられる。

「れいりーの、びぶるかーど、しゃぼんでぃ、さしてた。けど、それは、きけんすぎ、ありえない。れいりー、かーど、しゃぼんでぃ、おいて、るふぃ、おいかけて、いっしょ、まりんふぉーど、もっかい、いった、おもった」

レイリーは顎髭あごひげを弄りながら、少し目を細める。

「ほう……。しかし、よく女ヶ島だと分かったな。君も女の勘を信じてここに?」

ティオはルフィの腕の中で、こてりと首を傾げた。

「かん、なんて、てぃお、しんじない。……るふぃ、いんぺるだうん、いった、ひ、ぎゃくさん、すると、もともと、ここしか、まにあうしま、なかった。でも、はんこっく、おとこ、きらい。さいしょ、ありえない、おもった。けど、まりんふぉーど、で、せんそうの、きおく、よんで、はんこっく、じぶんから、るふぃ、たすけてる、おもった」

レイリーは安堵したように口角を上げる。

「なるほど、そういう推測か。ならば、ここが海軍にバレる心配はなさそうだ」

「(コクン)」

レイリーとしては、ティオがこの場所を推測できた時点で、海軍が同様の推測をして追いかけてくる危険性を鑑みる必要があった。

しかし、"記憶を読む"という限られた人間にしか出来ない能力があったからこそ、この場所を察することが出来たと分かれば、追っ手の心配はいらない。

ティオは、ルフィの方へ向き直り、僅かに眉を下げる。

「……ごめん、るふぃ」

「ん?」

「いっしょ、たたかえなくて。……いつも、るふぃ、てぃおのこと、たすけてくれる。こんどは、てぃおの、ばん、だった。……でも、まにあわなかった」

ルフィは何度かまばたきを繰り返すと、ニカッっといつも通りに笑った。

「ししっ、気にすんな! ……そりゃあ、エースが死んじまって、1回、なんもかもどうでもいいとか思っちまったけどよ……俺にはオメェらがいるって、ジンベエが教えてくれたんだ!」

ポンと、ルフィの手がティオの頭に乗り、ぐしゃぐしゃと撫で回す。

「それに、ティオはこうやって来てくれたじゃねぇか! ありがとな!」

ティオは、目頭が熱くなるのを押さえて、微かに口角を上げた。

「おやすい、ごよう、きゃぷてん」

……本当は、新聞のメッセージ通り、2年後までルフィに会うつもりはなかった。

けれど、2年後に向けて、レイリーにどうしても確認したいことが出来たから、期せずしてルフィにも会うことになった。

……会えて、良かった。

一体どれだけの悲しみに打ちひしがれたのか、心が裂けそうなほど心配だったけれど、こうして元気であることを確認できたのだから……

ティオも、ここで俺と一緒に修行するか?」

それは、甘美な誘いだった。

この数日間、仲間に会いたくて寂しく思っていたのは、ルフィだけではない。

ティオも勿論寂しく思い、元CP9に仲間の影を重ねては、早く会いたいと憂いていた。

……けれど、ここで自分を甘やかしてしまっては、2年後の海でやっていけない。

ティオは決意を込めて、首を横に振った。

てぃお、もどるとこ、ある。そこで、つよく、なる。2ねんご、こんどこそ、るふぃ、たすける、ね」

すると、ルフィはニカッと笑顔を浮かべる。

「そっか! 俺ももっともっと強くなるからな! ティオが使ってる"覇気"ってやつも、使えるようになるぞ!」

「はき、れんしゅう、してたの?」

「あぁ! これがよォ、レイリーの攻撃が全っ然よけられねェんだ!」

ティオは、レイリーに視線を向けた。

レイリーは肩をすくめて見せる。

……まぁ、一朝一夕に出来ないのは当たり前だ。

ふと、レイリーは良い案を思いつき、ルフィが使っていた目隠しを、ティオに差し出した。

「一度、手本を見せてやってくれないか? ルフィは飲み込みがいい。実際に覇気を使っているところを見た方が、習得が早いだろう」

「(コクン)」

ティオは目隠しを受け取ると、緩慢な動作でしっかり両眼を隠す。

そして、レイリーの目の前に立った。

「ルフィ、ティオ君の動きをよく見ていなさい」

「おう!」

レイリーは、先ほどまでルフィにしていたように、木の棒を構えてティオと対峙する。

そして、あらゆる方向から攻撃を加えた。


"ヒュッ……フォンッ、ビュオッ……フォンッ"


一撃たりとも、かすりもしない。

ひらひらと、風に踊る木の葉のように、レイリーの攻撃を躱し続けるティオを、ルフィは地べたに座ってじっと見つめた。

……今までも、ティオからは他の仲間とは違う、不思議なオーラのようなものを感じていた。

その正体が何なのか、考えたこともなかったけれど、"覇気"について教わった後に見ると、よく分かる。

あの不思議なオーラこそが、覇気だったのだ……

ひらり、と最後の一撃を躱して、ティオは地面に降り立った。

揺れ動いていた長い金髪が、ふわっと元の場所に落ち着く。

目隠しを外したティオは、ルフィの顔を見て首を傾げた。

「でき、そ?」

「あぁ、なんか分かった気がする!」

「がんばって、ね。…………?」

突然、ティオは後ろを向く。

同時に、レイリーも同じ方向を見た。

ルフィだけが、きょとんとした顔で辺りを見渡している。

「ん、ん? 2人共どうかしたのか?」

レイリーが口角を上げ、ルフィの方へ向き直った。

「一足飛びになってしまうが、実践訓練もいいだろう。ティオ君の動きを見て掴んだことを、本物の敵を相手に試してみるといい」


"ズシンッ……"


大きな足音で、ルフィはようやく、こちらに向かってくる気配に気づいた。

木々を薙ぎ倒し、サイのような巨大生物が姿を現す。

「さぁ、あの巨体を相手に、しばらく逃げ回ってみなさい」

「ぇええっ!?」

ギロリと、サイは3人に狙いを定めた。

蹄で地面を引っ掻き、まるで闘牛のように突っ込んでくる。

レイリーはティオだけを小脇に抱えて跳び、ルフィは慌てて逃げ出した。

「うわあああああっ!!」

メキメキと木々を倒しながら、サイは逃げるルフィを追いかけていく。

その背中を見送りながら、レイリーはストンと地面に降り立った。

そして、されるがままに抱えられていたティオを、そっと降ろす。

「今は、あれを相手に10分逃げきれれば上々だな」

(……きちく…………)

ティオは、心の中でルフィを応援しながら、拝むように両手を合わせた。

そこに、レイリーの声が降ってくる。

「さて。ルフィが限界を迎えるまでの間に、少し話をしようか。……君も、そのために来たんだろう? ティオ君」

振り返ったティオは、無表情の瞳でじっとレイリーを見つめた。

「2年後に約束をした手前、君がただルフィに会いたいという気持ちだけで、ここに来たとは考えにくい。……何か、私に話があって来たんじゃないか?」

ティオはコクンと深く頷く。

「かくにん、したいこと、いくつか、ある。2ねんご、るふぃ、かいぞくおう、するために」

2人の間を、一陣の風が駆け抜けた。

 
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