夢主の名前を決めて下さい。
39. 約束
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
眼下に、晴天を受け
まさか元CP9たちが、自分の話で盛り上がっているとは夢にも思わずに。
ティオは真っ直ぐに、マリンフォードを目指していた。
セント・ポプラから、レッドラインの麓にあるマリンフォードまでは、そう遠くない。
船なら数日かかる距離も、鳥の翼であれば、ものの数時間で目的地が見えてきた。
「……」
太陽が真南から少し西へ傾く、昼過ぎ。
ティオは、小さく見える荒れ果てた海軍本部を見つめ、注意深く覇気を広げた。
……ここから先は、文字通り敵の本拠地。
今は戦争直後で、荒れた世界の平和を維持すべく、実力者ほど外勤に回されているはずだ。
とはいえ、一定数の守備隊は残されているだろう。
ティオほどではなくとも、中将以上の見聞色の覇気使いには、一度感じたことのある気配を覚えている者もいる。
そういう輩に見つからないよう、こちらが先に要注意人物を探知し避けなければならない。
「……」
ぐんぐんと広がる覇気は、まだ遠いマリンフォードより先に、近場の海中や空中の生物を探知する。
その中に、海上でぎゅっと凝縮された、複数の人間の"声"が混じった。
「……」
ふと、その凝縮された人間の中に、よく知っている"声"を見つける。
「……」
ティオは、考えた。
元CP9のメンバーには、海軍や政府の人間との接触はしないと宣言したけれど、接触した方が計画が上手くいきそうな相手なら、話は別としてもいいはずだ。
右の翼を傾け、ティオは2時の方角へ進路を変える。
そして、聴こえる"声"を目指して進むと、一隻の軍艦が見えてきた。
船首に設置された主砲のド真ん前で、狭いスペースにリクライニングチェアを置き、呑気に寝転んでいる男の姿を見つける。
……誰よりも、何よりも、よく知っている人。
けれど、今は敵同士のため、ティオは警戒しながら軍艦の上で弧を描くように飛び、その人物に自分の気配をちらつかせた。
2周も回れば気配に気づいたのか、その男は掛けていたアイマスクを引き上げる。
そして、じっとこちらを見てきた。
……敵意はない。
飛んでくる感情は、疑問と驚愕だけだ。
捕縛されることはないと判断し、ティオはゆっくり降下していった。
"……バサッ、バサバサッ"
濃紺の羽が重力を弱め、小さな体を長身の男の膝へと着地させる。
「よォ、久し振りだな」
……ウォーターセブンで最後に会ったときと、何も変わっていない。
目の前の男、海軍本部大将、青キジことクザンは……
ティオは鳥の姿のまま、コクンと首を縦に振った。
クザンは微かに口角を上げ、指先でティオの頭をちょんちょんとつつく。
「麦わらの次はお前が来るか……。お前ら、一体どこで何してんだ? シャボンディでバーソロミュー・くまに飛ばされたかと思えば、麦わらがお前らじゃねぇ仲間引き連れて乗り込んでくるし」
「くま、に、とばされて、いちみ、ばらばら。まだ、しゅうごう、してない。いま、それぞれ、もくてき、したがって、うごいてる」
「ふーん、麦わらの行動は独断ってワケね……。とりあえず、顔見せちゃくれねぇか? ここは船内の奴らから見えねぇし、マリンフォードもまだ遠い。誰にも見つからねぇよ」
クザンがそう言うなら、と、ティオは人の姿に戻った。
"ボンッ"
発生した煙は、潮風に乗ってすぐに消えていく。
ティオは、クザンの膝に横向きで座り、じっと青い瞳で顔を見上げた。
その顔色と表情だけでも、クザンにはティオの状態がおおよそ分かる。
「元気そうだな。ボルサリーノがお前をフッ飛ばしたと、挑発気味に報告してきたんで、死んでてもおかしくねぇとは思ってたが」
「もう、なおった。きのう、かんち」
「へぇ。昨日までの1カ月は寝込んでたわけだ」
ティオはぷくっと頬を膨らめた。
「1かげつ、ちがう。ねてた、の、ここのか、だけ」
「9日も寝込んでりゃ重症だっつーの」
クザンは、ポンポンとティオの頭を撫でた。
頭の大きさが以前と全く変わっていないのが、手の平への馴染み具合でよく分かる。
「んでー、お前、何でここに来た? 昨日の新聞読んだから来たんだろうが、麦わらに会うためってワケじゃねぇだろ?」
