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25. バウンティ・ハンター
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「はぁ……やっぱ、餌のついてねぇ針にかかる魚はいねぇか」
「それを言うなって」
「ま、どうせ暇なんだし、気長に待とうぜ」
謎の船の甲板で釣りをする3人。
表情には生気が無く、体もやつれて見える。
"ギギギギギィィ……"
「ん?」
「何の音だ?」
突然聞こえてきた音の方に視線をやると、麦わら帽子を被ったドクロが見えた。
「んなっ」
「海賊船!?」
「お~~~い、大丈夫か~?」
船首で、麦わら帽子を被った男が手を振っている。
「「うわあああああっ!!」」
「海賊だぁぁぁ!」
「逃げろぉぉぉ!」
「舵利かねぇよ!」
「帆も無いしーっ!」
……甲板で騒ぎ始めた、謎の船のクルーたち。
サニー号はゆっくり近づき、謎の船の隣に船体を寄せた。
ルフィ、ゾロ、ティオ、ロビン、フランキーが、その船に渡る。
ルフィが真っ先に尋ねた。
「んで、オメェら何者なんだ?」
「「「え……」」」
謎の船のクルーたちは、互いに目を見合わせてから、ぎこちなく答えた。
「お、おっ、俺たちは、ただのしがない漁師でさぁ」
フランキーが眉を顰めた。
「漁師ぃ?」
「あ、あぁそうさ!」
「うそつき」
「「「!?」」」
クルーたちはギョっとして、ウソつきと言った少女を見る。
「ふぇにっくす、かいぞくだん、でしょ?」
「んなにっ!?」
「何で分かった!」
「旗も帆も無ぇのにっ」
「せんしゅ、みれば、わかる」
ティオが指さす船首には、赤い鳥の頭を模したピークヘッドがついていた。
フランキーが指をパキポキ鳴らす。
「ほ~ぉ? つまり俺たちを騙そうとしたわけか?」
「いっ、いやっ、それは、その……っ」
「あっ、当たり前だろ! こんな状態で、また同業者に狙われちゃ、今度こそ船を沈められちまう!」
「見ての通り、この船にゃナンもねぇ。だから、暴れるだけ損だぞ? 腹減るだけだぞ?」
船を一通り見回してきたゾロが訊いた。
「確かにボロボロだが、何があったんだ?」
「えっと……どっ、同業者にやられたのさ! 旗も帆も奪われて、舵も壊され身動き取れねぇのよっ」
クルーの1人が、わざとらしく泣き真似をする。
また嘘をついたな、と、ティオでなくても分かった。
……ただ1人を除いては。
「まぁとにかくだ! オメェら、要するに腹ぁ減ってんだろ? 俺たちもこれからメシだからよ、一緒に食ってけよ」
ルフィが満面の笑みで言うと、クルーたちは表情を輝かせた。
「いっ、いいのか!?」
「俺たち本来、敵同士なんだぜ!?」
「にっしっしっ、気にすんな! それに、ウチのコックは、オメェらみてぇなのほっとけねぇから」
ルフィはサニー号の方を振り返る。
「サンジ~! メシ出来たか~?」
キッチンの扉が開いた。
「あぁ。もう出来る。……っとその前に、チョッパー、お待ちかねの患者だ。診てやれ」
「へ? ……おっ、そうか! よし! 怪我してる奴は俺のとこに来てくれ!」
「なっ、ペットが喋ったぁ!?」
「ペットじゃねぇよ! 俺だって立派な海賊だあぁ!! ……なのにっ、50ベリー……」
サニー号へ渡ってきたフェニックス海賊団のクルーたちは、最初にチョッパーの診察と治療を受け、順次ダイニングへ向かった。
目の前に作りたての料理を出されると、夢中でがっついていく。
「うんめええええぇぇぇぇっ!!」
「生き返る~!」
「地獄に仏たぁ、まさにこのことだぁ!」
頬袋いっぱいに食べ物を詰めたルフィが、満面の笑みで言った。
「だろぉ~? いっぱい食えよ!」
「うわああああぁぁぁぁん!!」
「ありがとおおおぉぉぉぉ!!」
