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23. 涙の別れと海軍の英雄
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"バサ……ボンッ"
「あ、ティオ! オメェどこ行ってたんだよ」
「トイレか~?」
「バカ! 乙女に変なこと訊いてんじゃねぇ! 気にしないでいいからな、ティオちゃん」
「(コクン)…さんじくん、てぃお、にも、おにく、ちょうだい?」
「はいよ。焼きたてだ。ヤケドしないようにな?」
「(コクン)」
ティオは串を受け取ると、片足でピョンピョンとゾロの元へ向かった。
巨大な酒樽を隣に置き、フランキー一家の面々と酌み交わしている。
いつものように、胡坐をかいて座っているその膝間に滑り込んだ。
「んぁ、テメェ、どこ行ってやがったァ」
もう大分できあがっているらしい。
頬が紅潮し目蓋も落ちかけている。
「さぁ。どこ、で、しょう」
「んぁ~? 生意気言ってんなよコラァ」
「わぶ……っ」
わしゃわしゃと髪をかき乱された。
「むぅ!」
"グキッ"
ティオは頬をぱんぱんに膨らませ、ゾロの顎を下から押しやる。
「んぐ、やったなァ? オラァ!」
「うぅぅ!」
まるで動物のじゃれ合い。
「何だ何だ、兄妹喧嘩か?」
「「はっはっはっはっ!」」
多くの笑い声に囲まれて、ゾロとティオはしばらく喧嘩していた。
……それを、遠目に見つめて微笑んでいたロビン。
「……」
やがて、お祭り騒ぎの熱気に当てられた頬を冷ますため、独り、プールサイドの壁に寄りかかった。
すると……
「そのまま聞け、ニコ・ロビン」
「!」
身の毛もよだつ低い声が、耳朶を打った。
「……青、キジ……」
……いる。
壁の向こう側に。
手に持つグラスの飲み物が、ぐっと冷たくなった。
「何故、いつものように逃げ出さなかった。お前1人ならCP9からも逃げ切れたはずだろ」
「……今までとは違うと言ったでしょう。彼らを見殺しになんて、出来なかった……っ」
グラスを持つ手が震える。
……3秒ほど、沈黙が降りた。
「……20年前、オハラを救おうと戦った巨人、ハグワール・D・サウロと俺は……親友だった」
「!」
「あの日、アイツの意思を汲んでお前を島から逃がした俺には、その後の人生を見届ける義務があった。……だが、20年経っても宿る木もなく、追われては飛び回っている危険な爆弾を、これ以上放置できないと踏んだ」
「……」
「何より、お前はもう、死にたがってると思った。……俺は今回、オハラの全てにケリをつけるつもりでいたんだ。……当然、CP9が敗れるという結果は、まったく予想できなかったがな」
「……」
「やっと、宿り木が見つかったのか」
「……えぇ」
「サウロがお前を生かしたのは、正しかったのか、間違いだったのか、これからお前は、その答えを見せてくれるのか?」
「そのつもりよ」
「……だったら、しっかり生きてみせろ。オハラはまだ、滅んじゃいねぇ」
「……分かってるわ」
ロビンは目蓋の裏側に、デレシシシ、と笑うサウロの顔を思い浮かべた。
「……それと、」
「?」
「アイツを……ティオを、頼む」
ロビンは眉をぴくっと動かした。
……ずっと疑問に思っていたことが、喉までせり上がってくる。
きっと、こんなチャンスはもう二度と無い。
ロビンは思い切ってぶつけてみた。
「あの子はいったい、何者なの?」
「……」
「疑問が多すぎるわ。あれだけの知識を持ちながら、言葉はカタコト。五種類もの動物に変身できる、反則のような、しかもゾオン系にしては妙な悪魔の実の力。声を聞く力だという、人並み外れた能力……。あの子は一体、どこから来たの」
「……」
再び3秒ほど、沈黙が降りた。
クザンは目を閉じ、語り始める。
「まず言っとくが、アイツは化け物でも何でもねぇぞ。普通の人間の子供だ」
「それにしては……」
「確かに、人並み外れた能力や才能はある。……だが、それだけだ。……アイツの年は知ってるか?」
「いいえ」
「幾つに見える」
「そうね……10歳くらいかしら」
「14だ」
「そんな……それにしては随分……」
「あぁ。小さい。……原因は分かってる。……分かってても、どうしようもないがな」
「それってどういう……」
「俺がアイツに出会ったのは4年前、アイツが10歳の時だった。そのときには既に、アイツの中にそれ以前の記憶は無かった」
「ちょっと待って、原因って……」
クザンは一方的に話し続けた。
「ティオには10歳から14歳までの、4年分の記憶しかない。未だに4歳児だ。……人間ってのは、感情が芽生えた後、徐々に知識を身につけて成長していくだろ? けど、アイツは逆だ。記憶を封印され、まっさらなところに知識を詰め込まれた状態から、人生をやり直してる。人並み外れた知識に、赤子レベルの感情、10歳の体。そんなちぐはぐな組み合わせで始まった人間が、普通に成長するわけねぇだろ?」
ロビンは、ティオと初めて会ったときを思い出した。
まるで人形のようだと感じたあの違和感が、何となく分かった気がした。
「……どうして、記憶が無いの」
