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26. 生きたガイコツ
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……しばらくして、騒がしい食事が終わると、ブルックの身の上話が始まった。
「ヨミヨミの実ぃ?」
「やっぱり悪魔の実か」
「ハイ、そうなのです。……実は私、数十年前に一度死んだのです」
「いやまず顔拭けよ。どう食ったらそんなに汚れんだ」
サンジは濡らしたフキンを投げ渡した。
ブルックはそれで顔を拭き、話を再開する。
「ヨミヨミの実とは、蘇る実、つまり、復活人間というわけで、二度の人生を約束される何とも不思議な能力なのです」
「うはぁ! 復活人間!?」
「一度だけなら、死んでも蘇る能力ってことか?」
「えぇ、そうです。……あ、失礼……ゲップ。……えー、そして、私はその昔、あなたたちと同じように海賊だったのです。……失礼……プゥ」
サンジは呆れた。
「……そんなテメェにテーブルマナーってモンを叩き込んでやりてぇ……」
眠そうな目をしたティオが言う。
「あの、ふね、るんばー、かいぞくだん、でしょ?」
「おや、御存知でしたか」
「「「ルンバー海賊団?」」」
「まーく、みれば、わかる。うし、の、どくろ。……50ねんまえ、うぇすとぶるーで、けっせいされた、かいぞくだん。せんちょう、『キャラコのヨーキ』。にゅうだん、しかくは、おんがく、すきなこと。くるー、おんがくか、おおかった」
途端、ルフィの目が輝いた。
「何だとっ!? んじゃあブルックも音楽家なのか!?」
「えぇ。専門はヴァイオリンです」
「ホントかぁ!? 頼むからお前仲間に入れよバカヤロゥ!」
「ヨホホホホホ」
「るんばーかいぞくだん、けっせいから、1ねんたらず、で、せんちょう、かわったと、きろく、されてる」
ティオの半目は、真っ直ぐにブルックを見据えた。
「るんばーかいぞくだん、2だいめ、せんちょう。そのなは、『鼻唄のブルック』。けんしょうきん、3300まんべりー」
ウソップとチョッパーが目を飛び出させる。
「お前っ、船長もやってたのか!?」
「3300万ベリー!?」
「ヨホホッ、驚きました。お若いのに、何故そんなにお詳しいのですか?」
「せかい、いち、の、ものしり、だから」
ズズっと、ティオは食後のココアを啜った。
「んで? そのあとオメェどうなったんだ?」
ルフィに訊かれ、ブルックは話を再開した。
「今お嬢さんが仰った通り、私は2代目船長として、仲間と共に冒険を続けていました。……その途中、この霧深い海域へ踏み込んでしまい、さらに運悪く、恐ろしく強い同業者に出くわしてしまったのです。……その同業者との戦いで、一味は全滅。当然、私も死にました。……そのとき、ようやくヨミヨミの実の能力が発動するときが来たのです! 私の魂は、見事に黄泉から戻りました。その後、すぐに自分の体に入れば、蘇ることが出来たはずなのです。……しかし、ここはご覧のような霧深い海域。私は迷ってしまったのです! ……そして、魂の姿で彷徨うこと1年。ついに体を見つけたと思ったら、このように白骨化していたというわけです! いや~もう驚きすぎて目が点になりましたよ! 点になる目、無いんですけど~! ヨホホホホホッ!」
「あっはっはっはっ、お前マヌケだなぁ~。ゾロみてぇな奴だな!」
「……あのなァ」
フランキーとサンジが言う。
「それで、喋るガイコツの完成か……白骨でも蘇っちまうところが、悪魔の実の恐ろしいところだな」
「だが、その実はもう役目を果たして、カナヅチだけが残ってんだろ? 半分呪いじゃねぇか」
ゾロが気になったことを零した。
「しっかし、普通ガイコツに毛は残らねぇよな。白骨死体がアフロって……」
「生前から毛根、強かったんです」
「……まぁ何でもいいが」
ウソップが十字架を向けて訊いた。
「つ、つまりお前は人間なんだな!? オバケじゃねぇんだな!?」
「えぇ! 私オバケ大っ嫌いですから! そんなもの見たら泣き叫びますよ!」
ナミが呆れる。
「オバケ大嫌いって、アンタ、鏡見たことあんの?」
「イヤァァ! 鏡はやめて下さぁい!」
「なっ、何だ、どうした!?」
ウソップとチョッパーが、ナミの持ってきた鏡を覗き込む。
と―――
「「なっ、映ってない!?」
鏡の中に、ブルックの姿は無かった。
「おっ、お前何なんだ!?」
「実はヴァンパイアなのか!?」
「ちょっとティオ! やっぱりただの人間じゃないじゃない!」
騒ぐ周囲とは裏腹に、ティオはココアを飲み続けている。
「たぶん、かげ、も、ない。……でしょ?」
「「「影……?」」」
一味の視線が、ブルックの足元へ向いた。
「ほっ、ホントだ!」
「影ねぇぞ!」
「どういうことだ!!」
詰め寄ると、ブルックは押し黙る。
「……」
"ズズ……"
「ふ~……」
「なに茶ァ飲んで落ち着いてんだよテメェ!」
「こっちは騒いでんだぞ!」
