38. 3D2Y

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それから、2週間。

元CP9の一行は、プッチに5日間、サン・ファルドに9日間滞在し、それぞれの街で1人ずつ賞金首を見つけた。

合計3人分のインペルダウン脱獄囚捕獲により、手に入った賞金額は3億2300万ベリー。

これだけあれば、別の島へ行くための船も備蓄も揃えられるし、新しい島に着いてからも生活に困らない。

というわけで、一行は出港準備のため、セント・ポプラのアジトへと戻ってきた。

「いいこと? 社名は『ルドワード・エージェンシー』よ。絶対に間違えないでちょうだい。それから、今日だけお得だの何だの、どれだけ勧められても、その場で即買いしないこと。今日はカタログを貰って帰ってくるだけ。いいわね?」

メガネをスチャっと上げるカリファを前に、ジャブラ、フクロウ、クマドリはムスっとしている。

「ガキのお遣いじゃねぇんだぞ。ンなに言われねぇでも分かってるっつの」

「ジャブラとクマドリはともかく、俺はそう簡単に騙されんぞ~、チャパパ~」

「ぁあ!? フクロウてめっ、今のどういう意味だコラァ!」

「ぁ騙されやすいのは~ぁ、フクロウ、お前さんの方じゃぁねぇか~ぁ?」

「おやめなさい。……はぁ……頼みの綱がコイツらだけだなんて……」

カリファは頭痛がする思いで、眉間を指で揉んだ。

今、カリファが3人に頼んでいるのは、船の買い付けだ。

セント・ポプラは木材の取引が盛んで、造船業が盛んなウォーターセブンとも交流がある。

わざわざウォーターセブンまで足を運ばなくとも、船の買い付けを仲介してくれる業者が、セント・ポプラには多いのだ。

中には高額な仲介料を吹っ掛けてくる業者も多いが、その辺りはカリファが優良企業を知っている。

しかし、買い付けるにあたって問題なのが、元・ガレーラカンパニーのカリファ、ルッチ、カクは、仲介業者と面識があるということ。

そしてブルーノも、ガレーラカンパニー社員が交渉の場面でもよく利用していた酒場で働いていたため、顔を知られている可能性がある。

となれば、買い付けに行けるのはジャブラ、フクロウ、クマドリの3人。

ただ、この3人では、業者のセールストークに乗せられて、その場で質の悪い船を即買いしかねない……

「とにかく、2つだけ覚えていきなさい。社名は『ルドワード・エージェンシー』、任務はカタログを手に入れること。ほら、行ってきなさい」

カリファは、仲介業者の場所と社名を記したメモを渡し、3人をアジトの外へと放り出した。

パタン、と玄関扉が閉まると、盛大なため息をついてラウンジに戻ってくる。

……そんなカリファの苦労を横目に見ながら、カクは、ソファに座ったティオの包帯を外していた。

「そう心配せんでも、奴らも一応は大人じゃ。あの程度の簡単なお遣い、どうということはないじゃろう」

「それが心配になるような奴らだから困ってるのよ」

話している間にも、ティオの右脚に巻かれていた包帯は、するりと取り去られる。

少し筋肉が落ちてしまった白い細足は、妙な凹凸も内出血もなく、綺麗に治っていた。

「一昨日から痛み止めは使っておらんが、今も痛くないか?」

そう訊きながら、カクはティオの脚に触れ、骨を押して圧痛を確認する。

「いたく、ない。だいじょぶ」

「そうか。なら、完治じゃな。よく頑張ったわい」

カクはティオの頭をポンポンと撫でてから、手を離した。

ティオは約1カ月ぶりに、自分の両脚で立ち上がる。

療養中も使っていた左脚に比べ、右脚は随分と筋力が落ちてしまったのを感じるが、すぐに戻るだろう。

ティオはその場でピョンピョンと飛んだり、ゆっくり蹴り技を出したりしてみた。

……そして、服の中にいつも忍ばせている、レイリーのビブルカードを取り出して見下ろす。

「……」

……やっと傷が癒えた。

これで帰れる。

仲間たちはもう、シャボンディ諸島に集まっているだろうか。

ルフィは無事だろうか、体だけでなく、心も……

「さて、これでお前さんは自由の身じゃ。あとはルッチとの約束を果たせば、すぐにでも帰るんじゃろう?」

ポン、と、カクの手が頭に乗った。

ティオがカクの顔を見上げると、見慣れたいつもの微笑が見下ろしている。

しかし、その微笑の中には、ツンと針が刺すような、小さな寂しい感情も含まれていた。

ティオはその感情に気づかないフリをして、コクンと頷く。

