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32. シャボンディ諸島
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ところ変わって、29番グローブ。
「むふ~ん、シャルリアもお父上様も、わちしを置いてぇ、ズズッ……いったいどこへ行ったんだえ?」
奴隷の男の背に乗ったチャルロス聖が、通りの中央を進んでいた。
傍に控えている黒服の男が助言する。
「最終目的地は分かっておりますので、ご安心ください」
チャルロス聖は、ズズっと鼻をすすり、乗っている奴隷の男を蹴った。
"ゲシッ、ガンッ"
「コノ! お前がカメみたいに歩くからだえ! 揺れも大きいし、乗り心地最悪だえ!」
そんな様子を、周囲の人々は、静かに頭を下げて聞いていた。
決して顔を上げることはしない。
この状況が早く過ぎ去ることを、ひたすら祈り続ける。
そんな中……
「急げっ」
「身を低くして走るんだ!」
チャルロス聖の目の前を、医者2人と看護師1人、担架に乗せられた怪我人1人が、横切った。
チャルロス聖は目を剥く。
「おい、ちょっと待てお前ら! なぜ動く? 人間なのに」
担架の前側を担いでいた医者は、ビクリと肩を揺らして止まった。
「ひっ、お、お許しください! 出血の酷い急患でっ、一刻を争うのです!」
チャルロス聖は奴隷から降りて、担架に乗せられた男に近づいた。
大量の血を流しているその患者に、チャルロス聖はわざとらしく眉根を下げる。
「おぉ、ホントだ。これはイカンえ。じゃあ一刻も早く……
"ガタンッ"
「楽になれ!」
チャルロス聖は、担架を蹴り、重症の男を落とした。
「わああっ、おやめください!」
周囲の緊張感が高まる。
その中に交じっていたルーキー海賊、怪僧・ウルージも、苦笑した。
「おーおー、好き勝手やりなさる」
チャルロス聖は、ズズっと鼻水をすする。
「フン、わちしへの礼儀と、
お付きの黒服男が答えた。
「当然、天竜人あっての、
「そうだえ。……ん?」
突然、チャルロス聖は、重症患者の傍に膝をついている、看護師に目を向けた。
看護師は、目が合った途端、ハっとして顔を伏せる。
「むふ~ん、むふふ~ん?」
チャルロス聖は、あらゆる角度から看護師を見渡し、やがて、フムと頷いた。
「よし、妻にしてやるえ」
「……。……え!?」
あまりに突然の申し出に、看護師は数秒遅れてから唖然とする。
黒服男は当然のように頭を下げた。
「では、第13夫人として、聖地へお迎えする手続きを致します」
「うむ。……あぁ、1番から5番の妻はもう飽きたから、
「承知致しました」
「まっ、待ってください! 私は……」
そこに、男が1人駆けてくる。
「お待ちください! 彼女は私の婚約者で……」
"カチャッ、パァンッ!"
金色の銃が、唸った。
看護師の婚約者だという男は、腹から血を流し、その場に膝をつく。
「うぐっ……マリィ……」
「ひっ、いやああああああっ!!」
看護師は叫び、駆け寄ろうとしたが、黒服男に阻まれてしまった。
その強靭な腕を掴んで揺すり、必死に叫ぶ。
「人殺し! なんてことを! ……誰かっ、誰か彼を助けて下さい!!」
そう叫ぶものの、人々は顔を伏せたまま、全く動こうとしない。
ウルージはその光景に、ひきつった笑みを浮かべて呟いた。
「メチャクチャだ。噂以上だな……」
喚き続ける看護師・マリィに、チャルロス聖は首をかしげて尋ねる。
「なんだ? お前、わちしに文句を言っているのかえ?」
「!」
マリィは、慌てて口を塞ぐ。
「先に港に連れていくえ」
「かしこまりました」
黒服男は、マリィの腕を掴み、強引に引っ張って歩き始める。
「いやっ、放して下さい! ……お願いっ、誰かあの人をっ、彼を助けて!!」
そんなことを言われてもと、周囲の人々は、チラチラと状況を窺う。
そして、見えた光景に、目を疑った。
「えっ!?」
「誰だアイツ!?」
「なに普通に歩いてんだ!?」
「天竜人がいるんだぞ!?」
ひれ伏している人々の合間を、酒瓶片手にゆったりと歩いていく男。
徐々に近づいてくるその
「んな……っ」
これまで、こんなにも分かりやすく不敬を働く輩がいただろうか。
何者なのだ、コイツは……
そんなことを思っていると、男は目の前で止まり、眉を顰めて訊いてきた。
「あん? 何だよ、道でも訊きてぇのか?」
「!?」
チャルロス聖はほとんど反射で、銃の引き金を引いた。
"パァンッ、パァンッ"
続けざまに2発放たれたそれらは、しかし、軽くよけられる。
いきなり銃を撃ってきた謎の男に、ゾロは、刀を抜きながら踏み込んだ。
"チャキッ―――"
鋭い刃が、チャルロス聖を真っ二つに斬らんとした、そのとき……
"ガバッ"
何かがゾロ目掛けて飛び込んできた。
ゾロは驚きながらも、その飛び込んできたものを見上げ、眉をひそめる。
(ガキ……っ?)
