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30. 命を賭して
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ティオは、ピアノの傍に降ろされた。
「んよっと、よし! 頼むぞ、ティオ!」
何が『頼むぞ』なのか。
ティオはげっそりした青い顔で、ルフィを見上げた。
「いきなり、なに……」
「ブルックによ、俺たちのラブーンの記憶、見してやってくれ!」
にししっと笑うルフィとは裏腹に、ブルックは唖然とする。
「記憶を見せる!? そんなことが出来るんですか!」
「あぁ! ティオはフシギだからな!」
「……ふしぎ、て……」
別に不思議でも何でもないんだけどなぁ、と思いながら、ブルックの骨張った手に、自分の手を重ねる。
『お前! 俺の特等席に一体何してくれてんだコラァァ!!』
"ウオオオオオオオオオッ!"
ティオは、麦わら一味とラブーンの出会いを見せた。
ブルックは、頭の中を流れるイメージに、固まる。
「これが……ラブーン……っ」
カタカタと鳴る頭蓋骨。
「こんなにっ、大きく……っ」
ルフィはピアノの上に寝そべって、きょとんとした。
「ンなに小っさかったのか? ラブーンて」
「えぇ! それはもう! 2人がかりでなら、何とか抱えられるくらいで!」
「るふぃ、て」
ティオは、空いた手をルフィに伸ばした。
「ん? おう!」
ルフィがティオの手を握ると、50年前のラブーンの姿が流れ込む。
「うおっ、ホントだ! 小っせー!」
「ちょっと聞き分けは悪かったですけど、音楽好きで、いい子でねぇ……そうですかっ、彼はずっと、私たちを待っていてくれたんですねっ……こんなに傷がつくほど、レッドラインに頭突きをしてまでっ……どれだけ寂しい思いをさせたことでしょうかっ」
ブルックの頭に、ルフィがラブーンと約束をしている記憶が流れ込んだ。
『へへっ、俺は強いだろ? ……俺たちの勝負はまだついてねぇんだ。だからまだ戦わなきゃならない。お前の仲間は死んだけど、俺はずっとお前のライバルだ。必ず、もう一度戦って、どっちが強いか決めなきゃならない! 俺たちはグランドラインを一周して、またお前に会いに来る! そしたらまた喧嘩しよう!』
「あなたが、ラブーンに新しい約束を与えてくれたんですね?」
「おう! グランドラインを一周したら、もう一回ケンカする約束だ!」
「あなたのおかげで、ラブーンの心がどれだけ救われたかっ、ありがとうございます!」
「礼なんか言うことじゃねぇさ! 俺は俺で約束しただけだからな!」
ブルックは涙を流し始めた。
一体どこから出ているのか分からないが、骨を伝って滴り落ちていく。
「なんて素晴らしい日でしょう! こんなに嬉しい日はありません!」
……
ラブーンに出会い、成り行きでグランドラインに入って。
双子岬で、もう一度再会することを約束し、別れた。
船長・ヨーキに懸賞金がつく頃には、海賊団の名も売れて。
このまま勢いに乗って、1年と経たず、ラブーンと再会できるのではないかと思った。
……しかし、災禍は突然訪れる。
絶好調と思われた航海の途中、船長が突然、謎の病に臥せった。
……そして、船員の命を守るためと、海賊団の本懐を遂げるため、泣く泣く、船長との別れを決断。
それからは、ブルックが船長代理となって、航海を続けた。
……そして、数か月後。
迷い込んだ
「……」
ブルックは、白骨化した自分の手を見下ろした。
すると……
「おう! 何だ何だ、もっと弾けブルック!」
「そうだぞ! 鼻割り箸で踊るんだ! 俺!」
フランキーとチョッパーが、曲を催促してきた。
……こんなに賑やかな場所に居ることが、まるで夢のように思える。
「ヨホホ、ちょっとお待ちを。えーと……」
"パカ"
ブルックは、自分の頭を開けた。
近くに居たウソップとサンジが、顎が外れるほど口を開ける。
「「えええええええっ!? そうなってんのかああっ!?」」
ルフィは目を輝かせた。
「すっげえええ!!」
ブルックが頭蓋骨の中を探って取り出したのは、トーンダイヤル。
「これは昔、ある商船から買ったもので、音を蓄え再生できるという、珍しい貝です」
ルフィはピアノの上に寝そべって、足をばたつかせる。
「おお! 空島のやつだ!」
「おや、ご存知でしたか。……私、ラブーンに会えたら、コレを聞かせたいと、肌身離さず持っているんです」
ウソップがダイヤルを覗き込んだ。
「何か録音してあるのか?」
「"唄"です。死んだ仲間たちの生前の唄声。我々は明るく楽しく旅を終えたという、ラブーンへのメッセージを込めて。……今かけても構いませんか?」
ルフィは満面の笑みで頷く。
「ああ! 俺も聴きてぇ! そりゃラブーン喜ぶだろうなぁ!」
「……では、」
カチッ、と貝の殻頂を押すと、音楽が流れ始めた。
それは、海賊なら、ほとんど誰もが知っている唄。
ビンクスの酒。
麦わら一味はもちろん、ローリング海賊団もみんな知っていた。
「あら、この唄なら、一緒に歌うわよ!」
「「「おーっ!!」」」
ダイヤルから流れる唄と、ブルックの伴奏に乗せて、全員が大合唱を始める。
その賑やかさに、かつてのルンバ―海賊団の面影を思い出したブルックは、密かに決意を固めた。
(ラブーン……お前が50年もの間、そこで待っててくれていたのなら、あと1~2年だけ辛抱してくれませんか。私にも、海賊の意地がある。壁に向かって待つお前とは、約束通り、正面から再会したい!)