「……アイツが生きてくのに、邪魔だったからだ」
「あなたは知ってるの? ティオの過去のことを」
「経歴くらいはな」
「……なら、ティオの一番近くに居たあなたが記憶を見られていないわけがないのだから、ティオは自分の経歴を知ってるんじゃ……」
「まぁな。……だが、経歴はあくまで知識だ。アイツ自身の記憶じゃねぇから、問題は起きねぇ」
「もし、記憶が戻ったらどうなるの……」
「さぁな。耐えられりゃぁ吉、精神崩壊を起こす可能性もある。……アイツもな、ガキには重すぎる過去を背負ってんだ。……んで、そのままじゃ仕事出来ねぇからと、政府が暗示をかけて封じた」
「その暗示が解けるなんてことは……」
「ある。条件次第だがな。……暗示を解くカギは、ある音とある言葉を同時に聞くことだ」
話しながら木立を眺めていたクザンは、覚悟を決めるように、僅かに目を細めた。
「……そうだな。お前には伝えておく。もし条件が揃いそうになったら、阻止してくれ」
ロビンは眉を顰めた。
何故そんなにあの子のことを……
「……努力するわ。教えてちょうだい」
「音っつーのは、泣き声だ」
「泣き声?」
「あぁ。子供でも大人でもいいんだが、とにかく人の泣き声だ」
「……そう。言葉の方は?」
「パンクハザード。島の名だ」
「聞いたことないわね……」
「政府所有の島だが、知名度は低い。普通に海賊やってる分には通らねぇ島だ。逆に通る奴は稀代の馬鹿と言える」
「人の泣き声と、パンクハザードという島の名前……それを同時に聞いたら、ティオの記憶は戻ってしまうのね?」
「あぁ、そうだ」
「でも、待って。ティオはあなたの記憶を見てるのだから、その2つを聞けば記憶が戻ると、知ってるのよね」
「あぁ。それどころか、パンクハザードがどこにあって、どんな場所なのかも知ってる。……だが、あくまで知識だ。泣き声と島の名の両方を実際に聞くまで、記憶は戻らねぇよ」
「仮に、島の名前を単独で聞いたら?」
「何も起こらねぇさ。記憶が戻る条件は、2つを同時に聞くこと、それだけだ。島の名を聞くだけで思い出してたら、情報に溺れる伝承者の仕事は務まらねぇ」
「それもそうね……」
「とにかく、そういうことだ。……頼むぞ」
「待って。まだ聞いてない答えがあるわ。あの子の体が実年齢より幼い原因は何なの」
「……」
「それは、体が弱いことと関係があるの?」
「……」
返事が返って来ない。
グラスを持った手が僅かに震える。
その手を、ロビンはもう片方の手で抑えた。
「……世の中には、知らねぇ方がいいこともあるって、お前ならよく知ってんだろ?」
「それは……」
「……知らねぇことが、アイツのためであり、お前らのためだ。別に危険が伴うとかそういう問題じゃねぇ。……心の問題だ」
「……」
これ以上はいくら訊いても答えてはくれないだろう。
考古学者として、知りたい好奇心が疼くが、ロビンは視線を落とした。
「……なら、最後に1つだけ」
これが、さっき沸いた疑問であり、今、一番気になっていることだ。
「どうしてあなたは、あの子に固執しているの?」
「……」
またしても、沈黙が降りた。
「伝承者は政府の役職なのよね。ティオがどんな経緯であなたの元に居るようになったのかは知らないけど、少なくとも、あなたが自ら近づかなければ、ティオとの繋がりは、もっと浅かったんじゃなくて?」
「……」
クザンは長いため息をつき、頬を掻いた。
「……偶然が重なっただけさ。じゃあな」
「え、ちょっと」
壁から離れ、ゆったりと薄れゆく気配。
「青キジ!」
"カシャンッ"
ロビンはグラスをその場に落とし、壁の裏側へと回った。
……しかし、そこにはもう、誰もいなかった。
壁に氷が張られている。
木々の合間を見渡しても、風が吹き抜けるだけで、人影は見当たらない……
「お~~いロービーン!」
背後で、船長が呼んでいる。
「なぁにしてんだンなとこで~!」
「こっち見ろってロビン! 面白れぇぞ!」
振り返ると、ルフィが鼻に割り箸をつっこんでいた。
青鼻の船医と、長鼻のヒーローも手招きしてくる。
賑やかな喧騒が、先程まで冷たく暗い空気に接していた自分を、暖かく包み込んでくれる気がした。
視線を巡らせれば、腕を組んで立つ剣士の隣で、金髪の少女が口角を上げている。
……その表情は、今ここで起きていたことを、全て知っているようだった。
「……ふふっ」
別に、過去なんて知らなくても……
そう思えた。
実際、仲間たちの過去なんてほとんど知らないのだから。
ロビンは仲間たちの方へ駆け出した。
「私も、やってみようかしら。割り箸、貸してもらえる?」
「おっ、やれやれ~!」
「んなっ、やめてくれロビンちゅわん!」
「てぃお、も、やって、みたい」
「いいぞいいぞ~! 割り箸ならいくらでもあるからな! ホレ!」
「渡すなクソゴム!」
笑って、泣いて、また笑って。
ここが、自分の居ていい場所で、居るべき場所。
『海は広いんだで! いつか必ず! お前を守ってくれる"仲間"が現れる! この世に生まれて、1人ぼっちなんてことは、絶対にないんだで!!』
―――本当ね、サウロ。
出会えたわ。
全てを共有できる、仲間に―――。