ブルックは落ち着き払った様子で、ティオを見た。
「なるほど、世界一の物知りというのは、あながち間違いではないようですね。ヨホホホホホ。では、私の影を奪った人物も、知っているわけですね?」
「(コクン)」
「は? なに、何だって? 影を、奪う……?」
「えぇ。私がガイコツであることと、影がなかったり、鏡に映らなかったりしていることは、また別のお話なのです。………続く」
「話せ! 今!」
「……影は、数年前にある男に盗られました」
ゾロが眉を顰める。
「ガイコツが喋って動いてる時点で、もう何聞いても驚きゃしねぇが、影が奪われるなんて状況が、本当にあるのか?」
「えぇ」
「(コクン)」
「影を奪われるということは、光ある世界では生きていけなくなるということ」
今度はルフィが眉を顰めた。
「でもよぉ、お前生きてるじゃねぇか」
「それは、ここが深い霧に包まれているからです。……ここを一歩でも出て、太陽の光を浴びてしまえば、私はもう、生きられません」
「もし太陽の光を浴びると、どうなるの?」
「そうなった場合、私の体は、消滅してしまうのです」
「「「消滅!?」」」
「じょうはつ、する、みたいに、なにも、のこらない」
「その通り。……実際、私と同じように影を奪われた者が、太陽の光の下、消えていくのをこの目で見ました。……影は、光があってこそ地面に映し出されるもの。それと同じで、光によって反射する鏡やガラスに、私の姿が映ることはありません。そう! 私は光に拒まれた存在なのです! そして仲間は全滅!」
「お前の人生さんざんじゃねぇか」
「それでもコツコツ生きてきました! 骨だけにコツコツ! 死んで骨だけ、ブルックです! どうぞよろしく!」
「何でそんなに明るいんだよ……」
「ヨホホホホッ! ヨホホホホッ! ヨホッヨホッ! ヨホホホホホッ!」
突然狂ったように笑い始めたブルックに、ウソップが警戒心を強める。
「な、なんだっ、どうした!?」
「今日はなんて素敵な日でしょう! 人に会えた~! ……今日か明日かも分からない、霧の深~い海……仲間は全員死に絶え、舵の利かない船の中、たった1人で彷徨うこと数十年……私ほんっっっっとに寂しかったんですよっ、寂しくてっ、怖くてっ、死にたかった! ……しかし、長生きはするもんですねぇ。人は喜び! 私にとってあなたたちは喜びですヨホホホホホッ! 涙さえ枯れていなければ泣いて喜びたいところです!」
ブルックはルフィの方を向いた。
「あなたが私を仲間に誘ってくれましたね。本当に嬉しかった! どうもありがとう!」
「にっしっしっしっしっ!」
「しかし本当は断らなければ……」
「えぇーっ!? 何でだよ!」
「先ほど申し上げた通り、私は影を奪われ、太陽の下では生きていけない体。ですから、あなた方とこの霧深い海域を出ても、私が消滅するのは時間の問題。私はここに残り、影を取り返せる奇跡の日を待つことにします! ヨホホホホホッ!」
"バンッ"
ルフィは勢いよく立ち上がった。
「なぁに言ってんだよ水くせぇ! 影が必要なら、俺が取り返してやるよ! そういやぁ誰かに盗られたっつったな、誰だそいつ! どこにいるんだ!」
「……あなた、本当にいい人ですね。驚いた。……しかし、それは言えません。さっき会ったばかりのあなたたちに、私のために死んでくれなんて言えるはずもない」
フランキーが笑った。
「敵が強すぎるってことか? 減るもんじゃなし、名前を言うくらいいいだろ」
「いいえ、言いません。というより、本当は当てもないのです、ヨホホホ。私の第二の人生が終わるまでに会えるのかも分かりませんし……。もし次に会ったときはと、私も戦いを腹に決めていますが」
コト、っと、半分ほどココアの残ったマグカップが、テーブルに置かれた。
「その、あいて、すぐ、ちかく、いるよ?」
「え? ……って、イヤアアアッ!!」
「なっ、何だ今度は! どうした!」
「ごっ、ゴーストォォ!?」
ブルックの視線の先へ、一味の視線も自然と集まる。
「「「な……っ」」」
ダイニングの壁から、半透明な何かの頭が飛び出ていた。
それは、絵本などでよく見る幽霊にそっくりだ。
「うわああああっ、何かいるーっ!?」
幽霊はすーっと壁から出てくると、ダイニングの中を旋回して、またするりと壁を抜けていった。
「逃げてくわ!」
"ガタンッ"
「うわっ」
「何だっ、今の音は!」
「船が揺れてるぞ!」
ブルックはハッとする。
「まさかっ」
"ガチャッ"
近場の扉から、急いでダイニングの外へ飛び出た。
「この船は、既に監視下にあったのか……。皆さん、見て下さい!」
ブルックの後を追って、ダイニングからぞろぞろ出てきた一味は、目の前の光景に目を見開く。
「何よアレ!」
「でっかい歯だな……クチ……?」
「今の巨大な音と振動は、あの門が閉まったせいです」
「門……?」
「船の後方を見て下さい!」
駆け出したブルックに続いて、全員、船の後方へ走った。
すると、霧の中、巨大な島が浮かんでいた……