33. 超新星と伝説の冥王

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「つぎ、9ばん、うかいして、5ばんの、ほうこうへ」

「了解!」

午後の日差しが降り注ぐ、ヤルキマンマングローブの木立の間で。

麦わら一味を乗せたトビウオたちは、ティオの乗ったトビウオを先頭にして進んでいた。

ティオが覇気で読み取った海兵たちの場所を元に、最も見つかる危険の少ない道を案内している。

3分もすれば、誰にも見つかることなく、13番グローブのシャッキーの店に辿り着いた。

「そんじゃあ若旦那たち、また用があるときは気軽に呼んでくれよ! 魚人島へ無事に出港するまでは、俺たちが手足となるからよ!」

「おう! ありがとな、お前ら!」

「いいってことよ!」

バチーンとウインクを決めようとするデュバルだが、変顔になるだけ。

サンジがため息混じりに言った。

「もうウインクやめろっての」

しかし、デュバルにその声は届いていない。

「さァ行くぞ! 人生バラ色ライダーズ!」

「「「イエス! ハンバラ!」」」

去っていくトビウオたちを、ルフィは きょとんとした顔で見送った。

「掛け声いろいろ変わるなぁ」

「しっくりくんの探してんじゃね?」

レイリーが一味に声をかける。

「さぁ、急いで中へ。ハチの手当てを急がねばならんからな」

そう言って、『ぼったくりBAR』へと続く長い階段を登っていった。

一味も後に続く。

「お~い、シャッキー、今帰ったぞ」

レイリーが店に向かって声をかけると、シャッキーが扉を開けた。

「あら、レイさん、早かったわね。モンキーちゃんたちも、よく見つけてこられたものだわ」

「ハチの奴が大怪我をしてなァ。すぐにベッドを頼む」

「あら大変、すぐに用意するわね」

シャッキーは店の奥へと入っていき、組み立て式のベッドを持ってきた。

そこにハチが寝かされると、すかさずチョッパーが治療を始める。

麦わら一味は店に入り、一息ついた。

ルフィも出されたジュースを飲み干す。

「ぷは~、喉乾いてたからちょうど良かったぞ。……んで、おっさんは一体何者なんだ?」

ついに訊いたか、と言いたげな目で、仲間たちがルフィとレイリーを見た。

レイリーは、シャッキーに出してもらった酒を仰ぎ、普通に自己紹介する。

「私の名は、シルバーズ・レイリー。元は海賊王の船のクルーだ。よろしくな」

「……」

「……」

「……」

「……」



―――数秒、時が止まった。



「「「ええええっ!?」」」


叫び声で店が揺れる。

ルフィは顎が外れんばかりに口を開けた。

「か、か、海賊王の船にいたァ!?」

レイリーは変わらず、酒を仰いでいる。

「あぁ。副船長をやっていた」

「ふ、ふ、副船長ォ!?」

一味のリアクションに笑いながら、シャッキーがハチに訊く。

「教えなかったの? はっちゃん」

「ニュ~、用があるのはコーティング屋の方だったからな」

ロビンがコーヒー片手に首をかしげた。

「あら、気づいてなかったの?」

ウソップとナミは、何故か涙を流している。

「ンなこと夢にも思うわけねぇだろ~~!」

「その名前すっごく知ってるぅ! いろんな本で見たことあるぅ!」

ティオも何ですぐに言ってくれねぇんだよォ!」


ジュースを飲んでいたティオは、半目でため息をついた。

「あのば、で、いまみたいに、なかれたら、こまる」

