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23. 涙の別れと海軍の英雄
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「さぁ、2人も取り返したし、さっさとずらかるわよ!」
「「「おう!」」」
ナミの指示が飛び、メリー号のマストが張られる。
風を受けて、軍艦の合間を進み始めた。
それを見ていたスパンダムは、全軍艦へ指示を出す。
「ちっ、冗談じゃねぇ……このまま逃がすくらいなら、ニコ・ロビンもティオも吹き飛ばせ!」
「し、しかし、2人共生け捕りにしろと……」
「俺は大将青キジからことづかったことを言ってるまでだ」
「なっ、大将青キジからですか!?」
……もちろん嘘だ。
しかし、海兵たちは真に受ける。
『全艦、砲撃用意!』
軍艦の砲台が、一様にメリー号へと向いた。
船の後方にいたフランキーは、やかましい声をたどってスパンダムを見つけ、ため息をつく。
「あんにゃろう、生きてやがったか」
ロビンは底冷えした眼差しで、スパンダムを見つめた。
「右舷から風を受けて東へ!」
ナミの指示が飛ぶ。
しかし、周りは軍艦だらけで、まさしく八方塞がり。
「このままじゃやべぇぞ! こっち向いてる大砲の数が半端じゃねぇ!」
「一発もこの船に当たらねぇなんて、不可能だ……」
『撃てぇ!』
"ヒュゥゥ…ズドォンッ"
「うわぁぁっ、もうダメだぁぁっ!」
叫んだウソップはその場にうずくまった。
しかし……
"ドゴォッ!"
聞こえてきた爆発音は遠い。
ウソップが恐る恐る顔を上げてみれば、メリーは無事。
代わりに、傍の軍艦が燃えていた。
「な、何だ? 自爆? 他の玉も当たらねぇ」
『砲撃手! 揃いも揃って何をやっている!』
『分かりません! 勝手に照準がズレて……』
『妙な言い訳をするな!』
"ギギギィィ……"
『うわぁぁっ、ぶつかる!』
『舵切れ! 早く!』
『無理です! 間に合いません!』
"ドゴォッ"
目の前の光景に、ウソップは顔をしかめた。
「軍艦同士がぶつかってやがる……」
それも、1隻や2隻ではない。
そこらじゅうで軍艦同士が衝突を起こしている。
『何だ! いったい何が起こっている!』
『せ、正義の門が! 閉まりかけています!』
『何だとぉ!?』
『海流が門に阻まれ渦潮が再発生し、舵をとられたもようです!』
海兵の無線を聞き、サンジが口角を上げた。
「おほ~ぅ、想像以上だぜ」
まさか……
ウソップが目を飛び出させて訊く。
「さ、サンジ、お前がさっき居なかったのって……」
「あぁ」
サンジは指で自分のこめかみをトントンと叩いた。
「ココ使わなきゃな。根性だけで逃げ切れる相手でもねぇだろ。ティオちゃんに開閉レバーのある部屋まで案内してもらったのさ」
「(コクン)」
「すげーなサンジ!」
「天才かお前!」
絶賛するウソップとルフィだが、ゾロは渋い顔をする。
「喜んでばかりもいられねぇ。渦潮は俺たちにとってもヤベェだろ」
「ぬぁぁっ、そうだぁ! ヤベェェェェェ!」
「おだまり」
ナミの一声で、ウソップはシュンと大人しくなった。
「あたしたちが乗ったメリー号に、超えられなかった海は、無い!」
「うおぉぉ……ナミがかっこいい……」
目を輝かせるチョッパーの横で、ウソップがはやし立てる。
「よぉし頼むぞ敏腕航海士!」
「渦の軌道が読めるまで耐えて!」
「「「任せろ!」」」
「ティオ! 手伝って!」
「(コクン)」
船の真ん中に立ったナミとティオ。
チョッパーは舵を握り、他のメンバーは船の後方で砲撃を防ぐ。
「門が閉まる速度はどれくらい?」
「びょうそく、1.5めーとる」
「周りの軍艦の位置と、移動速度・方向を教えて」
「かみ、1まい、ちょうだい」
ナミが計算手帳から1枚破って渡すと、ティオは覇気で読み取った敵船の位置・進行方向・航行速度を簡単に描いた。
それを見て、ナミは計算式を組み立てる。
"ヒュゥゥ…ドゴッ、ズドォンッ"
船尾の方からは絶え間ない砲撃の音が響いてくる。
チョッパーは舵を握りながらも、そわそわと後ろを振り返った。
船室の壁で見えないけれど、その先で砲弾を防いでいる仲間たちを思い浮かべる。
「……みんな、大丈夫かな……」
「チョッパー、今は舵に集中して」
「ナミ……」
「アイツらなら大丈夫だから」
……そう、何も心配することはない。
「一刀流、三十六
「おう、任せろ! 三連火炎星! ……っと、一発漏れた! サンジっ、頼む!」
「
「
「おらおら! 砲弾そのまま返すぜ!」
七隻もの軍艦に囲まれ、雨霰のように砲弾を浴びせられながらも、メリー号にはまだ一発も当たっていなかった。
と、そこへ……
「ぐぬぬっ……俺も、戦う、ぞぉ~」
ルフィが動かない体で、這うようにやって来た。
「馬鹿野郎、お前動けねぇだろうが!」
「そうだぜルフィ、ここは俺たちに任せて」
「オメェはゆっくり休んでろ、っおらぁ!」
"ヒュヒュッ……ズドォンッ!"