その頃。
「……」
ティオは独り、フェニックス海賊団の船内を歩いていた。
船内から感じられる人間の気配は、2つ。
1人はテキパキと動き回っているようだが、もう1人は動くどころか、今にも死んでしまいそうなほど弱っている。
ティオは迷うことなく、その死んでしまいそうな"声"の方へ歩いていった。
自然と船の奥へ進む羽目になり、周囲がどんどん暗くなる。
進めば進むほど、腐臭のような匂いが濃さを増していった。
この奥に居るのが誰なのかは、予想がついている。
「……」
ティオは突然立ち止まった。
目の前に、天井まで積み上げられ、不自然に通路を塞ぐ木箱たちが現れたのだ。
弱っている"声"の主はこの先だ。
「……」
ティオは、積み上げられた木箱を見渡し、小さな隙間を見つけた。
周囲の暗さも考えて、夜目の効く猫に変身する。
"ボンッ"
小さな白猫は、木箱と木箱のズレに器用に足を掛けて登り、見つけておいた抜け穴を通り抜けた。
腐臭のような匂いが一段と濃くなる。
暗闇の中、誰かが寝かされているのが目に写った。
"ボンッ"
ティオは人間に戻り、手近にあったランプに火を灯す。
途端、容姿がハッキリ見えたその人物に、目を細めた。
「……やっぱり。……けんしょうきん、1おく、べりー。ふぇにっくす、かいぞくだん、せんちょう。ふしちょう、の、ぱずーる」
億越えの海賊を、ティオが知らないわけがない。
「……うっ……ぐっ……」
どうやら、酷い怪我を負っているようだ。
意識はなく、高熱にうなされている。
このフェニックス海賊団に出くわしたとき、ティオは不思議に思っていたのだ。
あれだけクルーたちが大騒ぎしても、船長が甲板に出てこなかったから。
それで、船内で一番反応の弱い気配を辿ってみれば、ドンピシャ。
……なるほど、意識もないこの状況では、出てこられるはずもない。
(せんい、いない、の?)
怪我の具合をみようと、掛けられていた毛布を除けてみれば、適切な治療が施されていないと分かった。
てきとうに包帯が巻かれているだけで、傷口は化膿し、悪化の一途を辿っている。
どうりで、腐臭に似た匂いが充満しているわけだ。
「この先だよ、先生」
「お、おう……」
突然、2人分の声が耳朶を打った。
片方はチョッパーで、もう片方はおそらく、子供。
"ガタッ、ガコッ"
パズールの傍に膝をついているティオの背後で、木箱が降ろされる音がした。
木箱を取り払って作った隙間を、少年とチョッパーがくぐってくる。
「!? お前っ、誰だ! ここで何してる!」
当然、少年は叫んだ。
その後ろからヒョコっと顔を出したチョッパーは、目を見開く。
「あれ、ティオ?」
「え、先生の知り合いなの?」
少年はチョッパーとティオを交互に見た。
「大丈夫だ。俺の仲間だからな。……それより、俺に診て欲しい患者ってのは……」
「うん……うちの、船長なんだ」
「ちょっぱー、このひと、まずい」
「「?」」
「きずぐち、かのう、してた。このふね、せんい、いない、の?」
「それは……」
「ちょっと診せてくれ!」
チョッパーはパズールの傍に駆け寄り、てきとうに巻かれていた包帯を取り去る。
「なっ、何だこれ! どうしてこんなになるまで放っといたんだよ!」
「そんなこと言ったって……っ」
「とにかく、これじゃ動かすのは無理だ! 今すぐ手術を始めるぞ!」
「えっ、ここで!?」
手術なんて立ち会ったことのない少年は、あからさまに戸惑った。
「てつだう」
少年を押しのけるようにして、ティオがチョッパーの隣に膝をついた。
技術も経験も無いが、知識だけなら、本職の医者にも負けない。
「あぁ、頼む! ……危険な状態だ。急ぐぞ!」
「(コクン)」
……開始された、緊急手術。
少年は立ち尽くすことしか出来ず、ただただ2人の手元を見つめていた。