一瞬、ティオが飛び込んできたのかと錯覚した。
それほどに体格の似通った、ピンクの髪の女の子が、ゾロと一緒に地面へ倒れ込む。
"ドサァッ"
そして、女の子はわざとらしく泣き始めた。
「えーん、お兄ちゃーん、どうして死んでしまったの~? えーん、えーん」
「お、おいっ」
「じっとしてて、お兄ちゃん」
「……?」
「えーん、えーん、天竜人様に逆らったの? それなら死んでも仕方なぁい!」
ゾロの頭の周りには、赤い水たまりが出来ている。
チャルロス聖は、自分の銃とゾロとを交互に見て、まばたきを繰り返した。
「当たってたかえ? 一瞬、よけられたように感じたが……。気のせいか。死んだならそれでいいえ」
そう呟くと、奴隷の男の背に乗り、去っていった。
チャルロス聖の気配が遠のくと、女の子、もとい、女性は、身を起こした。
ゾロも身を起こし、顔を流れる赤い液体を、手の甲で拭っていく。
「チッ、何で邪魔した?」
ゾロが訊くと、女は激昂した。
「はぁ!? 邪魔とか言ってんじゃねぇよバカ助! テメェ一体どういうつもりだ! この島に大将呼び寄せる気か!? 海賊なら海賊同士の暗黙の了解って部分があんだろーがよ!」
「ん、コレ、トマトジュースか」
「聞いてんのかテメェ!」
と、そこに……
"バサッ……ボンッ"
煙が広がって、金髪の少女が降り立った。
「ん? 何だテメェ」
女が眉をひそめると、少女は息を切らせながら、女とゾロを交互に見る。
「いまっ、ここ、なに、おこって、たっ?」
女は何度かまばたきを繰り返し、あぁ、と、合点がいった声を漏らした。
「お前も麦わらんとこのクルーか。確か、元海兵のティオとか言ったな?」
「……おおぐらい、じゅえりー・ぼにー……」
現在、超新星と呼ばれる11人の海賊の1人。
……けれど、政府にいたティオにとって、彼女の肩書きはそれだけに留まらない。
「ったく、テメェんとこは一体どうなってんだよ。天竜人に真っ向から斬りかかりやがって」
ティオは目を見開き、ゾロを見下ろした。
「きった、の……?」
「ぁあ? 斬ってねぇよ。妙なガキに邪魔されたからな。……って、あのガキどこ行った?」
ティオは、人差し指をゾロの額に置き、一瞬で、今あったことを読み取る。
そして、ボニーの方へ視線を戻し、軽く頭を下げた。
「たすけて、くれて、ありがとう」
ボニーは意外だったのか、一度答えに詰まってから、フンと鼻を鳴らす。
「別に助けたワケじゃねぇ。テメェらがどうなろうと知ったこっちゃねぇが、大将呼ばれちゃ、アタシらも迷惑なんでね」
「ん。これからは、きをつける」
「次こんなことしやがったら、天竜人斬る前に、アタシがそいつ殺すかんな」
「もう、みょうなこと、させない」
……そうして、ティオとボニーが話す間に。
「よっ、と……」
ゾロは、近場で倒れていた男を担ぎ、立ち上がっていた。
チャルロス聖に連れていかれた、看護師・マリィの婚約者だ。
「おいティオ、この辺りで一番近い病院はどこだ?」
その問いに、ボニーが目を剥く。
「んなっ、病院だぁ!? まさかテメェ、そいつを連れてくってのか!?」
ゾロは不思議そうな顔で頷いた。
「あぁ、そうだが?」
「放っとけよそんな見ず知らずのヤツ!」
ティオが間に入る。
「とにかく、たすけて、くれたこと、おれいいう。もう、こいつに、てんりゅうびと、てだし、させないから」
「ぁあ!?」
「それより、わかってると、おもうけど、このしま、せいふの、にんげん、いっぱい。きをつけて」
「! ……お前っ、何を知って「ばいばい」
ティオは無理やり話を打ち切ると、ゾロの手を引いて、歩き出した。
去っていく2人の背中に、ボニーは舌打ちをする。
「チッ、何なんだよアイツら……海賊が人助けするわ、アタシのことも……くそムカつく!」
……そんなやり取りの一部始終を見ていた、ルーキー海賊たち。
ファイアタンク海賊団のクルーが、ベッジに耳打ちした。
「ジュエリー・ボニーのおかげで、最悪の事態は避けられましたね……。あの男、麦わらの一味の海賊狩りです。後から来た子供は、元海兵のティオかと」
「あの一味はイカレた連中ばかりだと聞いているが、まさか天竜人に斬りかかるとはな。正気じゃねぇ」
一方、ホーキンス海賊団の船長、バジル・ホーキンスは、カードを見て目を細めた。
「救われて当然。奴に今、死相は見えない」
その近くに居た、オンエア海賊団の船長・アプーは、笑う。
「あの野郎、一瞬ものすげェ殺気放ったな。ありゃ獣だ」
そして、破戒僧海賊団の船長・ウルージも、何を思ってか笑っていた。
「2番手にして1億2000万、そしてあの幼い少女すら、9600万か……。あれらを従える、船長の度量が伺えるな」
ルーキー海賊たちに見られている。
それを分かっていながら、ティオはゾロの手を引き、足早に病院へ向かった。