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37. 抜けない癖
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翌朝。
アジトのポストに朝刊が差し込まれた。
それは毎朝恒例の出来事なのだが、今朝はいつもと違って、新聞が随分と分厚い。
朝食を摂る傍ら、揃って新聞を覗き込んだ元CP9メンバーは、唖然とした。
「おいおい、マジかよ……」
「ここまで正確に当たるとは驚きだ~、チャパパ~」
「ただ記憶力が優れておるだけでは、伝承者は務まらんのかもしれんのう」
新聞の2ページ目から6ページ目にかけて、インペルダウンを脱獄した約200名の手配書が、ギュッと縮小されて印刷されている。
その中には、昨晩ティオが話した6人の賞金首も載っていた。
見事に懸賞金が上がり、全員、億越えになっている。
……つまり、インペルダウンの脱獄囚に対するセンゴク元帥の判断を、ティオはピタリと当てたのだ。
カクが、昨晩ティオが描いたスケッチブックを開き、6枚の手配書の金額を修正する。
そして、セント・ポプラを拠点にしていたという、"
「ほれ、今日の捜索は頼むぞ?」
ジャブラは、カクが相手だというのに、珍しく上機嫌な表情で、スケッチブックを受け取る。
「おうよ! 今日中に捕まえてやるぜ! 伝承者のガキはどこだ!?」
「まだ起きておらん。昼まではお前さん一人で情報収集してこい」
「ぁあ? アイツ
「わしも詳しくは知らんが、人より多くの睡眠が必要なようじゃ。無理に起こしたところで、3秒と経たずにまた寝るぞ?」
「何だそりゃ、まどろっこしい奴だな」
カクは、出勤のために身支度を整えながら、ジャブラに釘を刺す。
「とにかく、午前中はお前さん1人で動け」
「分ァってるっつの! 何度も言うんじゃねぇ! あと、俺に指図すんな!」
「それと、くれぐれもあの子に無理をさせんようにな」
「無視すんじゃねぇよ! 殺し屋が一丁前に父親みてぇなツラしやがって!」
「そんなつもりは毛頭ないわい。仕事に行ってくる」
カクは、噛みついてくるジャブラを慣れたように受け流し、アジトの玄関から出ていった。
数時間後、昼過ぎ。
ずっと情報収集に出ていたジャブラは、一旦アジトに戻ることにした。
「……チッ、"顔盗り"か……想像以上に厄介だな……」
午前中、ジャブラはスケッチブックを手に、町中を歩き回ったり、それとなく聞き込みをしたりして、"顔盗りのジャッキー・リング"を探し回った。
すると、町の住人たちが口を揃えて、3番通りに住むアレンの顔だと言うではないか。
早速見つけたか、と、そのアレンの家を襲撃してみれば、アレンは「またか」と
話を聞けば、手配書の顔はジャッキー・リング本人のものではなく、アレンの顔を真似て作られたマスクを被ったものだそうだ。
詳しく聞いてみれば、ジャッキーはマスク作りの天才で、あらゆる他人の顔をマスクにして被っては、宝石店や貴金属の店で盗みを繰り返していたらしい。
「……ったく、インペルダウンの奴ら、手配書の写真くらい最新に差し替えろよな……」
ジャブラは、手配書が模写されたスケッチブックを見下ろし、ため息をつく。
そして、アジトの玄関扉を開けた。
"ガチャッ"
古びた様相が、寧ろ
そこには、ようやく目を覚ましたティオがいて、まだ目を閉じたまま、もくもくと朝食 兼 昼食を頬張っていた。
「なっ、テメェ起きてたのかよ!」
「?」
ジャブラが叫ぶと、ティオは糸のように細く目を開け、そちらへと顔を向ける。
まだ眠いティオの視界の中では、ジャブラの姿はぼやけていた。
「起きたんならさっさと合流しろよ! 呑気に朝メシだか昼メシだか食いやがって!」
「モック…モック…………もう、さがして、た、の?」
「ったりめェだろうが! さっさとしろ!」
ジャブラはティオを急かして食事を終わらせると、動物に変身して肩に乗るよう指示した。
さすがに、カクのように肩車して歩くのは嫌だったのだ。
動物として肩に乗せていれば、ペットか、毛皮の装飾品に見える。
