3. ノックアップストリーム

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空島行きが決定すると、詳しい行き方についてクリケットが説明を始めた。

「この辺りの海では、時として、真昼だってのに一部の海を夜のような暗闇が襲う現象が起きる」

ルフィとウソップが元気よく手を挙げた。

「あった! あったぞそれ!」

「夜が来て、そんで、でっかい怪物が現れたんだ!」

「それ、かいぶつ、ちがう」

ティオ、あれの正体知ってるの?」

ティオはナミを見上げて頷く。

「あの巨人がどっから来るのかは、いろいろと言われがあるが、まぁ今は置いとけ。それより大事なのは、夜になるっつー怪奇現象の方だ」

クリケットは煙草の煙を吐き出した。

「それは、極度に積み上げられた雲の影だ」

ナミが首を傾げる。

「積乱雲のこと? 雲がかかった程度の闇じゃなかったわよ?」

「せきらんうん、ちがう。せきていうん」

「セキテイウン?」

「そうだ。空高く積み上げるもその中に気流を生まず、雨に変わることもない雲。そいつが上空に現れたとき、陽の光は遮断され、地上の昼は夜にも変わる。一説には、積帝雲は何千年何万年もの間変わることなく空を浮遊し続ける、雲の化石だという」

「そんな馬鹿なこと。積み上げても気流を生まない雲だなんて……」

「せきていうん、まだ、げんり、わかってない。でも、でーた、ある」

「ウソでしょ!?」

「ここ、ぐらんどらいん。じょうしき、すてるべき」

「それはそうだけど……」

「まぁ信じるも信じねぇもお前ら次第だ。とにかく、空島があるとしたらそこしかねぇ」

「そっか! 分かったぞ! その雲の上に行きゃいいんだな!?」

ルフィとウソップが浮かれて踊り始める。

「お~いみんな! 支度しろ~! 雲舵いっぱいだ!」

「雲舵いっぱ~い!」

「だから行き方が分かんないって何度言わすのよ!」


"ドカッ、バキッ!"


ナミの鉄拳が入る。

「ここからが本題だ。先に言っとくが、ここからは命をかけろ!」

「「もう、瀕死……」」

ルフィとウソップが、腫れ上がった顔で死にそうな声を出した。

「突き上げる海流ノックアップストリーム。この海流に乗れば、空へ行ける。理屈の問題だ。分かるか?」

「それって、船が吹き飛ばされちゃう海流なんでしょ?」

「そっか! 吹き飛びゃいいのか!」

「でもそれじゃ、そのまま落下して海に叩きつけられるんじゃない?」

「普通はそうなるがな、大事なのはタイミングだ」


"ペラ、ペラ……ドサッ"


切り株のテーブルの上に、分厚い本が1冊置かれた。

「むぎわらいちみ、うんが、いい」

「? 何だそりゃ」

「オメェそりゃ俺の気象記録じゃねぇか! なに勝手に持ち出してんだ!」

ティオはクリケットを無視して話を続ける。

「つきあげる、かいりゅう、の、うえ、せきていうん、くる、たいみんぐで、とぶ。でしょ? ここ、のっくあっぷすとりーむ、たはつちたい、だった、の、はつみみ」

「まぁ簡単に言やぁそんなもんだが、ノックアップストリームに乗ること自体、そう簡単なことじゃねぇ。あれは本来は災害で、避けなきゃならねぇ化け物海流だ」

「のっくあっぷすとりーむ、も、げんり、わかってない、はず。かんさつ、でーたなら、みたこと、ある」

「とりあえず定説はこうだ。海底の大空洞に低温の海水が流れ込む。すると地熱でその海水は蒸気に変わり、海底で大爆発を引き起こす。それは海を吹き飛ばし、空への海流をも生む巨大な爆発だ」

