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38. 3D2Y
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どこにいても美味しそうな匂いがする、プッチの
ルッチは目的地があるのか、迷いのない足運びで通りを歩いていた。
「あら、そこのイケメンのお兄さ~ん! ランチはもう食べちゃった? よかったらウチに寄っていかな~い?」
クセのある髪を一つにまとめ、眼鏡をかけている今のルッチは、鳥を両肩にとまらせている奇抜さはあれど、
「……興味がない」
冷たい声色でそう言って、ルッチは無表情で過ぎ去るのだが、女性たちの黄色い声が陰ることはなかった。
ティオは、サンジが羨ましがりそうな光景だな、なんて思いつつ、半目でルッチの肩に留まり続ける。
やがて。
ルッチがやって来たのは、プッチの街並みが一望できる高台。
「……」
穏やかな風が吹き抜ける中、ルッチは黙ったまま、プッチの街並みをじっと見下ろしている。
ハトのハットリは、
ティオはというと、じっとルッチの肩に留まり、街並みを見下ろす傍ら、ルッチの感情を読み取っている。
何かを探すような感情と、何かを訊きたい感情が、半分ずつせめぎ合っているのが感じられた。
大方、ティオに訊きたいことを頭の中で整理しながら、賞金首の顔も探しているのだろう。
「……」
「……」
長い沈黙が続き、穏やかな風だけが2人の間を抜けていく。
やがて、ルッチが重い口を開いた。
「……今の俺たちが、政府に戻る
ティオは、つぶらな鳥の瞳で、無表情なルッチの顔色を窺い、おおよそ答えの分かっている質問を投げる。
「どの、ぽじしょん、もどりたいか、で、やりかた、かわる。もどって、なに、したい? なに、ほしい?」
ルッチは、ふと、
女の子が財布らしきものを海兵に渡し、傍では母親と思しき女性が微笑んでいる。
落とし物を届けているのだろう。
……綺麗で、真っ白な、表の正義の世界。
そこは、今まで一瞬たりとも、爪の先すら置いたことのない、薄氷の上の世界。
これから先も、あんな明るく
そもそも、あの場所は綺麗すぎて居心地が悪く、羨む気持ちも生まれない。
そんな生ぬるい場所より、暗く、冷たく、血と泥に
「―――権力だ。あの
ルッチの視界は、いつの間にかプッチの街全体へと広がっていた。
末端の海兵と平民の少女など、もはや眼中にない。
「教えろ、元・伝承者。CP0への昇り方を」
……
まるで少年のようなそれは、眩しく暖かな波長のはずなのに、彼が放つだけで、途端に冷たく恐ろしいものに変わった。
黒い好奇心を痛いほどに感じながら、しかしティオは、表情を変えない。
サイファーポールに所属し、上に昇ってこられるような者たちは、
かつてティオが伝承者であった頃、接していたCP0のメンバーたちも、同じように正常なまま狂っていた。
……やはり、彼ら7人が今世のCP9に選ばれたのは、偶然ではないのだ。
選ばれたその時点で、CP0としてやっていくだけの素質は十分にある。
あと足りないものは……
「……つよさ、と、つて。しーぴーぜろ、はいるのに、たりない、もの」
世界貴族に最も近く、何より、五老星すら
元CP9である彼らは、頭脳に関しては問題ないが、その実力は、所詮 政府の裏方雑用をしていたに過ぎず、世界最高峰を守護するCP0のメンバーに比べれば、まだまだ劣る。
とはいえ、潜在的なポテンシャルは歴代のCP0と比べても、頭一つ抜けている。
正しく鍛えれば、すぐにでも頭角を現すだろう。
「つて、は、てぃお、しってる。そのひと、かならず、あえる、ばしょ、にちじ、おしえられる。ただし、たとえ、あえた、ところで、ふさわしい、つよさ、ないと、もんぜんばらい。ふさわしい、おもえば、いちど、おわれた、にんげんも、ひきいれる。ぎゃくに、ふさわしい、おもわなければ、つかまえ、られる。あのひと、そういう、ひと」
「六式を
「(コクン)」
正義であろうと、悪であろうと、
勿論、CP0を目指すというのなら、覇気の習得は必須であり、それどころか、完璧に使いこなす必要がある。
……とはいえ、六式は元々、覇気を元に生み出された武術。
既に六式を体得している元CP9であれば、覇気習得の領域に片足を踏み入れているも同じだ。
「……」
ルッチは何を考えているのか、じっと、プッチの街を見下ろし続ける。
その肩に留まるティオもまた、穏やかな風に目を細めながら、平和に見える街並みを見下ろしていた。
