38. 3D2Y

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その後。

ルッチに事情を話すと、不敵な笑みを向けられ、寧ろ残留を歓迎された。

ルッチとしては、これからさらに2年間も、元伝承者という名の世界最高の辞書を手元に置けるのだから、断る理由がない。

夕方に帰ってきた他のメンバーも、誰一人として反対しなかった。

……結果、ティオと元CP9の間には、一時的な契約が結ばれた。

ティオは修行のために、元CP9はCP0に昇格するために、互いの目的が達成されるまで、共に行動するという契約が……


……しかし、翌日。

早くも、契約にヒビが入るような事案が発生しかけていた。

「今、何と言うた? この島の外へ数日出掛けてくるじゃと? お前さん1人で?」

「(コクン)」

朝、アジトで朝食を摂っていた全員の前で、珍しく朝から起きているティオは、堂々と宣言した。

「まりんふぉーど、いってくる」

「いや、いやいやいや、本当に何を言うとるんじゃ?」

「そうだぞ~、チャパパ~。お前も9600万の賞金首。海軍の本拠地へ乗り込むなんて、わざわざ捕まりに行くようなもんだ~」

カリファが、一旦フォークを皿に置く。

「一体どういう風の吹き回し? 昨日、私たちのところに居させて欲しいと言った口で、今日はマリンフォードへ行くだなんて。……まさか、私たちのこと通報するつもりじゃないでしょうね? いずれあなたたちの強大な敵になるからって」

確かに、将来のCP0と、将来の海賊王の一味は、どう考えても確実にもう一戦交えることになる。

しかし、ティオはハッキリと首を横に振った。

てぃお、むぎわらいちみ、ちょうほういん。ちょうじょうせんそう、そのすべて、しるひつよう、ある。じょうほう、きおく、しにいく、だけ」

頂上戦争に参加した面々は、政府側であろうと海賊側であろうと、世界を揺るがしかねない大物ばかり。

そんな強者つわものたちが戦争をしたとなれば、戦争そのものによる影響は勿論、戦争を隠れ蓑に裏で行われた物事も、今後の世界の動向に大きく関わってくる。

海賊王を目指す麦わら一味は、立ちはだかるもの全てを蹴散らして、前へ進まなければならない。

そのために必要なのが、情報だ。

そして、その情報を集めるのは、諜報員である自分の役目。

ここにいて手に入る戦争の情報は、新聞上で出回っている、一般市民向けに削り出された氷山の一角のみ。

そんな情報量では、2年後の新世界で太刀打ち出来ない。

てぃお、まりんふぉーど、いって、こっそり、きおく、してくる。だれとも、せっしょく、するき、ない。そもそも、ばれた、じてんで、てぃお、つかまる。そく、しけい。しーぴーないん、の、じょうほう、つたえても、めりっと、ない」

捕まったが最後、政府に連れていかれて秘匿死刑となるであろうティオが、CP9の情報を渡したところで、命が助かるわけでも、まして釈放になるわけでもない。

せいぜい、死に際に腹いせが出来るくらいだ。

勿論ティオは、そんなものに価値を感じない。

しかしカリファは、それでも納得が出来なかった。

「余計に分からないわ。それだけ危険と分かっていて、何故現地まで行くというの?」

ティオはわずかに目を細め、青い瞳に影を落とす。

「この、せかい、めにみえる、じょうほう、しんじつのうち、なんわり、だと、おもう?」

「え?」

「せいかい、は、1わり、みまん。それは、せいふ、あんやくきかん、しーぴーないん、も、おなじ、こと。……すべて、しってるの、せかいの、ちょうてん、そこにいる、ひとにぎり」

ヒヤリとした空気が流れ、誰かが息を呑む音がした。

「しってる? みんな、5ねんも、かけた、こだいへいき、ぷるとん、だれが、なんのため、つくったか。なんで、かくされて、いるのか」

元CP9メンバーは、誰も答えられなかった。

「せかいの、しんじつ、そういう、こと。……でも、かいぞくおう、それじゃ、なれない。"かいぞくおう"、とは、ただ、せかい、いっしゅう、した、かいぞく、さすわけじゃ、ない。かいぞくおう、は、うみのはしゃ。いまの、うみ、かえていく。るふぃ、それに、ふさわしいおとこ、ならなきゃ、いけない。なかま、それ、たすけなきゃ、いけない。いのち、かけて」

