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19. CP9
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「入りますよー、スパンダム長官」
「おう、戻ったか、ネロ」
……麦わら一味が、アイスバーグ暗殺事件の犯人として追われている頃。
エニエス・ロビーでは、CP9新入りの四式使いネロが、とある任務を終えて帰還したところだった。
小脇にティオを抱えている。
今しがた、海列車でウォーターセブンから運んできたのだ。
「しっかし、こんなガキが伝承者とは」
"ドサッ……"
ネロは、ティオを放るように椅子に座らせた。
海楼石の首輪から伸びる鎖が、ジャラっと鳴る。
小さな頭が椅子の背もたれに預けられ、長い金髪が力なく散らばった。
目は固く閉じられており、意識はない。
「くくっ、これでまた一歩、道が開けたぜ」
スパンダムは、机の上のゴールデン電伝虫とティオを交互に眺め、ひとり恍惚とした笑みを浮かべる。
「ご苦労だった、ネロ。次の任務の時間まで休んでいいぞ」
「へーい」
ネロはズボンのポケットに手を入れたまま、部屋を後にした。
気絶しているティオと2人きりになった部屋で、スパンダムは笑みを押さえきれないままコーヒーを手に取る。
「ふっ、くくくっ、あとはプルトンの設計図さえ手に入っちまえb――"スルッ"
コーヒーカップが滑り落ちた。
アツアツのコーヒーがスパンダムの膝にかかる。
「ぬぁっつ! 熱っちーなコノ野郎!」
"カシャァン!"
スパンダムは怒りに任せてコーヒーカップを投げた。
そこに……
"プルプルプルプル"
内線の電伝虫が鳴り響いた。
"ガチャ"
「俺だ、何の用だ」
コーヒーを零したことで、イラつきながら応答する。
「ご予約のお客様がお見えになりました。只今そちらへ向かっております」
「! ……そうか、分かった!」
"ガチャ"
スパンダムは慌てて電伝虫を切り、着替えに走る。
別室でクローゼットから適当にズボンを引き抜いて、急いで穿きつつ長官室に戻った。
チャックを引き上げ、ベルトを締める。
ちょうどそのとき―――
"コンコン……ガチャ"
ノックと共に扉が開いた。
黒いスーツの男2人に挟まれて、白いスーツに白いコートの男が入って来る。
黒スーツの2人は、どこにでもいるサイファーポールのメンバーのようだが、白スーツの男は纏っているオーラが全く違った。
短く整えられた白金髪は窓からの光に輝き、エメラルドのような瞳は怪しい光を宿している。
まだ18歳だとの情報が入っているが、20代半ばに見えるほど、妙な
「やぁ、スパンダム長官」
白スーツの男は、不気味な笑みを向けてきた。
スパンダムは、手を自然とごますりさせながら答える。
「ど~も初めまして! 貴方が新しい伝承者様ですね!」
「ティオを連れてきてくれてありがとう」
「いえいえ、お安い御用ですとも!」
「君の名前は、帰ったら報告しておくよ」
「ありがとうございます!」
スパンダムと話す間も、男の視線はずっとティオに向いていた。
「……あぁ、やっと会えた」
男は、懐かしむような慈しむような、熱い眼差しでティオに近づき、傍に膝をつく。
そして壊れ物に触れるように髪を梳き、柔らかい頬に手を添えた。
「あの頃と変わらないね。すごく綺麗だ……」
男は、親指でティオの睫毛をそっとなぞった。
「君が僕のことを覚えていないのが恨めしいよ。もし君が覚えていて、今の僕を見たら、きっと喜んでくれただろうね」
男は眠ったままのティオに、一方的に話し続ける。
「ねぇ、聞いてよ。僕、君の後を継いで伝承者になったんだ。CP0にもすぐに入れて貰えたんだよ? 凄いね、世界政府って。欲しいものが何でも手に入る。やっぱり権力って素晴らしいよ。……今日はね、君の持つ"記録"を受け取りに来たんだ」
男は笑みを浮かべたまま、ゆっくり目を閉じた。
頬に触れた手からは、ティオの記憶が男へと流れている。
「優秀だねぇ、ティオ」
脳内を駆け巡る、数百年に渡り受け継がれて来た"記録"。
「……でも、最後のコレは何だい?」
男の目が薄く開いた。
今、彼の頭の中を巡っているのは、ティオが麦わら一味と出会ってからの"記憶"。
「こんな奴らに君は汚されたのか。崇高なる人智の記録を収めていたはずの君の頭が、ちっぽけな海賊共に占領されるなんて……」
記憶の引継ぎが終わり、男の手は、ティオの頬から首筋へとゆっくり滑っていった。
指の一本一本に少しずつ力が籠り、くっと鳴る。
途端、スパンダムが慌てて叫んだ。
「お、お待ちください!」
―――ピタリと、男の手が止まった。
「……何?」
横目に睨まれ、スパンダムは肩を揺らす。
「あ、いえ、あのっ、記憶の引継ぎが終わったら、そのっ、そいつを好きにしていいと言われていますので……えっと、あの……」
じっとスパンダムを見上げていた男は、やがてフっとため息をついた。
「そういえばそうだったね。でも、どうせ殺すんでしょ?」
「あ~、えっと、はいっ、それはそうなんですが……」
スパンダムはあちこち視線を巡らせながら、何とか無い頭をひねる。
「あっ、そう、そうです! もうすぐここに麦わら一味の仲間だった奴が1人連行されてくることになってまして、そいつが無残に使い古されて死んでいくのを目の当たりにさせた上で、絶望のうちに殺してやろうかと思っていまして、はははっ」
男は数秒、スパンダムを見つめた。
伝承者の役を任せられたということは、もちろん彼にも、ティオと同等の見聞色の力があるということ。
スパンダムがティオを殺す気がないことは、ダダ漏れの感情から察知することが出来た。
……まぁ、覇気を使わずとも表情から一目瞭然なのだが。
男はフっと笑う。
「君もエグイこと考えるね。……まぁいいよ、好きにしな」
「はいっ、ありがとうございます!」
スパンダムは大事な駒を失わずに済んだことに興奮が押さえられず、背を向けてこっそり満面の笑みを浮かべる。
……その間に、男はティオの耳元で、誰にも聞こえないよう囁いた。
「……それじゃ、またね、ティオ」
そして名残惜しそうに立ち上がり、白いコートを翻して部屋の出口へ向かう。
黒スーツの男2人がそれに続いた。
足音に気づき、スパンダムはご機嫌な笑みで3人に敬礼する。
「おつとめ、ごくろーさまでしたっ!」
"キイィィ……バタンッ"
長官室の扉が閉まった。
「……フフ」
白スーツの男が怪しく笑う。
「……大将青キジが一目置いた一味、か……船長があのガープ中将の孫とはね……これはもしかしたら……」
呟かれた言葉に、黒スーツの男たちが不思議そうに顔を見合わせる。
「あの、どうかなさいましたか?」
「ん? いいや、ちょっと面白くてね」
「は、はぁ……」
窓から、不夜島の永遠の昼空が見える。
「僕のところまでおいで、ティオ。もし君にそんな強運があったなら、今度こそ僕の手で殺してあげるから。あははははっ」
男は高らかに笑ったあと、エニエス・ロビーを後にした。
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