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37. 抜けない癖
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その後。
ジャブラは海軍の駐屯基地に、ジャッキー・リングの亡骸を届けた。
最初は、手配書と顔が違うため、寧ろジャブラが殺人容疑で捕まりそうになったが、インペルダウンに確認したところ、すぐに正しい顔写真が送られてきた。
というわけで、1億600万ベリーを貰えることになったのだが、一介の小さな駐屯基地に、そんな大金があるわけがない。
結局、賞金額は海軍の名義で銀行から引き出され、支払われた。
並の人間にとっては大荷物となる、ずっしりと重いアタッシュケース。
それを持ちながらも、ジャブラは軽やかな足取りで、アジトへ帰った。
―――そして、夜。
「ギャハハハッ!! テメェら、俺様の働きに感謝しやがれ!!」
「チャパパ~、まさか1日目で早速 賞金首が捕まるなんて、思ってもみなかった~」
「よよいっ、ぁこんな豪華な食事は~、久し振りじゃァねェか~ぁ」
「ちょっとあなたたち、もっと行儀よく食べなさい。こっちまで不味くなるでしょう」
元CP9は、全員揃って高級レストランに来ていた。
夕方に急遽 買いに走ったフォーマルな服装に身を包み、VIPルームであろう個室に通してもらっている。
真っ白なテーブルクロスが敷かれた円卓には、高級料理やワインが所狭しと並べられていた。
本来はコース料理で順番に出てくるものだが、そういったまどろっこしい食べ方が苦手なメンバーが多いため、単品注文をさせてもらっている。
もちろんティオも、その輪の中にいた。
隣に座っているカクが、ポンと頭に手を乗せてくる。
「ジャブラは偉そうにしておるが、本当はお前さんが頑張ってくれたんじゃろう? ご苦労様じゃ」
「てぃお、は、ちょっと、てつだった、だけ。つかまえた、の、じゃぶら」
「何じゃ、謙遜か? お前さんがいなければ、賞金首を今日中に見つけることは叶わんかった。お前さんの働きに
「……」
ティオは、カクの顔を見上げ、青い瞳で じっと見つめた。
「ん、何じゃ?」
「……なんでも、ない」
顔を前に戻し、目の前のチョコレートケーキにフォークを刺す。
……今、円卓を囲んでいる7人からは、楽しそうな感情が伝わってきていた。
きっと店の従業員たちは、彼らが人殺し集団だなんて、欠片も思うことはないだろう。
7人のことをよく知っているティオですら、時々、忘れてしまいそうになるくらいだから。
……けれど、今日、何の躊躇もなく人を殺したジャブラを見て、忘れていた警戒心や恐怖心が再燃した。
今、笑顔で頭を撫でてくれたカクだって、きっと、息をするように人を殺せる……
「……」
ティオは、チョコレートケーキを掬ったフォークを、口に入れた。
ぼんやりと、騒がしい食事風景を眺めながら、もっくもっくと口を動かす。
麦わら一味の食卓に似た、喧騒。
サンジの作る料理に近い、美味しいご飯。
ゾロではないけれど、同じように隣にいて、何かと気に掛けてくれる、カク。
……サニー号での生活に、よく似ている。
けれど、違う。
喧騒を眺めていても、思わず頬が緩むような心からの楽しさがない。
美味しいご飯のはずなのに、味がしない。
カクは優しくしてくれるけれど、しっくりこない。
……ここにいるのは、ちょっと怖い。
ティオは、胸の奥がツンと痛くなるような寂しさを感じる。
そして、無理やりそれを押し殺すように、チョコレートケーキを詰め込んだ。
食事を終えて。
レストランを後にした一行は、よく晴れた星空の下、アジトへの道を歩いていた。
皆、多少なりとも酒が入っており、心なしか会話が弾む。
「いや~食った食った~」
「俺、腹にもチャックがあったら、間違いなく弾け飛んでた~、チャパパ~」
「よよいっ、ぁそんなことになりゃ~ぁ、一大事じゃぁねぇかぁ~」