ティオはマリンフォードの方へ振り返った。
「ちょうじょうせんそう、の、きおく、よもうと、おもって」
「戦争の記憶ねぇ……。わざわざ危険侵さなくても、当事者の船長に聞きゃいいんじゃねぇの?」
ティオは首を横に振る。
「きけない。そんな、つらいこと」
「ふーん。少しは気が遣えるようになったか」
「しつれい、な。……それに、るふぃの、しかい、はいるもの、だけじゃ、たりない。せんそう、そのもの、も、その、うらがわ、も、ぜんぶ、しるひつよう、ある。……るふぃ、かいぞくおう、するために」
鈴の鳴るような声色なのに、妙に重たく感じる言葉。
「船長のために
「かいぐん、たいしょう、ひとり、かえってきちゃった、けど」
「ククッ、そうだな。俺じゃなかったらどうする気だったんだ?」
「まつ、だけ。せんにゅう、できる、まで」
「なら、運が良かったな」
クザンは片腕でティオをひょいっと抱き上げ、前方が見えるように膝の上に座らせた。
その懐かしい座り心地を感じながら、ティオはクザンに背中を預ける。
……ここに来た理由を話しても、追い返さないどころか、膝に乗せてくれた。
きっと、このまま連れていってくれるのだろう。
まさか、ここに来てすぐに潜入できるとは思わなかった。
場合によっては数日やり過ごし、実力者が全員出払ってから潜入するつもりで、元CP9に1週間以内に帰ると告げてきたけれど、今日か明日の内に帰れそうだ。
この幸運も、もしかしたらルフィの……
「しろひげ、たおれて、いそがしく、なった?」
「あぁ。世界中しっちゃかめっちゃかだ。白ひげ海賊団はある意味、海軍の手が届かねぇ場所で平和を繋ぎ止める楔だったからな。……上層部はゴールド・ロジャーの子を葬ることで、政府や海軍の威厳を再度示し、海賊への牽制としたかったんだろうが、釣り合いの取れる代償だったかどうか……」
クザンはわざとらしく、大きなため息をついた。
「ここんとこ、世界の動きが予想を遥かに上回りすぎてる。……お前ら麦わら一味を含めてな……。俺にはもう、世界の行く末が見えねぇよ」
ティオはクザンの顔を見上げ、きょとんと瞬きを繰り返す。
「? てぃおから、すれば、ろじゃー、あらわれた、じてんで、800ねんの、せいおん、くずれた。いまに、はじまったことじゃ、ない」
「あー……そうとも取れるわけか……この頂上戦争すら、1つの歯車に過ぎねぇと……」
「(コクン)」
「あ、そういやお前、シャボンディ行って大丈夫だったのか?」
「いきなり、なに?」
「場合によっちゃ、お前の記憶に影響しかねねぇ場所だろ」
「べつに、なにも。……あんじ、の、きーわーど、も、おと、も、どっちも、きいてない、し」
「へぇ。……やっぱり暗示が解けなきゃ、記憶に関係ある場所に行ったとしても、何も起きねぇんだな」
「(コクン)」
そうして話すうちに、徐々にマリンフォードが近づいてきた。
ティオの覇気の範囲に、マリンフォードの敷地が入り始める。
クザンは見慣れたその景色を眺めつつ、両手を頭の後ろで枕にし、背もたれに身を預けた。
眼下では、ティオの長い金髪が潮風に揺れている。
数秒、それを見下ろしていたが、やがて、クザンはティオの髪を指で梳いた。
「お前、髪留めは?」
「あずけて、きた。いま、きょてん、してるとこ。てぃおが、かならず、かえる、あかしに」
「あんなボロっちいペンをか?」
ティオはムスッとした顔で振り返り、ボフッと軽くパンチを繰り出す。
「あれ、てぃおの、たからもの。ばか」
「ぶっ、くくくくっ……」
以前にも増して表情が豊かになり、あまつさえ"バカ"とまでのたまうようになったティオに、クザンは思わず笑ってしまった。
……そして、あんな羽ペンを"宝物"と称してくれていることに、心がくすぐったくなる。
ティオはクザンが笑うのが気に食わず、ポカポカと何度か拳を振るうが、本気ではないし、クザンにとっても痛くも痒くもない。
「さて、そろそろ何か動物に変わっとけ。さすがにここまで来りゃ、マリンフォードから双眼鏡覗いてる奴らには見える」
ティオはクザンを見上げ、コクンと頷いた。
ボン、と音を立て、鼠の姿に変わると、クザンの肩によじ登る。
そして、近づいてくる崩れた海軍本部を、じっと見つめた。
1/9ページ