"海の覇者"、その言葉が一体何を指すのか。

誰も、具体的なイメージが湧かない。

ただ、目の前の小さな少女の内側に、自分たちの知らない巨大な何かがあることだけは分かった。

ティオは、自分の髪をまとめている羽ペンを引き抜く。

それを、一番近くにいたカクに渡した。

「これ、てぃお、の、たからもの。これ、ここに、あるかぎり、ぜったいに、かえってくる。だから、それまで、あずける」

「これは……何か特別性の羽ペンなのか?」

ティオは首を横に振る。

「ただの、しはんひん。……でも、せかいで、ただ、ひとつの、だいじな、もの」

……自分の意識が、どこから始まったのかは定かではない。

けれど、始まりは確実に、混沌とした記憶の迷宮の中だった。

そこから抜け出せず囚われていた自分を、この世界に引っ張り出して、心まで与えてくれた人。

その人が与えてくれた、自分とこの世界を繋ぐ楔……

カクは、羽ペンを指先でくるくる回しながら眺めて、ほう、と口角を上げた。

そして、カリファに視線を向ける。

「こうして宝物まで置いていくと言うんじゃ。信じてみてはどうじゃ?」

カリファはムスっとして腕を組んだ。

「まったく、アンタはその子に甘すぎよ」

「そんなつもりはないんじゃがのう。……んで、他の皆はどうじゃ? 文句はあるか?」

ジャブラ、フクロウ、クマドリは、互いに目を見合わせて、別に無いよな? と言いたげな顔をしている。

ブルーノも、静かに首を横に振った。

そしてルッチはというと、コーヒーカップを皿に戻し、じっとティオを見つめる。

「既に、CP0とコンタクトを取る方法と日時は聞いている。覇気の習得方法の概略もな。たとえお前が帰ってこなかったとしても、俺たちに不利益はない。万が一、俺たちの場所が割れたとしても、政府の連中が来る前に、この島から出港すればいいだけの話だ。……結論、好きにしろ」

暗黙のリーダーであるルッチがそう言い切れば、もはや誰も文句は言えない。

ティオはコクンと頷き、既に用意していた小さなポシェットを、腰に巻いた。

「1しゅうかん、いないに、かえる。……いってきます」

そう言って、きびすを返したティオが向かった先は、玄関ではなく窓。

カタンと上に押し上げて、鳥に姿を変えると、澄み渡る青空の中へ飛び立った。

それを見送り、カクは再び手中の羽ペンに視線を落とす。

「いきなり宣言して、いきなり出ていってしもうたのう。せわしない子じゃ」

その表情を横目に見たジャブラが、ソーセージを貪りながら笑った。

「娘がいなくなっちまって寂しいってか? ぇえ? パパさんよォ、ぎゃははっ!」

「うるさいぞ。食うてるときは口を閉じろ。あと、娘ではない」

ジャブラの隣に座っていたクマドリが、ぺしんとジャブラの口を手の平で塞いだ。

「オイラの皿に~ぃ、ぁ飛んできたじゃぁねぇか~ぁ」

「むがっ? むがごぐががっ!」

ブルーノがため息混じりに立ち上がる。

「クマドリ、新しく作ってきてやる。その皿はジャブラにやってしまえ」

「よよいっ、かたじけぇね~な~ぁ」

そんな、いつものバカ騒ぎを横目に、カリファはふと、ある疑問を口にした。

「ねぇ、ルッチ、あなたって、完全なひょうになることは出来たかしら」

コーヒーカップを傾けていたルッチは、チラリとカリファを見てから、視線を戻す。

「……いいや」

「そうよね……。カク、あなたは? 完全なキリンになれる?」

「ん~……。無理じゃな。限りなく近いものにはなれるが、完全なキリンとはちと違う。ゾオン系の能力者は皆そうじゃろう」

「……だとしたら、あの子の能力っておかしくないかしら」

「ん? ……あぁ、言われてみればそうじゃのう。あの子は完全な動物に変身する。……というか、わざわざ不便な獣型に変わる理由が分からん。先ほどのように長距離を飛ぶならまだしも、日常生活や戦闘では、人獣型の方が使い勝手はいいはずじゃ」

「そういえばあの子の人獣型って、見たことないわね……」

「確かに、のう……」

「そもそも、5種類の動物に変身できるって、どんな実よ。モデルは何?」

そのとき、ルッチの眉がピクっと動いた。

「お前ら、あの元・伝承者の経歴を知らないのか?」

「経歴? 記憶力が良くて、政府に連れてこられた候補者の1人なんじゃないの? 伝承者は代々、そうして集められるじゃない」

「フッ、だから"情弱"だとあのガキに馬鹿にされるんだ」

「なっ……政府関係者が何人いると思ってるのよ。その経歴を全て把握してるわけないじゃない」

「いきなり伝承者に据えられた12歳児を、不思議に思わない方がどうかしてる」

「あのねぇ、過去にも十代で伝承者になった候補者はいたわよ?」

「といっても、正義に従うことのメリットが十分に理解できる年齢としだろう? あの子供のように、物事の分別も微妙な危なっかしい状態で、伝承者に押し上げられることはそうそうない」

「まぁ、実際にその分別が乏しかったから、今の状況になってしまったんでしょうけど?」

「それは政府の失態だな。……だが、上層部は思いもよらなかっただろう。記憶を封じ、まっさらなところに"正義"を刷り込みしたガキが、自分の巣でもある政府を裏切ろうとはな」

「……言われてみると、そもそもどうして、あの子は記憶を封じられているのよ」

「そこに、アイツの悪魔の実が関わっている。あの奇妙な悪魔の実を食わされた体験は、アイツを廃人にしたのさ。……だが、優れた記憶力に、鍛えるまでもなく宿っていた記憶を読み取る力、諜報員としてこの上なく便利な悪魔の実の能力……。廃人として捨てるには勿体ない逸材だったわけだ」

「なるほど? それで、廃人となったきっかけの記憶を封じ、一から"正義"を叩き込んだわけね?」

「そういうことだ」

「子供を廃人にするほどの悪魔の実……」

「チャパ……それはどれほどマズイんだ?」

「味の問題なわけないじゃろう、阿呆」

ルッチは、空になったコーヒーカップをテーブルに戻す。

「まぁ、実際にどんな体験をしたのか、それは封じられたアイツの記憶の中にしかない。……が、確かなことは、アイツが食わされた……いや、食えるものだったかも分からないその悪魔の実は、自生する天然ものじゃなかったということだ」

そう言って、ニヤリと不敵な笑みを見せた。




39. 約束
 
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