32. シャボンディ諸島

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「おっ? なんか見えてきたぞ!」

順調に航海を続けていた、サニー号のピークヘッドで。

ルフィが目を輝かせながら、前方を指した。

一味が船の前方に集まる。

「わぁっ、綺麗ね!」

「なんか飛んでるぞ……」

「泡か……?」

「ふふっ、幻想的」

「あれが、シャボンディ諸島か!」

麦わら一味の目の前に現れたのは、プクプクとシャボン玉が舞い上がっている、不思議な島。

ゾロが、膝上のティオの頭を叩いた。

「おい、起きろ。着いたぞ」

「……ん……んん……」

ティオは小さく唸り、薄く目を開ける。

ヤルキマン・マングローブの幹と、その周りに浮かんだシャボン玉が、目に映った。

海軍に居た頃によく見た、懐かしい景色だ。

「……」

意識の覚醒と共に、覇気が広がり、知っている気配をチラホラ拾っていく。

偵察したことのある海賊に、知り合いの海兵たち、そして、天竜人……

これは、さっさとコーティングを済ませて、魚人島に向けて出発した方がいい。

そんなことを、頭の隅で思った。

「おい、何ボーっとしてんだ」

頭上から、声が降ってきた。

見上げれば、ゾロと目が合う。

「……べつに、なんでも」

ティオは身を起こして立ち上がり、仲間たちが集まっている、船の前方へ歩いていった。

「一体どうなってんだ? ありゃ……」

ウソップが唖然として、周囲を漂っているシャボン玉を目で追っていく。

「下から上にフワフワ、次から次へと……」

ケイミーが笑った。

「島から発生してるんだよ」

ウソップは首をかしげる。

「してるったってオメェ、シャボン玉が勝手に出てくるかよ」

そこに、ロビンが声をかけた。

「ちょっといいかしら。話を割ってごめんなさい? ここに留まって、ログポースは大丈夫なのかしら」

ナミがハッとする。

「あ、そっか! 今、指針は魚人島を指してるから、あまりここに長居すると、ログが書き換わっちゃうかも……」

隣に立ったティオが、あくびをしながら答えた。

「それは、だいじょぶ。しゃぼんでぃ、しょとう、しま、じゃ、ないから」

「え、どういうこと?」

ハチが振り向き、説明する。

「マングローブって樹を知ってるか?」

「えぇ、知ってるけど……」

サンジが煙草の煙を吹いた。

「あれだろ? 海の干満で、根っこが水上に出たり引っ込んだりする」

「そう、それだ。シャボンディ諸島は、世界一巨大なマングローブ、"ヤルキマン・マングローブ" っていう樹の集まりなんだ。ここの場合、根っこは海上に出っぱなしなんだけどな」