「るっち、なにしてる?」

今、ルッチとブルーノの"声"が、このアジトの外、セント・ポプラの街の中から聞こえてはいるが、何をしているかまでは分からない。

「あぁ、ルッチならブルーノと買い出しに行っておる。昼には戻るじゃろう」

……ならば、ルッチが帰ったところで、CP0に繋がる人物と会える日時、そして、覇気の習得方法を教えて、帰ろう。

ティオは、まだ見ぬ仲間たちの顔を想像して、遥かなシャボンディ諸島に思いを馳せた。

そのとき……


「号外! 号外だよ~!」


外から、新聞配達と思しき青年の、大きな声が聞こえた。

カクとカリファとティオは、互いに目を見合わせる。

「大事件だ! あの麦わらが再びマリンフォードに現れた!」

その言葉を聞き取った瞬間、ティオは背筋がヒュッと冷たくなるのを感じた。

カリファと視線で示し合わせて、カクが外へ出ていく。

そして、新聞を一部買って、戻ってきた。

ティオは、心臓が煩く鳴っているのを感じながら、カクがテーブルに広げた新聞を見下ろす。

そして、一面にルフィの大きな写真が載っているのを見て、自然と息が止まった。


『麦わらのルフィ マリンフォードに再び現る』


―――突如、マリンフォード湾内に海軍船に乗り現れた、海賊・麦わらのルフィ。

同軍艦には、元・王下七武海、海峡のジンベエ、元・ロジャー海賊団副船長、シルバーズ・レイリーが共に乗船していた。

目的は定かではないが、麦わらは軍艦に乗船したまま、湾外を一周し、まるで水葬の弔いの如き動きを見せた。

その後、マリンフォードに上陸すると、オックスベルを計16回鳴らしたのち、地面に奔った亀裂に花束を投げ入れ、死者を悼むような姿勢を見せたのである。

そののち、海峡のジンベエの仕業と思しき、サメの大群の背を借りて、堂々とマリンフォードを去っていった。

彼の行動は、果たして何を暗示しているのか―――


新聞の見出しと最初の数行を読んだ、カクとカリファは、再び目を見合わせた。

「まず、目を疑う情報が多すぎて、どこから驚けば良いか分からんのじゃが……」

「麦わらが、海峡のジンベエや冥王レイリーと現れたってだけで、もうお腹いっぱいよ……」

そうして、2人が驚きを共有している数秒の間に、ティオは一面全てを読み終えていた。

レイリーとルフィが一緒にいることは、何も不思議ではない。

海峡のジンベエが一緒だというのも、戦いの中で仲良くなったと思えば、ルフィなら十分にあり得る話だ。

最も不可解なことは、マリンフォードに再上陸するという、この行動を起こした理由だ。

ルフィは死者を弔うような殊勝な性格ではないし、分かりやすい明確な目的でもなければ、海軍の本拠地になど乗り込まない。

……ならば、この行動計画の発案者は、レイリーで間違いない。

(でも、なんで、こんなこと……)

ただでさえ命を狙われているルフィに、こんな目立つことをさせて、何がしたいのか。

それに、写真に写っているルフィの右腕に記された、奇妙な文字。

半分見切れてよく見えないが、おそらく、『3D』と『2Y』が並び、『3D』の方には罰点が上書きされている。

こういうものをルフィが書く理由はない。

とすれば、これもレイリーの発案。

(めだつ、こうどう……3D2Y……)

ほんの3秒程度の間に、ティオは答えを導き出し、目を見開いた。

(めっせーじ……てぃお、たち、への……3Dじゃ、なくて、2Y……みっか、じゃなくて、2ねん……)

レイリーが狙っていたのは、ルフィの目立つ行動によって、新聞社がこぞって写真を撮ること。

その写真に含まれた秘密のメッセージは、世界中を飛び、唯一その意味が分かる麦わら一味にのみ、内容が伝わるようになっていたのだ。

新聞であれば、一味も全員、何かしらの方法で必ず目にする。

それを狙って、世界最大の公開文書に、堂々と秘密のメッセージを載せるとは……

(……さすが、かいぞくおう、の、みぎうで)

ティオは感嘆しながら、自分の両手を見下ろした。

(2ねん、は、しゅぎょうの、ため)

集合を3日後ではなく2年後にしようと言い出したのは、十中八九レイリーだ。

それでも、ルフィがその提案を受け、動いたということは、今の自分たちでは、新世界に入っても太刀打ちできないと理解したのだろう。

シャボンディ諸島で散り散りにされた上に、マリンフォードでも兄を救えなかった、その絶望的な体験の中で……

てぃお、も、つよく、ならないと)

