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35. セント・ポプラ
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どうやら、シャボンディ諸島での一件から、今日で9日が経っているようだ。
そして、昨日はマリンフォードで海軍と白ひげが戦争を起こし、海軍が勝利したらしい。
さらに、その記事の中に、何度も『ルフィ』の名前が出てきている。
一体、自分が眠っていた9日間で、世界には何が起こっていたというのか……
「まったく、お前さんたちには驚かされるばかりじゃ。9日前、シャボンディ諸島で天竜人への暴行事件があったかと思えば、その主犯とされる麦わら海賊団の完全崩壊が報じられた。さらにその3日後には、お前さんがこの島に現れ、昨日に至っては、麦わらがインペルダウンの脱獄囚を引き連れ、兄のポートガス・D・エース奪還のため、マリンフォードの大戦争に乗り込んだという。お前さんたち、一体何をしとるんじゃ?」
「……まりん、ふぉーど……えーすの、だっかん……?」
情報が渋滞して、さすがのティオも混乱せざるを得ない。
「……しんぶん、ぜんぶ、みせて」
そう言うと、カクは9日分の新聞を、全てティオの膝に乗せてくれた。
ティオは日付順に、全ての新聞を読んでいく。
ざっと眺めている程度に見えるが、その頭には、一字一句漏れることなく刻み込まれていた。
最後に今朝の朝刊を読みきると、いつの間にか止まっていた息を吐き出す。
―――事の発端は、"黒ひげ"ことマーシャル・D・ティーチで間違いないだろう。
白ひげ海賊団の二番隊隊長である、ポートガス・D・エースを手土産に、王下七武海の地位を得ようとしたのだ。
政府はティーチに七武海の地位を与え、エースを処刑しようとした。
そんな事態になれば、白ひげ海賊団が黙っていない。
そうして、昨日、マリンフォードで起きたのが、海軍本部と白ひげ海賊団による、世界をひっくり返しかねない大戦争。
エースの処刑に踏み切った理由は、その生い立ちだろう。
海賊王、ゴール・D・ロジャーの実子であることを、海軍だけでなく世界中に明かすことで、処刑に大きな意味を持たせ、政府と海軍の威厳を再認識させようとしたのだ。
ルフィは、シャボンディ諸島から飛ばされた後、どこかでエースが処刑されることを知ったに違いない。
そして、エースを助けにインペルダウンに侵入し、金獅子のシキ以来の脱獄を果たして、囚人たちと共に戦争に乗り込んだのだ。
……どうやってインペルダウンまで行ったのかは、皆目見当もつかないが。
―――結果。
―――ルフィは兄を、救えなかった。
「大丈夫か?」
「?」
カクの問いかけの意味が分からず、ティオは新聞から顔を上げた。
視線の合ったカクの顔が、歪んで見える。
自分が涙を流していることに、やっと気づいた。
ハッとして、震える腕で涙を拭う。
「その様子じゃと、頂上戦争への参加は麦わらの単独行動のようじゃな。新聞にも、お前さんたち仲間の名前は1つも出とらんかったからのう」
「……いか、なきゃ」
「うん?」
ティオは、ぐすっと鼻をすすると、ベッドを降りようと動き出した。
カクが慌てて止める。
「これこれ、そんな体でどこへ行くんじゃ」
「……かえ、る」
前かがみになりつつ、両脚をベッドから降ろそうとしたが、両脚が思うように動かず、ティオの体は床を目掛けて倒れていく。
ガシッと、カクの腕が支えてくれた。
「無理じゃと言っている。ここに来てから6日間寝続けとったんじゃぞ? その間、何度か生死の間を彷徨い、昨日までは高熱に浮かされとった。お前さん、常人より体が弱いんじゃろう?」
「……」
「医者の話では、一週間は安静が必要だそうじゃ。さらに、粉々に折れとる脚が完治するには、
ティオは、支えてくれたカクの腕を、きゅっと掴む。
「……それでも、いかない、と」
……たった1人で、兄を救うため、世界最恐の大監獄・インペルダウンに侵入し、マリンフォードまで追いかけた挙句に、助けられなかったなんて。
ルフィの心境を想うと、涙が溢れ、居ても立っても居られない。
「……だいじ、な、ひと、だった」
スリラーバークを出港するとき、焦げて小さくなったビブルカードを見て、ルフィの感情は大きく揺れていた。
それはもう、仲間を傷つけられたときと同じくらいに。
努めて笑顔で居ようとしていたけれど、シャボンディ諸島に着いてからも何度か思い出していたようで、どうしても心配する感情が消えないのを、ティオはずっと感じていた。
海軍の本拠地にまで乗り込んでおきながら、結局、兄を助けられなかったルフィの心は、一体どれほどの傷を負ったことだろう。
「……るふぃ、きっと、ないてる……くるしんでる……こんな、ときこそ、そばにいるのが、なかまの、やくめっ」
いつだってルフィは、自分に手を貸してくれた。
今度はこっちの番だったのに……
兄を救いたかったルフィに、自分は手を貸すことが出来なかった。
ならば。
せめて傍に居て、心が折れないように支えてあげなければ。
ティオは、何度も涙を拭いながら、カクの腕を押しのけようとした。
……が、カクの腕はびくともしない。
「っ……はな、して。てぃお、いかなきゃ、いけないっ」
そう言って、睨むような視線で見上げると、カクは、冷たい視線でこちらを見下ろしていた。
予想外の表情に、ティオはビクっと肩を揺らす。
「駄目じゃと言うておろう」
突き放されるような言葉と共に、半ば強引にベッドに戻される。
つい先ほどまで暖かい感情を向けてくれていたのに、今は驚くほど冷たい。
ティオは困惑するが、ここで負けてはいけないと押し込め、キッとカクを睨んだ。
「……てき、に、さしずされる、すじあい、ない」
そう言うと、カクはフッと見下すような笑みを浮かべる。
「なら、こんなところに来てしもうた、自分の運のなさを恨むんじゃな。わしはお前さんが完治するまで、絶対にここから逃がさん」
ちらりと、机の上の置き時計を見たカクは、部屋の戸口へ歩き出した。
「ちと出掛けてくるが、わしが
ティオはじっと、カクの背中を見つめた。
……確かに、覇気を広げてみると、この建物には今、2人の元CP9が居る。
いや、そんなことより、何故こうも頑なにこの場に留めようとするのだろうか。
元CP9として、海賊を見過ごせないというのなら分からなくもないが、それなら今頃、殺されているか、海軍駐屯基地の牢屋に転がされているはずだ。
こうして治療を施し、枷もつけずに療養させている意味が分からない。
初めはカクの優しさかと思ったが、先ほどの感情の豹変ぶりを思い返すと、疑問が湧く。
今、カクから感じられる感情も、要領を得ない。
葛藤、憐れみ、罪悪感、怒り……そんな感情を中心に、様々な思いが入り乱れていた。
一体何を考えているのか。
いつもは、進んで他人の思考や記憶を読もうとしないティオだが、今回ばかりは、先ほどカクに触れたときに思考を読まなかったことを、ほんの少しだけ後悔した。
"カチャ……キィィィ……パタン"
何となく哀愁を感じさせる音をさせて、カクは扉の向こうに消えていった。