夢主の名前を決めて下さい。
18. 一味崩壊の危機
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
数時間後。
メリー号は夕日に照らされて、変わらず岩場の岬に浮かんでいた。
みんな、ウソップが目覚めるのと、ティオとロビンが帰るのを待っている。
「それにしても遅いな、ティオちゃんとロビンちゃん」
タバコの煙が寂しそうにたなびく。
その横でナミが顎に手を当てた。
「ティオが迎えに行ったんだから、1時間もしないで帰ってくると思ったんだけど……」
何も見ずにウォーターセブンの地図を描けるティオが、道に迷うはずがない。
ロビンだって迷子になる素養は持ち合わせていないのだ。
万が一、いや、億が一迷ったとしても、ティオなら仲間の位置を頼りに戻って来られる。
ナミとサンジの表情に影が落ちた。
「……心配ね」
「……あぁ。ティオちゃんまで戻って来ないとなると、何かあったと考える方が妥当だ」
2人の会話を聞きながら、ゾロは海を眺め、ティオの言葉を思い出していた。
"きっと、あらし、くるよ"
船のこと、2億ベリーのこと、ウソップのこと、ロビンとティオのこと……
問題が山積みだ。
嵐が来る、というのはこういうことだったのだろうか……
ゾロはチラリとルフィを見た。
特等席であるメリーの頭に座って、ウォーターセブンを見つめたまま動かない。
考え事をしているらしいが、静かな背中は全く似合っていなかった。
そこへ……
"タタタッ……バタン!"
「みんな! ウソップが目を覚ましたぞ!」
チョッパーが嬉しそうに船室から走り出てきた。
その瞬間、
「おっ、ホントか! よかった~!」
ルフィがいつものテンションに戻る。
……けれど、仲間たちには分かっていた。
そのテンションが空元気だということが。
「まぁ、これでひとまず安心ね」
1つ、心の荷が降ろせた。
一味は船室に集まる。
部屋の真ん中に敷かれた布団に、包帯ぐるぐる巻きのウソップが座っていた。
「まったく、あまり心配させないでよね?」
「ナミさんの言う通りだ。1人で乗り込むなんて無茶しやがって。命があったから良かったものの」
「少しは考えて動けよ」
「お前が言えたことか、脳ミソ筋肉馬鹿」
「何か言ったかグル眉コック」
「んだとテメェ闘んのか?」
「上等だコラ」
「はっはっはっはっ! まぁいーじゃねぇか! 無事だったんだからよ!」
明るく穏やかないつもの空気に安心感を覚えて、ウソップは涙を溜め込む。
「ぐすっ……俺が不甲斐ねぇばっかりに、すまねぇみんなぁぁぁ!」
「どわっ」
ウソップは勢いに任せ、一番近くにいたゾロの足にひっついた。
「ひぐっ、すまねぇ、ホントにすまねぇっ、俺のせいで大事な金がっ」
「分かったから離せオイ!」
「にっしっしっしっ、おんもしれぇなぁウソップは!」
「う、ウソップ! まだ寝てなきゃダメだよ! あんまり動いたらまた傷が……」
「ほら、船医の言うことはちゃんと聞くものよ?」
……やがて、ほとぼりが冷め、ウソップは自分が目覚めるまでの状況を聞いた。
「……じゃあやっぱり、金は戻って来ねぇのか……」
落ち込むウソップを慰めるかの如く、ルフィが満面の笑みで言う。
「フランキーとかいう奴が帰ってくるまではまだ分からねぇけどな!」
「……本当に、すまねぇっ」
「まぁ例え返って来なくてもよ、まだ1億ベリーあるんだからいいよ、気にすんな! はっはっはっはっ!」
「け、けどよルフィ……船は、メリー号は、その……残った1億で何とか直せるのか?」
ルフィの顔が、笑顔のまま固まる。
ナミはウソップに見えないところで拳を握った。
チョッパーもウソップに見えないよう、帽子で自分の表情を隠す。
何だか空気が変わったのを感じ取り、ウソップは焦りながらルフィに訊いた。
「せっかくこんなデカい造船所で直してもらえんだ、今まで以上に強くして、完璧に修理してやりてぇもんな! 1億ありゃ何とかなるのか? なぁ、どうなんだ? ルフィ」
……それから、2秒ほど沈黙が降りた。
出来るだけ明るく、ルフィが告げる。
「いや、それだけどよ、ウソップ。船は……乗り換えることにしたんだ」
「……は?」
ウソップは固まった。
それを予想していたのか、ルフィは懸命に笑顔を崩さない。
「お前のいないとこで決めちまったのは悪いと思ってる。けど、もう決めたんだ。ゴーイングメリー号には世話ンなったけど、この船での航海はここまでだ」
「……え……は? なに……え?」
「ほんでな? アイスのおっさんとこで貰ってきたカタログで調べてたらよ、けっこう色々あんだな~。まぁ1億もありゃ、中古でも今よりでけぇ船が「待てよ」
ウソップが苦笑しながらルフィを止めた。
「待て待て、待てよ? ははっ、冗談キツいぜルフィ~。なぁチョッパー?」
「え……」
「ほら見ろよ、チョッパーの奴が間に受けちまったじゃねぇか、はははっ。まったく困ったもんだぜウチの船長さんはよ~。ほら、何か言ってやれよ、ナミ」
「……」
ナミはウソップから目を逸らす。
凍りついた室内の空気を感じて、ウソップは仲間を見渡した。
―――全員、誰一人として笑っていない。
「な、何だよ……や、やっぱり修理代が足りなくなったのか? 一流の造船所はやっぱ取る金額も一流で、1億でも足りなかったのか? なぁそうなんだろルフィ!?」
「違う! そうじゃねぇ!」
「じゃあ何なんだよ! 気ィ遣わねぇでいいからハッキリ言えよ!」
「気ィ遣ってなんかねぇよ! 金を奪られたこととは関係ねぇんだ!」
「だったら何で乗り換えるなんてくだらねぇこと言うんだ!!」
議論が白熱してきた。
このままではマズイと、ゾロが止めに入る。
「オイやめろ。言い争ってどうすんだ。もっと落ち着いて話をしろ」
しかし、収まらない。
「これが落ち着いていられるか! 馬鹿なこと言い出しやがって!」
ナミやチョッパーも止めに入った。
「大事な話なんだから熱くならないで。一度冷静になりなさい?」
「そうだよウソップ、叫んだら体に障るからさ!」
「体なんて知るか! 船長に簡単に乗り換えるなんて言われて黙ってられるかよ!」
「簡単じゃねぇ! 俺だってちゃんと悩んで決めたんだ!」
「何をどう悩んだらそうなるってんだ! こんなもんチラつかせてそんな話すんじゃねぇよ!」
ウソップはルフィの腕を叩いた。
その拍子に、握られていた船のカタログが落ちる。
ルフィの額に、血管が浮き出た。
「……何すんだお前っ」
「目障りなんだよ……金を奪られたからじゃねぇんなら、ハッキリ理由を言えルフィ! 俺に気ィ遣ってねぇってんなら言ってみろよ! ほら! ルフィよぉ!!」
ルフィは血が滲みそうなほど奥歯を噛み締めた。
……言わなければならないのか。
言いたくない。
喉が痛い。
言ってしまったら裂けて血が出そうだ……
嫌な気持ちを押し殺し、ルフィはウソップのためにと、言いたくない言葉を叫んだ。
「メリー号は、もうっ、
直せねぇんだ!」
―――遠くで、再び波が大きく跳ねた。