「誰が、何と、言っても、俺ァ、戦う、ぞぉ~っ」
「ぅおっ、危ねっ、踏むだろうが! いい加減にしろよルフィ!」
「うるへぇっ、俺はキャプテンだぁ~、ぁ? うおぉっ?」
突然、ルフィは浮遊感を感じた。
ゾロとサンジがルフィの両手足を持ち上げたのだ。
ルフィは1枚の布のように広げられる。
"ボゴッ、ボゴォッ"
飛んできた砲弾が腹の辺りに集まった。
「うぐぅ!?」
「よしっ、行くぜ。……1、2の、」
「「3!」」
十個ほど砲弾が溜まると、ゾロとサンジは息を合わせてルフィの手足をピンと伸ばす。
弾力を持ったルフィの体で、砲弾が全て軍艦へと返された。
"ドゴォッ、ズドォンッ!"
煙を上げる軍艦。
ルフィはといえば、目を回して伸びていた。
ゾロとサンジが満面の笑みを浮かべる。
「助かったぜキャプテン!」
「さすがはキャプテンだ!」
ウソップが青ざめて叫ぶ。
「鬼かテメェらは!」
「「ブイ」」
「"ブイ"じゃねぇよっ、少しは船長を労わりやがれ!」
その頃、船室の前では……
「よしっ、読めた!」
ナミが口角を上げて、計算手帳をパタンと閉じるところだった。
「チョッパー、取り舵いっぱい、9時の方角へ!」
「おうっ、分かった!」
チョッパーが舵を左側へ倒すと、渦の軌道に乗ってメリーはぐんぐんスピードを上げる。
それを見つめ、スパンダムは船の縁をバシバシ叩いた。
「チクショーッ! エニエス・ロビーの全戦力を掛けてっ……国家級戦力バスターコールの力を掛けてっ……あんなちっぽけな海賊団ぐれぇ……たった1人の女と1匹のガキをっ……何故奪えねぇぇっ!!」
……その叫びが聞こえてか否か、ロビンとティオが船尾に立った。
ロビンが腕を交差させる。
「
スパンダムの体に6本の手が咲き誇った。
「なっ、これはっ……」
"ググ…ッ、パキパキッ"
「のぁ……っ」
スパンダムの体が後ろへ反らされていく。
周囲の海兵たちはあたふたするだけで、何も出来ない。
「「長官殿!」」
「だ、だずげ……っ」
ロビンは今までに受けた屈辱を思い浮かべ、全ての思いを一言に籠めた。
「クラッチ」
"バキャ……ッ"
「ぐぉぁ……」
"ドサッ……"
スパンダムは軍艦の床板に転がった。
「……」
ロビンは無表情ながらも、スッキリした眼差しで交差していた腕を降ろす。
その降りてきた手に、小さな手が重なった。
「?」
見下ろせば、青い瞳が見上げている。
ロビンは薄く微笑み、ティオの手を握り返した。
「……もう、逃げなくていいのよね」
「(コクン)」
前を向いた2人の目には、燃え盛り、遠ざかる軍艦の群れが映った。
「……よーし、そろそろね」
船室の前で、ナミが口角を上げた。
「フランキー、例のヤツお願い!」
「おう!」
フランキーは一跳びして、船尾に降り立つ。
「全員、ショックに備えろ」
言って、両手を前につき出した。
空気の送り込まれた両腕が膨れる。
「船体には堪えるが、勘弁してくれ?」
一味はこれから起きることを察して、船のあちこちに掴まった。
「
"ドゴォッ!"
発射された空気砲。
その圧力に押されて、メリーは空を飛んだ。
海兵たちは目を皿にする。
「な、何だアレは!」
「船が空を飛んだ!」
「こんなことって……」
ウソップが軍艦に向けてパチンコを構える。
「コイツの経験値を甘く見るな? メリー号は上空1万メートルを飛んだ船だ! 必殺・超煙星!」
"シュウゥゥ……ボンッ!"
辺りは煙に包まれ、軍艦はメリー号を見失った。
もう軍艦に追いつかれる心配はないと分かると、一味はようやくホッと息をつく。
ルフィが満面の笑みで言った。
「よぉしみんな! 帰るぞォォ!」
「「「おう!」」」
すっきり晴れた青空の元、メリー号は波を掻き分け、前へ前へと進んでいった。