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36. 本当の顔
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ブルーノは、ほんの一時間程度で全員分の夕食を作ると、5時には仕事に出かけていった。
ティオは、トランプに熱中しているフリをして、密かに、覇気をセント・ポプラ全体に広げる。
(……まだ、だれも、かえって、こない)
町のあちこちにいる元CP9メンバーは、みんなまだ仕事中のようだ。
このアジトの方へ向かうような動きをしている者は、いない。
あとは、カリファの隙を狙うのみ……
ティオは、トランプの手札を場に出して、じっとカリファを見た。
カリファは、自分の手札を見て何かを考えていたが、ふと、顔を上げ、ラウンジの壁に掛けられた時計を見る。
「そろそろ、夕食のセッティングをした方がいいかしらね……。トランプは一旦中断よ」
そう言って、カリファは自分の手札を、伏せるようにテーブルに置いた。
「あなたも手伝……うのは難しいわね」
カリファの視線は、ティオの脚に向く。
脚を骨折している子に、料理や皿を運ばせるのは酷だ。
「私がキッチンから運んでくるから、あなたはテーブルに並べてくれる?」
「(コクン)」
その気はないが、とりあえず頷く。
カリファはソファから立ち上がり、キッチンの方へ向かった。
ティオは、遠ざかっていく背中をじっと見つめる。
そして、カリファがキッチンに入った瞬間―――
"シュト……ッ"
片脚だけでテーブルを飛び越え、足音を殺して窓に寄った。
つまみを回して鍵を開けると、そっと窓を上にスライドさせる。
そして、鳥の姿に変わって、片脚だけで窓枠に降り立った。
(……まってて、るふぃ)
今、そばに行くから。
バサッと羽を広げ、夕日に染まり始めた空を見上げる。
いつも笑顔を向けてくれる、ルフィの顔を思い浮かべて、窓枠を蹴った。
"グニョン……"
「!?」
窓を通過した瞬間、何かが全身に纏わりついた。
一気に力が抜け、ティオの体は窓の外に落下しながら、人の姿に戻る。
"ボンッ……もふん……"
地面に落ちる痛みはなく、何か柔らかいものの上に落ちた。
(……な、にが……)
ティオは体を動かせない分、見開いた目を動かす。
自分を包む、泡のクッション。
そして、今さっきティオが通過した窓からは、カリファが見下ろしていた。
「やっぱり、私が休みの日を狙ってたのね。もう日も暮れるし、逃げないと踏んで、解除しようと思っていたところだったのに」
カリファは指先で、窓枠に囲まれた空間をつつく。
そこには透明な膜が張られていて、カリファの指が当たると、グニャグニャと揺れた。
「
パチンと、カリファが指を鳴らせば、窓に張られていた透明な膜は、シャボン玉が消えるようになくなる。
(……しっぱい、した……)
ティオは、泡に包まれたまま全く動けず、能力も使えずに、脳だけをフル回転させていた。
心臓の音が耳元で煩く鳴っている。
……どうしよう。
まさか、こんなにあっさり捕まるとは思っていなかった。
逃亡を敵意とみなされ、今度こそ殺されてしまうかもしれない……
カリファがアジトの外に出て、ティオの傍まで歩いてきた。
手を腰に当て、冷たい目で見下ろしてくる。
……ひしひしと伝わってくる、怒りの感情。
ティオは恐れを隠せず、青い顔でカリファを見上げた。
「手間を掛けてくれるわね」
そう呟いて、カリファは腕をティオの胴に回し、抱える。
そのままアジトに入って、浴室へ直行した。
"ガチャ……ドサッ"
少し乱暴に、ティオを降ろすと、シャワーの蛇口をひねる。
ぬるいお湯が、ティオの頭に降り注いだ。
「一体、どこに行こうとしていたのかしら」
ティオはずぶ濡れの顔を上げ、カリファを見つめる。
「なかまの……るふぃの、とこ」
「そんな体で?」
「どんな、からだでも、いく。るふぃ、いま、つらくて、ないてる、かもしれない。いつも、るふぃ、てぃお、たすけてくれた。だからっ、こんどは、てぃおの、ばんっ」
「そう。やっぱり、自分のことしか見えていないのね」
「……?」
ティオは、カリファの言っていることが分からず、首を傾げた。
カリファの怒りの感情が、膨れていくのを感じる。
眼鏡の奥で、鋭い瞳がカッと見開かれた。
「たった1人、瀕死のまま放り出されていたあなたがっ、今も生きていられるのは何故? カクに助けられたからでしょう!?」
ビリビリと、肌に刺さるほどの怒気に、視線を外すことも出来ない。
「カクがあなたの生活費や医療費のためにっ、一体どれだけ身を
「!」
「敵のために朝から晩まで働いて、自分の寝床まで明け渡して、アイツは本当の馬鹿よ……。けれど、そのことに一言の感謝もなく逃げ出すようなあなたは、最低の
「……」
胸の奥が痛む。
……考えもしなかった。
カクがどれほどの気持ちと覚悟で、自分を助けてくれたかなんて。
一歩間違えれば、裏切り者として、仲間たちに背後から刺されていたかもしれないのに。
助けてくれた理由は分からなくても、敵意は感じないからいいや、と、考えることを放棄していた。
……いや、話すことを放棄していた。
これは悪いクセだ。
常に感情を読んでいる分、それだけで相手の全てを分かった気になって、話をしようとしない。
海兵だった頃、クザンに何度も注意されたのに……
カリファは、感情的になってしまった自分を抑えるように、ため息をつく。
「……私は、あなたがどこへ行こうが何をしようが、一向に構わないわ。けれど、カクに一言の礼もなく消えるというのなら、絶対に許さない。どこまでも追いかけて、必ず引きずり戻す。覚えておきなさい」
そこまで言うと、カリファは夕食のセッティングを再開すべく、浴室を後にした。
"サァァァァ……"
いつの間にか、体に纏わりついていた泡は、全て流れ落ちていた。
「……」
ティオはシャワーを頭から浴びたまま、
……情けない、悔しい、恥ずかしい。
様々な思いを込めて、床についていた手を、グッと握り締めた。