ところ変わって、ウォーターセブン市内のとある刀屋。

「ふざけるな！ そんな額で真剣買えると思うなよ！」

「やっぱダメか」

「冷やかしなら帰れ！」

「……邪魔したな」

「フンっ」

喧嘩別れのような形で店を後にする、ゾロ。

雪走（ゆばしり）の後任が見つかればと思っていたのだが、なかなか上手くいかない。

「チッ、やっぱティオの言う通り、金が足りねぇか……」

ゾロは仮設ルームを出る前、ティオに刀屋の場所を訊いていた。

そのとき、ウォーターセブンの刀屋はどこも値が張ると言われたのだ。

既に何軒か刀屋を回ったが、みな同じ理由で突き返された。

ナミに金を借りる手もあるが、利子が高いため気が乗らない。

そのとき……

「ん？ アイツら確か……」

目の前に見知った２人組の少年が現れた。

ガープが海兵たちを引き連れてやって来たあの日、海から仮設ルームまで道案内してくれた少年たちだ。

「「ゾロさん！」」

「……あ？」

妙に親し気な雰囲気が気に入らず、ゾロは眉間にしわを寄せ、走り寄ってくる少年たちを睨み据えた。

すると、思いもよらない言葉が飛び出す。

「「俺たちの兄貴になって下さい！」」

「は……はあああああっ！？」

突然で意味不明な申し出。

「断る」

「「えええええええっ！？」」

「何が"えー"だ。ったりめぇだろ。何で俺がお前らなんかの兄貴分名乗らなきゃならねぇんだ？」

「まぁまぁそう言わずに。俺たち、兄貴が海兵たちやっつけんの見て、惚れ込んじまったんスよ～！ あ、自分マイケルっす！」

「俺はホイケルっす！」

「「俺たち兄弟、裏街じゃちょいと名の知れた……って兄貴～っ！？」」

ゾロはいつの間にか、スタスタ歩き去ろうとしていた。

「「ちょっ、人の話は最後まで聞きましょーよ！」」

「るっせぇ、ついてくんな」

「まぁまぁ」

「俺たち、どこへでも案内するっスよ？ どこに行きたいんすか？ 肉屋っスか？ 八百屋っスか？」

「断る。いい店知ってる奴がウチにもいるからな。手は足りてる」

「あっ、刀！ 刀探してるんでしょ！」

「持ち合わせが少ないんだったら古道具屋がいいっスよ！」

「いや、だからって何でもいいわけじゃ……」

ティオがオススメとして紹介しなかったのだから、きっと古道具屋には、ゾロの納得する刀は無いのだ。

「はい！ 兄貴１名様、古道具屋へご案内！」

「いぇ～い！」

「……はぁ」

全く人の話を聞かない２人。

ゾロは半ば諦め、２人が飽きて離れるのを待つことにした。




……やがて、２人に案内されて辿り着いた古道具屋。

店先に刀が十数本挿された樽があったが、鞘から刀身を抜いてみれば、どれもこれも刃こぼれしていたり錆びていたり…

やはり、ティオが紹介しなかった店なだけ、品揃えもそれなりだった。

「おいおい何見てんだよ」

「闘んのか、あぁ？」

ゾロが刀を見ている間、マイケルとホイケルは通行人をひたすら睨みつけ、手当たり次第に喧嘩を売っていた。

通行人たちは蔑むような目でチラ見し、ヒソヒソと呟いていく。

「また昼から学校サボって……」

「ろくな大人にならんぞ」

「いやいや、あの家は寧ろ親の方が……」

「かえってあの子らが不憫に思える」

店を後にしたゾロは２人に言った。

「大した評判だな、お前ら」

２人は気にしていない様子で、鼻を鳴らす。

「街の奴らはな～んも分かってないんス」

「俺ら何言われても平気っスよ」

「そーか、ならいい。……んじゃ、元気でな」

「「えぇっ！？」」

「なっ、なんスか！」

「可愛い弟たちを見捨てるんスか！？」

「だから兄貴になった覚えはねぇっつーの！」

「あれーなんか言いました～？」

「聞こえねえっスよ～？」

「んのやろっ」

このままではどこまでもついてきそうだ。

ゾロは一計を案じた。

「ん？ あーっ！ 何じゃありゃ！」

「へっ！？」

「なんスか！？」

……と、２人が気を取られた隙に……

「あれっ、兄貴がいない！」

ゾロは走り去った。

あらゆる角を曲がり、随分遠くまで来ると、足を止める。

「へっ、ここまで来りゃ……」

と、前方の架け橋を見上げたところ、

「「兄貴～！」」

「なにぃ！？」

２人が手を振っていた。

ゾロは慌てて駆け出す。

またいくつもの角を曲がり、階段を昇ったり下りたりして、必死に２人を撒いた。

「よ、よし、今度こそ…「「兄貴！」」

「ぬぁに！？」

そしてまた走り出す。

「はぁ、はぁ、これならｄ「「兄貴！」」

「何だとぉ！？」


……結局、どこまで行っても２人を撒くことは出来なかった。