「泣かないわよあんな状況で! 説明するの面倒だっただけでしょ!」

ブルックは、まるでカラクリのように延々と煮豆を食べながら、コキっと首をかしげる。

「ゴールド・ロジャー? ん~確かにそんな名前のルーキーが昔いたような、いなかったような……」

ゾロが眉をひそめて訊いた。

「何でそんな大物とタコが知り合いなんだ」

レイリーとシャッキーが、フっと笑みを浮かべる。

「ハチはな、20年以上前、私が海で遭難したところを助けてくれたんだ」

「そう、この人の命の恩人なのよ。その頃、はっちゃんはまだ子供だったけどね」

「以来、ハチがタイヨウの海賊団に入るまでの間、仲良くしていたんだ」

「あぁ、あのアーロンの……」

サンジが新しいタバコに火を灯しつつ訊く。

「けどよ、ゴールド・ロジャーは22年前に処刑されたってのに、副船長のアンタは打ち首にならなかったのか? 一味は海軍に捕まったって聞いてるぜ?」

「そうか、そういうことになっているのか。……ロジャーは捕まったのではない。自首したのだよ」

「自首……?」

「そうだろう? ティオ君」

レイリーの視線が、横目にティオを捉える。

ティオはジュースのストローを咥えたまま、じっとレイリーを見つめ返した。

「……」

……この人は、自分の正体を知っているのだろうか。

伝承者は超機密事項であり、世界政府や海軍の上層部、そして、七武海の一部しかその存在を知らない。

……だが、最果ての海で歴史の全てを知った彼なら、知っている可能性は十分にあり得る。

「それは、もと、かいへいの、てぃおに、きいてる?」

レイリーがどこまで知っているのかを確かめるべく、ティオは質問に質問を返した。

仲間たちはティオの問い返しの意味を図りかねていたが、レイリーは解ったようで、ニヤリと笑みを浮かべる。

「海兵以外に何かあるなら、そちらでも構わないよ」

その答えで、ティオは察し、ふっと息をついた。

知っているわけではなく、まだ推測の段階なのだと。

「……たしかに、かいぞくおう、あるひ、とつぜん、かいぐんきち、あらわれた。それまでは、いっさい、しょうそく、ふめい、だったのに。せかいせいふ、ちから、しめすため、とらえたと、こうひょう、した」

それを聞いたナミは、眉を顰める。

「でも、何で自首なんて……」

レイリーは酒の入ったグラスを見下ろした。

「我々の旅に、限界が見えたからだ」

氷がカランと崩れる。

「……あの公開処刑の日から4年ほど前、ロジャーは不治の病にかかった。誰も治せない、手の打ちようのない病に、さすがのロジャーも苦しんだ。……当時、海で一番評判の高かった、灯台守でもある医師、双子岬のクロッカスという男だけが、その苦しみを和らげる腕を持っていてな。我々は彼に頼み込み、最後の航海に船医として付き添ってもらったのだよ」

カキョンと、ブルックの顎が外れんばかりに開く。

「く、クロッカスさん!? なんとお懐かしい名前っ」

ウソップも目を見開いた。

「あのおっさん50年ずっと岬にいたんじゃねぇのか!? まさか海賊王のクルーやってたなんて……」

ナミが顎に手を当てる。

「そういえば、数年 船医をやってたって言ってたような……じゃあ、その3年の間だけ、海賊王の船にいたのね」

思わぬ吉報に、レイリーは口角を上げた。

「そうか、キミたちは会ったのか。まだ元気でやっていたのなら、何よりだ。……クロッカスはクジラを可愛がっていて、何やら探したい海賊団がいるからと、乗船を了承してくれたのだが……」

