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35. セント・ポプラ
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一方、その頃。
ティオはというと、一度読んだことで暗記した新聞の内容を、頭の中で繰り返していた。
今のところ、情報があるのはルフィだけで、合流できる可能性も最も高い。
レイリーのビブルカードを辿ってシャボンディ諸島に戻れば、きっといつかは合流できるだろう。
しかし、ルフィのことだから、自分1人でシャボンディ諸島に戻ってくることはほぼ不可能で、時間がかかるはずだ。
だからこそ、空を渡れる自分が、助けに行かなくてはならない。
(……るふぃ、いんぺるだうん、どうやって……)
まずは、ルフィが頂上戦争に辿り着くまでに辿った経路を推測する。
1人で辿り着けるような頭は絶対に持っていないから、誰かに協力してもらったことは間違いない。
その協力者が誰なのか推測できれば、現在の居場所も推測できる。
(……そもそも、えーすの、じょうほう、しったの、くまに、とばされた、あと)
シャボンディ諸島で共に行動していたときには、まだエースが投獄されている情報は得られていなかった。
エースの投獄と公開処刑に関する情報は、くまの能力で飛ばされたあと、三日三晩を経て着地した場所で得たに違いない。
それはどんなに早くても6日前だ。
エースの護送時刻は、処刑を巡る戦争の状況から察するに、昨日の午前中。
エースが間違いなくレベル6に投獄される実力者であることと、同じくレベル6に相当するエンポリオ・イワンコフ、海峡のジンベエ、サー・クロコダイルと行動を共にしていたことを考えると、ルフィはインペルダウンに侵入した後、レベル6まで潜ってから、仲間を伴って再び上層に上がってきたことが窺える。
毎度、実力者たちを惹きつけて仲間にできるルフィには驚かされるばかりだが、重要なのは、インペルダウンで丸1日程度は過ごしただろうという予測値だ。
レベル1からレベル6を往復したとなれば、マゼラン署長率いる看守たちとの戦いは避けられない。
敵地ゆえに疲労回復はほぼ不可能なため、1日以上かかる戦いをしていれば、今頃ルフィは捕まり、インペルダウンで投獄中だ。
けれど、ルフィは前代未聞の大脱出を成し遂げているのだから、1日程度でインペルダウンを往復し、出てきたということになる。
つまり、エースの護送時刻が昨日の午前中という予測で、ルフィはその時刻までにエースに辿り着けず、マリンフォードへ向かっているのだから、ルフィはインペルダウンに、2日前の朝までには侵入していたのだ。
6日前以降にエースの情報を知り、2日前までにはインペルダウンに侵入している。
ルフィが着地した場所からインペルダウンまで、移動に使える時間は最大で4日間。
しかし、それほどインペルダウンに近い場所に、島はない。
ならば、政府専用のタライ海流を使ったと考えるのが妥当。
だが、タライ海流に乗るには軍艦に乗る必要があり、さらに、インペルダウンに繋がる門を開閉させなくてはならない。
ルフィにそこまでの頭はない。
つまり、ルフィを軍艦に乗せ、インペルダウンの門を開けさせた協力者がいるのだ。
それも相当な実力者か権力者だ。
いくら知恵があろうとも、そこらの一般市民が、軍艦の乗組員全員を騙して、インペルダウンに向かわせることなど出来ない。
軍艦の乗組員全員を無理やりにでも動かせるほどの権力、または実力を有している人物。
そして、そもそも海軍にも海賊にも精通していて、両者の性質や扱いを知っている人物。
そんな存在、この世に1つしかない。
「……おうか、しちぶかい」
海賊でありながら、政府や海軍とも関りが深く、権力も実力もある者たち。
タライ海流の使用を前提に、4日以内にインペルダウンに辿り着ける場所に住む、王下七武海の海賊。
その条件に当てはまるのは、1人だけだ。
「……じょてい、ぼあ・はんこっく」
屈強な女戦士たちを取り纏める、九蛇海賊団の船長。
……だが、この推論は成り立たない。
何故なら、ボア・ハンコックは大の男嫌いだからだ。
彼女がルフィに協力する姿など、夢の端にも想像できない。
