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25. バウンティ・ハンター
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数時間後。
雪は止まないまま、日が沈んだ。
サニー号は慎重に夜の海を進んでいく。
……が。
「くか~……くか~……」
「すこ~……すこ~……」
船のいたる所で、麦わら一味は眠っていた。
舵の前ではサンジ、フランキー、ロビンが。
ダイニングでは、ルフィ、ゾロ、ナミ、ウソップが。
……それを見て、フェニックス海賊団のクルーたちは、甲板でひそひそと話し合う。
「な、なぁ、どうする?」
「決まってんじゃねぇか。やるしかねぇ」
「俺ァ、気が乗らねぇなァ……あんなに気のいい奴らだったじゃねぇか……」
「まったくだ……姉ちゃんたちも可愛かったし」
「何言ってやがる! 背に腹は代えられねぇだろうが! こんだけすげぇ船が手に入りゃ、きっとアイツらだって「ダメだ」
クルーたちの話し合いを、スタンセンが遮った。
「この船はアイツらに引き渡す。俺たちは課せられた任務を遂行するだけだ」
すると、クルーのうち1人が立ち上がった。
「何が任務だ! 俺たちは御免だぞ。この船を奪って反撃に出る。このままじゃビガロさんだって浮かばれねぇよ!」
そこへ……
「おいおい、揉めんのは勝手だが、物騒な話は御免被るぜ?」
「んなっ、海パンの兄ちゃん!」
「寝てたはずじゃっ……」
「薬の匂いが強すぎて、眠れないわ」
「げっ、黒髪の姉ちゃん!」
「睡眠薬なんかで人の料理を台無しにしやがって。覚悟は出来てんだろうな?」
「眉毛の兄ちゃんまでっ……」
クルーたちの前に立ちはだかる、3人。
……それを、ダイニングからゾロが横目で覗いた。
(3人もいりゃ十分か……ふあ~ぁ。寝よ)
"カチッ、シュボッ……"
サンジはフェニックス海賊団の面々を前に、新しいタバコに火をつけた。
膨れ上がる敵意に、スタンセンが弁解を始める。
「まっ、まぁ待ってくれアンタたち! 俺たちは別に怪しいモンじゃ……」
「海賊って時点でンなの信用出来るわけねぇだろ。しかもこっちは、今しがた薬盛られたばっかだぞ」
フランキーが指を鳴らす。
「さ~ァ聞かせてもらおうじゃねぇの。一体オメェら、何の目的でこんなことしやがったんだ?」
「ぼ、暴力は待ってくれ! お、お互い腹を割って話し合えば分かるっ……ような、そうでないような……」
「「どっちだ!」」
「みっともねぇぞスタンセン!」
3人のクルーが、腰に差していた剣を構えて前に出た。
「もうアイツらの言いなりなんざ我慢ならねぇ!」
「この船奪って、反撃に出ようぜ!」
殺気立つ3人を、残りのクルーたちがなだめる。
「け、けどよ、散々世話になったのに……」
「せ、せめて姉ちゃんには手ぇ出すなよ!」
「オメェらは下がってろ。俺たちがこの船奪ってやるよ! オラアァ!!」
3人は、サンジたち目掛けて突っ込んだ。
……しかし。
「……やめろって言ってんだろ!」
"ドゴォッ!"
スタンセンが飛び出し、3人を押さえ込む。
そしてサンジたちに作り笑いを見せた。
「い、いや~悪い悪い。どうにもコイツらは気が短くてな! け、けど、コイツらだって悪気があってしたわけじゃ……あは、あははは」
「"あはは"じゃねぇよ、なに誤魔化してんだ」
「思いっきり殺す勢いで来てただろうが。悪気以外の何物でもねぇよ」
そこへ……
"ガチャ"
「い"~っ、寒っ」
防寒着を着込んだゾロが、ダイニングから出てきた。
「ぁん? 何だ、まだ片付いてなかったのか」
その後ろから、ナミが何かを引きずりながら出てくる。
「何か怪しいと思ってたのよね。バレバレ」
ドサッ、と、ナミは引きずってきたものをその場に降ろした。
「「ふが~……すか~……」」
絶賛爆睡中の、ルフィとウソップだ。
「こんな程度で騙されるほど、あたしたちは甘くないわよ? ……若干2名を除いてね」
スタンセンは一瞬の隙をついて、欄干へ駆け寄る。
「逃げるぞお前ら!」
「「「ぇえっ!?」」」
突然の命令に出遅れながらも、クルーたちはスタンセンを追った。
"ザバァンッ!"