……やがて、トーンダイヤルからは音が聞こえなくなった。
それに合わせて、ブルックも伴奏を終わらせる。
「ヨホホホ、かつて仲間たちと共に、命いっぱいに歌ったこの唄、暗い暗い霧の海を1人彷徨った50年、いったい何度聞いたことでしょうか」
しみじみと語るブルックを、ルフィはピアノの上から見下ろす。
「1人ぼっちの大きな船で、この唄は唯一、私以外の"命"を感じさせてくれた。……しかし今日限り、私は新たな決意を胸に、このトーンダイヤルを封印します」
ブルックはダイヤルをきゅっと握ると、カパっと頭を開けた。
「封~印!」
「「ええええっ!? やっぱそうなってんのかああっ!?」」
「ラブーンが元気で待ってくれていると分かった。影も戻った、魔の海域も抜けた。このダイヤルに込めたみんなの唄は、もう、私が1人で昔を懐かしむためのものじゃない。これは、ラブーンに届けるための唄です」
ブルックは話しながら、BGMに軽やかな曲を弾き始めた。
「……この50年、辛くない日など無かった。希望なんて、正直見えもしなかった。……でもねルフィさん」
「んぉ?」
「私っ、生きてて良かったァ!」
ブルックは再び涙を流しながら、文字通り魂の叫びを上げた。
「にししっ、そらそうだ!」
「あ、私、仲間になって、いいですか?」
「おう、いいぞ!」
あまりに突然に、そしてあっさりと交わされた言葉に、麦わら一味の面々は、目を飛び出させる。
「「「さらっと入ったァァ!?」」」
「でも歓迎~! 音楽家~!」
「死んで骨だけ! 音楽家~!」
「念願の! 音楽家~!」
一味の男たちは、揃ってブルックを胴上げする。
骨だけの軽い体は、天井近くまで飛び上がった。
「この軽さもオメェのいいところ~!」
「ハイッ! 骨だけに~~っ!」
「でひゃっひゃっひゃっ! おんもしれぇ!」
な? と言いたげなルフィの顔に、ナミは呆れる。
「分かったから……」
傍でコーヒーカップを傾けていたロビンは、微笑んだ。
「ふふっ、また賑やかになるわね」
「はぁ……何でこういうの集まるのかしら、ウチって」
そこに、眠そうな顔のティオが戻ってくる。
「せんちょう、るふぃ、だから……ふぁ~」
「それもそうね。……あ、そうだ。寝る前に、そこのお皿に乗ってる分だけは、食べちゃいなさい?」
眠り続けているゾロの傍に、ティオの食べかけのスイーツの皿が置いてあった。
……いつの間にか、肉料理や野菜料理が、少し乗せられている。
栄養バランスを考えてのことだろう。
「……むぅ……ふえてる……」
「アンタどうせ、1回寝たら1日近く起きないんだから、そのくらいの栄養は摂っときなさい」
「……」
ティオは仏頂面で、フォークに手を伸ばす。
ナミは困ったような笑みで、ティオとルフィを交互に見た。
「足して2で割ったら、丁度いい食欲になると思うのよね」
ロビンが笑う。
「ふふっ、確かにそうね」
ティオは、ただ料理を胃袋に詰め込む作業のように、もっくもっくと口を動かしていた。
「改めまして!」
"バンッ!"
「「「?」」」
突然、ブルックは、どこからか取り出した手配書を床に置き、麦わら一味を前に膝をついた。
「申し遅れました……
高らかに仲間入りを宣言したブルックに、ルフィは満面の笑みを向けた。
「よ~しっ、もういっちょ、乾杯だァ!」
「「「おおおおおおおっ!!」」」
「ヨホホホホッ! 宜しくお願いしまァす!」
……こうして、麦わら一味に、新たな仲間が加わった。