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3. ノックアップストリーム
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"ドボンッ!"
水音のした方を見れば、見慣れた麦わら帽子が海に……
「ルフィが海に落ちた!」
慌ててウソップが助けに向かう。
「何やってんだよ!」
しかし……
"ザバァッ!"
「!?」
ウソップは足を止めた。
誰かが海から上がってきて、行く手を塞いだのだ。
もちろんルフィなわけがない。
「テメェら誰だぁ! 人の家で勝手におくつろぎとはいい度胸。ここらの海は俺の縄張りだぞ!」
海から上がってきたのは体格のいい男で、海水を滴らせながら身構えた。
「おいウソップ! ルフィを拾っとけ!」
「お、おう!」
サンジが男を足止めしている間に、ウソップが海岸へ向かう。
「狙いは黄金だな? 死ぬがいい!」
男はサンジに襲いかかった。
"ガシッ、ガッガッ"
「……っ」
サンジの足技と張り合うあたり、なかなかの手練だ。
"ガチャ"
「!」
突然、男は拳銃を取り出した。
"パァン!"
「サンジ君!」
「……ご心配なくナミさん、当たってねぇよ」
"パァン、パンパァンッ!"
男は続けざまに何発も発砲する。
「うわっ、ちょ、ちょっと待て!」
サンジは銃弾をよけるのが精一杯で、攻撃できない。
「ったく、ナメてかかるからだ。下がってろ! 俺がやる!」
ゾロが刀に手をかけて飛び出していく。
……だが、ゾロの手はいらなかった。
「……ぐっ」
"ドサッ"
男は突然、拳銃を取り落とし、そのまま倒れ込んでしまった。
「何だ? 突然」
「俺が知るか」
"ザバァッ!"
ウソップがルフィを連れて、水面に上がってくる。
「おい、何やってたんだお前!」
「海から泡が出てたからよ、ゲホっ、海覗いてたらいきなり栗が出てきて、栗は実はおっさんで、海に引きずり込まれて……お、おっさん!」
どうやら倒れたその男が、ルフィを海に引き込んだ犯人のようだ。
とりあえず、男は家に運び込まれた。
「タオルをもっと冷やしてきて! 窓は全開に!」
チョッパーの指示が飛ぶ。
「潜水病?」
「このおっさん、病気なのか?」
「うん。ダイバーがたまにかかる病気さ。本当は持病になったりするようなものじゃないんだけど……。海底から海上へ上がる時の減圧不足が原因で、血液に溶け込んだ窒素が溶解状態を保てずに、その場で気泡になるんだ。気泡は血管や血管外で膨張するから、血流や筋肉、関節に障害を与える」
なんて言われても分からないので、ルフィは腕を組んで窓の外を眺めた。
「ん~……カイキげんしょうってヤツか」
「この人はきっと、その気泡が体から抜ける間もないくらい、毎日無茶な潜り方を続けてきたんだ」
「一体 何のために……」
「分からないけど、危険だよ。場合によっては潜水病は……死に至る病気だ」
一味全体の空気が、どよんと沈んだ。
"ガサゴソ……ドサッ"
「さっきから何やってんだ?」
ゾロが物音に気づいて目を向けると、ティオが何冊かの分厚い本の下敷きになっていた。
「~~~~っ」
自力では抜けられないらしく、ジタバタともがいている。
「はぁ……ったく」
ゾロは、ティオを本の山の中から引っこ抜いてやった。
「……しぬかと、おも、た」
「お前、よくそれで海軍にいるな」
「てぃお、ちから、しごと、えぬじー。ずのう、せんもん」
びしっと親指を立てて、無表情のドヤ顔をしてみせる。
「……へいへい」
ゾロがため息混じりに離れていくと、ティオは床にぺたりと座り、分厚い本を1冊ずつ取り出しては、パラパラと読み始めた。
傍にロビンがしゃがむ。
「何かおもしろい本でも見つけたの?」
「ここすうねんかんの、きしょうきろく」
「へぇ」
ティオは、超人的なスピードで記録を読み、頭に刻んでいった。
するとそこに……
「「おやっさん! 大丈夫か!」」
どこかで聞いた声が2つ、玄関口に駆けてくる。
この辺りを縄張りとする大猿兄弟、マシラとショウジョウだった。
どちらも麦わら一味とは一度交戦している。
ウソップが真っ先に青ざめた。
「あああああっ!! 俺たちを殺しにきやがったーっ!」
「オメェらここで何してんだ!」
「おやっさんに何をした!」
大猿兄弟は明らかな敵意を向けるが、水桶を持ったルフィはキョトンとした目を向けた。
「何だオメェら。今このおっさんを看病してんだから、どっか行けよ」
すかさずウソップがその口を塞ぐ。
「てめっ馬鹿かルフィ! コイツらみてぇな野蛮な奴らがそんな言葉聞くわけ……」
「「いい奴らだなぁ~」」