その日の夜。
結局、元CP9メンバーは、賞金首を見つけられないまま、決めていた宿泊先に集まった。
今は資金も潤沢なため、泊まるのはちょっとした高級ホテルだ。
「チッ、やっぱ初日のラッキーはそう続かねぇか……」
「チャパ~、街じゅう歩き回って疲れた~」
「よよいっ、ぁ何事も~ォ、耐え忍んだ先にィ、花ァ咲くもんだ~ぁ」
高級ソファが並ぶラウンジで、ジャブラとフクロウはこれでもかとダラけており、クマドリは床で座禅を組んでいる。
その近くで、カクは、人の姿に戻ったティオを支え、ソファに座らせていた。
「ダラしないのう、お前ら。それでも元暗躍機関の人間か?」
ジャブラがソファに大の字になったまま、フンと鼻を鳴らす。
「うるせーなぁ、パパは黙ってガキの世話してろや」
「狼の開きが人間様に口答えするな」
「ぁあ? 誰が
2人の喧嘩が注目を集めてしまう前に、カリファが雷を落とした。
「いい加減になさい。……まったく、どいつもこいつも……」
これ見よがしにため息をつきながら、カリファは、仲間たちが今日1日で使った食費や、宿泊代金のレシートを見下ろす。
ガレーラカンパニーの敏腕秘書だっただけあって、現在の状況から、今後の必要経費と資金の持続日数を即座に割り出した。
同時に、頭には自然とこの先の情景が想像される。
「……結局、私たちは何者になるのかしらね。……このまま、
カリファの視線が向いた先は、カク。
今の状況を作ったのは彼だからだ。
しかし、カクは答えない。
ただ口角を上げ、首を横に振って、別の場所へと視線を飛ばした。
「それはわしが答えることではないのう」
カクが視線を向けた先には、ルッチ。
腕を組んでソファに腰掛け、目を閉じている。
カクが視線を寄越したのに気付いたのか、ルッチはゆっくりと目を開けた。
自然と、メンバーたちの視線もルッチの元へ集まる。
ティオもちらりと、ルッチの様子を窺った。
当の本人は、どこか遠くを見ているような眼差しで、口を開く。
「……お前は何がしたいんだ、カリファ」
「え……」
いきなりそんなことを訊かれても……
それが見えないから訊いたというのに……
「お前らもだ。全員、何がしたくて金を集める」
ルッチの問いで、メンバーの間に流れていた緩い空気が、ピリっとわずかに引き締まった。
「ん~、俺は美味い物が食えて、楽しけりゃそれでいいな~、チャパパ~」
「よよいっ、ぁオイラは~ぁ、おっかさんに恥ねぇ生き方ァするまでだぁ」
「ケッ……なぁにが"したいこと"だよ。政府の後ろ盾が無くなった俺たちゃ、とっくに人殺しの犯罪集団だろ。やりたいこと叶えられるほど、夢見れる立場じゃねぇっつーの」
「ほう? ジャブラにしては現実的なことを言うのう」
「テメェ、逐一ケンカ売ってくんじゃねぇよ!」
「おやめなさい、2人とも。……ブルーノ、あなたはどうなの?」
「……俺にも、明確な目的はない。どんな仕事であれ、耐えることも楽しむことも出来るからな」
6人は各々、好きなように未来を思い描いた。
……それが、本当に叶えられるかどうかは別として。
ふわふわと、様々な方向へ漂うように拡がっていく、それぞれの思考。
ティオはそれを、感情の波から感じ取っていた。
すると、ルッチがピシャリと一言を放つ。
「だったら、今 一番殴りたい奴は誰だ?」
途端、好き勝手に漂っていた感情の波が一斉に揃い、全員の視線がルッチに集まる。
「「「「「「あの
綺麗に揃った声を聴いて、ルッチは口角を上げ、立ち上がった。
6人の顔を見渡し、まるで見下すような視線を向ける。
「なら、目指すしかないな、
ビリビリ、と。
痺れるようでいて、心地いい激震が、それぞれの心を駆け抜けた。
「……フッ、ククッ、ぎゃははははっ!! なるほどねぇ、高みかァ! いいなァそれ! 乗ったァ!」
「チャパ~、何だか面白そうだ~」
「よよいっ、
「まったく、男って単純ね。そんな簡単に手に入る地位じゃないのに」
「何だ、カリファは降りるのか?」
「ぇえ? まさか。腕が鳴るわ」
「そうか」
「そう言うブルーノも楽しそうね?」
「フッ……まぁな」
……昼に、ルッチから感じた黒い好奇心が、6人の感情にも混じり始める。
ティオはわずかに目を細め、傍に立つカクの顔をそっと見上げた。
すましたような表情で、口角だけ上げているその顔は、一見すると爽やかな微笑に見えるが、滲み出ている感情は、やはり黒い。
「……やれやれ、やっと戻ったのう」
小さく呟いて、ルッチを見つめる視線は、仲間が冷たく暗い世界に戻ってきたことを、心から喜んでいた。