「へぇ。……言われてみりゃ、島の地面は全部根っこだな」

「樹は全部で79本。その1本1本に町や施設があって、79本全部の集合体を、シャボンディ諸島って呼ぶんだ」

サニー号は風に任せ、マングローブの間を進んでいく。

ハチが、樹の番号を見渡しながら続けた。

「ここには、新世界へ行こうとする航海者たちが、7本の各航路から集まってくるんだ。……ん~、ここは44番だからなぁ、もうちょっと奥に船を着けようか」

ルフィは期待に胸を膨らませ、甲板を走り回っている。

「うほ~っ! 近づくとデッケー根っこだな! しかもシマシマでアメみてぇだ!」

舵を握っているフランキーは、ハチの指示に従って、舵輪を回していた。

やがて、大きく『41』と書かれたマングローブまでやってくる。

「ニュ~、ここに船を着けよう。みんな、この番号を忘れるなよ? 島と島は必ず橋で繋がってるからな、番号さえ覚えておけば、迷子にならず帰って来られる」

それを聞いて、ウソップはチョッパーと目を見合わせた。

「それでも迷う奴いるよな」

「うん、いる」

そして、2人同時に後ろを振り向いた。

視線が合って、ゾロが目を剥く。

「こっち見てんじゃねぇ!」




41番グローブの沿岸で、サニー号の碇が下ろされた。

麦わら一味は、とりあえず全員、島に上陸する。

「うぉおっ!? シャボン玉が地面から出てきたぞ!」

ルフィが、目の前に現れたシャボン玉をつつき、試しに乗ってみた。

「おっ、乗れた!」

ウソップとチョッパーが、物珍しそうに眺める。

「ほ~! 意外と割れねぇもんだな!」

「いいなぁ! 俺も乗りたいぞ!」

ロビンは地面にしゃがみ、首をかしげた。

「どういう仕組みなのかしら」

隣で、ティオがベチャベチャと足踏みする。

「こうやって、き、の、ねっこ、から、てんねんじゅし、でてる。き、が、こきゅう、するとき、じゅし、しゃぼんだま、なる」

「へぇ、不思議な樹ね」

言って、ロビンは地面に触れた。

粘り気のある液体が、手に纏わりつく。

「やだ、想像以上にベタベタするわ」

ロビンは顔をしかめ、近くにいたウソップのズボンで拭いた。

「ぬぁっ、つけんな!」

そうして話している間にも、ルフィはシャボン玉の間を飛び回り、どんどん上へ昇っていく。

「あはははっ! おんもしれぇなぁこのシャボン玉! ……んぉ?」

20m近く昇ると、遠くに、にぎやかな景色が見えた。

「お~~いお前ら~! 向こうに遊園地が見えるぞ! 行こう! 観覧車乗ろう!」

チョッパーが目を輝かせる。

「遊園地!?」

隣でケイミーも微笑んだ。

「シャボンディパークだよ。……いいなぁ、観覧車。私、あれに乗るのが夢なの」

チョッパーの丸い目が、パシパシとまばたきを繰り返す。

「夢? なんで乗らねぇんだ?」

パッパグが険しい顔で諫めた。

「バカ言え! ダメだぞケイミー!」

「……うん……分かってるよ」

項垂れるケイミーに、チョッパーは首をかしげる。

「俺も乗りてぇけど、ダメなのかな?」




それから、約5分後。

幻想的な光景に目が慣れてくると、ナミがハチに訊いた。

「ねぇ、結局、この島での具体的な目的はなんなの? さっき、船のコーティングがどうとか言ってたけど……」

「ニュ~、これからコーティング職人に会いに行って、オメェらの船を樹脂で包んでもらう。簡単に言うと、それで船は海中を航海できるようになるんだ」

「樹脂って、このシャボン玉の?」

「あぁ、そうだ。……ただし、気をつけなきゃならねぇのが、職人の選び方だ。腕のねぇ職人に当たっちまうと、船も人間も海中で大破してお仕舞いになるからな」

「ええっ!?」

「俺が1人だけ、信頼できる職人を知ってるから、そこへ連れてく」

「あら、そうなの? 助かるわ」

「その代わり、全員に守ってほしい約束が、1つだけあるんだが……全員揃ってるか?」

ハチが周囲を見渡すと、ウソップとチョッパーが空を指した。

「ルフィが昇ってったまま、帰って来ねぇ」

「ニュッ、まさかと思うが、先に内部へ行ってないよな!?」

「ん~、ここからじゃ見えねぇからなぁ……」

ウソップとチョッパーは、当然のように、ティオを見る。

察したティオは、コクンと頷いた。

「だいじょぶ。まだ、まうえに、いる。もうすこし、すれば、しゃぼんだま、われて、おちてくる、と、おもう」

「ニュ~、そうか、まだ近くに居たか、良かった……」

「このしまで、だけは、ぜったい、るふぃ、ひとりに、しない」

その、いつもより重く低い声を聞いたロビンは、チラリとティオを見た。

いつも通り無表情だが、なんだか、緊張した空気を纏っている気がする。


「ぅぁあああ!!」


"ドゴォンッ!"


突然、ルフィが一味の真ん中に落ちてきた。

ケイミーが青ざめて駆け寄る。

「ルフィちん!?」

それを、サンジがやんわりと止めた。

「気にしなくていいよ、ケイミーちゃん。アイツなら大丈夫だから」

「え、でも、地面へこむほど、すごい勢いで落ちてきたけど……」

その、凹んだ地面から、ニョキっと手が出てきた。

「んよっと」

ビヨ~ンと、ゴムの跳躍を利用して、ルフィが穴から出てくる。

「はぁ~~~ビックリした。いきなり割れるんだもんなぁ、あっはっはっはっ!」

「ニュ~、戻ったか麦わら」

「ん? 俺になんか用だったのか?」

ハチは、麦わら一味を見渡して、全員揃ったのを確認すると、真剣な眼差しで人差し指を立てた。

「いいか、これから諸島の内部へ向かうが、1つだけ、絶対に守ってほしいことがある」

その重い雰囲気に、誰ともなく息を呑む。

「たとえ、街でどんなことが起きても、世界貴族だけにはたてつかねぇと約束してくれ。……たとえ、目の前で人が殺されたとしても、見て見ぬフリをするんだ」

「「「 ! 」」」

予想外の約束事に、一味の多くが表情を強張らせた。

ルフィも、ただならぬ雰囲気に、口をきゅっと引き結ぶ。

その手に、誰かが触れた。

ルフィが見下ろせば、手の主はティオ

「ん、どした? ティオ

ティオは、ルフィの両手を自分の両手で包むように握ると、青い瞳で、じっとルフィの顔を見上げた。

「るふぃ、こんかい、だけは、ぜったい、ひとり、ならないで。……それと、ゆるせない、おもうやつ、あらわれても、だめって、いわれたら、ぜったいに、とまって。やくそく」

真剣に見つめてくるティオ

ルフィは、少し気圧けおされながら、頷いた。

「わ、分かった……」

 
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