「聞いとるーっ!?」
意外にも、義理人情を理解できるらしい猿2匹は、涙を流し始めた。
ほんの数時間前までは敵だったのだが、お互いにいい奴だと分かり合ってしまえば、何のことはない。
「オメェらもここに住んでんのか?」
「まぁ、このおやっさんの家が、猿山連合軍の本拠地ではあるんだが」
「大概は
「お前らがデカすぎんだよ~。ま、巨人のおっさんたちからしたら、耳糞みてぇなもんだけどな! アッハッハッ!」
気が合うのか、ルフィは猿2匹と共に語り合っていた。
それをウソップが、ジトっとした目で見る。
「なぁゾロ、何でアイツらものすごい打ち解けてんだ?」
「通じるものがあんだろ? ……俺には、アイツの行動の方が不可解でならねぇ」
「ん? あぁ、ティオのことか? 確かになぁ」
ゾロが指さす先では、ティオが家の外壁をじっと見上げていた。
「……」
今、ティオの頭の中は、疑問で埋まっていた。
まず、ベニヤ板に接着している家の壁が、砕かれたようにギザギザしていて、苔むしていること。
ベニヤ板と家は、建てられた年代が大きく違うことが、一目瞭然だ。
もしかしたら、建築当初からこういうタイプの家で、最近になってベニヤ板だけを交換した可能性もあるが、それにしては、家の壁の処理が雑すぎる。
この家は、ベニヤ板を設置することを折り込んで建てられたものではない。
建築者とベニヤ板の設置者は、全く別人だ。
さらに、こんな海岸線に、家を半分だけ建てるなんて酔狂な奴がいるとも思えない。
2階があるのに、家の中に階段がないことからも、この家は初め、ごく一般的な家として建てられていたことが窺える。
それが、何らかの事情により半分なくなってしまったのだろう。
そして、誰かがベニヤ板で壁を作り、家として使い始めた……
初めてこの家を見たときの違和感の正体が分かり、ティオはあらゆる推測を始めていた。
「……」
しかし、考えたところで明確な答えは出ない。
ティオは、家の壁に手を伸ばした。
「……」
目を閉じ、家の記憶を読み始める。
―――1年、5年、10年、50年、100年。
「……っ」
―――125年、137年、156年、178年、203年。
「……ぷはっ」
ティオは途中で諦めて、手を離した。
ずっと野ざらしだった半分の家に、数年前、男たちがベニヤ板を設置して住み始めたのは見えたが、肝心の、家が半分になる瞬間は見えなかった。
これ以上 昔の記憶を覗こうとすれば、頭が処理能力の限界を迎え、気絶してしまうかもしれない。
一応、敵である麦わら一味と共に居る以上、気絶するほどのリスクを冒すことは避けたい。
というより、この家の疑問は、それほどのリスクを冒してまで突き止めるほど、重要な問題とは思えない。
「よぉティオ。何してんだ?」
ティオの行動を不思議に思ってか、ウソップが隣にやってきた。
ティオはチラリとウソップを横目に見てから、家の外壁を見上げて話し始める。
「ずっと、いわかん、あった。べにや、きれいなのに、いえのかべ、ぎざぎざ。こけも、はえてる」
「家の壁~?」
ウソップは首をかしげながら、ベニヤ板と家の接着面を見た。
「まぁ、言われりゃそうだが、そんなに気になるか?」
「べつに、なんとなく。……もともと、べにやで、かべ、つくるよてい、だったら、いえのかべ、もっと、きれい。だから、このいえ、もとは、ふつうのいえ、だったはず。……でも、いまは、はんぶんしか、ない。なに、あったのかな、って」
「あー……そういやそうだな」
「それに、かいだんも、ない」
「階段?」
「(コクン)」
「何してんの? アンタたち」
「おう、ナミ。ティオがよ、この家、元々ベニヤ板を壁に据える予定はなかったんじゃねぇかって」
「そりゃそうでしょ。こんな潮風の吹きすさぶとこで、ベニヤ板の壁で暮らそうなんてどうかしてるもの」
「だとしたら、元々あったはずの、もう半分の家はどこいったんだろうなって」
「あぁ……まぁ、言われてみれば そうよね」
「あと、階段がないっつってんだよ」
「階段? ……確かにそうね。もう半分の家と一緒に、どこかいっちゃったのかしら」
3人は揃って首をかしげた。
しばらくして、ウソップがポンと手を叩く。
「ってそもそも考える必要ねぇんじゃねぇか? ティオなら、家の記憶とかも読めるだろ」
ティオは首を横に振った。
「いまから、203ねんぶん、さかのぼって、みた。でも、わからなかった。それいじょうは、すごく、つかれる。ひつよう、ないなら、やりたくない」
「へぇ~、そういうもんなのか」
「まぁ、気になるけど、絶対知りたいってわけでもないわよね」
「(コクン)」
結局、頭の片隅に疑問を残したまま、家の話は終わった。