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36. 本当の顔
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さらに翌日。
ティオが目を覚ました日から、3日目。
昼頃に目を覚まし、部屋にあった食事を食べたティオは、トイレのために1階に降りてきた。
「……」
階段の途中で、共用のラウンジスペースを見れば、そこにはクマドリの姿が。
今日のティオの監視 兼 アジトの警備は、彼のようだ。
ティオの気配を感じたのか、クマドリは振り返る。
「よよい! や~っと起きたか~ァ」
「……」
ティオはどう答えるべきか分からず、とりあえず小さく頷いた。
クマドリは、歌舞伎役者のようにポーズを決める。
「カクから~ァ、伝言だ~ァ。昨日みてェな無茶はァ、ぁ絶対にィ、するなってよ~ォ」
「……。……わかった」
言われなくとも、昨日の疲労をまだ回復しきれていない。
「よよい! ぁ暇なら~ァ、遊んでやろ~ォか~ァ?」
「……?」
遊んでやる、と言ったのか?
ティオは半目でまばたきを繰り返す。
昨日のフクロウといい、何故こんなに遊びを勧めてくるのだろうか……
……だが、毎日1階で過ごすようにすれば、1階に居ることを疑問に思われないようにでき、逃げる隙も作りやすくなる。
「(コクン)」
とりあえず、1階で過ごす口実のために、ティオはクマドリの誘いに乗ることにした。
本来の目的であったトイレから戻ると、ラウンジに簡易的な舞台が作られている。
「それでは~ァ聞いてくだ~せ~ェ、『瞼のおっかさん』」
どうやら、寸劇を見せてくれるようだ。
ティオはソファに座り、大人しく観劇する。
「泣くんじゃねェ~、ぁ泣くんじゃねェよ~ォ」
こぶしを利かせた言い回し。
大袈裟な振り付け。
クマドリの一人寸劇を、どこか遠いもののように眺めて、ティオは、不思議な気分に浸っていた。
……こんなふうに、敵である自分と遊んでくれるなんて。
昨日のフクロウもそうだが、クマドリからも、想像していたような冷酷さを感じない。
CP9でなくなったことで、途端に殺し屋のスイッチがオフになったのだろうか。
……それとも、これが素なのか。
考えているうちに、寸劇が終わった。
ティオはパチパチと拍手を送る。
その、人形のような無表情に、クマドリは頬を掻いた。
「……面白かったか~ァ?」
ティオは、何故そんなことを訊くのだろう、と首を傾げてから、コクンと頷く。
ティオとしては、十分に楽しませてもらっていた。
しかし、クマドリから見れば、まったく表情が変わっていなかったため、つまらなかったのではと思ったのだ。
「お前さん~、何がァ好きだァ~?」
クマドリは、今度はティオが好きなことで遊んでやろうと思い、訊く。
ティオは首を傾げ、視線をあちこちに飛ばした。
……好きなことなんて、考えたことがない。
海兵だった頃は、ひたすら伝承者の任務と休息の繰り返しで、あとはクザンに鍛えてもらったり、一緒に昼寝をしたくらい。
麦わら一味に入ってからも、航海中の配置についたり、冒険中の手助けをしたりするほかは、ゾロと一緒に昼寝ばかりしていた。
暇とか何とかは、感じる前に、じっとしていられない船長が何かを起こすから、あまり感じたことがない。
「すきな、こと、わからない……」
ぽつりと答えたティオに、クマドリはまばたきを繰り返す。
そして、その場に錫杖をカンッと立てた。
「ならば~ァ、こんなのァ~、どうだ~?」
うねうねと、クマドリの髪が動き出す。
「生命帰還~」
髪は、何本もの腕のように動き、ティオの体を持ち上げた。
そのまま、ぽよんぽよんとボールのように跳ね上げる。
まるでトランポリンのような動きに、ティオは最初こそ驚いたが、ちょっと楽しく思った。
口元が、波打つように少し緩む。
それを見て、クマドリも口角を上げ、さらにティオを跳ね上げた。
……やがて、トランポリン遊びは、ティオと髪の鬼ごっこに変わっていく。
「お前さん~、ぁなかなか~、素早いじゃァねェか~ァ?」
「むぅ……っ」
怪我がなければ、もっと速く動けるのに。
少し悔しく思いながら、追いかけてくる無数の髪を、ティオは避け続けた。
……カクから、無茶をするなとあれほど言われたのに。
勝敗のある遊びになってしまうと、どうしても負けず嫌いが出てしまう。
結局、今日もティオは、くたくたになるまで動いてしまうのであった……