「ギャハハッ! 今度 腹にチャックつけてみろよ!」
「チャパ~、それは嫌だ~」
陽気に話す3人の後ろで、カリファも上機嫌に口角を上げていた。
「いつものブルーノの食事は勿論 美味しいけれど、たまには外食もいいわね。ブルーノも手を休めることが出来るでしょう?」
「俺は料理が好きだからな。特に負担に思ったことはない」
「あらそう?」
そして、カリファとブルーノの後ろには、眠るティオを背負ったカクと、ルッチが続く。
カクは、楽しそうに前を歩く5人を眺め、目元を緩めた。
「何じゃろうなぁ……。この子が来たことで、良い風が吹き込んだ気がする。そうは思わんか? ルッチ」
ルッチは無表情で、目を閉じる。
「……知らん。そんなことを聞いてどうする」
「ははっ、お前さん、麦わらとの一戦から、随分と寡黙になったのう」
ピキっと、ルッチの眉間にしわが寄った。
「おっと、怒らすつもりはないんじゃ、勘弁してくれ」
「……お前こそ変わっただろう、カク」
「ん?」
「そのガキに随分と入れ込んでいる」
「はははっ…………そうじゃなァ……」
元々 子供は好きだが、ウォーターセブンに潜入していた頃の自分ならば、仕事や立場が最優先で、必ず一線を引いて接していた。
けれど、海賊狩りに負けたことで、張り詰めていた糸のようなものが、ぷっつりと切れてしまったようだ。
……それはきっと、ルッチも同じ。
CP9の歴史上 最強の人物と謳われるルッチは、グアンハオでの訓練時代からずっと負けなしだったが、先日、麦わらに負けた。
それをきっかけに、彼なりに思うところがあって、不遜で偉そうだった態度が、一転して寡黙になったのだろう。
「今日のことでハッキリしたが、金の問題はどうにでもなる。次の問題は、わしらを監視するサイファー・ポールが、既にこの島に送り込まれていることじゃ。今は頂上戦争直後で、わしらの捕縛まで手が回っておらんようじゃが、それも時間の問題。1日も早くこの島を出て、どこかに身を隠すべきじゃろう」
「……」
「しかし、いつまでも逃げ隠れて暮らすわけにもいかん。わしらはこれから何を目指すのか。それを決めんことには、いつ、どこへ逃げるのか、そのためにどの程度の金が必要か、何も分からんなァ」
「……」
カクは、ちらりとルッチの表情を見た。
無表情ながらも、何かを考えていそうな面差しで、真っ直ぐに前を見据えている。
黒く強い光を宿した瞳を見て、カクは安堵したように口角を上げた。
……今は寡黙になってしまっているけれど、近いうちにまた、不遜で偉そうな態度に戻るだろう。
そのときに、自分たちが進むべき道を示してくれるはずだ。
この7人の集団は、何だかんだ、ルッチが全ての決定権を持ち、皆、それに従うのが最良だと信じている。
逆に言えば、ルッチが動かなければ、誰も動かない。
……みんな、言葉には出さなくても、リーダーのルッチを待っているのだ。
「ひとまず明日は、今の仕事を辞め、プッチかサン・ファルドへ、次の賞金首を探しに行くのが得策かのう。まとまった金も手に入ったことじゃし、探しに行った先で一泊してもいい」
「……」
ルッチは何も答えなかった。
けれど、否定してこないのだから、文句はないということだ。
アジトに着いたら、全員に話を通そう。
きっと、誰も反対などしない。
十中八九、明日の昼は海列車の中だ。
カクは再び、フッと笑みを浮かべると、眠っているティオを背負い直す。
……この子が現れるまで、未来の見えないその日暮らしが続いていた。
海列車で別の町に赴く情景なんて、頭の隅にも思い浮かべたことがない。
けれど今なら、輝かしいとまでは言えないが、いくつかの未来を思い描ける。
柄にもない考え方だが、耳元に響く穏やかな寝息は、何だか、幸せを知らせる福音のように聞こえた。
→ 38. 3D2Y
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