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37. 抜けない癖
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翌日。
カクとティオは、揃って昼まで寝ていた。
ティオはいつものことだが、カクも、連日の寝不足が祟って、朝早くには起きられなかったのだ。
人が出払い、静かになったアジトの中で。
カクが、ティオを片腕で軽々と抱っこして、階段を降りてくる。
一階のラウンジスペースには、当然のことながら誰も居なかった。
今、カクとティオ以外でアジトに居るのは、寝ているブルーノだけだ。
「お? 朝飯が置いてあるのう」
テーブルに、銀のドーム型のクローシュを被せた皿が、置かれている。
カクはテーブルの傍にティオを降ろすと、クローシュを取った。
大きなサンドイッチと小さなサンドイッチが、2つずつ、付け合わせと一緒に皿に乗っている。
カクとティオ、それぞれに合わせた朝食だ。
2人は目を見合わせると、一緒に口角を上げた。
……ソファに並んで座って。
朝食という名の昼食を摂ったあと、せっかくの休みだからと、カクはティオを外に連れ出すことにした。
「ずっと部屋に籠っていては気が滅入るじゃろう。それに、今日は天気もいい」
「(コクン) ……あ。ぼうし、1つ、かして?」
「うん? 構わんが、セント・ポプラの日差しは それほど強くないぞ? 日焼けでも気にしとるのか?」
ティオはふるふると首を横に振る。
カクは部屋から、キャップを1つ持って戻ってきた。
少し大きいそれを借りたティオは、長い金髪を全て中に収めて、被る。
「……きづいて、る? この、まち、さいふぁー・ぽーる、いること」
カクは真顔で、少し固まった。
「……そうか。わしらを探して、既に入り込んでおったんじゃな」
「まだ、なにも、されてない?」
「あぁ。声を掛けられたことも、尾行されたこともない。他のメンバーもされておらんはずじゃ。黒服程度の奴らなら、尾行されればすぐに気付くからのう」
「……なら、まだ、ようす、み」
「しかし、それも時間の問題じゃな」
「(コクン) ……いま、ちょうじょうせんそう、おわったばっか、いそがしい。けど、もうすぐ、ほとぼり、さめる」
「そろそろ本格的に、次の動きを考えねばならんというわけか……」
ティオは自分の恰好を、身を捻ったり首を捻ったりして、出来る限り確認した。
服装は、小さめのTシャツとショートパンツを、カリファから借りている。
カクから借りたキャップも相まって、まるで男の子のような姿だ。
麦わらの一味であり、元・伝承者のティオは、サイファー・ポールたちに居場所を知られるわけにはいかない。
「へんな、とこ、ない? おとこのこ、みたい、みえる?」
「あぁ。完璧な変装じゃ」
カクは、いつもと別人のようなティオを、慣れた動作で肩車した。
そして、穏やかな日の光が差す、外へと出ていく。
"カチャ、ギイィ……"
古い玄関扉が開いて、ティオは眩い光に、一瞬だけ眉をひそめた。
しかし、すぐに目が慣れて、セント・ポプラの美しい街並みが見えてくる。
随分と久し振りに見る外の景色と、感じられる爽やかな空気に、ティオの青い瞳は輝いた。
「落ちないよう、しっかり掴まっとれ?」
そう言って、カクは長い脚で町を
いつもの2倍以上高い視線からの景色は、ティオにとって新鮮で、ちょっと楽しかった。
すれ違う人々も、微笑ましいものを見る表情で、近くを通り過ぎていく。
カクは笑顔を貼り付けて歩きながら、真剣な
「……黒服共は、町に何人おるんじゃ?」
ティオはカクの頭に掴まり、周囲の景色を眺めるフリをして、小声で答える。
「……しってる、こえ、だけで、9にん」
海軍にいた頃、ティオは伝承者として数百人の黒服たちの記憶を読み、そのときに、黒服1人ひとりの"声"も記憶していた。
それと照らし合わせ、覇気を広げた結果、引っ掛かったのは9人。
しかし、元CP9を相手に、監視だけとはいえ人数が少なすぎる。
エニエス・ロビーの一件で、多くのサイファー・ポールが負傷または死亡したはずで、その分、人員の入れ替えもあったはず。
ティオが会ったことのない黒服が、町の中に潜んでいる可能性が高い……
「……そもそも、なんで、ここ、とどまってる?」
「……単純な話じゃ。金がなくて動けん。追われる身じゃから、目立つような高給の仕事には就かん方がいいと思っとったんじゃが、既に監視されていたのなら、あまり意味はなかったのう……。アジトも借り物で家賃もあるし、7人の今の稼ぎでは、ほぼその日暮らしなんじゃ。……その暮らしの中で、安く別の島へ行く方法を探しておる」
要するに、安く船を手に入れる方法か、誰かの船に安く乗せてもらう方法を探しているのだ。
「あ! カクだ~!」
「なにしてんだよ~!」
どこからか、子供たちの声がする。
緩やかな坂道の先から、男の子が2人走ってきた。
外見からして、どちらも6歳に満たない
カクは明るい笑顔を向けた。
「お~、アランとリドルか」
男の子たちは、カクの長い脚に纏わりつく。
「だれだ? そいつ」
「あし、ケガしてんのか?」
「わしの知り合いの子じゃ。ちと派手に転んでしまってのう」
ティオは、あまり顔を見せないよう、帽子を
男の子たちは、ティオの顔が見たくて、必死で覗き込もうとする。
その頭を、カクがやんわりと押し留めた。
「すまんが、この子は恥ずかしがり屋なんじゃ。あまり覗かんでやってくれんか?」
「ふ~ん」
「へんなの!」
"変"と言われ、ティオはカチンとくるが、相手は子供だからと、膨らみかけた頬を押し留める。
「それより、お前さんたちこそ、どうしてここにおるんじゃ? お母さんかお父さんはどうした」
「あっちにいる!」
「かあちゃんたち、ずっとはなしてんだ!」
アランの指さす先を見れば、2人の母親と思しき女性たちが、井戸端会議に夢中だ。
カクは苦笑して、2人の頭をポンポンと叩く。
「そうか。退屈なんじゃな。……じゃが、こんなに離れてしもうたら、お母さんが心配するじゃろう。もっと近くで、遊んで待っておれ」
「え~っ」
「カクとあそぶ!」
「すまんが、わしは行くところがあるんじゃ。また明日、『ひまわり園』で遊ぼう。のう?」
2人は しかめっ
すかさず、カクは2人の頭を撫でて、褒めてやる。
「ありがとう。2人とも良い子じゃな」
……それから。
カクは、アランとリドルの手を引いて、母親たちのところへ送り届けると、再び道の先へと歩き出した。
ゆらゆらと肩で揺られながら、ティオは気になっていたことを訊く。
「……いまの、しごと、さきの、こども?」
随分と親しそうで、"明日遊ぼう"と言っていたから、仕事で相手をしている子供の可能性が高い。
「よく分かったのう。わしが勤める『ひまわり園』という託児所の子供たちじゃ」
「……たくじしょ……」
「ん、何じゃ?」
「……なんでも」
元CP9が、託児所で働いているだなんて。
少し吹き出しそうになったが、唇をギュッと締めて我慢した。
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