麦わら一味と旅をして、知識でしか知らないこの世界を、自分の目で見る、その夢のために。

そして、一緒に旅をする仲間を守るために、ルフィを海賊王にするために……

てぃお、は、むぎわらいちみ、ちょうほういん。そのやくめ、はたす)

諜報員は、船長の目的を遂げるため、必要な情報を集め、また、敵の情報を攪乱するのが役目だ。

新世界で、その役目を十分に全うするためには、今の自分では全く足りない。

もっと強くならなくては。

ティオは、両手を握ったり開いたりする。

「……」

自分に今、足りない力は何か。

その力を手に入れるために、最善の場所はどこか……

「お~い、お前さん、大丈夫か?」

熱心に新聞を読んでいたと思ったら、いきなり自分の両手を見つめて動かなくなったティオを心配し、カクが声を掛けた。

カリファも隣で見下ろしている。

ティオは、ゆっくり顔を上げ、じっとカクとカリファの顔を見つめた。

「ん、何じゃ?」

表情の乏しいティオに見つめられると、何となく怖さを感じる。

てぃお、もうちょっと、いっしょ、いても、い? ぐたい、てきには、2ねん、くらい」

「う、うん? 2年? いきなり何を言うとるんじゃ?」

「分かるように説明なさい。どういうことよ」

ティオは、新聞に載ったルフィの写真を指さした。

「ここ、るふぃの、うで、3D2Yて、かいてある」

「ん~……? まぁ、よく見ればそうじゃなぁ……」

てぃおたち、しゃぼんでぃ、で、きざる、おわれて、ばらばら、にげて、みっかご、しゅうごう、よてい、だった。けど、あくしでんと、で、ぜんいん、しまのそと、とばされた」

「前から疑問だったけど、シャボンディ諸島からセント・ポプラまで飛ばされるって、どういう天変地異レベルのアクシデントよ……」

「ばーそろみゅー・くま、の、のうりょく。それいじょう、せつめい、ない」

「あの王下七武海の?」

「(コクン) …とにかく、てぃおたち、ばらばら、なった。そのあいだ、るふぃ、えーす、しょけい、しって、たすけ、いった。でも、たすけ、られなくて……。るふぃ、おもった、いまのまま、しんせかい、いけない。だから、2ねん、かけて、つよくなる。しゅうごう、2ねんご、に、へんこう」

「なるほどのう、じゃから、3Dに罰点が入って、後に2Yというわけか」

「(コクン) …てぃお、もっと、つよくならなきゃ、いけない。しゅぎょう、するなら、ここ、さいてき」

「"ここ"というと、わしらCP9の元にることが、か?」

「(コクン) …ろくしき、と、ぞおんけい、のうりょく。おそわるのに、これいじょう、てきにん、いない」

ティオはじっと、カクの目を見つめた。

……そもそも、ティオに戦闘技術を仕込んだのは、クザンだ。

クザンは、ティオがゾオン系の悪魔の実の能力者であることを加味し、武器を使う戦い方ではなく、体術による戦い方を選んだ。

そして、のちの覇気習得まで織り込んで、覇気から派生した六式を教えたのだ。

六式のうち、二式を使えるティオにとって、残された課題は四式の習得。

そして、悪魔の実の能力のレベルアップ。

どちらを鍛えるにしても、六式使いとゾオン系能力者が多い元CP9こそが、ティオの修行場としては最適なのだ。

話を聞いていたカクは、ニッと口角を上げる。

「なるほどのう、話は分かった。じゃが、世の中ギブアンドテイクじゃ。お前さんがわしらと共に居たいと言うのなら、わしらもお前さんに要求をするぞ?」

「(コクン) …てぃおに、できることは、する」

「OKじゃ。お前さんがわしらにとって利益となるうちは、誰も文句はないじゃろう。ルッチが帰ってきたら話すといい」

実際、ここまで、ティオがいたからこそ一攫千金を得て、新しい道も開けたのだ。

たとえ、ここで会ったが百年目の因縁深い一味のクルーだとしても、それ以上に、ティオの有用性が証明されている。

カリファは腰に手を当てため息をついた。

「結局、またこの子の世話をするのね……」

「何じゃカリファ、最近はおぬしも楽しんでおったじゃろう」

「べ、別に楽しんでないわよ! 無礼者!」

ムキになるカリファを、カクがケラケラ笑いながらからかう。

それを聞き流しながら、ティオはもう一度新聞に視線を落とした。

「……」

青い瞳は、新聞を通り越して遠くを見つめている。

その頭の中では、とある重要任務が画策されていた。

 
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