ウソップが驚きで身を乗り出した。

「ぇえ!? お、おいブルック! それって完璧にオメェらを探しに海へ出たんじゃねぇかよ!」

「ぐすっ……クロッカスさん、そんなことまでしてくれて……」

レイリーは、クロッカスの姿を思い出すように目を閉じた。

「離別してからもう20年以上になるか……。この歳になると、また会いたいもんだな」

それを聞いて、ルフィがピョンと立ち上がった。

「そうだ! ティオに見せてもらえよ!」

「?」

レイリーがルフィを見ると、ルフィはその視線をティオへと投げる。

「な! ティオ、見せてやってくれ!」

「……」

ティオは、ルフィとレイリーを交互に見た。

ソファからストンと降りて、無言でレイリーの傍まで歩いてくる。

そして、右手をひらりと上げた。

「るふぃ、の、きおくから、ふたご、みさきの、できごと、みせる」

それを聞いて、レイリーはほんの少しだけ目を見開き、同時に悲しそうな色を宿した。

「……そうか、キミはそちら側の力を得たのか」

「(コクン)」

ティオは、テーブルに置かれたレイリーの手に、自分の手を重ねた。

ブルックにラブーンの記憶を見せたとき、ルフィから読み取っていた記憶を、レイリーに伝える。

レイリーは目を瞑り、クロッカスに関する記憶を受け取った。

数秒すると、目を開く。

「……ありがとう。相変わらずのようで、何よりだ」

言って、ティオの頭を撫でた。

偉大なる航路グランドラインを制覇して、ロジャーは海賊王と呼ばれるようになった。それから1カ月と経たず、船長命令により海賊団は解散し、クロッカスとも、他のクルーともそれきりだ」

ティオはチラリとレイリーの顔を見上げた。

レイリーから感じられる、懐かしむような、悲しむような、形容しがたい感情。

頭に乗った手から、記憶を読むことは可能だけれど、しなかった。

「海賊団の解散から1年後、ロジャーは自首し、逮捕され、あいつの生まれ故郷である、東の海イーストブルーのローグタウンで公開処刑されることになった。……あの日、広場には、今の海で名を挙げている海賊たちが、数多く顔を揃えていたと聞く」

サンジの頭に、小さな疑問が湧く。

「聞いたってことは、アンタは行かなかったのか?」

レイリーは、ティオの頭から手を離し、酒の入ったグラスを回した。

「あぁ。行かなかったよ。アイツが最後にこう言ったからね」





『―――俺は死なねぇぜ? 相棒』





「……あの日、世界政府も海軍も驚いたことだろう。他の海賊たちへの見せしめのために行った公開処刑の場が、ロジャーの死に際のたった一言で、大海賊時代への幕開けの式典となったのだから」

処刑台でロジャーが放った一言は、海賊たちを海へと駆り立てた。

「あの日ほど笑った夜はない。あの日ほど泣いた夜も、酒を飲んだ夜もない。……我が船長ながら、見事な人生だった」

珍しく感傷的なレイリーに、シャッキーは感慨深い思いでタバコの煙を吹く。

ナミはゴクリと息を呑んだ。

「……なんか、スゴイ話聞いちゃったみたい……当事者から聞くと、また別の話に聞こえる」

ウソップも身をすくませていた。

「じゃ、じゃあ、まるでこの海賊時代は、意図してロジャーが作ったみてぇじゃねぇか」

レイリーはニヤリと口角を上げる。

「……そこはまだ、答えかねる。ロジャーは死んだのだ。今の時代を作れるのは、今を生きている人間だけだよ。……まぁ、あの日、広場でロジャーから何かを受け取った者たちが、確かにいるとは思うがね」

そう言って、チラリとルフィに目を向けた。

「キミのよく知るシャンクスも、その1人だろう」

店の冷蔵庫を漁っていたルフィは、驚いて口から物を吹き出した。

「ぇえ!? おっさんシャンクス知ってんのかぁ!?」

「あぁ。それから、東の海イーストブルーなら、バギーという海賊も知らんか?」

その名に、ゾロとナミが表情を歪める。

「バギーって……」

「アイツか……」

「アレらは2人共、ウチの船で見習いをやっていてなァ」

「ええええっ!? シャンクスは海賊王の船にいたのかぁぁ!?」

「何だ、聞いていないのか。……10年ほど前になるかな。この島で、ばったりアイツと会ってな。トレードマークの麦わら帽子と、左腕が失くなっていた」

"左腕"というワードに、ルフィはグッと詰まる。

それをチラリと見るも、レイリーは笑みを絶やさない。

「ワケを聞いてみれば、嬉しそうにキミの話をしてくれてな。……とはいえ、シャンクスがキミに話していないことまで、私がペラペラ喋るわけにはいかんな」

レイリーは、グラスに残っていた酒を飲み干した。

「とにかく、よくここまで辿り着いた。新世界で、アイツはキミを待ち侘びていることだろう」

ルフィの頬が緩み、これ以上ないほどの満面の笑みが広がる。

「そっか~……そうかなぁ~……俺も会いてぇなぁ~~!」

その笑顔をチラリと見て、レイリーは満足そうな顔をした。

 
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