ティオは、また振り出しか、とため息をついた。
そのとき…
"コンコン……"
扉がノックされた。
咄嗟に覇気を広げれば、ブルーノの気配が感じられる。
"ガチャ"
扉が開いて、ブルーノが扉に頭をぶつけないように器用に入ってきた。
手には、土鍋と器が乗ったお盆がある。
「カクの指示だ。食事を持ってきた」
端的にそう言ったブルーノは、水差しとコップが置いてあった、ベッドサイドの小さなテーブルに、お盆を乗せた。
「適当に時間が経った頃に、下げに来る。それまでに食べられるだけ食べておけ」
ぶっきらぼうにそれだけ言うと、ブルーノはさっさと
ティオは咄嗟に頭を回転させ、聞かなくてはならないことを捻り出した。
「まって。ききたいこと、ある」
「……」
ブルーノは、扉のノブに手をかけたまま、止まる。
ティオはじっと、大きな背中を見つめ、拒絶の感情を感じないことを確認すると、口を開いた。
「あれから、しーぴーないん、どうなった、の?」
世間一般に存在を公表されていないCP9は、新聞などでその後の情報を確かめることができない。
世界政府を離れたティオには、もはや情報を入手できない対象だった。
ブルーノは振り返らず、端的に答える。
「エニエス・ロビーへの海賊の侵入を許し、バスターコールを以ってしてもその海賊を取り逃がした上、エニエス・ロビーそのものを崩壊させる引き金になったとして、CP9は解体された。元長官はコネを駆使し、未だ政府に身を置いているようだが、俺たちは実質的な解雇だ。……推測の域を出ないが、あの元長官のことだ。自分の失態を全て俺たちに押し付ける程度のことは、しているだろう」
つまり、もう政府には戻れない。
ティオはブルーノの感情を肌に感じながら、次の質問を投げた。
「どうして、たすけて、くれた?」
ブルーノは相変わらず振り返らない。
「全てはカクの独断だ。俺はお前のことを、助けたいとも殺したいとも思っていない。どちらを選択しようと、もはや政府の人間ではない俺にとって、意味はないからな。……これ以上はカクに聞け。俺も仕事に行かねばならない。……この建物から出ようとすれば、逃亡とみなし、即、捕獲する。建物内ならば、お前自身の判断で好きにすればいい。どの時間帯も留守になることは決してないからな。逃亡しようなどとは考えないことだ」
"ガチャ"
ブルーノは半ば強引に話を切り上げ、部屋を出ていった。
"キィィ……パタン"
閉じた扉を、ティオはしばらくじっと見つめる。
ブルーノもまた、様々な感情を発しており、真意が分からなかった。
気恥ずかしさ、葛藤、自制……
主な感情はそんなところだったが、これだけでは判断がつかない。
「……」
ティオは、サイドテーブルに乗せられた鍋を見つめた。
蒸気口から薄く湯気が上がっている。
(……なかま、いしき、なんて、なかった、はずなのに)
カクが自分を助けてくれた理由なら、単なる人助けだと言われても、まだ納得できた。
エニエス・ロビーで、カクの心根の優しさを知ったからだ。
けれど、ブルーノや他の元CP9たちが、食事の準備や監視として協力しているのは理解できない。
サイファー・ポールは全体的に、仲間意識が薄いからだ。
倒れた仲間は踏み越えていくのが定石と教えられ、敵を拾ってきて看病するような奴には、絶対に協力などしない。
その冷酷無慈悲の最たる部署が、CP9だ。
「……」
エニエス・ロビーでの一件から、カクだけでなく、彼らにも変化があったのだろうか……
……いや、今は
一刻も早くルフィの元に行かなくてはならないのだから。
「……」
ティオは自分の両手を見下ろし、握ったり開いたりした。
反応が鈍く、力も弱くなっている。
まずは食べて、適度に体を動かして、早急に体力を戻さなくては。
ティオはゆっくりと体を動かし、サイドテーブルににじり寄った。
土鍋の蓋を開け、熱々のお粥を、匙で少しすくい、冷ましてから口へ運ぶ。
体調を崩したときによく食べていた、サンジの作るお粥とは、味が違う。
酒場に長らく居たブルーノが作ったからか、少し塩味が強く、ジャンキーな味がした。
それでも、9日ぶりの食事は、体に染みわたる。
ティオは、遠くに居るルフィを想い、懸命にお粥を胃袋に詰め込んでいった。