「いままで、みた、でーた、では、かいりゅう、じょうしょうじかん、へいきん、やく、1ぷん」

「あぁ。そんなもんだ」

「1分間も水が空へ上がるなんて、一体どんな規模の爆発よ!」

「爆発箇所は様々だが、頻度は月に5回ってとこだ」

「じゃ、じゃあ、その月に5回しかねぇ海流の真上に空島が来なきゃ……」

「あぁ。全員海に叩きつけられて、海の藻屑だ」

ティオは手をぽんと叩いた。

「だから、いきるか、しぬか、ぜろか、ひゃくの、ほうほう。なっとく」

ウソップに"ベシッ"と軽く頭をはたかれる。

「って言ってる場合か! ……よし、こりゃ諦めようぜルフィ! こいつはラッキーの中のラッキーの中のそのまたラッキーな奴しか行けねぇって話だ!」

「アハハハハッ! 大丈夫さ! 行こう!」

「あ、はは……やっぱし~?」

「だってよ、ティオがさっき、俺たちは運がいいって言ったじゃねぇか! だから大丈夫だ!」

「何なんだよそのティオ任せな根拠は! それにな? 見ろよゴーイングメリー号のあの痛々しい姿。あれじゃ化け物海流にだって立ち向かえねぇよ~」

クリケットはメリー号を一瞥する。

「確かにな。あの船じゃ、たとえ新品でも無理だ」

「何をぉ!?」

「だがその点は心配いらねぇ。しっかり補強して、マシラとショウジョウに進行の補助をさせる」

「「おう! 任せろオメェら!」」

マシラとショウジョウがクリケットの家の窓から手を振った。

それにルフィが手を振り返す。

「よろしくな~!」

((余計なマネを……))

ナミとウソップは同じことを考えていた。

こんな危険な旅、できれば行きたくないのが常人の意見だ。

「アンタねぇ、分かってんの?」

ナミがルフィの肩に手をかける。

「なにを?」

「そもそも、私たちがこの島に滞在していられる時間はせいぜいあと1日よ? それを過ぎたら、もうログポースは次の島の方角を指し始めるわ」

「だよな~! 間に合わねぇよ!」

ナミとウソップは、どうしても空島への渡航を諦めさせたいらしい。

何とか知恵を振り絞る。

「なぁおっさん! 予言者じゃあるめぇし分かりゃしねぇと思うが、次のノックアップストリームの上に偶然積帝雲が重なる日は約何日後? いや、何カ月後? それとも何年後?」

「明日の昼だな。行くならしっかり準備しろよ?」

「間に合うじゃねぇか!」

「なんだ? そんなに嫌ならやめちまえ」

そう言われると、さすがのウソップもピクっとこめかみをヒクつかせた。

「嘘だろ!」

「ぁあ?」

「大体おかしいぜ! 今日初めて会ってよ、親切すぎやしねぇか!?」

「おいウソップ!」

「ルフィは黙ってろ!」

疑うことを知らないルフィを押し留めて、ウソップが疑問点を次々に上げていった。
 
伝説級に行きにくい空島への渡航チャンスが明日であること、クリケットがあの嘘つきノーランドの子孫であること。

「うそ、ちがう」

「ぁあ!?」

「さっき、てぃお、むぎわらいちみ、うんがいい、いった。のっくあっぷすとりーむ、せきていうん、どっちも、げんり、わからない。でも、この、かんさつ、でーた、みるに、しゅつげんばしょ、しゅつげんじかん、けいさんほうほう、かくりつしてる。でーた、いってる。まちがいなく、あしたの、おひる」

「そ、そもそもお前だって敵なんだ! 信用できるか!」

「どうして? いま、てぃお、ここしか、むぎわらいちみの、ふねしか、いばしょ、ない。うそ、いったら、てぃお、しぬ」

「ぐっ……」

ウソップはさすがに言葉に詰まった。

すると、クリケットが遠くを見つめて煙草の煙を吐き出す。

「……マシラの縄張りで夜を確認した次の日にゃ、南の空に積帝雲が現れる。月に5回の周期から見て、ノックアップストリームの活動もおそらく明日だ。そいつもここから南の地点で起こる。100%とは言い切れんが、そいつらが明日重なる確率はでかい」

「……っ」

「俺ァ、オメェらみてぇな馬鹿に会えて嬉しいんだ」

「!」

「さぁ、一緒に飯を食おう。今日はうちでゆっくりしてけ、同志よ」

振り返りざまに、クリケットは口角を上げて見せた。

釣られるように、ルフィも笑う。

「にっしっしっ! 飯だぁ! 急げウソップ!」

「お前ら早く来い!」

ティオもおいで!」

「(コクン)」

「チョッパー、ロビンちゃん呼んで来い!」

「おう!」

みんなが家の中へ入っていくと、ナミがウソップの隣へ来た。

「最善を尽くすしかなさそうね、空へ行くために。でも、最終的には運任せ」

「……ナミ、俺は惨めで腰抜けか?」

「おまけにマヌケね。気持ちは分かるわよ。……ちゃんと謝んなさい?」

「……っ」

ウソップは一度俯き、拳を握って走り出す。

「おやっさーん! ごめんよー!」

そのままの勢いで、クリケットに突っ込んでいった。

「な、何だテメェ! 鼻水つけんな!」

どうやら、仲直りできたようだ。

 
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