極寒の海へ飛びこんだ彼らは、全員自分たちの船に戻って行く。
フランキーが額に血管を浮かべた。
「野郎っ、ハチの巣にしてやらぁ!」
と、腕の武器を構えるが……
「放っときなさい」
ナミに遮られた。
「それより、チョッパーとティオ、見なかった? さっきからどこにもいないのよ」
ロビンが顎に手を当てる。
「もしかして、さっきの人たちに捕えられたんじゃ……」
「何だと!?」
「可能性はありそうね。2人とも能力者だから、あっちが海楼石の手錠でも持ってたら」
「それはそうと」
「?」
ゾロはナミの足元を見下ろす。
「ソイツらどうすんだ?」
ナミの足元には、未だにいびきをかいて眠るルフィとウソップ。
ナミの額に血管が浮かび上がった。
「……ったく、コイツらは」
はぁ~っと拳に息をかけるナミ。
「起ォきろオォ!!」
"ゴチィンッ!"
サニー号が僅かに揺れた。
「んがっ、あばばばばっ、お、おいっ、なんか、
「そ、それに頭も痛てぇ!」
「「ぶぇっくしゅん!」」
見るからに寒そうな恰好をしていた2人は、防寒着を取ってきた。
そして、チョッパーとティオが捕まっているかもしれない話を、ナミから聞く。
ウソップが叫んだ。
「何だと!? アイツら騙しやがったのか!」
ルフィは船尾から、フェニックス海賊団の船を見つめる。
……すると。
「ん?」
スタンセンが剣を片手に船首まで出てきた。
ルフィは目を剥く。
「あっ、コラっ、テメェ! チョッパーとティオどこやった!」
「麦わらの船長、散々世話になったってのにすまない。ここでお別れだ」
「なにっ!? お、おい待てよおっさん! 何する気だ!」
スタンセンは、サニー号と繋がっているロープ目掛けて、剣を振り上げる。
……しかし。
"ガシッ"
「なにっ!?」
突然4本の手が生え、スタンセンの動きを封じた。
ナミがロビンにグーサインを送る。
「さっすがロビン!」
「ふふっ」
何とか逃げられるのは阻止した。
「よーっし、待ってろよ、チョッパー、ティオ!」
ルフィが逸早く乗り込もうとする。
と……
「おい、何か聞こえねぇか?」
ゾロが突然、辺りを見回して言った。
サンジも辺りを見回す。
「何かの音楽か? どっから鳴ってやがる……」
「あっ、おい、アレ見ろ!」
望遠ゴーグルを覗いていたウソップが、3時の方向を指さした。
その方向に全員で目を向けて、麦わら一味は固まる。
「「「海軍!?」」」
夜の暗闇の中、ぼうっと姿を現したのは、カモメを掲げた帆だった。
3隻並んで、こちらを向いている。
「サンジ君! 9時の方向へ舵を!」
「アイサ~!」
目をハートにして、サンジが舵を切る。
しかし……
「なっ、ちょい待て! そっちにもいるぞ!」
方向転換した先で、新たに3隻の軍艦がライトアップされた。
ナミが迷いながらも進路を指示する。
「~~~っ、左へ切って!」
「あいよ!」
サンジが素早く舵を切る。
……が。
「んなっ、また!?」
またしても行く先では軍艦がライトアップされた。
周囲を見回していたウソップがどんどん青ざめていく。
「お、おいっ、よく見りゃ、囲まれてるじゃねぇかああぁぁ!」
サニー号をぐるりと囲む、総数30隻を超える軍艦。
「何であんなにいんだ!?」
「知るかよ!」
「どっちへ逃げりゃいい!?」
「うおっ、あそこ見ろ! ちょっと隙間があるぞ!」
「そこしかないわっ、サンジ君! 主舵いっぱい!」
「はぁ~いナミすゎん!」
サニー号は大きく向きを変えた。
……しかし。
"ヒュオオオォォォ……"
「しまった、向かい風だわっ」
「うぉおい押し戻されてるぞ!」
「何とかしろナミ!」
「分かってるわよっるっさいわね!」
大混乱のサニー号。
そのど真ん中で仁王立ちしていたフランキーは、ため息混じりに首を振った。
「代われ、サンジ」
「ぁん?」
半ば強引に舵を奪うフランキー。
「ったく、どいつもこいつも、風が変わったぐれぇでみっともねぇ。こんな時のための、ソルジャードッグシステムだろうが」
フランキーは、舵輪についているハンドルを回した。
「チャンネル
0番の数字に合わせ、レバーを引く。
「コーラエンジン、パドルシップ・サニー号!」
サニー号の側面が開き、水車のようなパドルが出てきた。
コーラエンジンのエネルギーを受けて、パドルが高速で回転を始める。
「行っけええぇぇっ!!」
"ザバアアァァッ!!"
サニー号は向かい風の中だというのに、海を掻き分けて高速で進み始めた。
軍艦と軍艦の間、幅20mほどの隙間を全力で通り抜ける。
ルフィとウソップがハイテンションで、少し遠くに見える軍艦を見送った。
「うほほほっ、かっけ~!」
「海軍の奴ら何も出来ねぇみたいだぞ!」
「進め~ぃサニー号~! ぃやっほ~い!」