「…………ふぁ……」
町を歩く傍ら、視界の端で何度も口をぱくぱく開けられては、ジャブラも気になってしまう。
「お前、昼まで寝といて何でンなに眠いんだよ」
「……たいしつ…………ふぁ……」
「そんなんで賞金首探せんのか?」
「とう、ぜん。てぃお、の、のうりょく、なめる、な」
「なぁにドヤってんだ偉そうに。……んで? 奴が捕まる前に使ってたっつーアジト、本当にこっちでいいんだな?」
「(コクン)」
「ふーん。……お前、奴の本当の顔は知ってんのか?」
「しらない」
「何だよ……。これでアジトにいねぇなんてことになりゃ、今日中に見つけんのは無理かもなァ……。つーか、そもそもこの島に来てるかどうかも分かんねぇ……」
「なんで、きょうじゅう、みつけるの、むり、おもう?」
「何でって、奴はマスクで顔を変えんだろ? 午前中に散々探し回ったが、見つかったのは、マスクの元になった人間だけだったぜ?」
ティオは、毛皮のフリを続けながら、真っ直ぐに道の先を見つめる。
「いま、つけてる、ますく、わかれば、みつけるの、あさめし、まえ」
「はぁ? ンなこと出来たら苦労しねェよ」
「できれば、いい。でしょ?」
「……どういうことだ?」
「まかせ、ろ。……いい、から、このまま、まっすぐ」
ティオは、前足でグイっと、ジャブラの頬を押し、前を向かせた。
「むぐっ」
しばらくして。
ティオに案内されるまま、ジャブラは裏町までやってきた。
比較的 治安の良いセント・ポプラも、裏町に入ると、少しガラの悪い雰囲気が漂っている。
「ここ、かいだん、おりて」
「あ? 階段ってこたァ、奴のアジトは地下なのか?」
「(コクン)……かいだん、おりた、とこの、とびらが、あじと、いりぐち」
それを聞いた瞬間、ジャブラの口元が三日月のように吊り上がった。
「ほ~ぉ? つまり、そこに奴がいりゃァ、今すぐ一網打尽に出来るってワケだな!」
早速、右腕を狼化させるジャブラ。
しかし……
「いない、よ?」
ティオの一言で、真顔に戻り、腕も元に戻した。
「チッ……ンだよ期待させやがって」
「だれも、きたい、させてない。ただ、あじと、ここって、いった、だけ」
「……フン」
「それより、かいだん、おりて」
ジャブラは、ため息混じりに階段を降りていく。
「奴がいねぇうちに、
「そんな、めんどう、しない。このしま、きてるか、どうかも、わからない、のに」
暗闇へと続く階段を降りていくと、古い木の扉が目の前に近づいてきた。
ティオが、ジャブラの頬をもふもふと叩く。
「てぃお、とびら、ちかづけて」
「あ?」
ジャブラは顔をしかめるが、深海のような青い瞳に見つめられると、それ以上の悪態はつけなかった。
ティオは前足を伸ばし、木の扉に置くと、目を閉じて記憶を読んだ。
「……。……ん、もういい」
ほんの1~2秒触れただけで、目を開き、前足も離す。
ジャブラは怪訝そうな顔をして、ティオを自分の肩へと戻した。
「おめで、と。もどって、きてる、じゃっきー・りんぐ」
「……。……マジか!?」
あまりにも淡々と言われて、衝撃の事実を理解するまで少しかかった。
「お前なァ! もっと驚くとか喜ぶとかねぇのかよ!」
「……ひつよう?」
ティオはジトっとした半目でジャブラを見る。
そして、前足をもふっと頬に当てた。
「これ、じゃっきー・りんぐ、の、かお」
そう言って、今しがた扉に触れて読み取った記憶を、ジャブラに流し込む。
今朝早く、ジャッキーがこのアジトを出ていった際の、最新の記憶だ。
その映像を見た瞬間、ジャブラは目を見開く。
「コイツ……」
見覚えがあった。
それどころか、ほんの2~3時間前に会い、会話もしている。
「チッ……あの野郎、この俺を出し抜きやがったな」
"ドシュッ"
「!?」
ティオは、いきなり体に加わった重圧に驚き、必死でジャブラの肩にしがみつく。
気付けば、視界には青い空と、レンガ調の屋根しか映っていなかった。
ジャブラが、
「あ~~1番街は、っと……あっちか」
屋根の上から、辺りをぐるりと見渡したジャブラは、ティオを気に掛けることなく、東の方へと駆け出した。